転生させた物と出会うのは初めてである。
「エレナ様ー!」
「あはははっ!」
お転婆、その言葉がピッタリ当てはまる。
エレナ転生から50年の月日が経った。
天使族は、寿命が長い変わりに成長が遅い。
転生してから約50年。
人間の子供に当てはめるなら、5歳くらいだろうか?
城を抜け出しては、野山を駆け回り、町に出れば、100歳を超える男の天使族とケンカして、負かしてしまう。
王族の血筋とは、こうも恵まれているのか!
エレナは、努力は怠らないが、基本的に他の天使とは作りが違う自分の体を気に入っていた。
そんなエレナに手をやき、絶望に暮れるメイド達と、母親。
ただ一人、天使族の王は、次期女帝として期待に満ちた思いで、エレナを見守っていた。
「よし!今日もメイド達をまいた。」
エレナは心を躍らせると、どこへ行こうかと思案する。
「今日は・・・・山!」
エレナは、翼を上手に使い、木々を高速で移動する。
「気持ちいいー!!」
ドカーン!!
そんなエレナを特大の火炎の玉が襲う。
「な、何!?」
エレナはギリギリで避けた。
だが、翼の一部が焼き切られ、地面に強く打ち付けられた。
「ぐはっ。」
エレナは、背中に受けた痛みをこらえきれずに、のたうち回る。
「あー!痛い、痛い。」
ガァーーー!!!
耳を塞ぎたくなる様な雄叫びが、
大地を揺らす。
「ま、まさか??何で?」
目の前には、巨大で、まるで漆黒の鎧をまとった姿。
「ドラゴン?!」
「私の転生ライフ・・・積んだ。」
ガァーーーー!!!!
ドラゴンの鋭い爪がエレナに襲いかかる。
「うっ。」
諦めた様に、エレナは目を閉じた。
ドカーン!!!
「・・・あ、あれ?」
エレナは恐る恐る目を開けた。
目の前には、人間族の王家の紋章が刺繍された、赤いマントが見える。
見上げると、鎧をまとった騎士が、
ドラゴンの渾身の一撃を軽々と剣で受け止めている。
「騎士?」
「何かすごい音がしたと思って出てきてみれば、この有り様。
我は誰とも関わるつもりが無かっのに。」
騎士はブツブツと独り言を呟くと、
ドラゴンの腕を弾き返す。
のけぞったドラゴンに向かい、騎士は構える。
「身体強化・・・。」
騎士の体が光を帯びている。
「コルテ。」
騎士が剣を振り抜くと、魔力を帯びた斬撃がドラゴンを貫いた様にみえた。
・・・・ガァーーー!
ドラゴンは、一瞬静止した後、雄叫びをあげる。
そして、ドラゴンの体は、斬撃が貫いた所で、上下真っ二つに裂け、崩れ落ちた。
「すまないな。安らかに眠れ。」
騎士は呟くと、エレナを見て、近づく。
「・・・汝。」
エレナは、騎士の圧倒的な力に恐怖を覚えた。
「近づくな!私をかどわかすつもりだな!」
騎士は、構わず手を伸ばす。
「あぁ。またか。」
エレナは、転生前の記憶が蘇り、顔を騎士から背けると、俯いた。
「ハイヒール。」
「えっ?」
エレナは、翼の痛みが和らいで行くのを感じ、目を開けた。
翼のドラゴンの炎で焼き切れた部分が構築されていく。
「す、すごーい!」
完全に痛みが引き、翼も元通りになると、エレナは立ち上がった。
「そ、その、ありがとう・・・・まさか?!」
エレナはお礼を言った後、目を細めて、騎士に不審者を見る様な目線を送る。
「な、なんであるか?」
騎士は、エレナの態度の変化を感じ取り、一歩下がる。
「もしかして、私を傷の無い、綺麗な体にしてからかどわかすつもりね!」
エレナは構えた。
「・・・・がっはっはっはっはー!」
騎士は笑う。
「な、なぜ笑う!」
エレナは不満気に騎士を見つめる。
「そういう心配は、あと200年後くらいはしなくていい!」
騎士は、エレナの体を見て笑った。
「し、失礼な奴!この変態騎士!」
エレナは胸元を隠す様にして怒っている。
「汝、もう帰れ。」
騎士は、一言吐き捨てると、エレナに背中を向け、洞窟の中に入っていった。
「ゔ〜。なんかムカつく。」
静かな洞窟の中。
真暗ではあるが、少し経つと目がなれてくる。
エレナは、騎士を尾行している。
つもりだった。
「汝!」
ビクッ!
「ぐ、偶然だね。私もこっちなの。」
エレナは、口を尖らせて言う。
「この先は行き止まりだ。帰れ。」
騎士は振り向きもせず言うと、また歩き出した。
カシャン、カシャン。
・・・あの娘、着いてくるつもりか?
懐かれてしまったか?
まくか。
カシャン、カシャン、カシャン。
騎士はスピードをあげる。
エレナは、足の速さには自身があった。
翼を上手に使いながら、高速で走る騎士の後ろをなんとかついていく。
な、なんなのだあの娘は!
早い!
実に面白い!
騎士は更にスピードを上げた。
「あっ!待てー!この変態騎士!」
エレナは叫びながら必死で追いかける。
あの娘、もはや尾行でも何でもないではないか!
むっ!むむ!
・・・我は気づいてしまった。
この洞窟は、一本道。
まくことは困難。
騎士は、諦めた。
突然騎士は立ち止まる。
ガシャーン!!
「い、痛ーい!」
騎士の鎧にエレナは追突した。
「変態騎士!いきなり止まるなよ!」
「汝が勝手についてきただけであろう?
いい迷惑だ。人の住処にズカズカと入りおって。」
「ま、まさか!!ここまで巧妙だとは。」
エレナは何かに気づいた様に、一歩下った。
「巧妙とは?」
「私に恩を売り、その後冷たく突き放し、興味を持たせて尾行させる・・・確かに、ここなら助けは来ないな。」
エレナは全てを諦めた様に、体の力を抜いて、目を閉じた。
「はぁ。汝はどうしても我を変態騎士にしたいようだな。
・・・・ならば!」
ふっふっふっ。
少しお灸を据えてらるか。
脅かせば、もう二度と来ないであろう。
騎士は、エレナの両肩に触れた。
「変態騎士は、変態だけど、命の恩人。体は捧げてあげる。でも、心は捧げないぞっ!」
エレナは目を開くと、少し顔を引きつりながらも、冗談めかしく笑う。
そして、また目を閉じた。
かっ、可愛い。
あと200年後であれば、あの笑顔はまずかったかもしれない。
いやっ!これは母性本能だ!!!
・・・はて?
こ、この娘、このような幼い者が、そもそも何故に、体がとか、心がなどと?
子供?ではない?
いや、明らかに子供だ。
考えられるとすれば・・・騎士は、転生魔術師として再始動した日を、ふと思い出した。
この世界線に一人、転生していたな。
「成る程。体は子供、中身は180歳といった所か。」
「えっ?」
エレナは、よくわからない事を言う騎士を、目を開いて見つめた。
「汝は転生者だな?」
「な、なんでそれを?」
「知らぬのか、この世界のどこかに、転生を操作する、転生魔術師がいると聞いた事はないのか?」
「し、知ってる。それが変態騎士って事?」
「他言無用で頼むぞ。あと、変態はやめろ。」
「・・・す、すっごーい!!
転生魔術師に会えた!!」
「しっ、静かに。誰かに聞かれてはたまらん。」
「・・・誰かがこんなとこにいると思う?」
「いないな。」
「じゃぁ、私の前世を知ってたりするの?」
「あぁ。知ってる。我が不憫に思った物を、我は転生させる。
汝はその中の一人。
我のいる世界線に転生したのは、汝だけであるが。
・・・・汝は、天晴であった!
我は、汝に会ってみたいと思っておったのだ!」
「あら、私の情熱的なキスに心奪われたのかしら?」
「あ、あれはごめん被る。
・・・・い、いや。もしかすると。」
「もしかすると?」
「な、何でもない。」
「何よ?」
「か、帰れ!」
「はぁー!!ざけんなよ変態騎士!」
「口の悪さは50年経っても変わらないようであるな。」
「う、うるさい。私だって、天使族の女帝になるために色々努力してんだよ。」
「そうであったか。それは申し訳ない。
では、そろそろ帰れ。」
「あーぁ。せっかくワクワクを見つけたのに。もう日も暮れそうだし、今日は帰る。」
「うむ。」
「叔父様、ここに住んでるんだよね?
また来るから、住むとこ変えんなよ〜!あっ!私はエレナ!じゃあまたね〜!」
エレナは手を大きく振り、帰っていった。
まさか、転生した物と会う事になるとはな。
騎士は、苦笑いしながらも、久しぶりに誰かと話す事ができ、楽しかった。
そう思った。




