表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
デルタのスナイパー  作者: 二条路恭平


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

97/99

97

教官達から最初の銃撃を受けた後、同じような襲撃を3回ほど受けて300メートル先の目標地点である建物に辿り着いた時には、既に太陽が西へ傾き始め青かった空もオレンジ色に染まっている。

この訓練で特に厳しいのは、教官達との銃撃戦が終了した後には森林の中で必死になって反撃をしていた関係で、暫くは方向が定かではなくなり目標地点となった建物の所在位置が分からなくなってしまうことである。

恐らく教官達のほうでも意図しているのだろうが、一度の銃撃戦が終了してから目標地点の位置を確認して行軍を始めると直ぐに次の銃撃戦が展開されるという状況が続くので、なかなか目的地までの距離を詰められない。

その様な状況のなか目標地点とされた建物へ何とか到着すると建物内で待っていた上官から

「結構な時間を要したな、明日は今日のタイムより半分くらいに短縮するように、以上解散」

と有無を言わせぬ口調で課題だけを告げられて今日の訓練が終了した。

まぁ、デルタでの訓練で上官から褒められるような言葉を耳にすることは無いと思ってよいので、結構無理な課題だけを示せられても大して気にはならないが、一度の銃撃戦で10人以上の教官達から、訓練弾とは言え集中豪雨のように銃弾を浴びさせられて素早い行軍を行うのは至難の業と言える。

ただ優等生ぶる気はないのだが、上官が提示してきた課題も決して理解できないわけではない。

今回、俺達に与えられたミッションはコロンビア軍が警護している違法薬物の製造施設内へコロンビア軍と交戦状態にならないよう留意しながら潜入して、指定された資料を奪取して帰還しなければならない。

そのミッションを成功させるためには、如何にして短い時間で施設内に潜入するかがポイントで、これが必要以上に時間を要してしまえば施設を警護しているコロンビア軍に気付かれ交戦状態となるのは必至で、仮に俺達が警護のコロンビア軍を撃退したとしても周囲にコロンビア軍の援軍が押し寄せて来れば、本格的な戦闘状態に発展して泥沼化するのは確実と言える。

そうなった場合、コロンビア政府に対して事前通告もせず極秘裏にコロンビアへ入国させた俺達を救出するための目的で、他国であるコロンビアへアメリカ陸軍を派兵できるのかと問われれば巨大な組織の中で1つの歯車に過ぎない俺等が答えを持ち合わせているわけがない。

それ故、今回のミッションでも生き延びて帰還したいと思うなら、上官からの課題を克服してコロンビアへ赴く以外に俺達が取るべき手段がない。

目標地点とされた建物から森林の中を歩いて基地へ戻る帰り道、日頃の事を思えば今日の訓練自体は大して肉体を酷使したわけでもないのに何故か疲労感を強く感じる。

それは決して俺1人だけが、その様に感じているわけではなく他の3人も同じようで口数が少なくなってしまう。

森林の中程まで歩いて来た時にマイクが

「今からスチールターゲットの場所を確認してみるか?」

と突拍子もない提案してきたが

「そんな事をしても、明日の訓練前にスチールターゲットの位置を変えられたら意味がないんじゃないか」

セルジオがボソッと疲れを感じさせるような声で呟いた。

恐らく、マイク自身も本気で提案してきたとは思わないが、訓練で俺達を襲撃する教官達も訓練が終了した時点で、俺達がスチールターゲットが設置された場所を確認することくらいは充分に想定しているだろうから、今夜遅くか明日の早朝にでもスチールターゲットの位置を変えられたら今の状態を把握してみても大した意味がない。

ただ、セルジオの呟きを聞いたマイクは

「何だぁ、お前ら結構冷静じゃないか?3人とも全然喋らねぇから少し心配したぞ」

そう笑いながら言った後に続けて

「基地に戻って着替えたら、食堂で一緒に夕飯を食いながら対策を考えようじゃないか。確かに上官から大幅な時間短縮の宿題を出されたが、全員でアイディアを出せば何等かの対策が見付かるだろう」

3人の肩を軽く叩きながら、比較的明るい声で言ってくる。

確かに、簡単に達成できそうもない上官からの宿題を出されて精神的に落ち込んでいても何の解決にもなりはしない。

それよりも、今回のミッションでチームとなる4人でアイディアを出し合って、少しでも有効と思える戦術を考え出せば解決の糸口くらいは掴めるはずである。

そう思った俺は

「確かに、マイクの言う通り全員で対抗策を考えれば克服できない課題じゃないし、ここは未だアメリカ国内でコロンビアじゃないんだから、例え間違った戦術を取ったとしても全員が死ぬことだけはないしなぁ」

そう言うと

「流石ジョージ、分かってるじゃないか」

マイクが元気な声で笑いながら、柄にもないお世辞を言う。

多少とも笑顔が戻ってきたセルジオとスティーブも、少し前までの落ち込んだ様子が消え去って森林の中を歩く足取りにも力強さが戻ってくる。


基地に戻って全員でシャワー室へ向かい身体を洗うが、教官達が発砲してきたシムニッション弾薬を直接被弾したわけではないものの、樹木等に命中して飛散した塗料の飛沫が顔や手に点々と付着して乾いているので、その乾いた塗料を洗い落とすのに想像以上の時間が掛かってしまう。

身体を洗い終わってシャワー室を出てから、脱いだ戦闘服を見てみると間違いなくシムニッション弾薬の弾丸が樹木に命中した際に、プラスチック製の外装が弾けたことで飛散した塗料が点々と付着して乾いているのが確認できる。

一瞬、脳裏には塗料の着いた戦闘服を洗濯しようか迷ったが、どうせ明日も同じ訓練を行って散々飛散した塗料の飛沫を浴びることになるので、戦闘服を慌てて洗濯する必要もないと判断して、そのまま身に着けて食堂へ向かった。

4人で同じテーブルに着いて夕食を摂りながら色々とアイディアを出し合うが、なかなか纏まらず食事を終えてからも2時間近く食堂のテーブルで粘っていると食堂の職員から後片付けができないので困ると苦情を言われてしまう。

食堂の職員に、全員で謝罪してから食堂を出た俺達は、俺とマイクが寝床としている部屋へ集まって議論を続け、結局深夜1時近くまで話し合いをして一応の結論を導き出した。

それからは各自が急いでベッドへ潜り込んで就寝するが、これがミッションに従事中ならば例え翌日の昼近くまでベッドの上で寝ていることも不可能ではないが、基地に居るとなれば朝の6時には強制的に起床させられることになる。

そうなった時に、寝不足状態の頭まま全員で話し合った内容まで思い出せなくなっては、何のために2時間以上の時間を費やし議論したのか分からなくなってしまうので、兎に角急いでベッドの上で目を瞑り夢の国へ入国できるよう努力する。


基地内に起床の合図が鳴り響き、その音を微かに聴いて目を覚ましたが、流石にスッキリといった感じの朝ではないものの、だからと言って決して寝不足気味という状態でもなかった。

隣のベッドで寝ていたマイクも起床の合図で目を覚ましたが、未だ眠り足りないのか頻りに目を擦っている。

「マイク、大丈夫なのか?未だ寝足りないのか?」

心配なった俺が声を掛けてやると

「いや大丈夫。昨日、全員で話し合った内容も忘れずに覚えている」

目をしょぼつかせてマイクが答える。

本人が大丈夫と答えている以上、余計な声を掛けるのは控えてみたが、目の前のマイクを見ていると一抹の不安が過らないわけではない。

戦闘服に着替えた俺は、部屋の洗面器で歯を磨いて洗顔を済ませて

「マイク、朝飯を食いに行くぞ」

とマイクに声を掛ける。

未だ眠そうな表情をしながら戦闘服を身に着けたマイクが上着のボタンを掛けないままで

「俺も一緒に行くから待ってくれ」

と言って慌ててコンバットシューズを履き始める。

未だ目をしょぼつかせて頭髪がグチャグチャの状態となっているマイクは、デルタ・フォースのオペレーターというよりも近くの広場で生活しているホームレスにしか見えない。

俺が隣に居るから問題がないが、こんな状態でマイク1人が廊下を歩いていれば確実に捕まって基地の外へ放り出されるに違いない。

そんなマイクも、眠そうにしながらも通常通りの大食漢な朝食を済ませると、食事前の情けない見た目が消え失せて少しはマシな外見になっている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ