AI導入会議
午後三時。会議室の蛍光灯が少しチラついている。
空調の音だけがやけに大きい。
「さて……じゃあ、今日の議題、AI導入の件、ですね」
課長の佐藤が、書類をめくりながら言った。
「AIって、あれですよね、ほら、ニュースとかでよく出てくるやつ」
営業の山田が曖昧に笑う。
「そうそう、喋る冷蔵庫とか、ああいうの」
「それはちょっと違うんじゃない?」
「いやでも、頭いいんですよね? うちにもああいうのが来るんですか?」
会議室に笑いが起きた。
なんとなくみんな、楽しそうだった。
「ま、まぁ、社長も最近、特にAIがぁ〜とかAIにぃ〜とか良く言ってますもんね」
佐藤が手元の資料を持ち上げる。
「うちも取り入れないとが口癖です」
「取り入れるって、どこに入れるんですか?」
「え? どこにって……会社に、じゃないかな」
「いや、そうじゃなくて、どの部門で使うのかって意味です」
「あぁ、そういうことか。えっと……日報の管理とか、営業のサポートとか?」
「なるほど〜。でも、それって、私達の存在意義無くす方向ってことですよね……」
「いやいや、そういう話じゃないですよ」
佐藤が慌てて笑う。
「AIが手伝ってくれるだけです。あくまで“人間が主役”」
「……まぁ、そうですよねぇ」
山田は曖昧に笑いながら、机の上のランプをいじった。
ランプはゆるく緑に光っている。
いつから置かれているのか、誰も知らない。
ただ会議中はずっとそこにあって、誰かが何かを言うたび、ゆらゆらと明滅する。
「僕、AIっていうのは、もっとこう……ボタン押したら勝手に全部やってくれるもんだと思ってました」
「うんうん。そういうのが理想だよね」
「いや、理想っていうか、もうそれで良くないですか?」
また笑い声。
「ハハハ、、、」どこか乾いた笑い声で会議は続く。
「そういえば社長が仰ってたらしいですよ」
人事の木村が、コーヒーをすすりながら言った。
「“これからは本格的にAIに任せてみようと思う”って」
「へぇ〜。社長もついに決断したんだ」
「まぁ、時代の流れですかね。うちもいよいよ最先端ですよ」
「最先端って言ったら、既に結構最先端でしょう、、、?」
「そうそう。うちの仕事なんて、毎日会議してるだけですもんね」
「それでも会社はちゃんと回ってる。不思議なもんですよ」
会議室の空気がふっと和んだ。
笑っておくのが“ちょうどいい反応”だった。
「ま、会議がうまく回ってるってことは、仕事もうまくいってるってことですよ」
「そうそう。報連相、ちゃんとできてますからね」
「うち、いい会社ですよね」
「ほんと、雰囲気が良いのは大事ですよ!」
そのとき、机の上のランプが、ぽうっと明るく光った。
まるで同意するように。
「ね、ほら。ランプもそう言ってる」
山田が冗談めかして言うと、みんなが笑った。
けれどその笑い方は、どこかぎこちなかった。
「じゃあ次の議題、“AIによる営業支援ツールの作成”について、話していきましょうか」
「はい!」
山田が元気よく返事をした。
「僕、前に“グラスホッパー型”ってAIを使わせてもらったんですけど、あれ本当にすごくて。
資料も勝手に作ってくれるし、プレゼンもボタン押すだけで全部説明してくれるんですよ」
「おお〜、すごいねぇ」
「パソコン繋げて“実行ボタン”押すのも大変ですけどね〜」
乾いた笑い。
ランプがふっと明るくなった。
木村が言う。
「でも、実行ボタンを“人間が押す”ことで、責任の所在を明確にできるって大事ですよね」
「確かに。AIが間違うことなんてほとんど無いけど、責任取るって概念が無いですもんね」
「じゃあ、一人一台パソコンを配置して、“実行ボタンを押すこと”が我々の大事な仕事になるわけですね!」
「それはやりがいありそうだ!」
ランプが緑に灯る。
誰かの笑い声が、わずかに遅れて響く。
「でもさぁ」
山田が笑いながら言う。
「責任持って押すのって、けっこう大変ですよ? “実行ボタン”しかないパソコンじゃ困るなー」
「せめて、“否認ボタン”もつけておいてもらわないとねえ」
その瞬間、
ランプが緑と赤で明滅を始めた。
誰も何も言わない。
社員同士で顔を見合わせている、、、。
「否認ボタン、ですか……いやぁ、でもそれ、必要ですかね?」
木村がぽつりと呟いた。
「え?」
「だって、人間が作った資料なんて、そもそも社外に出したらコンプライアンス違反になっちゃう時代ですよ?」
木村は、淡々と続ける。
「“否認”って言っても、判断材料が人間にあること自体、もうリスクじゃないですか」
誰も笑わなかった。
ランプが、再びゆっくりと緑に戻る。
また社員同士で顔を見合わせている、、、。
「……まぁ、確かにそうですよね」
佐藤が小さく頷く。
「AIの作成した資料なら、法律的にも問題ないですし」
「そうそう。AIの判断が最も“安全”ですもんね」
「責任取るって、つまり“人間が間違う可能性を残す”ってことですからね」
「はは……そう考えると、怖いですよね、人間って」
みんなの笑い声が、妙に小さく響いた。
「……さて、休みの日はどうしますか?」
山田が、真剣なのか冗談なのか分からない顔で聞く。
「AIのいいところは、何と言っても私たち人間とは違い、『眠る』『休む』が必要ないってことですよね」
木村が大きく頷く。
「そうなると、我々の“実行ボタン”が無いと先に進めないじゃないですか。夜と休みの日はどうするんですか?」
「タイムシフト制にして、夜間と休みの日は誰か一人は出社してる状況を保つ」
「全員のパソコンの実行ボタンを押して回る」
「それで良くないですか?」
議論は次第に白熱する。
「でも、それって一人で何人分もの仕事出来ちゃうんだよね……」
山田が小さく呟いた。
そのとき、佐藤が声を張る。
「え? 国が人間を定数で雇用しろって言ってるから、ウチもこうして大所帯でやってるんだよ? 知らないの?」
一瞬、会議室の空気が止まった。
そして、誰も何も言わず、ランプが穏やかに緑を灯す。
「……やっぱり、AI導入って大変ですね……ハハハ」
山田の乾いた笑いが、空調の音と重なって会議室に響く。
「……でも、なんで一人一台パソコンを置いて、実行キー押すだけって話になってるんですか?」
山田が首をかしげる。
佐藤課長が微笑む。
「ああ、知らないんだ? 前まで田村さんっていたじゃん?」
「田村さん……?」
山田がきょとんとする。
「この会社、会議だけしてるもんだから、他にやることが無いんだよね」
木村が肩をすくめる。
「で、田村さん、会社抜け出して毎日遊んでたらしい」
「え……まさか、それで?」
だから“実行キーだけ”押すパソコンか....
佐藤が笑う。
「シャレが効いてるだろ?」
「なるほど……」
山田はやっと納得するふりをした。
「それで、田村さんって今どこにいらっしゃるんですか? 最近見かけてないような……」
佐藤課長は、ランプの緑をちらりと見やりながら、静かに答えた。
「さあね……」
会議室に沈黙が落ちる。
そして、緑のランプがゆっくりと揺れた。
2038年——
全ての仕事がAIに取って代わられて10年が経った。
それでも、人間のためのAI活用会議は今日も続けられている。
議題は、如何にして人間に“意味のある仕事”を与えるか——
誰もが理解しているのは、仕事はすでにAIがやってしまうという現実だけだ。
ランプは穏やかに緑の光を揺らす。
社員たちは顔を見合わせ、安堵の笑みを浮かべる。
無意味な議論を繰り返しながら、会議は淡々と、静かに、続けられていく。
なんか、アリとキリギリスの話を元にして、書きたかったけど、途中から訳分からなくなって、全く違う終わりになってしまいました、、、。汗




