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デルタのスナイパー  作者: 二条路恭平


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俺とマイクは、今アクロティリ空軍基地の司令官室内で来客用のソファーに腰掛けている。

昨日までの大統領警護後方支援任務を終えて、結果的にはNATO首脳会議初日に会議に向かう大統領が搭乗していた「マリーン・ワン」への飛行タイプによる攻撃の阻止とベルギー公式訪問最終日に「ザ・ビースト」へ乗車中の催涙ガスを使用して銃撃戦を展開してきた3人のテロリストを狙撃することに成功して、大統領は催涙ガスによって一時的な目の痛みと催涙ガスを吸い込んだことにより咳き込む症状を発症した以外には、これと言った身体的な負傷を負うことなくベルギーでの公式日程を全て熟してホワイトハウスへ無事に戻って行った。

大統領を含めた要人警護を担当するシークレット・サービスとしては、一安心といったところかもしれないが、CIA等からすればベルギーを訪問中の大統領をターゲットとしたテロ攻撃を仕組んだ武装テロリスト集団を突き止めるだけではなく、そのバックグランドまでを解明すること集中しており、俺とマイクがブリュッセルでの寝床としていたビジネスホテルを引き払ってアクロティリ空軍基地へ戻り、基地司令官室のソファーに腰を下ろしたころには、2度に渡るテロ攻撃を実行したのがアルカイーダに関連しているグループであることまでを突き止めていた。

しかし、CIAが注目していたのはテロ攻撃にドローンが使用された部分で、ドローン自体が偵察や攻撃兵器として活用されているのは昨今の地域紛争でも盛んに運用されているので決して珍しいことではないのだが、大統領が乗車した「ザ・ビースト」が移動中の車列に投下された催涙グレードが使用されたことで、催涙グレネードを投下したドローンの現物や映像を入手した状況ではないのだが、俺とマイクの目撃証言や現地警護対策本部との無線通信記録から判断されるのは、アメリカで無人航空機を扱っているドローン・ボルト社が開発した38ミリメートル・催涙グレネードを10本装備したユニットであると推察した。

このユニットが開発されたのは、そもそもスポーツ会場や何等かの政治的主張を展開するために集まったデモ活動中に些細なきっかけで暴動となった際、その騒ぎを鎮静化させるために出動した警察等が武力を行使する場合に死傷者が発生するような事態となってしまえば逆に発生している暴動を過激な方向へ誘導しかねず事態の収集が困難な状態となるのを防ぐ意味で非致死性の武器として催涙グレネード等を使用することになる。

ただし、使用目的は死傷者を発生させないための非致死性であるが故に催涙グレネードを暴徒と化している集団へ発砲する場合、グレネードの発射速度を抑制しなけばならず結果としてグレネードの射程距離は短くなり、いざ暴徒化した集団に使用しても集団の先頭部には効果を発揮しても集団の中間部や後方には効果が及ばなくなるのを解決する方法として、催涙グレネードをユニット化した状態で飛行タイプのドローンに装着し、暴徒化した集団の上空へ催涙グレネードを備えたドローンを飛来させて地上からの発砲では届かないエリアへドローンから投下することで催涙ガスの効果を集団全体にカバーできるようにするため開発された経緯があり、本来は警察や軍関係の機関にしか販売されない筈の装備品が何故に武装テロリスト集団の手に渡ったのかを徹底的に調査している。

そもそも警察や軍関係以外に販売される可能性がないと言える装備品を一介の武装テロリストグループが如何なるチャンネルを駆使して入手可能としたのかを把握しておかなければ、今回は38ミリメートル催涙グレネードの使用で済んだものの将来的には40ミリメートル軍事グレネードが使用できる状態となれば、各国の政府機関においてコントールできない武装テロリスト集団に小型ミサイルを持たせるような状態が想定されるので、この機会に徹底的に調査を行って違法なグループへの販売ルートを壊滅させておく必要がある。


大統領警護のバックアップ任務が完了して、アクロティリ空軍基地に戻り司令官室へ通された俺とマイクは、直ぐにも従事していたマンスールの動向監視任務への復帰がアクロティリ空軍基地の司令官から伝えられるものと判断していたが、司令官室に入室してドアの脇に背負っていたバックパックを置いて基地司令官デスクの前で直立不動の姿勢で敬礼をしながら任務を完了した旨の報告を行うと

「任務ご苦労であった。諸君等へ与えた任務遂行のために全力を尽くしてくれたことに感謝する」

デスクの皮張りチェアーに腰掛けた基地司令官が右手で軽く敬礼しながら笑顔を見せて話し、少し間を取ってから

「そこで諸君等の新たなミッションだが、もう暫くすればメールで本国から届くので、私のコンピュータにメールが届くまでソファーに腰掛けて休みたまえ」

そう言って右手で来客用のソファーを示す。

俺とマイクは再び基地司令官に敬礼して

「ありがとうございます。それでは、お言葉に甘えてソファーに掛けさせてもらいます」

と言ってから2人でソファーに腰を下ろす。

「うむ」

と一言口にした基地司令官は、デスクの上に置かれている書類に目を移す。

暫くの間、司令官室には沈黙が訪れ隣でソファーに腰掛けているマイクは頻りに手持無沙汰な表情を浮かべて落ち着きがなく天井を見上げながら

「こんな風に大人しくしてるのは苦手だ、いっそのことマンスールの動向監視任務に復帰しろと言われたほうが気楽だ」

小さな声で他人事を呟いている。

その時、基地司令官のデスクに置かれているデスクトップパソコンから「ピン」という音が聞こえてきた。

手にした書類から目を離してデスクトップパソコンの画面に視線を移した基地司令官は、右手に持った書類をデスクの脇に置くと右手でマウスを操作している。

「今、本国から諸君等の新たなミッションが送られてきた」

そう言って、頻りにデスクトップパソコンのキーボードを使って何事かを入力すると

「だいぶ待たせてしまったが、諸君等への指令書をプリントアウトしている」

そう言いてから、再び手元をキーボードからマウスに移して画面操作をしていから

「詳細はプリントアウトした指令書を読んでもらうが、諸君等の新たなミッションはマンスールの逮捕任務になった」

皮張りの椅子に腰掛けたまま、両肘を椅子の肘掛に突いて画面を見ながら基地司令官が言う。

基地司令官が「逮捕任務」とは言うものの、俺達は警察官ではないので指定された人物を生きたまま拘束するわけではなく、相手の生死は問題とされないというよりも早い話が暗殺して死体の状態で拘束しろという意味になる。

恐らく、ブリュッセルで発生した2度に渡る大統領へのテロ攻撃は武装テロリスト集団が実行犯だとしても、その背後にマンスールが絡んでいることが判明したのだろう。そうなれば、アメリカとしても2度も大統領を狙ったことが判明すれば相手がレッドラインを超えてきた以上、相当の報復措置を行使しないわけにはいかない。

更に基地司令官が続けて

「今回の新たなミッションについては、諸君等のほかに4人のデルタ・フォース・オペレーターが加わり6人のチームでマンスールの逮捕作戦を遂行してもらう。4人の仲間とは当基地で合流してもらうので、諸君等は当基地で待機して他のメンバーとの合流に備えてもらいたい」

基地司令官は、そう言うとデスクの上にある電話の受話器を取り上げると内線電話のボタンを押して

「私だ。本国からの命令で本日よりデルタ・フォースのマイク曹長とジョウジ曹長が最低でも2日間、当基地に滞在するので2人の部屋とベッドを手配してくれたまえ」

基地司令官は用件を伝え終えると、一旦受話器を戻してから再び受話器を取り上げて内線番号をプッシュする。

「ああ、私だが本日よりデルタ・フォースのマイク曹長とジョウジ曹長2名が当基地にミッション遂行のために滞在することになった。ついては、2名の射撃訓練用の弾薬支給があった場合には当基地での在庫の範囲で適宜支給するように、以上だ」

そう言って受話器を電話機に戻してから

「今、諸君等も聞いた通りだ。他のデルタ・オペレーターが当基地に集結するまでの間、諸君等は当基地に滞在してもらう。この後、この部屋を出たならば総務のカウンターへ赴いて手続きを行い部屋に案内してもらいたまえ。それと、当基地に滞在中の訓練等で使用する弾薬等についても装備品係に連絡をしているので、係のカウンターで必要な手続きをした上で支給してもらって欲しい。私からは以上だが何か質問は?」

基地司令官から必要最小限の説明を受けたので、後は渡される指令書に目を通してみなければ特段に質問するようなこともないと思ったが

「1つ伺いたいことがあります」

マイクは右手を挙げて基地司令官に質問を行おうとする。

「何かね?」

皮張りの椅子に腰掛けた状態の基地司令官が穏やかに顔をマイクに向ける

「ブリュッセルで発生した大統領へのテロ攻撃に際して、マンスールが武装テロリストグループに準備してやった装備品についての情報が入りましたら教えていただきたいと思います」

比較的神妙な表情でマイクが基地司令官へ質問と言うよりも要望を口にした。

「それは、これから諸君等が従事するミッションの遂行に必要なのかね?」

基地司令官は、穏やかな表情を崩すことなくマイクに問い掛ける。

「はい、これからマンスールの逮捕作戦を遂行するために相手が武器や装備品の

調達能力を把握しておきたいと思いますので」

真剣な表情を浮かべて基地司令官の顔を見ながらマイクが説明する。

そのマイクの答えを聞いた基地司令官は

「分かった。それでは、本国に伝えて情報が入手できたら紙ベースとなるが君に情報を伝えよう」

笑みを浮かべながら司令官が言うと

「それでは、マイク曹長、ジョウジ曹長とも両名下がってよし」

そう言って椅子に腰掛けたまま軽く敬礼する。

俺とマイクは、基地司令官へ敬礼して

「それでは失礼します」

そう基地司令官へ伝えてドアの脇に置いたバックパックを持って司令官室を退出し、総務のカウンターへ向かう。

総務のカウンターに到着すると、数分前に基地司令官から電話で指示されているので対応は早く、カウンターの上に書類を置いた担当者が

「先程、基地司令官から2人の滞在を伺いましたので書類に必要事項を記入していただきますが、宿泊日数については最低でも2日間と伺いましたので『2日』と記載してください」

そう説明すると俺とマイクにボールペンを渡し、カウンターの下から鍵を2個取り出してカウンターの上に置く。

担当者から寄こされた書類に必要事項の記入を終えて書類を担当者に渡すと

「内容に間違いはないようです。部屋は2人部屋になりますが、鍵はそれぞれ1個ずつ渡しますので紛失しないよう管理してください」

俺とマイクが1つずつ鍵を手に取ると、担当者がカウンターの上にアクロティリ空軍基地の平面図を広げて総務のカウンターから割り当てた部屋と食堂の位置を教えてくれる。

渡された部屋の鍵をズボンのサイドポケットに仕舞ってからバックパックを再び背負って寝床の部屋へ向かう。今の時間は、昼前ということもあり殆どの隊員は訓練等に出払っているので建物内は静かで廊下で擦れ違う人間もいない。

割り当てられた部屋の前に到着し、俺がズボンのサイドポケットから鍵を取り出してドアの鍵を開錠する。

部屋に入って、それぞれが使用するベッドの脇に背負っていたバックパックを置くと

「やっぱり、マンスールの暗殺を行うことになったなぁ」

元々、マンスールの動向監視任務を受けた時から何れはマンスールの暗殺命令を受けるものだと思っていたが、マイクも同じように感じていたのだろう。しかし、改めて暗殺命令を受けたところで特段の感情が湧いてくるわけではなく、動向監視任務の際に目撃した個人の自衛用としてはオーバーキルと呼べそうな武器類を準備しているマンスールの暗殺任務で死ぬことなく遂行完了とすることを考えていた。

「先ずは、食堂へ行って昼飯を食うぞぉジョージ」

俺の思考を打ち破るようにマイクが叫ぶと1人で部屋を出て行こうとするので

「マイク、部屋の鍵はちゃんと持ったのか?まさか早速無くしてないだろうなぁ?」

とマイクの後から声を掛けてやる。

「大丈夫、左胸のポケットに入れてある」

そうマイクが言って上着の左胸ポケットを左手で軽く叩いてみせる。

「それに、俺だって子供じゃないんだ。俺が鍵を無くしたことないだろう?」

幾らか自慢そうに言うマイクだが、少なくとも俺が知っているだけで2箇所の基地で与えられた部屋の鍵を紛失している筈だ。

「そんな事を言って、少なくとも2箇所の基地で鍵を紛失しているだろう。あの鍵はどうした?」

俺がマイクに問い掛けると

「ああ、あの鍵は紛失したわけじゃなくバックパックの底にあったんだ。だが、どちらの基地の部屋の鍵かが分からんので、そのままバックパックの底に入れたままになっているよ」

その答えを聞いた俺は、流石に続ける言葉を失った。

「それに、あの鍵をバックパックの底に入れてから1度も敵が発砲した弾が掠りもしないから、あの鍵は俺にとってラッキーアイテムかもしれん」

マイクは、そう言うと1人で納得しているように頷いて見せる。

呆れて物も言えないが、確かに生死を掛けた仕事をしていると何かに縋りつきたい思いがあるのか、或いは信じる者は救われるというのを実践しているのか、いずれにせよ半ば迷信めいた事をして自らを落ち着かせている部分がないとは言えない。

俺には心当たりがないが、もしかしたら他の人間が見れば俺にもマイクのような部分があるのかもしれない。実際にはスナイパーとしての役割を担っていれば、確実にターゲットへ着弾させるのは理論的なアプローチが必要となってくるのだが、最終的にライフル銃を発砲するのに必要なアクションは最も不確定な要素の塊である人間の人差し指である以上、心の何処かに迷いや不安があればトリガーを引く時に簿妙な力が作用してターゲットを外す可能性がないとは言えない。

あくまでも使用する銃器類は道具であって、それを扱う人間が実弾を使用した数多くの訓練や銃器に対する正しい知識を持って扱わなければ必要とされる結果を導き出すことはできない。

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