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目の前のテーブルには、マガジンを抜いたBCM GUNFIGHTER 1911モデル拳銃と3発の45ACP弾薬を装填した10連マガジンに、10発の45ACP弾薬を詰め込んだ10連マガジン1本を置いてスタートのブザーが鳴るのをイヤーマフラーを装着してスタンディングの態勢で待っている。
イヤーマフラーを装着した状態では、ブザー音が聞こえないように感じるかもしれないが、イヤーマフラー自体は耳から聞こえる音を完全にシャットアウトしてしまうわけではなく、周囲の音は充分に聞き取ることができる。
それでは、何故にイヤーマフラーを装着するのかと言えば大きく響き渡る発砲音を直接、内耳に届いてしまうとケースによっては聴覚障害を引き起こすので、大きな発砲音を直に内耳へ伝えるのではなくイヤーマフラーをワン・クッションにして音の刺激を和らげているのに加えて、弾丸がマズルから射出されてから生ずる衝撃波から内耳を保護するために着用している。
特に、今回の競技会場は店舗のインドアレンジで行われるので、直ぐ近くを壁で取り囲まれているから野外で発砲するのとは違って、発砲音が壁で反射してくる分も加わってくるので聞こえる発砲音は相当大きくなって耳に伝わることになる。
隣で待機している対戦相手は、40代前半くらいの白人男性で少々肥満気味だが外見上は、非常に落ち着いて見えるので結構手強い相手になるかもしれない。なお、その対戦相手が使用する拳銃はスプリングフィールド・アーモリー社の1911DSプロディジー拳銃を持って来ている。
1911DSプロディジー拳銃は、名称にこそ1911となっているが、作動機構が俺の使っているBCM GUNFIGHTER 1911モデル拳銃と同じ造りになっているだけで、使用する口径は45ACP弾薬ではなく9×19ミリメートル弾薬となり、マガジンは複列弾倉となって、俺のBCM GUNFIGHTER 1911モデル拳銃に使用するスタンダードなマガジンよりも倍近くの弾薬を装填することができる。
ちなみに、1911の後に表記されている「DS」は複列弾倉を意味するダブル・スタックの頭文字で、本来ならば複列弾倉を使用する1911系の拳銃の総称としてアメリカでは2011と呼ばれるのが一般的だが、スターム・ルガー社では自社の製品に対して自信の表れなのか敢えて2011ではなく1911DSとしているようだ。
インドアレンジ内にスタートのブザーが響くと、俺と対戦相手は一斉にテーブルの前へ移動して互いに使用する拳銃と3発のみ装弾されているマガジンを手に取ると、グリップ底部のマガジン挿入口へマガジンを叩き込み、利き手とは反対のサポートハンドでスライドの上部から覆い包むようにして握り、スライドを後方へ勢い良く引いてマガジン最上部の弾薬をチャンバーへ送り込むのと同時に、ハンマーを起して発砲準備を整えるのだが、イヤーマフラーを装着していてもスライドを後方に引いた時には「ガシャッ」という作動音と、スライドからサポートハンドを離してスライドが前進する時には「ジャッキッ」という音が聞こえるのだが、俺も比較的素早くスライドを操作していたにも関わらず、スライドが前進する時の「ジャッキッ」という音が対戦相手の方が心持ち早く聞こえた気がした。
使用する拳銃のグリップを利き手で握り、その利き手を包み込むようにサポートハンドが巻き付いた状態でターゲットであるボーリングピンにマズルを向けてトリガーを引き絞る。
俺より早く対戦相手の方がトリガーを引いたようだが、対戦相手の1911DSプロディジー拳銃はハンマーが倒れると発砲音を響かせるどころか「カチンッ」という金属音しか鳴らないず、マズル前方から発射炎が吹き出すこともなく、スライドも後退しない。
対戦相手も、発砲音がすると思っていたところに金属音しか鳴らないので茫然自失とでも言ったら良いのだろうか、すっかり動きが止まっている。
程なくして我に返った対戦相手の男性は、チャンバーに装填された弾薬が不発弾と判断して改めてサポートハンドでスライドを掴んで後方へ引くと、本来ならばエジェクション・ポートから不発となった弾薬が弾き出されるはずが、エジェクション・ポートからは何も排出されずにスライドだけが前進する。
対戦相手の男性は首を傾げながら、1911DSプロディジー拳銃のトリガーを引き絞ると今度は発砲音が鳴り響き、マズルから9ミリメートルの弾丸がボーリングピンへ目掛けて飛び出して行った。
恐らく、対戦相手の男性は1911DSプロディジー拳銃にマガジンを叩き込んでからスライドを引く時に、緊張感による焦りなのか或いは手のひらに想像以上の汗をかいて手元が滑ってスライドを完全に後方へ引き切っていなかったために、ブリーチフェイスがマガジン最上部にある弾薬のヘッド部を押し出すことなく前進して閉鎖したので、チャンバーに弾薬が装填されていない状態で単に空撃ちをしたということなのだろう。
ただし、対戦相手に不運なアクシデントが発生したからと言って、俺は何もせずに眺めていたわけではなく、対戦相手が1本目のボーリングピンを倒した時点で、既に3本目のボーリングピンを倒し終えてマガジン交換を始めている。
対戦相手が3本目のボーリングピンを倒し終えた頃には、俺は最後のゴールド・ボーリングピンへ狙いを定めてトリガーを引き絞っている。
俺の初戦は、対戦相手のケアレスミスによって勝利することになり、今回のボーリングピン・マッチの参加者総数からすれば、俺が決勝にまで勝ち進むためには4回の試合を熟さなければならず、それも単に試合を行うだけはなく対戦相手よりも早くゴールド・ボーリングピンを倒して勝利を掴まなければならない。
結局、俺は順当に勝ち進むことができて決勝まで駒を進めることになった。それだけでなく、初戦から準決勝までを全て2本を先取して相手に1本も取られることなくパーフェクトな試合運びで勝利を重ねていた。
ただし、そこで気を良くしてしまったのはマズかったかもしれない。ある意味で余裕を持ち過ぎて慢心したせいであろうか、決勝の最初のステージで3本目のボーリングピンを倒すまでは順調に試合を進めていたが、マガジン交換を行った際に2本目のマガジンをBCM GUNFIGHTER 1911モデル拳銃へ挿入したが浅くなってしまったのか、マガジンストップがマガジンの孔にきちんとエンゲージしなかったため、4本目のボーリングピンを撃ち倒した瞬間にBCM GUNFIGHTER 1911モデル拳銃からマガジンが脱落してしまう失態を演じてしまった。
決勝の対戦相手は、やはり決勝に残るだけあって射撃スキルが高くこともあり、俺が発砲による衝撃でマガジンを脱落するような凡ミスを犯してしまえば、相手には絶好のチャンスとなって俺より先にゴールド・ボーリングピンを倒されてしまい、その後のステージでは互角な試合運びとなったのだが、最初のステージの躓きが影響して結局2位という成績に終わってしまった。
口惜しさがないと言えば嘘になり、例えローカルな射撃競技会であったとしても負けてしまえば自分自身に腹が立つ。しかし、射撃競技会へ参加しているのは、単に実践に近い状態で自らの射撃スキルを上げるだけではなく、ある程度の射撃スキルを身に着けたことで気付かぬうちに自分自身の気持ちの中に慢心というのが居座ってしまい。その弱いメンタル部分が、自らが持っている能力を最大限に引き出せなくなってしまう要因となるので、改めて自分自身と向き合う絶好の機会になるので、テキサス州で開催されるメジャーな射撃競技会に参加する前に地元のローカル射撃競技会への参加は正解だったと言える。
また、自らのメンタル面で反省すべき点があったのは残念だが、ボーリングピン・マッチで実際にBCM GUNFIGHTER 1911モデル拳銃を発砲している間、些細な部分も含めて不具合が一切発生しなかったのは嬉しい収穫でもある。
準優勝な小さなトロフィーを貰って自宅に帰り、心地よい疲労と共に空腹感を感じていたが、ボーリングピン・マッチで使用したBCM GUNFIGHTER 1911モデル拳銃のメンテナンスを優先して、自宅のテーブルで念入りにメンテナンスを施してからBCM GUNFIGHTER 1911モデル拳銃を専用のナイロン製バックに仕舞う。
それから自宅の鍵と財布を持って、近くのレストランへ行き夕食を摂り終えると帰宅する途中でコンビニエンス・ストアに立ち寄りウィスキーの小瓶1本を購入して帰る。
自宅に着いてから、タンブラーグラスに冷蔵庫からアイスキューブを取り出してタンブラーグラスに入れ、そこに購入してきたウィスキーを注ぎボーリングピン・マッチ準優勝の祝杯を挙げる。
明日の朝食を摂り終えたなら、テキサスへ向けて移動を開始するので購入したウィスキーの小瓶を飲み干したところで、パジャマに着替えてベッドに潜り込むと心地よい疲労感のためか気付かぬうちに眠りに落ちて熟睡していた。
翌朝、爽快な気分で目覚めることができた。俺にしては珍しくウィスキーの小瓶1本を一晩で開けてしまったので、ベッドに潜り込んだ際には目覚めた時にアルコールが残っているのではないかと思っていたが、身体中にアルコールが残っているような感じは全くしない。
テキサス州での射撃競技会に参加するのに必要な荷物は昨日のうちに纏めているので、それらの荷物を自家用車である中古のピックアップトラックに積み込んで、いくつか予約したモーテルを目指して出発する。
デルタ・フォースの本部があるフォートブラックは、ノースカロライナ州にありテキサス州までは相当な距離があるので車の移動では2~3日は掛かってしまう。中古のピックアップトラックが途中で故障して動かなくなるような事態にはならないと思うが、無理な長距離運転をしてしまえば身体を疲れさせ肝心の射撃競技会にベストの体調で望めなくなるので、行程の途中で何か所かのモーテルを予約して休憩を取りながらテキサス州の射撃競技会場を目指すことにした。




