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開発中の新弾薬を使って日本人と思われる男の狙撃を成功させ、何事も問題なく横須賀の海軍基地に到着すると、休む暇もなしに横須賀基地の司令官室から呼び出しがあった。

俺は、白いポロシャツの上にベージュ色のブルゾンと履き慣らしたブルーのデニムパンツの装いのままで、白い海軍の制服に身を固め比較的痩せた体形をしている司令官の前で起立の姿勢をとっていると

「3日前、佐世保の海軍基地が何者かのドローンによって攻撃を受けM939トラックが破壊された。CIA等の捜査によると日本に潜入している中国の特殊工作員によるものと断定しているのだが、今回のドローンによる破壊工作が佐世保基地に停泊している海軍の艦船を標的にしている可能性が高いため、日本国内において展開させている特殊部隊の隊員も佐世保基地へ投入して厳重警戒態勢を敷く事になった。ついては、新弾薬のテストも兼ねた狙撃ミッションを終了したばかりの君にも、これから佐世保海軍基地へ赴いてもらい警戒態勢のミッションに従事してもらう事になった」

デスクに座ったままの司令官は、老眼鏡を鼻眼鏡にして手元の書類を見ながら命令してきた。

「それは、私が所属している部隊からの命令なのでありますでしょうか?」

俺は、米陸軍の所属で第1特殊部隊デルタ作戦分遣隊の人間で、海軍から直接的に命令を受ける謂れはない事から、佐世保海軍基地の司令官というよりも司令官の後方の壁に掲げられているシンボルマークへ視線を向けた姿勢で質問してみた。

「これは当然、海軍所属である私が命令しているのではなく、君が所属するデルタ作戦分遣隊の上官からの命令を伝えているものだと思って貰いたい」

司令官は鼻眼鏡を外して視線を俺に向けて、然も当然といった表情で答えてくる。

「はっ、それであれば了解しました」

俺は、その場で敬礼をして司令官に返答する。

「それでは、これから部下が君を車で離陸準備をして待機しているC-2輸送機まで送るので、この部屋を出たならば階下にある総務のカウンターへ声を掛けたまえ。以上だ、下がってよろしい」

司令官は椅子に腰掛けたまま俺に顔を向けると軽く敬礼する。

「ジョウジ・カツラギ曹長、退室します」

俺は敬礼の姿勢から起立した姿勢となって司令官へ伝えると司令官室を退室し、階下の総務カウンターへ赴く。

佐世保基地総務課の担当官は俺の姿を見るなり

「持っているライフル銃が収納されているギターケースは、こちらから返却するので、ここで預かります。因みに、ミッション遂行の際に何発使用しましたか?」

俺は、その担当官へカウンター越しにギターケースを渡しながら

「使用したのは1発だ」

俺が簡潔に答えると

「それじゃ、返却書類も私が君に替わって記載しておく。さあ、外でジープが待っているから君は、そのジープに乗って行きたまえ」

担当官は、そう俺に言って預かっていたバックパックをカウンター越しに渡してくる。

「それじゃ、ここで失礼します」

俺は担当官に敬礼をしてからバックパックを受け取って建物の外へ出る。夕方近くで太陽が西の空へ傾いているものの未だ充分に明るさがあり、屋外に出た俺が目の前にエンジンを掛けてアイドリング状態のジープの後方へバックパックを放り込んで助手席に乗り込むが眩しくてサングラスが必要なくらいだ。

それをサングラスを掛けて運転席で見ていた海軍の兵士は、何も語らずにジープを発進させC-2輸送機へ向かった。


米国の航空機製造メーカーであるグラマン社が開発した双発プロペラ機のC-2輸送機、通称グレイハウンドは、海軍において陸上から洋上の航空母艦への補給物資を輸送する事を主たる目的として艦上輸送機として運用している。


ジープで送迎されている俺がC-2輸送機に到着した時点では、双発のプロペラをアイドリング状態で回転させた状態で、物資搬入用の後部ローディングハッチを開けていた。

C-2輸送機の近くで停車したジープから降りた俺は、ジープの後部に置いたバックパックを提げてC-2輸送機の後部へ向かって歩き出し、空いている後部のローディングハッチから機体へ乗り込む。

俺が乗り込んだのは、貨物室という事になるが俺一人だけが乗っているものと想像していたのだが、貨物室の両側に据え付けられている折り畳み式の簡易座席には海軍の戦闘服を着用している人間10名程が、既に座席に腰掛けていた。俺が、C-2輸送機に乗り込むと座席に腰掛けていた全員が一斉に俺の方へ視線を向け、俺の服装を見ると一様に驚きの表情となるが、それも一瞬で直ぐに何事も無かったような表情に変わると隣同士で雑談を交わしている。

俺は、一番手前の座席位置へ行くと手に提げていたバックパックを機体の床に置いてから、折り畳まれた座面を倒してから腰掛けてシートベルトを装着する。すると、そのタイミングに合わせたかのようにC-2輸送機の後部ローディングハッチがウィーンという鈍い音を立てながら、ハッチが上昇して閉じると貨物室が少し薄暗くなる。

民間航空機の座席とは違うので機体側面のドア部分にしか窓は無く、後部ローディングハッチを閉じたC-2輸送機が、低速で誘導路からメイン滑走路へ移動しているのは聞こえる音や揺れた感じで漠然と判断するしかない。

メイン滑走路に移動したC-2輸送機は一旦停止する。たぶん、横須賀基地の管制官からの離陸許可を待っているのだろう。暫くすると貨物室内に双発プロペラのエンジン音が大きく響き、プロペラの回転速度を上げてきたかと思うと、C-2輸送機の機体は急発進でもしたかのように前進する。今ではもう慣れっこになってしまったが、横方向からのGが徐々に強くなってくると、突然フワリとした浮遊感と共にC-2輸送機の機体が持ち上がり、C-2輸送機は秋の夕日が沈み始める空へ向かって上昇していく。

上昇していたC-2輸送機が水平飛行へ移行した頃に、隣の席にいた黒人の兵士が

「俺はアーサー上等兵。あんた、休暇中に召集させられたのか?」

アーサー上等兵と名乗った男が、再び俺の服装をジロジロと見ながら聞いてきた。

「俺はジョウジ曹長だ。デルタ作戦分遣隊の所属で、別のミッションが終了して横須賀基地へ戻ってきたところ、直ぐに佐世保基地でのミッションを与えられ、このC-2輸送機で移動しているんだ」

アーサー上等兵が驚きの表情を見せながら

「へぇ、あんたデルタ・フォースなんだ。デルタ・フォースじゃ、作戦に従事するのにオープン・クローズ(私服)でも良いのかい?」

興味津々といった表情で俺に質問してくる。

「デルタ・フォースで従事する作戦にも色々とあるので、必ずしもミッションに従事する際に戦闘服を着用するとは限らないんだよ」

俺は半ば苦笑いを浮かべながらアーサー上等兵に答えてやると

「ふーん」

感心したような表情をしていたアーサー上等兵だったが、俺の反対隣りに座っている仲間の兵隊から声を掛けられて別の雑談を始めたので、少しでも休息を取りたいと思った俺は、胸の前で両腕を組んで目を閉じていた。

C-2輸送機がエアポケットに入る事もなく安定して飛行してくれたお陰で、俺は半覚醒状態で暫くウトウトしていれたが、頭の何処かでC-2輸送機が徐々に高度を下げ始めているのを感じると、閉じていた目を開いて右側にある機体側面にあるドアの窓を通して外の様子を見ると上空は太陽がすっかり沈んで暗くなっていた。そこへ貨物室内のスピーカーから機長のアナウンスがあり

「あと5分で、当機は着陸態勢に入る」

と告げてくる。民間航空機とは違って丁寧な説明をしないだけで、シートベルトを外しているようなら不必要な事故となる前にシートベルトを装着しろという意味がこもっているのだ。

暫くするとドンっという下から突き上げるような音と共にC-2輸送機は佐世保基地の滑走路に着地すると、ブレーキを掛けたようでシートベルトをしていても身体全体が前方へ向かって引っ張られるようになるが、C-2輸送機が滑走路を走行するスピードが少しずつ緩くなってくると、低速走行で誘導路の方へ向かって走行する。

未だプロペラの回転を止めていないものの、機体自体の走行が停止したC-2輸送機の後部からウイーンという作動音が聞こえて、後部ローディングゲートのハッチが開き始める。

夕闇の中で見え辛いけれどもハッチの先端部が、アスファルトの上に接触したのを確認した俺は、シートベルトを外して座席から立ち上がり、座面を元に戻して下に置いていたバックパックを持ち上げて背負い、開いたハッチの緩い下り坂を歩いてC-2輸送機の外へ出ていくと、若々しい表情をした新兵と思われる白人男性が

「ジョウジ・カツラギ曹長でありますか?」

と敬礼をしながら緊張したような仕草で尋ねてきた。

「ああ、そうだが」

俺は少し怪訝そうに答えると新兵らしき男性は

「それでは、こちらのジープにお乗りください」

と言って目の前のジープへ右腕を伸ばして誘導している。俺は、示されたジープへ視線を向けると、目の前にいる若者とは別の男性が海軍の戦闘服を着て運転席に座っている。

それを見た俺は、バックパックを背負ったままでジープの荷台へ飛び乗って、荷台の上に座った。それを見ていた新兵と思われる若者が

「曹長は助手席でなくとも大丈夫でありますか?」

未だ緊張したような表情で尋ねてくる。

「ああ、俺は構わんよ。助手席には君が座ると良い」

そう答えてやると

「ありがとうございます」

新兵と思われる若者が嬉しそうな表情を見せて、ジープの助手席に座りシートベルトを掛けると、ジープはC-2輸送機から離れて基地内に見えている3階建ての建物へ向かって走り出した。

建物の前でジープが停車すると、助手席に座っていた新兵と思われる若者が俺の方へ顔を向けて

「3階の司令官室で、司令官がお待ちになっております」

再び敬礼をしながら言ってくる。

俺はバックパックを背負ったままでジープから飛び降りると、2人に向かって敬礼をしながら

「ありがとう」

一言礼を言って建物の中へ徒歩で向かう。階段を使って3階へ赴き、司令官室の前で背負っているバックパックを床に降ろし、右手で司令官室のドアをノックする。

すると室内からは

「入ってよろしい」

という司令官の声が聞こえたので俺はドアを開けて

「ジョウジ曹長、入ります」

大きな声で、言ってから司令官室へ入った。ドアを閉めて、その場で直立の姿勢でいる俺をデスクに腰掛けている比較的小太りな体型の黒人司令官が

「横須賀でのミッションを終了したばかりで、お疲れのところご苦労だった。まあ、そこへ掛けたまえ」

と笑みを浮かべた表情で、室内の来客用ソファーを指差す。

俺は司令官に敬礼してから

「ありがとうございます」

と言ってから、手に提げていたバックパックを3人掛け用のソファーの左脇へ置いてソファーに腰掛ける。

俺がソファーに腰掛けたのを見ていた司令官は、右手に1枚の用紙を持って席を立ち俺の真向かいにあるソファーへ腰掛けると

「君には、今夜から当基地に宿泊してもらい。別に命令があるまでは明日の午前中に支給するアサルトライフル銃の習熟に専念してもらう。君に従事してもらうミッションについては、この指令書を今夜中に目を通しておいてもらうが」

司令官は、そこまで話すと俺に何か質問があるかと言った表情を向けてくるので

「了解しました」

俺が、そう返事をしてソファーを立ち上がろうとすると

「そんなに急がなくても良い」

司令官が微笑んだ表情で言うと、胸のポケットから1個の鍵を取り出して応接セットのテーブルに置き

「これは、君が宿泊する施設の鍵だ。君を送ってきた二人に施設までジープで送らせるので、荷物を施設に置いたら夕食を摂って今日はゆっくりと休みたまえ」

俺はテーブルの鍵を受け取り

「ありがとうございます」

司令官に礼を言うと、司令官は頷きながら

「うむ、それでは下がってよろしい」

と柔和な声で言う。

俺は、ソファーから立ち上がり司令官に敬礼をしてからソファーの脇に置いていたバックパックを左手に持って司令官室を退出した。1階に降りた俺が、建物の出入口から外へ出てみるとジープに乗った2人が待っていた。

助手席に座っている新兵と思われる若者が建物から出てきた俺を見ると、助手席から降りて

「お待ちしておりました」

と相変わらず緊張した表情で言ってくる。

俺は左手に持ったバックパックをジープの荷台へ降ろしてから、助手席から再び荷台へ乗り込んで座ると、新兵と思われる若者が助手席に乗り込み。ジープは、建物の前から出発した。

俺を乗せたジープが向かったのは、基地内の居住エリアの一角で、俺に割り当てられた施設は横須賀基地の時と同様に小さな一戸建ての住居であった。俺はジープの荷台から跳び降り、積み込んでいたバックパックを左手に持つと宿泊施設の玄関の前へ行き、司令官から渡されていた鍵で施錠を解いて中に入り、一番手前にある安っぽい感じのソファーにバックパックを放り投げてから、再び施設から出てドアに鍵を掛ける。

ドアに施錠してから振り向いてジープへ向かうと、助手席に座っていた新兵らしき若者がジープから降りようとするので、それを手で制してから俺は直接ジープの荷台に乗り込んだ。

宿泊施設の前を出発したジープは、ものの数分で平屋で広い建物前に到着して停車すると

「こちらが、この基地の食堂施設であります」

緊張した表情の新兵らしき若者が説明してくれる。

俺は、ジープから飛び降りて

「帰りの道順は覚えたので、もう大丈夫だよ」

と2人に伝えると新兵らしき若者が

「ありがとうございます。それでは、失礼させていただきます」

そう言うと、2人は敬礼してジープは俺の目の前から出発していった。

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