魔王の憂鬱。
「今日は清々しい!」
ルシフェルは、秋の晴れた空を、風魔法を器用に使い気持ち良さそうに飛んでいる。
ルシフェルは、他の魔族の静止を聞かずに一人で出かける事が多かった。
「あれは?」
ルシフェルが森の中に目をやると、人間族が3人と女の天使族が何やら揉めている様に見える。
「・・・天使族。」
ルシフェルは、上空で静止し、天使族を睨んだ。
「恐怖を味あわせて、葬ってくれる。」
ルシフェルは、小さく呟き森の中に降りた。
「な、なんだ?!」
人間族達は、空から突然降りてきたルシフェルを睨みつけている。
「貴様らに用はない。消えろ。」
ルシフェルは、人間族に言うと、天使族に向かってゆっくりと歩き近づく。
「おい!お前!突然現れて何だ!その天使族は俺達の獲物だ!」
「・・・獲物?」
ルシフェルは、この人間族達が、この天使族をさらい、恥ずかしめた後、奴隷商にでも売り渡すつもりなのだろうと察した。
まぁ、それもいいだろう。
だが、俺の目の前に現れたんだ。
俺が、この手でこの天使族を。
「去れ!」
ルシフェルが、叫びながら人間族を睨むと、桁外れの殺気を感じた人間族達は、怯んだ様に一歩引き、武器を構えた。
「何だ?」
ルシフェルは小さく呟く。
「こ、この野郎!」
一人の人間族が、ルシフェルの放つ殺気に耐えきれずに斬り掛かった。
「ダークアロー。」
「うぐ・・ぐはっ。」
ルシフェルは人間族に手をかざすと、掌から黒い光の矢を飛ばし、腹を貫いた。
人間族の腹には、掌ほどの大きさの穴が空いている。
バサッ。
腹を貫かれた人間族は、地面に倒れ、絶命した。
「や、やべぇぞこいつ!」
残りの二人は、恐怖で腰が抜けた様で、その場に座り込んだ。
「す、すまない!今すぐ立ち去るから!」
二人の男は命乞いを始める。
そうか。こいつらをこの天使族の前で無残に殺そう。
そうすれば、より一層の恐怖をこの天使族に与える事ができる。
「だめだ。もう遅い。」
「ぎゃぁー!ぎゃぁー!ぎゃぁー!」
ルシフェルは、黒い刃を飛ばし、二人の人間族の手や足を切り離して行く。
「た、頼む!見逃し」
バサッ。
手足の無くなった胴体から、首が転がり落ちた。
「ふっふっふっ。あはははっ!」
ルシフェルは笑い出しながら、天使族を睨みつけた。
「どこのどなたか存じませんが、ありがとう!」
振り向き座間、天使族の女は、ルシフェルに飛びつくと、ぎゅっと抱きしめた。
「お!おい!離れろ!」
ルシフェルは動揺している。
「いやっ・・・だって怖かったんだもん。」
天使族の女は、上目遣いに、ルシフェルを見つめてくる。
こ、この天使族・・・俯いていて気づかなかったが、母さん・・・の面影が。
こうも似た者がいるものか?
いや、顔が似ている訳ではないな。
雰囲気が、似ている。
あー!!
「や、やめろ!」
ルシフェルは、天使族の女を軽く突き飛ばすと、警戒しながら後退りする。
「失礼な人だな。レディーを突き飛ばすなんて〜。」
天使族の女はふくれている。
「う、うるさい!去れ!」
お、俺は何を?憎い天使族だぞ?
見逃す?いや、見逃したい・・・と言うのか?
天使族の女は、スネた表情をしたが、ハッとした様に口を開いた。
「私、リザ。」
リザは、森の下に広がる天使族の村を指さす。
「あそこ、赤い屋根の家にすんでるから。あなたの事、知りたい。
気が向いたら遊びに来てね。
・・・あっ!命乞いしてる人をあんな風にしたらダメだぞ!でも、助けてくれたのはありがとう!
早く帰らないと叱られるから、私行くね!」
リザは、小走りで村の方へ消えて言った。
「・・はぁ。」
リザと出会って数日がたった頃、ルシフェルは頻繁にため息をつくようになっていた。
「・・・・はぁ。」
「魔王様、先程から耳障りですぞ。」
この年老いた魔族は、セバス。
アリビオのすぐ後に産まれた魔族で、アリビオ亡き後、父親の様に接してくれている。
「あ?あぁ。すまない。
・・・はぁ。」
「その様な魔王様を見たことがないですぞ?何かありましたか?」
ルシフェルは周りを見回し、二人きりなのを確認すると、口を開く。
「セバス、天使族と俺が関わるのはまずいか?」
「・・・まずいですな。」
「・・・だよな・・・はぁ。」
「一体何が?」
「・・・そ、その、話してみたい天使族がいる。」
「な!なんと!女でござるか!
恋でございますか?!」
「そ!そんな物ではない!
・・・・ただ、母さんの面影が。」
「ホルン様ですか。」
「セバス、二人の時くらい、ホルン様とか魔王様とかやめないか?」
「それはなりません。もう、魔王様は魔王様なのですから。」
「相変わらず硬いな。」
「これは、他の者にも魔王様が魔王様である事を示す事の一つ。大切な事ですぞ。ただ、セバスは硬い所は硬いですが、柔軟な所は柔軟。
つまり!魔王様がお近づきになりたいなら、その天使族!さらってきて差し上げます!」
セバスは、やる気に満ちあふれている。
「い、いや、さらうのはやめてくれ。」
「そ、そうですか?」
「あぁ、会いに行きたい。」
「お好きにされませ。セバスは、天使族との戦争に協力はしておりますが、同じ気持ちではありません。
魔王様がその天使族に惚れ込んで、戦争をやめるとか言い出しても、セバスは魔王様が好きでお仕えしている身。魔王様の味方である事は変わりませぬ。」
「話が飛躍しているが。ありがとう。」
「そうですな。魔王様の側近たるもの、先の先まで読んで対策を講じなければなりませぬからな。」
「そうか。」
「そうですとも。その変わり、全て包み隠さずに報告して下さいますか?
それが条件でございます。」
「分かった。」
ルシフェルは、立ち上がる。
「いってらっしゃいませ。」
「あぁ、行ってくる。」
ルシフェルは、不思議な気持ちで空を飛んでいた。
リザとか言ったか。
なぜ俺は天使族にまた会いたいなどと。
・・・いや、そもそも何故、あの天使族を生かしたのか。
自分の心に問いかけていると、あっと言う間に天使族の村が見えた。
「赤い屋根の家・・・あれか。」
ルシフェルは長いコートのフードを被ると、赤い屋根の家の脇に降りた。
「あの天使族はいるだろうか?」
小さく呟くと、ドアを叩く。
トントントン。
「はぁーい!」
中から声が聞こえた。
ガチャ。
ドアを開けたのはリザだった。
「ん?」
リザは、フードで顔を隠し、黙っているルシフェルを覗き込む様に見た。
「あー!来てくれたの!?」
リザは嬉しそうにすると、ルシフェルの手を引き、家の中へ引っ張る様に招き入れた。
「座って、座って。」
リザに手を引かれ、ルシフェルは2人掛けのテーブルセットの片方に座らされた。
「お茶入れるね〜。」
リザは機嫌良さそうにお茶とお菓子をテーブルに並べた。
「ずっと黙ってるね?」
テーブルひ挟んで向かいの椅子に座りながら、リザはルシフェルを覗き込んだ。
「・・・」
来たものの、何を話せばいいかわからんぞ。セバスに聞いておくべきだった。
ルシフェルは、フードを被ったまま俯いて沈黙している。
「ねぇ。」
「何だ?」
「名前、教えて。」
「ルシフェル。」
「・・・ルシフェル・・・ま、魔王?!」
「まぁ、そう呼ばれている。」
「魔族だとは思ったけど・・・まさか魔王だなんて。私の事、殺しに来たのですか?」
リザは、恐怖を覚えたのか、先程までの勢いがなくなる。
「殺すのであれば、森で出会った日に殺している。」
「あ〜。確かに・・・じゃあ、なんで来たの?魔王は天使族が大嫌いだって聞いてるよ?」
「嫌いだ。大嫌いだ。
だが、お前の事は殺せなかったばかりが、話してみたいとさえ思った。」
「・・・私に惚れたのか。」
バンッ!
「ち!違う!」
ルシフェルはテーブル叩きながら立ち上がった。
「ご、ごめん!冗談!怒らないで・・・そ、その・・・恐いよ。」
「す、すまん。」
ルシフェルは反省した様子で座る。
「お前が・・・いや、何でもない。」
「う、うん。」
「・・・恐がらせてしまったな。」
ガラッ。
ルシフェルは立ち上がり、玄関へ歩き出す。
「待って。」
リザはルシフェルの腕を掴んだ。
「何だ?」
「恐いよ。恐い顔。」
「顔は元々こう言う顔だ。」
「違うもん。助けてくれた日は優しい顔してたもん。」
「・・・。」
こいつは・・・恐がりなのに度胸があって、素直。
母さんに似てる。
「そ、その。せっかくお茶入れたんだから飲んでいってよ。」
リザは少し怯えながらもルシフェルに喰らいつく。
「・・・。」
ルシフェルは無言のままテーブルに戻ると、カップをとり、立ったままゴクゴクと飲み干した。
「こ、これでいいか?」
「ふふっ。あはははっ!」
「な、何がおかしい!」
ダメだ。こいつといるとペースがみだれる。
「だって・・・急いで飲むくらい嫌なら、飲まないで帰ればいいのに。
・・・変な人。」
「お前が飲めと言ったんだろ?」
「お前じゃないよ。私の名前、ちゃんと覚えてる?」
「・・・リザ・・・だろ?」
「うん。私はお前じゃなくてリザ。
それと、私が作ったお菓子も食べて欲しいな。」
「注文の多い奴だな。」
ルシフェルは仕方なさそうにお菓子を手にとると、口に運ぶ。
「・・・うまい。」
「本当?!やったー!」
リザが無邪気に笑うと、ルシフェルは不覚にも可愛いと思ってしまった。
顔を少し赤くして目をそらす。
「ルシフェルは忙しいの?晩御飯も頑張って作るから、食べて行ってよ。」
リザは、無愛想で、少し恐いルシフェルと、何故か離れたく無いと思っていた。
「いや、今日は帰る。」
「・・・そっか。今日はって事はまた来てくれる?」
「あぁ。気が向いたら。」
「うれしい!」
リザはルシフェルに、ニコッと笑いかけた。
「と、いう感じだ・・・セバス!俺はどうしたらいい?!」
ルシフェルは城に戻るいなや、セバスに相談し、詰め寄る。
「魔王様の思うままに。」
「・・・どうしたらいいか分からないから聞いているのだが。」
「魔王様、魔王様はそのリザとどうなりたいので?」
「・・・分からない。」
「仲良くなりたいなら、優しくしなされ。」
「そ、そうか。」
「はい。明日、早速夕食をご馳走になりに行かれては?」
「か、考えておく。セバス、ありがとう。」
「どういたしまして。」
ルシフェルは、考え込むように俯いた。




