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デルタのスナイパー  作者: 二条路恭平


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10倍の卓上ルーペを覗きながら細かな作業に集中している傍らで、不可解な微笑みを浮かべた長髪の白人男性が

「あと3日しかねぇんだから、手際良く作業を終えて殺っちまおうぜぇ」

そう言って恍惚の表情を浮かべている。

「今は、この組み立て作業に集中しているんだから静かにして貰えないか?どうしても黙っていられないなら、直ぐに部屋から出て欲しいんだが?」

卓上ルーペを覗いたまま作業を続けている神経質そうな顔をした別の白人男性が比較的大人しく長髪の白人男性に注意する。

卓上ルーペを覗きながら作業をしている白人男性は、市街地等で暴動が発生した際に警察関係が催涙ガス等を噴射させるために使用する非致死性38ミリメートルのグレネード・ランチャー10発分の弾体カバーを取り外して改造作業を慎重に行っているところで、その作業を何度ともなく邪魔をしてくる仲間の長髪白人に対して徐々に怒りが沸き起こり始めていた。

武装テロリストグループ内で人選したチーム編成で、NATO首脳会議に参加するアメリカ大統領をターゲットにした暗殺作戦を確実に成功させるため、スポンサーであり西側軍需産業への投資によって太いコネクションを有しているマンスール氏からの支援によって得られている数々の武器類を入手しているが、それらに効果的な改造を施して充分な成果を得られるようにしなければ目的とする要人殺害を達成することはでない。

本来ならば、非致死性38ミリメートルのグレネード・ランチャーよりも軍事用の40ミリメートル・グレネード・ランチャーを使用する方が効果的と一時的には考えたが、今回ターゲットとしているアメリカ大統領となると移動手段には長距離ではジェット旅客機である「エアフォース・ワン」、中・近距離移動用のヘリコプターである「マリーン・ワン」、そして陸上移動用の「ザ・ビースト」となるが、このブリュッセルでは「ザ・ビースト」で移動中のアメリカ大統領を狙うとなれば、仮に40ミリメートル・グレネード・ランチャーをドローンを使用して上空から投下して「ザ・ビースト」の近くで起爆させたとしても、一般車両を大破させるようにはならず精々車体の一部分に損傷を与えるくらいで、アメリカ大統領を暗殺するという目的を達成するというのは叶わず、良くて擦過傷や打撲傷を与える程度にしかならない。

それならば、非致死性38ミリメートルのグレネード・ランチャーを10発近くアメリカ大統領の移動車列へ投下して催涙ガスを充満させれば、移動中の車列を一時的に停止させるだけではなく、アメリカ大統領がバックアップ用の「ザ・ビースト」に乗り換えることになれば、一瞬であってもアメリカ大統領は乗車していた「ザ・ビースト」から車外に降りてバックアップ用の「ザ・ビースト」に乗り換えるとなれば、如何に多くの警護がアメリカ大統領の盾になったとしても生身を晒している限りは、アメリカ大統領を射殺するチャンスが生まれることになる。

そのチャンスを作るために少しでも催涙ガスが広範囲に拡散するようグレネード・ランチャーに細工を施す作業を行っているというのに、目の前にいる長髪の味方ときたら作業を手伝うわけでもなく、作業を始めた時点から手こそ出してこないが邪魔することしかしない。。

しかも、最初に顔を合わせた際の会話ではテロを行う理由が、これといった確固たる信念や思想があってというわけではなく単に人を殺すことで性的興奮を覚えるので己の性的欲求を満たすためという理由だけでテログループに加わっているというではないか、そんな手合いと行動を共にしなければならないのでは癇に障るし、少しでも邪魔やドジを踏もうものなら一番に殺してやりたいと思わぬわけではない。

ほんの少し前に、ちゃんと忠告したにも関わらず軽口を叩くのを一向に止めようとはしない長髪の男に対して、流石に我慢も限界に達して卓上ルーペから視線を外すと「いい加減にしろよッ」と怒気を含んだ声で睨みつけてやる。

その殺意を帯びた視線を向けられた長髪の男は急に愛想笑いを浮かべると

「そんなに怒るなよ、俺は少しでも早く人を殺したくて股間が疼いているだけで、アンタの邪魔をする気はねぇんだよ」

そう言うと、そそくさと部屋を出て行こうとするので

「分かっているだろうが、くれぐれも外で余計な真似をしてドジを踏むようなことだけはするなよ」

部屋のドアを閉めようとする男の背中に注意を促すよう声を掛けるが、相手は何も言わずにドアを閉めて部屋を出て行った。


ベルギー公式訪問初日を迎えた朝、俺の元に現地警護対策本部から1つの装備品が寝床としているビジネスホテルに送らて来ており、朝食等を済ませて部屋の鍵を持って俺とマイクがビジネスホテルのフロントへ行ってみると部屋の鍵を受け取ったフロント係が

「昨夜遅くにジョウジ様へお荷物が届いておりますが、この場でお渡ししてもよろしいでしょうか?」

と俺に声を掛けてくる。

「その預けられた荷物の送り主は誰?」

俺が不審そうな表情を浮かべてフロント係に問い掛けると

「現地警護対策本部とだけ記載されておりますが」

メモを片手にフロント係が答えてくる。

事前に現地警護対策本部の担当者から連絡はなかったが

「分かった。その荷物を受け取るよ」

俺がフロント係に答えると、フロント係はカウンターの後ろに立て掛けている長さ1メートルくらいの黒いナイロン製の細長いソフトケースを抱えてカウンターに置き

「それでは、こちらがお預かりしている荷物になります。受取書にサインを」

そうフロント係は言ってカウンターに受取書とボールペンを俺に向けて差し出してくる。

差し出された受取書にサインをして、カウンターに置かれた黒いナイロン製のソフトケースを手にすると思いのほか結構な重さがあり、ソフトケースの外側から見た感じでは何やら金属製の細長い棒状のような物が収納されているが分かる。

隣にいるマイクも不思議そうな顔をして

「何が入っている?クリスマスには早過ぎるからサンタの贈り物じゃねぇだろうが」

相変わらずの軽口を叩くが、マイクの目にも現地警護対策本部の名を騙った危険物ではないのが直感的に分かったのかもしれない。

比較的長い付き合いのマイクだが、普段は陽気な性格で周囲を和ませるために軽口を叩いているが、本当に危険が迫ってきているような状況では普段の陽気な表情は消え失せて軽口を口にするような事はない。

俺は、受け取ったソフトケースを持ってフロントのカウンターから少し離れた場所へ移動してから、ソフトケースのファスナーを開けてみる。

開いたソフトケースの中には、黒っぽい色をしたカーボンファイバー製のスライド式トライポッドであった。しかも、トライポッドの頭頂部分にはSCAR-H TPRライフル銃のハンドガードを挟み込んで固定できるアタッチメントが装着されている。

これは警察関係の特殊部隊でスナイパーが人質籠城事件等で出動した際、狙撃ライフル銃を長時間に渡って射撃姿勢を保持した状態でいる場合に少しでもスナイパーへの負担軽減として導入された装備品で、スナイパーに貸与している狙撃用ライフル銃の重量は優に10キログラム近くとなり如何に身体を鍛えていたとしても半日以上も10キログラム近くの重量物で射撃姿勢を保持した場合、スナイパーへの肉体的負担は可成りのものとなり肉体的疲労が継続的に蓄積された場合には訪れた狙撃チャンスにライフル銃を構えている腕等に震えが生じてしまい的確な照準に支障を来たし兼ねない。

それに比べれば、カメラを固定するようなトライポッドを使用してライフル銃を保持しておけば、スナイパーへの肉体的負担は大幅に軽減されるだけはなく肉体のみでライフル銃を構えている場合に比べて、スナイパー自身の身体から発せられる鼓動や呼吸によって銃口が僅かに上下動するのも極力控えられるので正確な狙撃を行うためには都合が良い。

昨日までは、NATO首脳会議であったためにNATO加盟国の特殊部隊等に所属しているスナイパーを数多く配置することができたが、NATO首脳会議が終了してアメリカ大統領のみがベルギーの公式訪問となれば、アメリカ大統領の警護に従事できるのはアメリカ側に加えてベルギーの軍と警察関係だけと限れた人員で対応しなければならないので、スナイパーへの負担軽減のために追加で支給されたのだろう。

通常の実践訓練で30キログラム近くの重量物を携行している俺からすれば、追加支給となったトライポッドは大した荷物とはならないが、監視任務の担当となっている12階建てビルの屋上まではマイクがトライポッドを収納したソフトケースを持って行ってくれる。

持ち場の屋上へ到着した俺達は、早速支給されたトライポッドをソフトケースから出すとソフトケースは無くさぬよう屋上の転落防止用の柵に結び付けてから、トライポッドの脚を広げてからトライポッドの脚の根元近くにあるスライドして長さを変えるためのストッパーを外して脚を伸ばす。

3本の脚をそれぞれ伸ばして、脚の長さを調整して俺が安定してSCAR-H TPRライフル銃を構えられるような高さにして三脚のストッパーをロックして固定する。

次いで、SCAR-H TPRライフル銃を収納しているソフトケースからSCAR-H TPRライフル銃を取り出すと7.62×51ミリメートルNATO弾薬が装填されているマガジンを装着せずにライフル銃本体のハンドガード部をトライポッドの頭頂部に装着されているアタッチメントへ挟み込むが、SCAR-H TPRライフル銃の前後が変に傾くことのないよう位置に注意しながら、SCAR-H TPRライフル銃のハンドガード部を挟み込むアタッチメントのネジを締め上げてSCAR-H TPRライフル銃を固定する。

アタッチメントのネジが途中で緩んでSCAR-H TPRライフル銃がトライポッドから外れることのないよう充分に締め付けてから、スコープの対物レンズと接眼レンズを保護しているキャップを跳ね上げてから左手でグリップを握り、右手はトライポッドの頭頂部のアタッチメント下にあるストッパーレバーに触れるように添える。

右手を添えたレバーをアンロック状態にするとアタッチメントが動ける状態となって固定しているライフル銃を上下左右に位置を変えることができ、その状態でレバーをロック状態にすればライフル銃は任意の位置で固定されることになっている。

そのため、ライフル銃が水平状態の場合での射撃姿勢は上半身が45度くらいお辞儀をした状態となり、間違っても直立した状態の高さにはしない。トライポッドにライフル銃を固定した状態で撃ち下ろしを行う場合には、当然のことながら銃口が下を向くのと共にバットストック側が上昇するので、トライポッドを射手が直立状態の高さに調整してしまうと撃ち下ろしの状態で狙撃を行う際に、利き腕側の付け根にバッドストックが位置されなくなってしまうので正しくライフル銃を保持できなくなり、結果として正しい位置でスコープが覗けなくなって正確な照準ができなくなってしまう。

故に、現在いるビルの屋上から足元付近に向けて狙撃をする必要に迫られれば、SCAR-H TPRライフル銃を即座にトライポッドから外して構えなければ狙撃を行うことはでない。

トライポッドにSCAR-H TPRライフル銃を装着した状態でスコープを覗いてみても特段の不具合がないことを確認したところで、7.62×51ミリメートルNATO弾薬が装填されているマガジンをSCAR-H TPRライフル銃へ装着する。

それから、右手の人差し指と中指をチャージング・ハンドのレバーに掛けて後方へ引くと、ボルトが後方へ引っ張られてカシャッという金属音と共にエジェクション・ポート・カーバーが倒れる。

チャージング・ハンドを一杯まで後方へ引くとエジェクション・ポートから装着したマガジンの最上部にある7.62×51ミリメートルNATO弾薬が見えるので、そこでチャージング・ハンドのレバーから右手の人差し指と中指を離すとリコイルバッファーチューブ内にある圧縮されたスプリングが元の状態に戻る力によってボルトが前進する際に、ガッシャンという音を発しながらボルトフェイスがマガジン最上段にある7.62×51ミリメートルNATO弾薬のヘッド部分に衝突して、マガジンから7.62×51ミリメートル弾薬を前方へ押し出し、チャンバーへ7.62×51ミリメートルNATO弾薬を送り込みチャンバー部を閉鎖して発砲準備が整うことになるので、セレクターレバーを「SEFE」の位置へ移動させて暴発が発生しないようにする。

俺がトライポッドをソフトケースから取り出した時点から双眼鏡で監視を始めいたマイクが、俺がSCAR-H TPRライフル銃のセレクターレバーを「SEFE」の位置へ移動させた直後に

「おい、スコープでも構わないが2時の方向にあるビルの間になる路地に不審者らしき長髪の男が見える。しかも、近くにいる女性の口を左手で塞いで路地の奥へ入って行こうとしているぞ」

叫ぶように言うマイクの声に、反応したのは俺だけではなく咽頭マイクによって無線で傍受していた現地警護対策本部の担当者が

「今の連絡は、早速ベルギー警察へ連絡した数人の警察官を現場へ急行させるのが、警察官が間に合わずに緊急事態となった場合は狙撃しても構わんが大統領が君達の居る道路を通過するのは30分後なので、それまでなら緊急発砲は問題ない」

その担当者からの連絡を聞いたマイクが

「30分って、あの状態は3分のしないうちに緊急事態になるぞ。しかし、不審者は女性を引き摺って路地の奥へ移動したので、ここからは死角になって不審者を狙撃するのは不可能だ」

そうマイクが無線連絡を入れると、足元を走る道路の歩道でアメリカ大統領の車列を見ようとして集まっている民間人の整理を行っていた制服警察官数人がマイクが連絡した現場へ向けて走り始めている。

ビルの路地に到着した制服警察官達が一斉に路地の奥へ消えて行くが、暫くすると無線に緊迫した状況が伝わってきた。

「路地の奥に刃物で切り付けられたと思われる女性が倒れているのを発見。至急、救急車を要請する」

その無線の音声が聞こえるのと同時に、路地の奥へ飛び込んだ制服警察官のうち数人が戻ってきて現場保護のために集まってきた野次馬の排除を始めているのが見える。

その無線を聞きながら双眼鏡を覗いていたマイクが

「野郎、出てきた。路地から更に30メートル右手側の交差点付近にいる」

それを聞いた俺も双眼鏡でマイクが言っていた地点を見ると、長髪姿の白人男性が歯を剥き出しにして異様な笑顔を浮かべながら左右を見渡しているのを発見した。

隣にいるマイクが

「ジョージ、アイツを狙撃できるか?」

と聴いてくる。

「いや、この距離で狙撃をしたら7.62×51ミリメートルNATO弾は簡単に男を貫通して後方にいる人間が被弾してしまう」

双眼鏡を構えたまま俺が答えると

「やっぱり、そうか」

マイクも双眼鏡を構えたままの姿勢で悔しそうに言う。

ブリュッセル市民に対して外出規制でも行われているのならば、俺も即座にSCAR-H TPRライフル銃を構えて長髪の白人男性の狙撃を試みるのだが、一目でも目の前の道路を通るアメリカ大統領を見ようとしている市民が大勢集まっている状況では、ターゲットとなる長髪の白人男性の後に一般市民がいない状況を見出すのは不可能に近く、この状況でSCAR-H TPRライフル銃を発砲すれば確実にターゲットを狙撃できるのは間違いないが、同時にターゲットを貫通した7.62ミリメートル弾は確実に後方にいる一般市民に命中して無関係の人間を巻き込んでしまう。

マイクからの連絡を無線によって聞きつけた現地警護対策本部の担当者からベルギー警察へ伝わり、長髪の白人男性が現れた交差点付近の制服警察官数人が人混みを掻き分けながら近付くが、制服警察官達がポイントに到着する頃には肝心の長髪白人男性の姿は人混みに紛れて見えなくなってしまっていた。

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