84
敵が使用している84ミリメートル無反動ライフルに装填されているのが、未だ確定的ではないにせよ懸念していたレーザー誘導弾ではないことで不安材料の1つが払拭されたのでは良かったのだが、それとは反対に隣にいるマイクの表情が徐々に険しくなってきている。
「マイク、どうかしたのか?」
と声を掛けてみる。
「そろそろ予定していたドローンが飛来してくる筈なんだが、一向に機体の陰すら見えない」
マイクは早口で答えると腰に装着している無線機のチャンネルを切り替えて
「こちら、オオスズメバチ、オオスズメバチ、アル・ウデイド空軍基地、聞こえるか?」
マイクは、どうやらマンスール逮捕作戦の前線基地となっているアル・ウデイド空軍基地を呼び出しているようだ。ちなみに、「オオスズメバチ」はマンスール逮捕作戦においての俺達を示す暗号となっている。
「予定されているドローンの件だが、機影が全く見えない一体どうなっている?」
少々苛立った声の調子でマイクがアル・ウデイド空軍基地の担当者に問い掛けている。
「何?間違いなくドローンは予定通りにアル・ウデイド空軍基地を飛び立って、後3分くらいすれば、こちらの上空に到着するだと?」
マイクの声の様子は、半ば呆れたという感じで本来ならば「遅すぎるッ」という言葉を付け加えたいのだろうが、それでも大人の反応をみせ完全に感情を爆発させることなく「遅すぎるッ」という一言だけは控えたようだ。
到着が遅過ぎるドローンに、多少なりとも苛立っているマイクは腰の無線機のチャンネルを再び俺達が使用する回線に切り替えると
「スティーブ、セルジオ、そちらからコンクリートの弾除けに潜んでいる連中を捉えられるか?」
多少なりとも苛立った感情を抑えるようにスティーブとセルジオのチームの位置から狙撃が可能か問い掛ける。
「こちらセルジオ、スティーブの話では僅かに3人の頭部が見え、ライフル銃でヘッドショットを放つのは難しいが、84ミリメートル無反動砲を構えた2人が弾除けから出る際の動きは把握できそうなので、その瞬間に合わせて射手を狙撃するのは可能だと言っている」
それを聞いたマイクが
「オーケー、それじゃ、84ミリメートル無反動ライフルについてはスティーブに任せるから、マイケル、ガルシア達は引き続きマンスールの邸宅内へ50BMG弾をぶち込んでくれッ」
スティーブとマイケルそれぞれにターゲットの指示を無線で伝えると
「ジョージも、マイケルと一緒にマンスールの邸宅内を狙ってくれ」
俺には直接口頭で指示してくる。
マイクの指示を受けた直後に、マイケルのゲパードGM6リンクスライフル銃から大きな発砲音と共に50BMG弾が、マンスールの邸宅2階中央の窓ガラスが吹き飛んだ箇所へ目掛けて射出されていく。
マイケルが放った50BMG弾の着弾音が聞こえてくる前に、俺もマイケルと同じ場所を狙ってゲパードGM6リンクスライフル銃のトリガーを引き絞る。
「ドォーンッ」という腹に響く発砲音の直後に、「ガッシャ-ンッ」とロングリコイルによってバレルとボルトが一緒に後退する作動音が鳴り響き長さ約10センチメートルの真鍮製空薬莢がエジェクションポートから勢い良く弾き出され、地面に落ちた空薬莢からは薄い硝煙が漂っている。
少しの間を置いて、マンスールの邸宅からは「ボコッ」という内壁を50BMG弾が貫通する音が2回連続して微かに聞こえてきた直後に、スティーブ達がいる方角から338ラプアマグナム弾薬を1発発砲した音が聞こえてくる。
「スティーブが84ミリメートル無反動砲を発射しようとした射手の狙撃に成功した。被弾した射手はヘッドショットを受けて頭が吹き飛んで84ミリメートル無反動砲を放り投げて死体となっている」
セルジオの声が、無線を通してでも多少興奮しているような感じで報告してくる。
その報告を受けたマイクが双眼鏡で、マンスールの邸宅左側のコンクリート製弾除けの辺りへ向けると
「確かに1人が仰向けで倒れている。それと弾除けにいる2人が慌てて飛び出してきて地面に転がっている84ミリメートル無反動ライフルを回収しようとしているぞッ」
とマイクが叫んだ直後に、再びスティーブがKIVAARIライフル銃を発砲させる。
3発目の338ラプアマグナム弾は、2発目で狙撃に成功した直後ということもあり、正確な照準が間に合わない状態でトリガーを引いたせいでガク引きとなったのか、地面に転がっている84ミリメートル無反動ライフルを回収すべく弾除けから飛び出してきた2人に命中することなく、転がっている84ミリメートル無反動ライフルの手前に着弾して砂埃を立てただけに終わった。
「2発目、狙撃失敗。チャンスを伺って狙撃を継続する」
無線を通したセルジオの声には口惜しさが滲んでいる。
セルジオの報告を聞いたマイクは、スティーブ達が狙っているマンスールの邸宅左側に向けていた双眼鏡を上空に向けて周囲を見渡し始めている。
そろそろアル・ウデイド空軍基地から飛び立ったドローンが、こちらの上空に到着する時刻となっているので、そのドローンの機影を求めて探しているのだろう。
暫く上空を双眼鏡で探していたマイクが
「あった、漸く到着したぞ」
と大きな声で叫び
「セルジオ、ガルシア、俺達から見て2時の方向、上空30メートルくらいにアル・ウデイド空軍基地から飛び立ったドローンが飛来している。こいつには、機体下部にテルミット爆弾を装着してマンスールの邸宅屋上へ投下して火災を発生させる。
これまで、マイケルとジョージの2で邸宅内へ50BMG弾を撃ち込んでもらったが、マンスールは未だに脱出しようとしていない。しかし、テルミット爆弾で火災が発生すれば流石に邸宅を脱出しないわけにはいかないから、邸宅の敷地内からヘリで脱出するところを3人のスナイパー全員で狙撃し、飛び立つヘリを墜落させる」
無線を通したマイクの説明に、セルジオとガルシアは「オーケー」と返事を返してくるが、俺を含めたスナイパーのマイケルとスティーブは依然としてマイクからターゲット変更の指示があるまで、それぞれのターゲットに向けて射撃を行うことに集中している。
マイケルが4発目の50BMG弾をマンスールの邸宅内へ送り込んだ時、マンスールの邸宅右側から複数の7.62×51ミリメートル弾薬が連続して発砲される音が聞こえてきた。
マンスールの邸宅右側には3人の男達がEVOLYS軽機関銃を構えて上空へ目掛けてフルオートで7.62ミリメートル弾を撃ちまくっている。明らかに、3人が狙っているのは飛来してきたドローンであるのは間違いがない。
上空に飛来しているドローンの機体下部には、そこそこの大きさがある物体が装備されているのが肉眼でも確認でき、現状の交戦状態を踏まえればドローンの機体下部に爆発物等を装備して襲撃のために飛来してきてるくらいの想像は容易にできる。
EVOLYS軽機関銃を発砲している3人を狙撃しようかとスコープの向きを移動させた瞬間にマイクが
「アッ」
ドローンに双眼鏡を向けたままで叫び声を上げた。
そのマイクの声に驚いて、スコープから目を離してマイクの方を見やると
「恐らく1発だと思うが、7.62ミリメートル弾がドローンのプロペラにでも命中したせいで、ドローンの飛行姿勢が乱れている」
そう言われてドローンが飛来している辺りへ視線を向けると、ドローンは機体を傾けた状態で直径3メートルくらいの円を描くように旋回している。たぶん、プロペラの1箇所にでも7.62ミリメートル弾が掠ったことでプロペラが正常に機能しないために機体制御ができなくなっているのかもしれない。
旋回を始めているドローンは、既にマンスールの邸宅敷地内に達している状態だが建物までには数メートル手前の上空を旋回している状態である。これでは、テルミット爆弾を投下しても爆薬やテルミットの粉末をどれ位の量を積載させているのか分からないが、如何にテルミットの化学反応によって高温が発生して燃焼してもマンスールの邸宅が脱出が必要になる程の火災を発生させるのか疑問ではある。
隣で双眼鏡を覗いていたマイクが双眼鏡から目を離して俺の方を見ながら
「ジョージ、ここからドローンを狙撃してもらえるか?」
と突然、俺に尋ねてくる。
「えっ?」
マイクからの突然の問い掛けに声を上げると
「このままじゃ、仮にテルミット爆弾を投下してもマンスールの邸宅までは若干離れているので、マンスールが脱出しなければならなくらいの火災にはならないだろう。お前にドローンを狙撃してもらえば、被弾したドローンは命中した衝撃で少しはマンスールの邸宅近くに落下する。そうなれば、少しでもマンスールの邸宅に近い場所でテルミットが燃焼するからマンスールの邸宅を大火事にすることができる」
マイクの真剣で冷静な説明を聞いた俺が
「分かった。少しでもマンスールの邸宅近くへ弾き飛ばせるように狙撃してみる」
そうマイクに返事を返すと、スコープをドローンが旋回状態となっている方へ向けて狙いを定める。
旋回状態のドローンは、ほぼ同じ箇所を旋回しているのでタイミングさえあわせて発砲すれば、ドローンに命中させるのは難しい話ではない。ただ、ドローンが被弾した衝撃でマンスールの邸宅近くに落下するようにするには、俺から見てドローンの機体と連結しているテルミット爆弾を搭載したユニットの右端に命中させないとマンスールの邸宅近くにドローンを弾き飛ばすことができない。
現時点で、ドローンが旋回している上空の風向きや風速等の情報が明らかとなっていない状況で、ほぼピンポイントと言える狙点へ命中させるのは難易度が相当に高いと言える。
俺はスコープを覗きながら
「マイク、風向と風速の情報が分かれば教えてくれ」
とマイクに必要としている情報を提供してくれるように伝える。
当然ながらマイクが手にしている双眼鏡は一般に市販される双眼鏡ではなく、軍で制式採用されている双眼鏡で俺がマイクにリクエストした内容は、双眼鏡の接眼レンズ部内にデジタルで表示されるようになっている。
「ドローンが旋回状態なので、風向きは微妙に変化するが概ね11時から4時の方向へ流れ、風速は毎分2メートルだ」
マイクからの情報に頷いた俺の頭では、旋回状態のドローンとの距離は概ね1マイルと判断しても良いのでスコープのエレベーションを弄る必要はなく、しかも俺が狙撃を行っている場所からでは撃ち上げ状態となるので撃ち出した弾丸は僅かに低伸するからレティル・センターで狙った位置より多少なりとも上へ着弾すると思われ、マイクから伝えられた風の情報では右方向へ流れる弾道と判断して狙点をドローンが最もマンスールの邸宅近くに来た瞬間に、機体下部のテルミット爆弾の左端にレティクル・センターを合わせれば理想的な結果が得られると判断した。
両目照準で旋回しているドローンを見詰めて、委託射撃ではなく両腕でゲパードGM6リンクスライフル銃を構えているので銃本体に極力、自分の鼓動や呼吸による上下運動の影響を少なくするよう口を半開きにして深い呼吸に心掛け、頭の中では発砲から着弾までは1.5秒くらいの遅れがあるのでタイミングを図り始めている。
トリガーに触れている左手の人差し指に、徐々に力を加えて後方へ引き始め完全にトリガーを引き切る手前で最適のタイミングを待っている。




