戦火の理由。
「うぅ。」
ルシフェルは微睡みの中、ゆっくりと目を開く。
ぼやけた視界にピントが合うと、リザが微笑みながら見つめていた。
「おはよう。」
「あぁ、おはよう。
・・・確か、ソファーで寝たと思うんだが?」
「ふふっ。私もさっき起きて、びっくりしたよ。ちゃんと服を着てるか確かめたもん。」
「ん?」
「・・・何でもないで〜す。
私も寝ちゃったみたいで、セバスさんが魔法で運んでくれたんじゃないかな?」
「あぁ、なるほど。
・・・うっ。」
ルシフェルは痛む体でゆっくりと起き上がる。
トントントン。
控えめに寝室のドアがノックされる。
ガチャ。
「二人ともお目覚めの様ですな。」
セバスが気を遣いながら寝室に入ってきた。
「二人とも長い時間眠っていらしたので心配致しましたぞ。」
「今は何時だ?」
「昨日の昼間から眠られて、今は次の日の朝で御座います。
朝食ができておりますので、食堂へ。」
「そうか、ありがたい。」
ルシフェルは起き上がると、リザに手を伸ばす。
「あら、ありがとう。」
リザは、ルシフェルの手を取り立ち上がった。
「あぁ、美味しい。生き返る〜。」
リザは、スープを口にすると、小さく呟いた。
「お味は大丈夫ですかな?」
横に控えるセバスが、リザに問いかける。
「美味しいですよ。
・・・少し濃いですが。」
「やはり。魔族が作ると濃い味になってしまうようでして。ホルン様の料理が懐かしい。味は少し薄いのに、何やら深みといいますか、けして物足りない訳でもなく、それはもう、美味しいものでした。」
「セバス、リザの料理は母さんの味に似ているぞ?」
「それはまことで御座いますか!
リザ様!また落ち着きましたら、魔族の料理人達に是非手ほどきを!」
「え?あ、はい。私なんかで良ければ。」
「おー!ありがたい!」
セバスは期待に満ちあふれている。
ルシフェルは、そんなセバスを見て、嬉しそうに微笑んだ。
カラン。
ルシフェルは、食後の紅茶を口に運び、カップをテーブルに置いた。
「食事も終わった事だし、リザ、あの魔術の事を聞かせてくれ。」
「うん。
・・・まず、昨日の事だけど・・・。」
「あぁ・・・そろそろ対峙している頃か。魔王様。いや、ルシフェル様。
必ず無事に帰って来て下さいませ。」
セバスは、心配そうに窓から東の砦の辺りを見つめる。
「ん?天使族?」
森の中から血相をかいた天使族が、城に向かって走っている。
「城の留守を狙われた?
いや、1人だけだ。
とりあえず、何のようか聞いてみましょうか。」
セバスは、城の玄関の外に転移した。
「わぁ!」
突然現れたセバスに、リザは驚いている様だ。
「天使族のお方、何のようでございますかな?」
セバスは、不信感を込めた視線を送る。
「あ、あの!ルシフェルは?」
「ん?あなたは・・・?」
「私は、リザといいます。
ルシフェルに、ルシフェルに会わせてください!」
「リザ様・・・ルシフェル様から聞いておりませんか?今まさに東の砦を攻めていらっしゃいます。」
「遅かった。」
「遅かった、とは?」
「その、サタンという人が、もし魔王の生まれ変わりなら、ルシフェルは負ける。死んじゃう!早く!早く私をそこに連れて行ってください!」
「お、落ち着きなされ。
どういう事でしょうか?」
セバスは焦る気持ちを抑え、リザを落ち着かせる。
「私は訳あって、天使族の王から魔王について聞かされています。
魔王が魔王である由縁。それは、産まれた時からかけられた呪いです。」
「呪いとは?」
「攻撃が効かない。ルシフェルは、サタンに傷一つ付ける事なく負けるかも知れない。ルシフェルが魔王なら、魔王の生まれ変わりじゃない可能性はあるかも知れない、でも、心配になって詳しい話を聞こうとここへ来ました。」
「なるほど。」
「それでは、このセバス、ルシフェル様にその事を伝えて参ります。」
「私・・・私なら!その呪いを解く事ができます!サタンが魔王の生まれ変わりでも、私が普通の魔族にできます!
だから、連れて行って下さい!」
「・・・ですが。リザ様を危険な場所に連れて行く事は魔王様はお望みになりませぬ。」
「いいから連れていって!
ルシフェルが死んじゃったら、私は耐えられない。」
「・・・承知致しました。
では、行きますぞ?」
「間に合って。」
リザは祈るように呟く。
「リザ様、転移致しますので、一瞬で到着致します。着いた途端に危険が襲う可能性もありますので、心のご準備を。」
「えっ!?す、すごいですね。
・・・お願いします。」
「では・・・転移。」
「と、いう感じで、セバスさんと私は、あの場所に転移しました。」
「そうか。リザを危険にさらしたのは不本意ではあるが、リザが来てくれなければ、俺は負けていた。
リザ、ありがとう。」
「どういたしまして。あの時は必死だったから恐くなかったけど、今思えばゾッとするよ。」
「リザが無茶をしない様に、俺も強くならねばな。」
「強くなるより、和解・・・するんだよね?」
「あぁ。和解しないとリザをもらえないからな。」
「う、うん。」
リザは顔を少し赤くした。
「で、和解するのに私の存在が関わってくると思う。
・・・ホルン様がそうだった様に。」
「どういう事だ?」
「・・・天使族が魔族を攻めた理由。
それは、アリビオ様といたのがホルン様だったから。ホルン様じゃ無ければ、魔族を攻めることも無かったかも知れない。」
「なんとも意味深な。」
セバスは食いつくように、リザに距離を詰める。
「セバス、近いぞ。」
「魔王様、ヤキモチで御座いますか?」
「う、うるさい。」
「これは失礼。」
「ふふっ。で、その理由だけど、私の使った呪いを解く力なの。
今現在、天使族でその力を持つのは私だけ。
ホルン様が亡くなったた後にすぐ私が産まれたと聞いてます。
恐らく、呪いを解く力はこの世界に1人だけしか持てない様になってるんだと思う。
その昔、天使族と魔族の戦争があったでしょ?
あの戦争、魔王1人でも天使族は全滅させられたと言われてる。
天使族が勝てたのが、この呪いを解く力のお陰なの。
だから、本当は私を王の住む城下町に住まわせたいみたいなんだけど、私はあの村にいたいと王様にお願いした。
王様は、監視をつける代わりに、あの赤い屋根の家を建ててくれたのと、十分過ぎるくらいの金貨を定期的にくれる。
だから、私はあの村に、天使族に囚われている様な物なの。」
「そうか。また魔王が産まれて来ないとも限らない・・・よっぽどの事がない限りはリザを妻にするのは難しそうだな。」
「・・・またあなたは。」
照れた表情でリザは俯いた。
「と、言う訳で、多分村では今騒ぎになってる。私が一晩村をあけるのは初めてだから。」
「セバス。」
「はっ。リザ様、今日の所は急ぎ村へ。転移で近くまでお送り致します。」
「はい。ありがとうございます。
じゃぁ、ルシフェル。またね。」
「あ、あぁ。また行く。」
「うん!」
リザは満面の笑みを浮かべ、セバスと共に消えた。
「これはまた、波乱の予感しかせぬな。」
ルシフェルは一人、頭を抱えた。




