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デルタのスナイパー  作者: 二条路恭平


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ハンドガン競技のエントリー総数は50名近くとなっているので、或いは上位に食い込めそうかと淡い期待をしていたが、全体で23位という結果で終わった。

何と言っても上位の連中は、レギュレーションで許されている範囲内でのカスタムを施しており、スライド等は軽量化の意味を込めてオリジナルがどうなっていたのか分からなくなるくらいの加工となっている拳銃もあるので、発砲後にスライドが前後に動くのは明らかに早くなっており連射を行うのにも有利な状態となっているのだから僅かな時間を短縮して張り合うのは相当に難しい。

タイム・トライヤル方式である以上、競技を行っていく上でコンマ2秒ずつでも早ければステージ全体を通して見れば結果として1秒以上のタイムを短縮することができる。

まるで、シングルシーターでレースをしているようなもので、些細な部分で1秒以下の時間を少しずつでも削ってトータルの時間を短縮させなければ、簡単に一発逆転ができるような特効薬的な手段は存在しない。

確かに、俺が持ち込んだBCM GUNFIGHTER 1911モデル拳銃はウィルソン・コンバット社が1911系拳銃をカスタムした物には違いないが、カスタムの方向性は射撃競技を前提にしたレースガン仕様にカスタムされていないので、俺よりも上位にいるシューター達が本格的なレースガンとしてカスタムしているのであれば如何に頑張ってみたところで使用する道具に埋めようのない差があるのでは勝負になり様がない。

ただし、競技に使用する拳銃によって区分が分けられているので俺がエントリーしているシングル・スタック(SS)部門では1位となっており、ハンドガンのSS部門の優勝者となって楯を貰うことにはなった。

全体成績では、トップ10にさえ入れなったので多少は釈然としない感じが残るが、使用する拳銃が銃砲店から購入した箱出し状態と殆ど変わらない仕様での争いでは1位という成績を残せたことで自分を納得させる。

競技全体と部門ごとの表彰は、午後3時過ぎから行われたので、今から自家用車である中古のピックアップトラックのスピードを如何に上げて運転したとしても今日中に自宅へ辿り着くのは無理なので、競技会場から近いモーテルを予約してテキサス州内で宿泊することにした。

しかし、近いと言っても車で30分以上は運転しなければならい距離のモーテルとなっているのだが・・・。

SS部門の優勝楯を助手席に置いて予約していたモーテルの近くまで来ると反対車線側の歩道を30人くらいの集団がプラカードを掲げて歩いているのが見えた。

時間的に夕暮れが迫り始めているのでプラカードの文字を判読することはできないが、微かに聞こえてくる声から判断すると銃規制賛成派のグループが国内の銃規制を更に推進しろと訴えているようである。

少年の頃に日本からアメリカへ移住して陸軍に入隊した俺からすれば、明ら様に銃規制賛成派を毛嫌いする気は毛頭ないが、この様な活動をしている人間達は合衆国憲法修正第2条を読んだことがあるのだろうかと疑問が過ってしまう。

合衆国憲法修正第2条には「規律ある民兵は自由な国家に必要であるから、人民が武器を保持し携帯する権利は奪われない」と記載されている。

その条文を読み砕いてみると、合衆国の国籍を有する者は老若男女を問わずに合衆国憲法上では民兵と位置づけられ、合衆国を防衛するために必要となる銃器を持つ権利を合衆国は否定しないと言っているようなもので、もし彼等が主張するような方向に合衆国を進めたいのなら少なくとも合衆国憲法で、合衆国の国籍を有する者が民兵ではない旨を規定しなければ銃の規制等ができる筈がない。

一部には、修正第2条を全面削除すれば良いと主張する者もいるが他国から合衆国が攻撃を受けて戦争状態となった場合に、現時点で存在するアメリカ軍の軍人だけでは対処できなくなったようなケースまで想定すれば、戦時下において民兵は必要となる可能性があるのだから、修正第2条を前面削除するよりも合衆国憲法を一部改正して条文の何処かに「合衆国の国籍を有する者は、平時において民兵とはならない」とでも規定すれば連邦法や州法によって銃の規制は憲法違反になることなく充分にできると思える。

ただ、この様な考えを下手に口にすれば主張の違う人間は危険だから排除してしまえとばかりに銃器を手にして攻撃してくるのもアメリカの一部には存在している。

本来ならば、周囲にいる人間の全てが自分と同じ主張になるとは限らないのだから前提条件として「私と貴方では必ずしも意見が一致しない場合があることを理解した上で話し合いましょう」とすれば良いものの、最初から意見の違う相手を否定した上で、攻撃的に言い負かせようとしているから徐々に不必要な激情が災いして暴力が発動してしまうのだ。

ただ、俺自身は銃器が危険であるとは決して認識していない。

元々、銃器その物は金属を使用した道具に過ぎず、銃器が武器となるめには適合する弾薬が存在することで初めて人を殺せる武器となるわけで、弾薬が無ければ銃器その物は単なる金属の飾り物、或いは日本在住時に俺の友人が持っていた玩具としてのモデルガンと大差はない。

その証拠に、弾薬のない状態の銃器のトリガーを引き絞ったとしてもハンマーかストライカーがスプリングの力で動き「カチンッ」という金属音を奏でるだけで発砲という現象は発現しないし、ましてマズルから弾丸が跳び出すような事も起こらない。

まぁ、弾薬がない状態の銃器で他人を脅すような不心得な人間もいるだろうが、仮に銃器を見せられて恐怖を感じる人はいるとは思うけど、銃器を見せられた時点で心臓発作のような持病を患っていない限りは銃器を見せられた人間が慌てふためいて何等かの行動を起こした結果として、怪我を負うことがあるにしても銃器その物によって負傷することはない筈だ。その意味では、本当に規制すべきは弾薬を自由に購入できる合衆国内のシステムであって銃器自体が危険なわけではないということになる。

それに、目の前でデモ行進を行っている連中の少なくとも一部は、数年前に世界的に発生した疾病によってパンデミックとなった折に自分が居住しているエリアで暴動や略奪が発生して己が襲われることを恐れて近くの銃砲店へ押し寄せて銃器や弾薬を慌てて買い求めたはずで、その結果として銃砲店では銃器や弾薬が品薄状態となったのだから、この目の前の連中のなかで一体何人の人間が真剣に銃規制を主張しているのか甚だ疑問に感じないわけではない。

そんな事を考えているうちに予約しているモーテルの駐車場へピックアップトラックを停車させていた。

助手席に置いた優勝楯をそのままにして、それ以外の荷物を持ってモーテルの宿泊受付を済ませるためにピックアップトラックを降りてモーテルの受付カウンターを目指して歩き出すと、銃規制を叫びながらデモ行進を行っていた集団の1人であろう娘が走って俺に近寄ると銃規制を主張するビラを寄越してくる。

俺は、極力やんわりと受け取るのを拒否すると「貴方は、銃規制反対派ですかっ」と血相を変えて話し出すので「私は、どちらの派でもないし、貴方がたのように声高に叫ぶのが苦手なだけです」と返答してやると、ムスッとした表情になって踵を返すとデモ行進を行っている集団へ戻って行った。

モーテルの駐車場で走り去る娘を見送りながら内心ではヤレヤレと思いつつ、再びモーテルの受付カウンターを目指して顔をモーテルへ向け、このような極端な主張を展開する人間が存在するものも合衆国の魅力の1つなのかもしれないと思いながら歩を進める。

受付カウンターで宿泊の手続きを行い、1泊分の料金を前払いすると部屋の鍵が寄越される。その鍵を受け取って指定された部屋に向かいドアの鍵を開錠して、部屋の中に入ると手にした荷物をベッドの脇に置く。

本来ならば、今日参加した射撃競技会のほかにロングレンジで行われるプレシジョン・ライフル射撃競技会にもエントリーしたかったのだが、生憎と開催される日時が与えられた特別休暇後となっているためにエントリーを見送らざるを得なかったので、エントリーした拳銃の射撃競技会が終了した以上は明日の朝から自宅を目指して長距離ドライブを覚悟しなければならない。

明日の早朝にモーテルを引き払いって出発しても、来た時と同じように2日掛かりの帰路となるのは間違いないので、早めに就寝するためにも部屋を出てモーテルの受付カウンターへ向かい事務員に近場のレストランを教えてもらう。

カウンターには近隣の地図があり、無料で貰えるので事務員に教えてくれたレストランの場所に赤いボールペンで印を付けてもらってからピックアップトラックを停めている駐車場へ向かう。

ピックアップトラックの運転席に乗り込むと貰ってきた地図を二つ折りにしてセンターコンソールのボックスへ入れてから、ピックアップトラックのエンジンを始動させる。

教えてもらったレストランで、少しでも美味しい料理を腹に詰めたらモーテルへの戻る途中にあるコンビニエンス・ストアへ立ち寄って寝酒を購入し、早めにベッドに潜り込んで就寝することにする。

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