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デルタのスナイパー  作者: 二条路恭平


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基地の食堂で朝食を済ませてマイクと一緒に部屋へ戻ると、直ぐにマイクは歯磨きに洗顔を終えて洗面所の鏡の前で頭髪を念入りにブラッシングする。起床直後の情けないくらいにグチャグチャだった髪も整いだしデルタのオペレーターと言っても恥ずかしくないくらの外観に戻ってきた。

俺も人の事を彼是と言える程、常に身だしなみに気を使っているわけではないが、そんな俺が見ても今朝のマイクは相当に酷かった。

漸く、文明人らしい表情を取り戻したマイクが戦闘服へ着替え終わり部屋を出て昨日と同じ訓練施設の入り口へ向かうと、既にセルジオとスティーブも訓練の準備を整えて待機していた。

先に集合場所へ到着していた2人に朝の挨拶を交わしていると、制服姿の上官が俺達の方へ歩いてくるのが見え、俺達は横一列に整列すると上官に敬礼の姿勢をとって上官の到着を迎える。

俺達の対面に着いた上官が軽く敬礼をして

「諸君、おはよう。それでは、昨日指摘した時間短縮を実現すべく本日の訓練を始めるが、訓練の開始にあたって昨日の訓練で諸君等がフルオートで射撃を行っているが、本日の訓練ではフルオートによる射撃は禁止とするので厳守するように」

と珍しく銃器の使用について細かい指示が出される。

上官は銃器のフルオート射撃を禁止する理由について説明をしなかったが、恐らくマイクがSCAR-Lアサルトライフル銃をフルオートでぶっ放っした際、スチールターゲットを外れた弾丸が背後の岩にでも当たって跳弾となり危うく教官の1人が頭部に風穴が開くような事態が発生していたのかもしれない。

その上官からの説明を聴いて俺達4人は再び上官へ敬礼をしながら

「イエッサー」

と大きな声で返答する。

「それでは、只今から訓練スタートだッ」

と言い上官が訓練開始のスタートを意味するホイッスルを吹き鳴らす。

これで、森林の中に潜んでいる教官達にも俺達が訓練施設の入り口からスタートしたことを知ることになる。

俺達はスタートしてから、暫くは昨日と同様に4人が横一列の状態で周囲を警戒しながら行軍していたが、森林が群生している辺りから5メートルくらい進んだ所で俺とマイク、セルジオとスティーブのコンビとなって二手に別れる。

今回のミッションでは無線機が支給されていないので、二手に別れたとしても大声を上げずとも意思の疎通が可能な距離を保つよう心掛けている。

昨日は、4人が一塊の状態となっていたので銃撃を加える教官達にとっても狙い易く集中砲火を浴びる結果になったが、二手に別れて行動すれば2つのチームが同時に発見されるとは限らず、どちらかが襲撃を受けた場合には襲撃されていないチームがスチールターゲットの位置を特定して反撃を加えれば充分に対抗できる。

大体、着用している戦闘服にしても迷彩柄となっているので、事前に俺達が二手に別れることを知ていなければ、それぞれのコンビを見付け出すのは容易なことではない。

昨日は、一塊であったために各方向からの集中砲火だったので放たれてくる弾丸を避けるだけで手一杯の状態だったので、発砲してくる場所の特定が思うに任せなかったが、今日の体勢ならば弾丸を浴びる量も、1ヶ所に集中することもないので昨日の半分程度となるだろうから、発砲場所を特定するのにも難易度が低くなる。

案の定、昨日の訓練で最初に襲撃された近くでセルジオとスティーブのチームへ銃撃が開始された。

こうなるとセルジオとスティーブは大き目の幹に身体を隠して反撃のチャンスを待つ以外に対処の方法はないが、俺とマイクには銃撃が襲ってこないのでセルジオとスティーブが身を隠している場所とは違った角度から落ち着いて観察できるので、教官達が身を隠しているスチールターゲットを見付けるのにも大した時間を要しない。

また、昨日は俺もメインアームを使用していたが今日の戦術ではメインアームを使用するのはマイクだけで、俺はサイドアームであるM&P5.7拳銃に消音器を装着した物を使用することに決めている。

戦闘訓練なので、どうしてもメインアームを使用するといった固定観念が働いてしまうので今回ならSCARーLアサルトライフル銃を構えてしまうが、周囲には草木が生い茂り決して取り回しが良い状況とは言えない環境のなかで、全員がメインアームを使用すれば、互いのバレル等が接触しないように注意するだけで精一杯となり周りに群生している草木にまでは注意が届かない。そのような状況で、動き回ればバレル等が草木に接触して音を立ててしまい相手に自らの居場所を逐一連絡しているようなものである。

確かに、消音器を装着したM&P5.7拳銃であっても草木に接触する状況になるのは同様であるが、SCAR-Lアサルトライフル銃のように全長やバレルが長くはないので草木に接触する確率はSCAR-Lアサルトライフル銃よりも遥かに低い。

M&P5.7拳銃を構えて斜め前方へ視線を送ると、昨日とは違って景色に慣れた事もあるが何となく違和感を覚える箇所が点在しているのが認識できる。確かに、スコープ等の光学照準器を使用していると倍率を上げることで詳細が見えるために子細を確認しようと慎重になる部分があるが、肉眼であれば詳細は確認できないにしても、直感で怪しいと感じた箇所へ発砲するのに迷いはない。

俺の位置から40メートルくらいの距離に人工的な迷彩柄となっているように見える箇所を発見したので、M&P5.7拳銃のトリガーを素早く2度引くと、消音器を装着していても結構な音量の発砲音を鳴らしながら5.7ミリメートル弾が跳び出していく。

この拳銃から発射される弾丸も軽量高速弾の部類になるが、200メートル離れた射程距離であっても特殊繊維のケプラーで造られている防弾ベストを貫通させる威力を有しているので40メートル程度の射程距離ならば途中で枝等と接触したとしても大幅に弾道が逸れる心配はなくスチールターゲットに命中するはずである。

「カーンッ」というスチールターゲットに拳銃弾がヒットした弱々しい金属が聞こえると、直ぐに俺の近くにシムニッション弾薬の弾丸が着弾して砕け散ると内容物である塗料の飛沫が飛び散ってくる。

俺は、慌てることなく目星を付けていた幹へ身体を寄せて身を隠して被弾しないように対処する。

映画やドラマと違って消音器を装着した拳銃から発砲した場合でも、22LR(ロング・ライフル)のような装薬量も少なく、小さな口径の弾薬でもなければ「ブシュッ」というように周囲であっても聞き取れないくらいの小さな発砲音にはならない。

そのため、俺が消音器を装着しているM&P5.7拳銃を発砲すれば、直ぐに居場所が特定されてセルジオとスティーブを銃撃しているのとは別の位置から、銃撃を受けることは既に織り込み済みで、相棒のマイクは俺がM&P5.7拳銃を発砲する瞬間に少し離れた場所へ移動して俺に向かって銃撃してくるのを注意していたのだ。

今回の訓練で唯一、俺達が有利なのは教官達が身を隠しているスチールターゲットは訓練が始まれば容易に移動させることができないので、居場所さえ把握してしまえばスチールターゲットをヒットさせるのは大して難しいことではない。

俺に対して発砲してきた場所を特定したマイクが、セレクターレバーを「SEMI」に切り替えてSCAR-Lアサルトライフル銃を発砲すると「ガッキーン」という結構大きな金属音を発してスチールターゲットをヒットした。

昨日とは違う戦術でスチールターゲットを比較的順調にヒットさせている事で、安易な集中砲火が難しいと判断した教官達からの発砲は次第に散発的になったことで、セルジオとスティーブも割りと確実にスチールターゲットをヒットできるようになり教官達からの銃撃を黙らせていく。

昨日よりも確実に早い時間で最初の襲撃を退けて、先へ進むことができると後は似たような調子で教官達からの第2派、第3派の襲撃を退けて目標地点の建物へは昼の12時ちょっと前に全員が無事に辿り着けた。

建物内で待っていた上官は

「昨日より随分と時間短縮して到着したな、昨夜のうちに指示通りに対策を検討したようだ」

幾分、満足げな表情で上官は話すが決して俺達を褒めたりはしない。

「それでは、基地へ戻って昼飯を食べた後は諸君等がマッスルメモリーとなるくらいに同じ訓練を繰り返すので、13時には訓練施設の入り口へ全員集合せよ」

上官はそう言い残して足早に建物を出て行く。

俺達は立ち去って行く上官に敬礼をして見送り、上官が完全に建物を出た段階で敬礼を解いて基地へ引き返す。

基地の食堂へ向かう途中でセルジオが

「午後の訓練でも同じ戦術で大丈夫なのか?別の戦術も検討してなくても安心できるか?」

至極、最もな疑問を口にした。

しかし、マイクは気楽そうな声で

「大丈夫だよ。それに、今の俺達に別の新たな戦術が思い付いて確実に実行できるのか?それよりも、この戦術を徹底的に行って身に着けた方が良いよ。だいたい、今だって他のミッションでコンビを組んでいるセルジオとスティーブ、ジョージと俺のコンビとしたから上手くいったかもしれないが、これが入れ替わった場合に同じようにできるのか分からいんだから、午後は相棒を入れ替えてトライしてみようじゃないか」

と真面目な表情で言っている。

確かにマイクの言う通りで、今の訓練では信頼感のある者同士でコンビを組んだから、上手く機能したかもしれないが実際にコロンビアへ赴いた際、確実に慣れている者同士のコンビとなるかは保障の限りではない。

ならば訓練を行っているなかでコンビを変えたりして、慣れた者同士でなくとも充分に機能できる戦術としなければ実践となった時に痛い目を見ることになるかもしれない。

マイクの意見を聞いたセルジオが

「成る程、確かにマイクの言う通りだな。ワンパターンの戦術だが訓練期間中に極めてみるか」

と素直にマイクの意見に賛同し、スティーブも黙って頷いている。

「確かに、俺達はデルタ・フォースのオペレーターと言われているが、だかと言って大して器用なわけじゃない。あまり、能力以上に引出しを増やしてみたところで肝心なシーンで確実に任務を熟さなければドジを踏んでイエス様の元へ召されることになるぜぇ」

なかなか含蓄のある事を口にしたマイクだが、何せ飄々とした感じでしか言わないので今一つ説得力に欠けるようなところがある。

しかし、それがマイクの良いところなのかもしれないと思ってしまう。

これが、如何にもリーダー然として頭熟しに言い負かされるように言われても反発を受けるだけになるが、マイクのような雰囲気ならば基本的に気性が荒い俺達であっても何となく説得されてしまい、いつの間にか纏まって同じ方向を向いて行動ができている。

だからというわけではないが、今回のミッションでもマイクにチームリーダーを任せたいと脳裡を過る。

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