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デルタのスナイパー  作者: 二条路恭平


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ベッドの掛け布団に包まれながら、久しぶりに熟睡感に浸りながら目が覚めた。これまでミッションを遂行中であっても、余程の事態にならない限りは睡眠時間を確保するようにしてはいるが、大抵の場合はベッドに潜り込めるというケースは稀で、常に相手側からの襲撃を受けるかもしれないという張り詰めた緊張感のなかで仮眠程度を取ることが殆どなのだ。

特に、俺のような長距離での狙撃を専門としている者にとって身体的な休息を確保しなければ、いざ実射という時になってベストな体調でなかったが為に、ほんの些細なズレが生じるような事になれば、100メートル以内の射程であれば実質的な問題にならなかったとしても、それが5倍、10倍と射程距離ともなれば仮に角度が1度ズレてしまえば、1,000メートル先に弾丸が到達した際には予想もしないくらいに逸れて失中してしまう。

特に、今回は新たな銃器が支給されて習熟訓練を行うとなれば、ベストな体調で臨む事ができれば銃器固有の癖を的確に覚えることができる。

軍の中にも少数ながら勘違いしている者が存在するが、同じ銃器メーカーが製造する同一モデルであるなら、その同一モデルの個体が全て一緒の癖を有していると思い込んでいるもので、仮に一流と言われる有名な銃器メーカーであっても製造にあっては製造公差が予め設定されて、設定された公差の範囲内に収まった部品で銃器が組み立てられているので、同一モデルであっても各部品が稼働する箇所等は、その公差ある分だけ微妙な違いがあって近距離から狙った相手に負傷させる事だけを目的としたとすれば、目的に見合うだけの精度を有していると言えなくもないが、射程が長距離となった精密な狙撃ともなれば、過去に同一のモデルを使用した経験があっても個々の銃器には特有の癖があることを理解したうえで射撃をしなければ目的の半分も達成する事ができない。


ベッドから勢い良く起き上がった俺は、使用感の薄い洗面所へ向かうと水道の蛇口を捻り両手で流水を受け止めて洗顔し、備えられているシェービングフォームの缶から白いメレンゲ状の泡を右の掌に盛り上げると、顔の下半分に右の掌にある泡を塗布して、流しっぱなしの流水で右の掌に残った泡を洗い流してから、T字のカミソリで髭を剃る。時折、剃った髭が混じっている泡がカミソリに溜まってくるのを流水で流しながら顔中の髭を剃り終えた俺は、改めて流水を両の掌に受け止めてから顔を洗い。次いで、口の中が粘つくような感じがするので数回ウガイをしてサッパリしたところで、昨日と同じ服装で基地内の食堂施設へ向かった。

食堂では、トースト2枚にミルク1杯、それに生野菜サラダと新鮮な果実を胃に収めてから徒歩で割り当てられた居住施設へ戻り、改めて洗面所へ向かい歯を磨いて口の中が完全にサッパリとしたところで、トイレに入って排便をして腹の中もサッパリとさせた。

トイレから出た俺は、バックパックから陸軍の戦闘服を取り出して着ているポロシャツやデニムパンツを脱ぎ、取り出した陸軍の戦闘服へ着替えてから、居住施設を出て徒歩で基地の武器類管理をしているオフィスのカウンターを目指した。

カウンターの前に来た俺は、自らの所属、階級、氏名を告げると眼鏡を掛けた白人男性が奥のデスクからカウンターへ近寄って来る。

「陸軍第1特殊部隊デルタ作戦分遣隊のジョウジ・カツラギ曹長ですね」

眼鏡越しに俺を見ながら、俺が申告した所属、階級、氏名を確認した担当官は

「それじゃ、ちょっと待ってください」

と言い残して踵を返して部屋の奥へ向かう、暫くすると右手にはAK-47と思える形状のアサルトライフル銃を持ち、左手には50発の弾薬が入っている弾薬ケース1箱を持って戻って来る。

アサルトライフル銃と弾薬ケースをカウンターの上に置いた担当官が

「では、こちらの受取書にサインしてください」

と言って1枚の用紙をカウンターに上へ置いて、俺にサインを求めてくる。

俺は、カウンターの上に備え付けられているペン立てからボールペンを取り、目の前の受領書にサインをしてから受領書を担当官へ戻すと

「それじゃ、こちらのアサルトライフル銃と弾薬を持って行って構いませんよ」

受領書のサインを見ながら担当官が満足気に言う。カウンターの上のアサルトライフル銃を左手で持った俺は

「これ、ちょっと見た目が変わってますがAK-47ですか?」

と担当官に問い掛けてみる。

「いや、それは中国製の56式自動歩槍だよ。ただし、銃身には消音器を取りけられるようにフラッシュハイダー部分に加工を加えているから変わったように見えるけど」

担当官は顔に感情を表すことなく冷静に説明してくれた。

俺は頷きながら、改めて56式自動歩槍を眺めてから装着されていた30発の7.62×39ミリメートル弾を装填できるバナナ型と呼ばれる歪曲したマガジンを外した。外したマガジンは戦闘服の右尻ポケットへ突っ込み、それからカウンターに置かれている弾薬ケースを右手に持ってカウンターを後にした。

これから56式自動歩槍の習熟射撃を屋内射場で行うのだが、如何に基地内とは言え弾薬が装填されていないマガジンを装着した銃器を無暗に持ち歩くのは明らかにルール違反になる。

屋内射場へ着いた俺は、射場の管理官に56式自動歩槍の習熟射撃訓練を行う旨を告げて、射座の割り当てをして貰ってからペーパーターゲット数枚を受け取って射座へ向かう。


56式自動歩槍は、ソ連において開発・製造されたアサルトライフル銃のAK-47を1956年から中国がコピーして製造した小銃で、人民解放軍で正式採用されたほか、中国と良好な関係にある国の軍隊や武装勢力へ供与されている。

使用する弾薬は、第二次世界大戦中にソ連が小銃弾として開発した7.62×39ミリメートル弾で、ソ連が供与しているAK-47や中国が製造した56式自動歩槍を採用している共産圏の国々の軍隊や中東の武装勢力等が使用している。元々はドイツ軍が使用していた7.92×33ミリメートル弾を参考にして、アサルトライフル銃でフルオート射撃する時の反動を軽減しながら、射程距離300メートル以内での命中精度を高める為に開発された弾薬となっている。

56式自動歩槍の原型であるAK-47は、戦場における使用では多少過酷な環境下であっても作動する事から信頼性が高い小銃と認識されているが、肝心の照準システムだけは欧米のアサルトライフル銃が、ショートスコープやダットサイト等の光学照準器を使用する事をスタンダードにしているが、AK-47や56式自動歩槍では光学照準器を容易に取り付ける事ができない構造となっており、その点では旧式化した銃器という感じが否めない。


射座についた俺は右の尻ポケットに突っ込んでいたマガジンを取り出して、50発の弾薬を収納している弾薬ケースから数発の弾薬を取り出しマガジンへ装填する。30発の弾薬を装填できるマガジンだが、最初は10発を装填したところで56式自動歩槍にマガジンを装着する。

次いで、渡されていたペーパーターゲットをセットして射程距離を25メートルにしてから、56式自動歩槍を左手でグリップを握り、右手でエジェクションポートから見えるボルト先端部に取りけられているチャージングハンドを後方へ引いて、マガジン最上部にある7.62×39ミリメートル弾をチャンバーへ送り込み、エジェクションポートの後方にあるセレクターレバーを右手で操作して、暴発が起きないように安全装置を掛けておき、エジェクションポート先端部の上部に位置するリアサイトを見て射程距離を合わせてから、座り込むようなシッティングという比較的射撃姿勢が安定する状態で56式自動歩槍を構えて、右側面にあるセレクターレバーをセミオートの位置へ移動させて引き金を引き発砲する。

消音器を通した発砲音は、部屋でアクション物等をテレビで見ている際に聞こえる発砲音くらいの音量がしている。ターゲットのセンターを固定サイトで狙って発砲してみたが、4時の方向に3インチ(7.62センチメートル)くらい離れた所へ着弾した。その後、続け様に3発をターゲットのセンター目掛けて発砲してみたが、初弾と同じような所へ着弾しており着弾した纏まりを意味するグルーピングは3.5インチ(約9センチメートル)といったところである。

これが拳銃だったならば、実用性が充分あるとして満足できるのだが、アサルトライフル銃となると実用上の射程距離も拳銃よりも長くなる事を考え合わせみると、この程度の結果では褒められたものじゃない。

そもそもAK-47や今使用している56式自動歩槍は、前後サイトの距離を意味するサイトレディアスが欧米のアサルトライフル銃よりも短くなっており、基本的に正確な照準を前後に装着された銃器で行う場合にはサイトレディアスが少しでも長く取れないと正確な照準が難しいと言われている。

その後6発を発砲してみたが、幸いにも着弾の傾向が一定している事が分かった俺は前後のサイトを調整して着弾修正を施してから、空となったマガジンに10発の7.62×33ミリメートル弾を再装填して射撃訓練を継続する。

習熟射撃を再開してからの10発は、狙ったターゲットのセンター付近に着弾してグルーピングも2インチ(約5センチメートル)くらいに纏まっている。そこで、俺はターゲットの距離を100メートルへ移動させ、リアサイトも100メートルに合わせてからターゲットのセンターを狙って発砲してみる。

ターゲットの着弾跡を肉眼で、ハッキリと確認できているわけではないが、射座から見える感じでは狙点よりも下方へ着弾しているような気がする。

それから狙点を変えないで4発を続け様に発砲してから、一旦ペーパーターゲットを回収して弾痕を確認すると、ターゲットのセンターから6時方向に1インチ(2.54センチメートル)くらい下方に着弾して、横方向には3.5インチ(約9センチメートル)くらいに広がっている。ターゲットとの距離が100メートルならば、この程度の精度でヘッドショットも充分に期待できるところではあるが、現時点で射程距離が100メートル以上となってしまうとヘッドショットを成功させる自信が持てない。

少なくとも今の時点ではミッションを実行するようには、命令が下されていないのを幸いとして、より多くの実射を行って56式自動歩槍に慣れるしかない。その後、昼までに50発の弾薬を全て消費したので昼食後には武器類管理オフィスへ赴いて追加の弾薬を支給してもらう事にした。

昼食後に、武器類管理オフィスへ向かい7.62×33ミリメートル弾の追加支給を申し出ると簡単に200発分の弾薬ケースが渡された。両手に2箱ずつの弾薬ケースを持って屋内射場へ向かった俺は、マガジンに20発の弾薬を装填して射程距離100メートルで習熟訓練を再開してみると、ターゲットのセンター上下1インチ(2.54センチメートル)くらいの間隔に着弾し、横方向は2インチ(約5センチメートル)くらいのエリアに集弾するようになってきた。

この結果には充分満足できるのだが、この結果は風等の影響を受けない屋内での結果であり、実際には屋外において100メートルの射程距離で同じ様な結果でなければ実践で有効な結果は期待できないと言え、直ぐにでも屋外射場での習熟射撃を行いたい気分なのだが、今日のところは屋内射場で固定サイトを使った習熟射撃に専念して56式自動歩槍での射撃に慣れる事にした。

支給された4箱の7.62×33ミリメートル弾を2箱使用したお陰で、56式自動歩槍での射撃のコツが幾らか習得できたようで、ターゲットのセンターに1インチ(2.54センチメートル)×1インチの範囲に着弾を纏める事ができるようになってきた。

これで今日の習熟射撃訓練を終了する事にした俺は、この感覚を継続させて明日からは屋外射場を使わせて貰って56式自動歩槍の習熟を深めるられる事に期待したが、習熟射撃訓練を終了して屋内射場から出てみると思いの外、目の疲労を感じたので今夜は早目に就寝して目の疲労を回復させない事には、明日からの射撃訓練に支障を来たすかもしれない。

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