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2週間の特別休暇も過ぎてしまえば、あっと言う間に終わりとなり休暇の翌日にはフォートブラック基地へ出勤すると、直ぐにデルタ・フォースの上官から呼び出されて新たなミッションが告げられる。
今度のミッションは、中南米と距離的には比較的近いコロンビアなのだが選りにも選って密林地帯の山奥とのことであった。
ミッション内容としては、コロンビア密林地帯の山奥にはコカイン等の違法薬物が栽培・精製されている工場があるのだが、その工場や栽培施設に潜入して指定された資料を奪取してこなければならない。ただ、コロンビアの密林地帯へ赴いて麻薬の製造工場内へ侵入してスパイのような真似をするだけであれば、態々デルタ・フォースのオペレーターが出向いていくような必要もないのだが、問題は麻薬の栽培・製造にコロンビアの大統領が関係しており麻薬の密売組織から多額のリベートが流れているために施設の周辺をコロンビア軍が警護しているそうだ。
そうなると、仮に命令されたミッションの遂行にあたって戦闘が激化した場合には間違いなくコロンビアと合衆国が戦争状態となってしまうため、あくまでもミッションの遂行にあっては隠密行動が求められ可能な限りコロンビア軍との交戦は避けなければならない。
そのため、今回のミッションについてもチームを組んで与えられた命令を遂行するのだが、メンバーは俺の他にマイクとスティーブにセルジオの4人ということである。
上官からの説明が終了すると俺は別室へ案内されるが、その部屋は学校等で目にする教室の半分くらいの広さで既にマイクとスティーブが居てブリーフィング用の椅子に腰掛けて手持ち無沙汰な様子でいた。
2人ともデルタ・フォースの本部へ出勤すると同時に上官の部屋へ案内されて、俺が説明されたのと同じ内容の話を受けた後に今いる部屋へ案内されて他のメンバーが揃うのを待っている状態で椅子に腰掛けてボンヤリと待っていたそうである。
俺が、マイクやスティーブが腰掛けている近くのブリーフィング用の椅子に腰掛けてから、20分程度の時間が経過した頃にセルジオが部屋へ入ってきた。
部屋に入室してきたセルジオは俺達の顔を見た瞬間に笑顔を見せて「久しぶりだなぁ」と挨拶をすると俺の隣にあるブリーフィング用に椅子へ腰を下ろす。
セルジオがブリーフィング用の椅子に腰を下ろした直後、部屋のドアを開いて別の上官が入室してくるが、その後ろから続いて備品管理係の隊員2人が台車に銃器等が入った組み立て式のボックスを乗せて部屋に入室してくる。
俺達4人は、上官が入室した時点で椅子から起立して敬礼の姿勢のままで、上官が教壇のような位置に来るのを待っている。
上官が教壇の位置に着いて俺達4人に視線を向けながら軽く敬礼すると
「全員、ご苦労。座って良し」
と椅子に腰掛けるのを許可したので、改めて部ルーフィング用の椅子に腰を下ろすと全員が着席するのを待っていたかのように
「それでは、諸君等には備品管理係が用意した作戦に使用する銃器を支給する」
上官は、そう言って台車を押して入室してきた備品管理係に視線を向ける。
「これらの銃器を諸君等が受領した後は、このフォートブラックで1週間の実践訓練を行ってから現地へ向かってもらうので、そのつもりで」
そう上官が説明すると、俺達に質問の有無を確認することなく
「それでは、マイク准尉から受領してもらう」
マイクへ銃器を受け取るように声を掛ける。
実際には、この部屋に来る前に命令が下されているし、銃器の支給を受けたら実践訓練と説明を受ければ、改めて他に聞くようなこともない。
上官から声を掛けられたマイクが椅子から立ち上がり備品管理係の隊員が居る方へ向かうと、備品管理係の1人が手にしているバインダーに挟んだ資料で確認しながら、銃器を受け渡すがメイン・ウェポンは見たところ5.56×45ミリメートル弾薬を使用するSCAR-Lアサルトライフル銃のようでレシーバー上部のレイルには既にショートスコープが装着されているほかにハンドガード下部にはグレネードランチャーが取付けられている。
確かに、今回はコロンビアの密林地帯でのミッションとなるので遠距離からの狙撃というのは殆どないと思って間違いなく、その意味では7.62×51ミリメートル弾薬を使用するよりは過去に行ったベトナム戦争を教訓に5.56×45ミリメートル弾薬を使用するM16アサルトライフル銃を陸軍のメイン・ウェポンとしたように軽量高速弾である5.56×45ミリメートル弾薬を使用するほうが理に叶っている。
だいたい、密林のジャングルで200メール以上の射程距離での狙撃は、冷静に考えれば間違いなく可能性と成功の確率が低いことになる。
例えば、光学照準器であるスコープが良い例で一定距離でフォーカスされた状態で接眼レンズを覗いてもフォーカスしたエリアから手前では、例え実像があっても視認できないので、ターゲットまで何も障害物が無いと判断して発砲しても途中で樹木の枝等に弾丸が接触すれば、接触した枝が折れて弾道に変化が無ければ良いのだが実際には弾丸の軌道が変化して狙点とはまるで違うポイントへ着弾することになる。その意味では、横からの風を受けて弾道が風下側に流れるよりも始末に悪い。
また、拳銃も支給されており5.7×28ミリメートル弾薬を使用するM&P5.7拳銃が寄越されたほかに、SCAR-Lアサルトライフル銃とM&P5.7拳銃用の消音器がそれぞれ1本ずつ渡されている。
メインとサブの銃器を受領したマイクが席へ戻ると上官が
「次に、ジョウジ准尉」
と俺の名前を呼ぶので、席を立って備品管理係の方へ進みマイクと同様の銃器と消音器と言っても、俺が受領したSCAR-Lにはマイクに支給されたようなグレネードランチャーが装着されていない状態の物を受領して席へ戻り着席すると
「続いて、セルジオ曹長」
呼ばれたセルジオが席から立ち上がり備品管理係の方へ向かい銃器を受領するが、てっきり俺とマイクが受領したのと同様の銃器と思っていたがメイン・ウェポンだけはFNハースタル社製のP90短機関銃となっており、P90短機関銃にはレッド・ダット・サイトが装着されたほか当然に専用の消音器も支給されている。
そして、最後にスティーブの名前が呼ばれてスティーブが席を立って銃器を受領しに行くと、俺とまったく同様の銃器を受領している。
そうなると、使用する弾薬は俺とマイクにスティーブが5.56×45ミリメートル弾薬ということになるだけでなく、5.7×28ミリメートル弾薬に至っては全員が使用することになり、実際の現場で非常時には互いに弾薬を保管し合えることになる。
最も、7.62×51ミリメートル弾薬や45ACP弾薬、或いは9×19ミリメートル弾薬よりも多くの弾数を携行することが可能とはなるが・・・。
「全員、間違いなく銃器を受領したな。それでは、これより地図を各自に渡すので着替えが終わったら備品管理係のカウンターで各自が使用する弾薬を300発ずつ受け取って地図に示されている場所へ集合せよ。以上だ」
上官は、それだけ言うと部屋を退出していくが台車を押して備品管理係の隊員も従って部屋を出て行く。
残された俺達は、至急された銃器類を持ってロッカールームへ向かう。各基地では、男女の別を除けばロッカールームは所属する隊員全員が共有しているので4人が向かう先は一緒ということにはなる。
俺達は、着ていた私服のシャツやジーンズを脱いで陸軍の戦闘服に着替えると上官から指示された通りに備品管理係のカウンターへ立ち寄って50発入りの弾箱で必要数を受領する。
地図に示された場所は、実践訓練用の演習場の入り口で目の前には南米の密林地帯とは言えないまでも植物や樹木が生い茂っており極力現地に近い状態となっている。
その演習場の手前で、受領した弾薬をマガジンに装填していくがセルジオだけはP90短機関銃のマガジンが特殊な構造となっているために装填時間が他の3人よりも多く掛かる。
P90短機関銃のマガジンは、マガジンの出口部分で弾薬が90回転するような構造となっているので、弾薬を装填するにしても単に上から押し込めば済むものではなくスムーズに装填するためにはコツを体得しておく必要がある。
最も装填時間が掛かっているセルジオが俺達に対して
「時間が掛かってすまねぇな」
と申し訳なさげに言うのを聴いてマイクが
「なぁに気にするなよ、今回は4人がチームなんだからセルジオがP90短機関銃の弾薬装填に慣れなるまでは俺達3人がホローする」
気さくな感じでマイクが言ってくれるが、俺もスティーブも同感なので黙って頷いて見せる。
普段から扱い慣れている銃器等で準備に手間取るようなら、叱咤激励もするが5.7×28ミリメートル弾薬は基本的に陸軍の制式弾薬とはなっていないので、このような特別なミッションの時でもなければ扱うことのない銃器であり弾薬なので慣れるまでに多少の時間が掛かるのは仕方がない。
それは、マイクが言うように同じチームであるならば他のメンバーがホローしなければ全員が死傷することなくミッションをやり遂げるのは難しいことになる。
それとは別に気になるのは、実弾訓練ということはターゲットがスチール製の物をヒットさせるのか、或いは教官役の上官達が実弾を発砲して応戦してくるのかが分からないことで、もし仮に実弾で応戦してくるようであれば俺達も相当に気合いを入れて訓練に臨まなければ怪我どころでは済まなくなる。
演習場の入り口に集合した俺達を見た上官が
「諸君達の左手側に、ゼロイン用のスチールターゲットが5基あるので、今から30分以内に支給された銃器のゼロインを完了して実弾演習に臨むよう」
と言ってスチールターゲットの方を指差す。
俺達は、黙ったままでスチールターゲットの方へ移動してゼロインを始まるが、屋外ということもあってイヤーマフラーは装着していない。
イヤーマフラー自体、無いよりは有った方が良いのだが、ゼロインを完了して直ぐに実弾演習となればイヤーマフラーの置き場所がないし、まさかイヤーマフラーを装着した状態で実弾演習を行うわけにもいかない。




