魔族と天使族の子。
「レエンカルナシオン!」
どこかで誰かが魔法を唱えてる頃。
「ゔ〜。あぁーー!!!」
「頑張れホルン!」
お腹の大きいホルンが激痛に耐える中、アリビオは、ホルンの手を握ることしかできないでいた。
もう、愛の結晶がこの世に産まれる直前の事。
ホルンのお腹が光を帯びた。
「ホルン!大丈夫?」
「な・に?」
「今お腹が光ってた!」
「嘘?な・に、そ、れ?」
「分からない、大丈夫?」
「う、ん。だい・じょうぶ、では、ないーー!!」
「オギャーオギャー!」
「う、産まれた!ホルン!産まれた!」
「う、うん。」
喜ぶ二人の前に、取り上げられた赤ちゃんが掲げられる。
「元気な男の子ですわい。」
正体を人間族と偽ってアリビオは、ホルンが動ける間に、助産師を一緒に探していた。
魔獣の森が住処と聞き、誰も相手にしてくれない中、ようやく引き受けてくれる事になったのが、このおばあちゃん助産師だ。
「ありがとう、おばあちゃん!」
アリビオは、涙を流しながらお礼を言う。
「ありがとうございます。」
「ほれ、赤子を抱いてみろ。」
おばあちゃんは、ホルンの隣りに赤子を置いた。
「か、可愛い。」
赤子は、天使族の美しい容姿に、赤い目を引き継ぎ、肌は魔族の濃い茶色で、髪は銀色だった。
「まぁ、不思議な子じゃの〜。
元気そうじゃし、問題無いだろう。」
3人で感動を分かち合っているのを目を見開き見つめる視線。
なんじゃこれはー!!
俺、さっきまで刑務所の中にいたよな??
何でこんなとこに!
しかも、目の前にいるのは、天使と悪魔か??
待て待て!体?俺の体じゃない!
俺・・・赤ちゃんに?
そして、この男は悟った。
転生したのだ、と。
この男は、人間族が頂点に君臨する世界線からきた。
まだ中学生であった。
といっても、学校へは行かせてもらえず、母親と共に、義理の父親に暴力を振るわれていた。
エスカルートした暴力が母親を死なせそうになったのを止めるために、義理の父親を刺殺し、結果、留置所の中にいた。
転生か。
この両親は、仲が良さそうだ。
産まれた日、母親の事は少し心配だったが、この男は喜んだ。
だが、喜んだのも束の間。
絶望の淵に立たされる事になる。
「さぁ〜おむつかえようね〜。」
ホルンはそう言うと、体に巻いた布をほどき始める。
や、やめろー!
やめてくれー!
体は思うように動かない。
恥ずかしいカッコをさせられ、フキフキされる屈辱。
・・・あぁ。つらい。
ある意味これは監獄だ。
動かない体に、拷問。
・・・うん。俺は赤ちゃんだ。
そう思う事にしよう。
そんな耐え難い日々を耐えしのぎ、
男は15歳になった。
魔族は、寿命が長く、成長も早い。
天使族の血が混じった事で成長は少し遅くなったが、人間族で言うと小学生高学年くらいだろうか。
名前は、ルシフェルと名付けられた。
「父さん!いくぞ!」
アリビオとルシフェルは、剣の稽古をしている。
剣と言ってもこん棒のような大きな木を剣に見立てている。
ゴン、ゴン、ゴン!
ドカーン!
「参った!」
アリビオは、ルシフェルの勢い良く振りかぶった攻撃に吹き飛んだ。
ルシフェルが産まれてから、魔獣から魔族が産まれる事が頻繁にあり、魔族は20人程まで増えていた。
成長の早いルシフェル以外の魔族は、もう大人の体まで成長している。
アリビオは、魔族の中で一番強かったが、ルシフェルが成長するにつれて段々敵わなくなり、ここ最近は、もう諦めていた。
剣術だけでなく、体術でももう敵わない。
「ルシフェルはすごいな。悔しいぞ!」
「俺、強くなれて嬉しい!
父さんと母さん、それに他のみんなも、俺が守るから!」
意気揚々と、ルシフェルは叫ぶ。
「頼もしいな。」
アリビオは、お尻の汚れををはたきながら立ち上がる。
「じゃぁ、次は魔術の練習だ!」
「えー!魔術は眠たくなるから嫌いだー!」
「魔術も大切だぞ?ホルンが怪我したら治してやれるんだぞ?」
「・・・・がんばる。」
嫌々ながら、ルシフェルは魔術書を開き、魔術の練習を始めた。
転生から15年の月日が流れ、ルシフェルは、自分が異世界から来たことを忘れそうになるほど幸せだった。
両親が仲睦まじい。
ただそれだけで、こんなに幸せだなんて。
想像もできなかった幸せな日々を、両親を心から大切に思っていた。
その矢先。
「放てー!!魔族を根絶やしにするのだー!」
そんな親子に、不幸が足音を立てて迫りくる。
城に向かって、火の着いた矢が何本も打ち込まれる。
外が騒がしいのに気付いたホルンが、窓から外を覗いた。
何百という、たいまつに灯る火の光が、
外を昼間のように明るく照らしている。
「アリビオ!大変!」
「どうした?」
ソファーでルシフェルを膝枕して寝かせていたアリビオは、ホルンの動揺ぶりに、不安を覚えた。
「外に!お城に矢が!」
「えっ?」
アリビオは意味が分からない様でポカンとしている。
「多分天使族が攻めて来たんだよ!
私達を殺すつもりなの!」
「な、何で!」
アリビオは、ルシフェルの頭をソファーに置くと立ち上がり、ホルンに連れられ、先程窓に戻る。
「な!な!な!なんだ!これ!」
城に放たれた火矢から火が移り、城が燃え始めている。
そして、たいまつの固まりが、ゆっくりと城に近づいて来ているように見えた。
「と、とりあえず火を消さないと!」
水魔法を唱えようと、手をかざすアリビオの腕をホルンは掴んだ。
「何?火を消さないと!」
「アリビオ!城は好きだけど・・・逃げないと。」
「逃げる?俺達何も悪い事してないだろ?」
「仕方ないよ。」
「嫌だ!!大切な場所なんだ!
あ!あいつらー!!」
進軍する天使族が、ホルンのハーブの畑を踏み躙りながら歩くのを見て、アリビオは怒り狂った表情に変わる。
「お願い!アリビオ!行かないで!」
アリビオは、ホルンの叫びも虚しく、窓から飛び出すと、風魔法を上手く使い、空を飛ぶ。
城に上る火の手に、水魔法を乱射し、城の火を鎮火した。
「おぉ!魔族だ!矢を放てー!」
天使族の放った無数の矢は、アリビオに突き刺さる。
アリビオは、地に落ち、天使族に囲まれる。
「魔族!大人しく廊に入れば命は助けてやる!」
一人の天使族が叫ぶ。
「ダメだ!殺せー!」
天使族の中でも意見が割れている様だ。
「やめてー!」
必死に階段を駆け下り、天使族をかき分けてアリビオの元へ向かうホルンが叫ぶ。
なんとかアリビオの元にたどり着いたホルンは、矢の刺さったアリビオを守る様に前に立つ。
「私達は、ただここで静かに暮らしたいだけ!帰って下さい!」
「な、何を言っている?血迷ったか!」
「なぜここに天使族が?」
「不吉だ!不吉の根源だ!」
「殺せー!」
ホルンは、天使族である自分は安全だと飛び込んだが、考えが甘かった事を痛感した。
「おー!!」
一人の天使族が、ホルンに斬りかかると、堰を切った様に、次々とホルンとアリビオに太刀が浴びせられた。
「母さん、父さん。」
その時、間が悪く目覚めたルシフェルは、父と母がいないことに気付き、騒がしい外を窓から覗いた。
まぶたに写ったのは旋律の光景だった。
「父さん?母さん?」
一瞬、夢かと疑うほど残酷な光景に、ルシフェルは我を失う。
「ガァーーー!!!!!」
平穏な日々が抑えていた、ルシフェルの体の変化を怒りが目覚める。
肉体は、筋肉を増大し、牙が生えた。
そして、膨れ上がる魔力がルシフェルの体に納まり切らずに溢れ出す。
耳をふさぎくなる様なうめき声に、天使族達は、ルシフェルに気づいた。
「あそこだ!矢を放て!」
一斉に天使族は、弓を構える。
「転移。」
ルシフェルの頭の中には、様々な魔術のイメージが流れ込んでいた。
一瞬で、天使族の後ろに移動したルシフェルは、父と母の亡骸を抱え、湖に転移した。
「ネッシー!」
ルシフェルが、叫ぶと、湖の主が顔を出した。
「俺の大切な人だ・・・もう息はないが。
しばらくの間守れ!」
ガァー!
返事をする様にネッシーは叫んだ。
ルシフェルは、3歳のとき、ネッシーと出会い、仲良くなった。
正しくは従えたというのだろうか。
「転移。」
ルシフェルは、すぐさま天使族の前に舞い戻る。
「天使族よ。お前達は絶対に許さない。」
突然消えたり、現れたりするルシフェルに、天使族達は怯んでいる。
「ひ、一人で何ができる!」
「魔族!叩き潰してやる!」
数人が叫ぶと、掛け声と共に、天使族達は、ルシフェルに斬りかかろうと走り出す。
「死ね!グラビティ!」
数百人はいようか、天使族の大群を有に超えるほど大きな魔法陣が、天使族の頭上に展開される。
「ぐぁー!」
「あー!」
まさに断末魔。
天使族達は、うめき声と共に、肥大化した重力に抗えずに潰れていく。
魔法陣が、地面に堕ちた頃、辺りは静けさを取り戻した。
ルシフェルは、その場に膝をつき涙を流した。
「うぁ〜!!あぁー!!」
もう少し、もう少しだけ早く目覚めていれば。
ルシフェルは何度も何度も、心の中でそう叫んだ。
「ルシフェル様!天使族の砦を一箇所撃破致しました。」
「うん。良くやった。」
「はっ!ありがたきお言葉!」
ルシフェルは、あの日から天使族と戦い続けている。
力を解放したルシフェルに共鳴したかのように、次々と強力な魔族が産まれ始め、魔族は完全復活を遂げていた。
圧倒的な力を持ったルシフェルは、自分程ではないが、強力な力を持った4人を四天王と呼び、各地の天使族の弾圧に乗り出していた。
「父さんと母さんは復讐などと、怒るだろうな。だが、俺は天使族を許さない!
ところでだ。
・・・お前達は俺に協力しなくても良いんだぞ?なぜこうまで協力してくれるのだ?」
「魔王様が好きー!」
「魔王に惚れている。(男として。)」
「なんとなく。」
「魔王様のお気持ちに共感致しました。
」
四天王は口々に答える。
「・・・全く。強いのはよいが、個性の強い奴らだ。
では、引き続き頼む!
必ずこの手で天使族の王を葬ってくれる!」
「おぉーーー!!!!!」
四天王、その後ろに控える魔族達は、城が震える程の叫びを上げた。




