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役立たずと追放されたけれど、実は最強の支援職でした

作者: 妙原奇天
掲載日:2025/09/30

役立たずと追放されたけれど、実は最強の支援職でした

1


 「レン、お前は役に立たない」


 焚き火の炎が小さく揺らめく夜、勇者カイルの声はやけに冷たく響いた。

 仲間の剣士ライナ、僧侶エマ、魔導師ジークが、それぞれ失望の色を隠しもしない顔でこちらを見ている。


 「支援魔法? そんなもの、戦いの役には立たない。攻撃できるやつがいれば充分だ」

 「回復なら私がいるしね」

 「荷物を持つくらいしか能がない」


 いつものように、胸の奥に針のような言葉が突き刺さる。

 だが今夜だけは違った。彼らの目は本気で、明日の朝になっても冗談でした、なんて言う気配はない。


 カイルが言い放つ。「明日から別の仲間を探す。お前はここで終わりだ」


 荷物を投げ渡され、レンは呆然と立ち尽くす。

 喉の奥から言葉が出てこない。反論しようにも、声は炎に吸い込まれて消えた。


 そして、追放された。


2


 夜道を歩き、レンはようやく辺境の村に辿り着いた。

 小さな村だった。木の柵に囲まれ、屋根は藁葺き、井戸は一つ。村人の顔はどれも疲れている。魔物の被害が増えているらしい。


 「よそ者か?」

 村長らしき老人が警戒の目を向けてきた。


 「……行くあてもなくて」


 老人はため息をつき、「居るなら役に立て」と言い放った。

 その言葉に、胸が少し痛んだ。――また「役立たず」と言われるのだろうか。


 だが、農夫の一人が畑で倒れそうになっているのを見たとき、レンは思わず手を伸ばした。


 【疲労軽減】。


 体にふわりと魔力が流れ、農夫の顔色が変わった。

 「……あれ? 体が軽いぞ」

 信じられないという顔で鍬を握り直し、再び畑を耕し始めた。


 次は夜泣きに困る母親に【心の安定】をかける。赤子はぐっすりと眠り、母は涙を浮かべて「ありがとう」と言った。


 その声が、胸に染みた。

 勇者たちに否定され続けた力は、ここでは“必要な力”だったのだ。


3


 翌日、村を襲う魔物が現れた。

 牙をむいた巨大な狼。村人たちは逃げ惑う。剣を持つ者などほとんどいない。


 レンは決意し、村人の肩に手を置いた。


 【集中強化】。

 【感覚共有】。


 弓を持つ若者の目が鋭くなり、矢は風を裂いて狼の目に突き刺さった。

 怯える老人には【心の安定】を。震える手が止まり、井戸の水桶を投げつける勇気を取り戻す。


 最後に、畑仕事で鍛えた農夫に【疲労軽減】を重ねると、彼は人間とは思えぬ速さで杭を振り下ろした。

 狼がうめき声をあげ、地に伏した。


 村人たちの歓声が夜空に響く。


 「レンさんのおかげだ!」

 「すごい! 本当にすごい!」


 レンは膝をつき、震える手で顔を覆った。

 初めて、自分のスキルで人を救った。胸が熱く、涙が止まらなかった。


4


 その後もレンは村に残り、支援魔法で人々を助けた。

 農作業に【疲労軽減】を、勉学に励む子供に【集中強化】を、病気に怯える者に【心の安定】を。


 村の暮らしは変わった。

 「万能補助師」と呼ばれるようになり、噂は隣村から王都にまで広がった。

 やがて騎士団が訪れ、正式に協力を求めるまでになった。


 ――だが同時に、かつての勇者パーティが窮地に陥ったという話も聞いた。

 レンの支援がなくなった彼らは、次第に連携が崩れ、魔王軍との戦いで敗北を重ねているらしい。


5


 ある日、村に勇者カイルたちが現れた。

 ボロボロの鎧、疲弊した顔。かつての傲慢さは影もない。


 「レン……戻ってきてくれ」

 カイルが膝をついた。


 かつて追放した男に、頭を下げている。


 レンはしばらく黙っていた。

 胸に浮かぶのは、あの夜の冷たい言葉。だが同時に、今の村の笑顔。子供たちのはしゃぐ声、老人の穏やかな顔。


 「俺はもう戻らない」

 レンは静かに告げた。

 「ここで必要とされている。俺の居場所は、この村だ」


 村人たちが一斉に声をあげる。「レンさんは私たちの仲間だ!」


 勇者たちは顔を歪め、それでも深く頭を下げた。

 「……すまなかった」


 その背中を見送り、レンは深く息を吸った。

 あの夜の絶望は、もう過去のものだ。


6


 夕暮れの畑で、レンは鍬を持つ。

 仲間に囲まれ、笑い声が響く。


 「俺は役立たずじゃない」

 小さく呟いた言葉は、土に吸い込まれ、確かな温もりとなって胸に返ってきた。


 “役立たず”と追放された青年が、最強の支援職として人々を救い、真の仲間と共に歩む――。


 その物語は、ここから始まる。


(了)

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