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チームの全員が支給された銃器に装着されいる光学照準器のゼロインと習熟射撃訓練を終了した翌日には、アクロティリ空軍基地を飛び立ったC-17グローブマスターの貨物室にある簡易座席に腰掛けていた。
目的地は、中東最大の米軍基地であり中東における各種戦略の前戦拠点とされているカタールのアル・ウデイド空軍基地を目指しており、ターゲットであるマンスールが、アル・ウデイド空軍基から11時の方角に位置するハワール諸島近くに構えた邸宅に滞在しているとの監視情報に従って移動しているところであり、既にマンスールの逮捕作戦は事実上スタートしている。
アル・ウデイド空軍基地にC-17グローブマスターが到着すると基地司令官への挨拶も慌ただしく済ませて、基地隊員が運転する高機動多用途装輪車両であるハンビィ-に乗り込み目的地へ出発する。
最も、目的地と言ってもターゲットであるマンスールの邸宅から10キロメートル離れた地点でハンヴィーから降ろされて、そこから先はマンスールの邸宅から1マイル(約1.6キロメートル)離れた所まで徒歩により移動することになっている。
マイクと共にジョージアにあるマンスールの邸宅を監視した際に、個人のハウスプロテクションとしては明らかにオーバーキルとでも言えそうなカールグスタフ84ミリメートル無反動砲を保有していたことを考慮すれば、正攻法でマンスールの邸宅内へ隠密に侵入して襲撃するというのは、あまりにも単純で成功確率が低いとしか考えられない。
少なくともマンスールの邸宅へ襲撃目的で近寄ったことに悟られることなく接近するにしても、その途中でマンスールのボディガード達に察知され84ミリメートル無反動砲等の凡そ一般民間人が所有できない武器類を駆使して、逆襲されたのでは移動手段が空からのヘリコプターを使用したり、或いは陸上からのハンヴィーを使用した場合であっても勝ち目がない。
そうなれば、84ミリメートル無反動砲の有効射程距離が成形炸薬弾で700メートル、榴弾で1,000メートルであることに着目してマンスールの邸宅から1マイル離れた距離から狙撃を行えば、84ミリメートル無反動砲等による攻撃を殊更に意識する必要はないと判断できる。ただし、可能性が全くゼロではないがマンスール側が84ミリメートル無反動砲に使用する砲弾をレーザー誘導弾で取り揃えているならば、その有効射程距離は2,500メートルとなるのでマンスールの邸宅から1マイル離れていたとしても84ミリメートル砲弾の餌食とはなってしまう。
乗り込んだハンヴィーは、アル・ウデイド空軍基地を出発して暫くの間は舗装路面ということもあり軍用車であるハンヴィーであっても、スムーズな路面に助けられて比較的乗り心地は悪くなかったのだが、マンスールの邸宅から20キロメートルくらい離れた地点からハンヴィーは舗装路面から外れて荒野を走行しだすと、途端にハンヴィーの車内は悪路の凹凸を拾って激しく揺れ始める。決して運転している隊員が粗暴な運転をしているわけではなく、軍用車両のサスペンションは高級サルーンカーに装着するのような柔らかいサスペンションを採用しておらず路面の凹凸を上手く吸収して乗り心地を優先するようにはなっていない。特に、軍用車両ならば敵からの攻撃を受けても簡単に破損することのないよう一般車両とは比べものにならない厚みのある装甲を外装にしているので、下手にサスペンションを柔らかいものを採用すれば走行性能に支障を来してしまう。
俺としてもマンスールの邸宅近くまでハンヴィーで移動する際に舗装路から外れることは最初から分かっていたことで、高級サルーン車のような乗り心地を期待しているわけではないが流石に揺れが激しく、支給されている銃器とは言えメインアームを収納しているケースが内側に発砲ウレタンのクッションがあって、外装が強化樹脂製でなければ頑丈なハンヴィーの車体にメインアームが当たって銃器本体やスコープ等に損傷がないか心配しなければならない。
如何に銃器が金属製と言っても、徹甲弾以外を弾き飛ばすくらいの強度がある車体の装甲に銃器の外装が勝てるわけもなく、当たり所が悪ければ簡単に銃器の外装が変形してしまい、アサルトライフル銃のレシーバー上部に変形が発生してしまえば内部にあるボルトが発砲によって前後に動く際に抵抗となる可能性があり、場合によっては連続射撃ができなくなってしまう事態に陥る。また、最も最悪なのはスコープを銃器本体に取り付ける際に使用するマウントパーツに変形が生じれば、ゼロインを完了したスコープを信用してターゲットを捉えたつもりで発砲しても意図した箇所に着弾しないことになり、現場で使い物にならない事態となる。
もし、そのような事態となって収納ケースやライフル銃のストックボックス内に備えている少ない工具類を使って現場で修理する羽目にでもなったらと思うと気が遠くなってしまいそうだ。
そんな事を考えているとハンヴィーが停車したので、各自が荷物を持ってハンヴィーから降車する。
最後に降車したマイクは、マンスールの逮捕作戦が完了するか或いは何等かの支障があって作戦中止となった際に、アル・ウデイド空軍基地に向かえを派遣してもらう際の呼び出し暗号をハンヴィーを運転していた基地隊員に確認している。
ここから徒歩移動とはなるが、決して平坦で歩き易いとは言えない悪路と言えども、マンスールの邸宅から1マイル手前までの距離ならば陽が高いうちに辿り着けるだろうと判断でき、マンスール側との戦闘は今日中に始まるものだと考えていた。
俺達を降ろしてからUターンして、ハンヴィーを舗装路へ向かって走り出すのを見送った俺達は、バックパックの上に仕舞っていた無線機一式を取り出すと咽頭マイクを装着して無線連絡が可能な状態としてからバックパックを背負い、メインアームが収納されている強化樹脂製ケースを手に持って歩き始める。
荒野を歩き始めて2キロメートルも歩いただろうか、歩を止めた6人全員の表情が一斉に険しくなる。
目の前ある砂漠地帯の表面には、数日前に発生した強風によるものなのか表面の砂が飛ばされたことで所々に点々と自然の石とは明らかに違う黒点が見て取れる。
その光景を目にした全員の頭の中には、共通の答えが浮かんでいた。
「マンスール側が仕掛けた地雷だ」
果たして、どの位の規模で何個の地雷を仕掛けたのだろう?
この地雷が仕掛けられたエリアの地雷を避けながら進むには、通常の徒歩より3倍以上の時間を要するのは間違いなく、どんなに順調に進めたとしても予定ポイントに到着するのは早くても日没後の深夜になるのは間違いない。
マイクが
「ここから縦列状態になって地雷エリアを抜けるが、先頭は30分交代で行うことにする」
と全員に声を掛ける。
「俺が、地雷エリアを抜けるまで先頭を続けても構いませんよ」
チームで最も若いマイケルがマイクに提案してくる。
「無茶言うな、この地雷エリアが何処まであるのか分からんし、日没前までに地雷エリアを抜けられるのかさえ分からん以上、1人に必要以上の負担を掛けるわけにはいかない」
確かに、目の前に見える光景では所々に点々と地雷の黒い上部が見えているが、目に見えている所だけに地雷が仕掛けられているとは限らず、先頭の人間は黒く見える以外の箇所にも注意して小さな1歩を踏み出す必要がり、陽が未だある内は良いとしても日没が迫り明るさが徐々に失われてくれば、先頭を行く人間の目には相当の疲労が蓄積されるのは直ぐに分かる。
マイケルの教育係も兼ねているガルシアも
「マイケル、このチームのリーダーはマイクなんだ。マイクの指示に従って30分交代で先頭の役を熟すことを考えろよ。特に、お前はスナイパーなんだ。幾らチームで一番若いと言っても、必要以上に目を酷使すれば肝心の狙撃を行う時に、目が疲れて正しい照準に支障を来たすことになるぞ」
そう言ってマイケルを窘める。
自分の提案が受け入れらないことで不満気な表情を見せていたマイケルだが、相棒であるガルシアからの言葉を受けて渋々と従う姿勢を見せる。
縦列の先頭は、明るさがあり比較的視覚の疲労を覚えないうちはスナイパーである3人が担うこととなり、最初は俺が先頭を担当することになった。
実際に先頭を歩いてみると、地雷が仕掛けられているのは概ね上部が表面に露出して黒点が見える所のようだが、如何せん地雷が仕掛けられている箇所はランダムな状態でばら蒔かれているので、真っ直ぐに進むことができない。
最初の30分が経過して先頭を交代するが、進めた距離は直線距離にして20メートルも進めていない。
先頭を歩く極度の緊張から解放されて額や蟀谷から汗が滴り落ちるが、その汗を拭う暇もなく先頭を交代するわけだが、これが結構厄介なことで2人で周囲を確認して立ち位置を入れ替えるのに、気が緩んでバランスを崩せば地雷を踏みつける可能性が高く、仮に地雷を踏みつければチーム全員が起爆する地雷の餌食となってしまう。
そんな調子で可成り進行スピードを削がれながら前進して、縦列の先頭役を2回目を熟してマイクが2回目の先頭となる直前で地雷エリアを脱出するのに成功する。
マンスール側も地雷の設置に何日掛かったのか分からないが、地雷が仕掛けられたエリアの幅は凡そ200メートルといった所だろう。
太陽は、だいぶ西へ傾き日没も近くなってきたせいか周囲は相当暗くなってきいる。6人全員は、地雷エリアを無事に脱出したことで極度の緊張から解放され心身の疲労を感じ始めた頃、再びマイクの表情が曇ったと思った瞬間
「スティーブ、気を付けろ。お前の近くに毒蛇がいるぞ」
比較的大きな声でマイクがスティーブに警告する。
スティーブを含めた5人が、スティーブの前方に視線を向けると前方の大きな岩陰から体長1.5メートルくらいありそうなグリーンがかった体色の蛇が鎌首を擡げている。
「恐らく、この辺りに生息するミドリジャララカという毒蛇だ。アメリカ本国にも生息している毒蛇で、こいつに噛まれて結構な死人が出ているから気を付けろよ」
マイクが続けて全員に説明する。
俺も本国で聞いたことがあるが、この毒蛇は夜行性で陽が暮れてから獲物を求めて徘徊するので、夜間は結構な攻撃的な状態となっており不用意に近寄ると獲物と判断されて噛まれてしまい。牙から毒を注入されて腎不全等を発症して死ぬことになる。




