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デルタのスナイパー  作者: 二条路恭平


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アメリカ大統領をターゲットにしていたドローンの空中爆発によって大統領の暗殺を目的としたテロ攻撃は失敗したことになったが、事の真相を知らない人間からすればNATO首脳会議開催のためにNATO加盟国の要人がブリュッセルに参集してきている状況のなか市内上空で突然発生した大きな空中爆発は一時的にせよ混乱を招いていた。

俺とマイクが監視任務のために居るビルの屋上から見ても、狙撃した事で空中爆発を起こして四散したドローンの大半の部品等が落下したスモウ川の周辺は、直接要人警護に従事していないベルギー警察のパトロールカーが青いフラッシュ・ライトを点滅させて、緊急サイレンを響かせながら集まって来ているし、その近くにはNATO首脳会議を報道取材するためにブリュッセルへ赴いた各国の取材陣と思われる数十台の車両も集結しているのが手に取るように分かる。

屋上で監視任務を継続している俺とマイクは、携帯電話こそ所持しているがテレビやラジオ等は当然のことながら持って来ていないので、恐らく今頃はベルギー国内のテレビやラジオでは各国要人が集まっているブリュッセル市内で突然発生した空中爆発について、要人警護のために出動していたベルギー警察のヘリコプターが事故を起こしたとか、或いは武装テロリスト集団等がミサイルによってベルギー警察のヘリコプターが撃墜された等と有らん限りの憶測を垂れ流しているだろうし、いち早く真相が伝えられている要人のなかにはNATO首脳会議の取材で集まったマスコミの取材に対して「ベルギーを訪れた我々を歓迎する意味で祝砲を上げたんじゃないか」等と軽口を叩いて、それを聞いたマスコミに出演している良識派と称する評論家達が「不謹慎な発言だ」と息巻いているのかもしれない。


そんなスモウ川周辺での喧噪を他所にNATO首脳会議へ参加している各国要人の警護を行うための監視任務が継続されているなかで、初日の会議が終了して各国の要人達は各々の宿泊場所へ移動を始め、アメリカ大統領をターゲットとしたテロ未遂事件となったドローンの空中爆発を除けば、特段の問題もなく初日のNATO首脳会議は無事に終了すると思われた夕暮れが迫り始めた時間帯に、再びブリュッセル市内に大きな爆発音が響き渡った。

爆発音が聞こえたのは、俺とマイクが監視任務を行っている屋上ビルの前を走っている道路を基準にすれば10時の方向で距離にすれば200メートルは離れていそうなエリアである。

周囲には多くのビルが林立している状況で、それらのビルが死角となって双眼鏡を使っても俺達が視認することができないが、右耳に差し込んだイヤフォンからは状況を連絡し合っている無線の遣り取りが矢継ぎ早に行われており、それらを総合して判断するとルーマニア大統領が乗車していた専用車を警護していたベルギー警察の車両1台が爆発してルーマニア大統領の警護任務のために乗車していた警察官2名が死亡したようだ。

本日の俺とマイクが従事している監視任務の終了時刻が迫っている状況で、現地警護対策本部内は混乱を来たしており、任務終了時刻の3分前になって現地警護対策本部の担当者から

「君達の交代時間については充分に把握しているが、ブリュッセル市内で2度の爆発事件が発生したことで、ベルギー警察では現場検証等へ派遣する人員が不足している状態となり、人員確保が完了するまで暫くは監視任務を継続しながら待機してくれ」

と連絡が入ってくる。

NATO首脳会議の開催期間中は、NATO加盟国の協力を得て各国の特殊部隊からスナイパー要員が集められた上で首脳会議時間を含めた前後の時間帯に、会議会場周辺各所へ集められたスナイパー要員が配置されるフォーメーションがとられ、夜間についてはベルギー軍とベルギー警察の人間が交代要員として配置される体制を組んでいたのだが、2度の爆発事件が発生したことで現場検証や周辺の交通整理を行うために大部分の警察官が出動したため予定していた人員が足りなくなり、急遽非番の警察官を招集しているがスナイパー要員を配置した箇所への交代要員を配置するには相当の時間を要する状況に陥り、それまでは配置場所で監視任務に従事しているスナイパー達には時間をオーバーして監視任務を継続してもらうことになったらしい。

その情報を聞いたマイクは、下唇を突き出して両肩を竦めたポーズをして不満はあるが仕方ないという意思を表すが、その行為が無線で現地警護対策本部に伝わることはないので、恐らくマイクの仕草が問題にされることはない。

ただ、俺が困惑したのは予定された監視任務が日没前で太陽に照されて充分な光量が確保できる状態という状態を想定してSCAR-H TPRライフル銃の光学照準器を暗視スコープから通常のスコープに取り換えているので、このまま監視任務を継続して日没後となった場合に狙撃の必要性が発生したとしても光量が不足して通常のスコープではターゲットを確実に捉えることができない。

その懸念点を現地警護対策本部の担当者へ伝えてみると

「その点は、充分に承知している。現状で配置されているスナイパー要員でスコープと暗視カメラをタンデムで装着しているのは、30パーセントくらいしかいないので狙撃の必要が発生した際には、スコープと暗視カメラをタンデムで装備しているスナイパーへ依頼するので、監視任務だけだが交代要員が到着するまでは監視を継続して欲しい」

担当者から切迫した声の調子で監視任務の継続を懇願される。

要人をターゲットにしている武装テロリスト集団は、こちらの事情とは関係なく自分達の都合でテロ攻撃を仕掛けてくるのは分かっているので、決して交代時間等に拘るつもりは毛頭ないが現実的に目の前で実行されるテロ攻撃に対抗しようとしても必要な道具が揃わないことで指を咥えて見ているだけというのは俺の性に合わないし、歯痒くて仕方がない。

結局、ベルギー軍からの交代要員が俺達の居るビルの屋上へ到着したのは予定されている16時から3時間も経過した19時過ぎになってからであった。

幸いにも3時間の間に、狙撃が必要となるような事態が発生することはなかったが、その3時間の間に2度目の爆発事件に関して詳細な状況が徐々に明らかになってきたのを把握することはできた。

ベルギー警察の現場検証で押収された様々な物証等から警護車両の爆破は、地上のドローン所謂ラジコンカーにC4プラスチック爆薬が仕込まれて、そのラジコンカーが警護車両の下に侵入した際、警護車両のエキゾースト・パイプから発せられる熱にラジコンカーに装備されたサーモセンサーが反応して起爆装置を作動させて爆発に至ったようである。

また、爆発現場付近の防犯カメラ映像を収集して確認したところでは、爆発現場付近でラジコンカーをコントロールしていたような不審人物は確認されていないのと、現場からカメラの部品も押収されていた状況を総合的に考えればカメラ映像とGPS機能を使用した遠隔操作でラジコンカーをコントロールして犯行が行われたということになると想像する。

しかし、この事実は現地警護対策本部を相当に悩ませることにもなった。

何故ならば、遠隔操作のラジコンカーが使用されたのであればビルの屋上からの狙撃は現実的に選択し難い、スコープを使用してラジコンカーをターゲットとして捉えるのは目標物が小さく、しかも高速で移動しているので容易ではない事に加えて初弾でラジコンカーに命中弾を送り込むのができなければ、外れた弾丸はアスファルト路面に当たって跳弾となり、周囲に二次的被害を与える可能性が高く場合によっては跳弾となった弾丸で要人が死傷するケースがないとは言えない。

そこで、現地警護対策本部ではラジコンをコントロールするために使用される27メガヘルツ、40メガヘルツ、72メガヘルツ、2.4ギガヘルツの4種類の周波数に対応するジャミング電波装置をNATO首脳会議に出席する要人達が通行するルート上へ配置して、攻撃を仕掛けてくるラジコンカーをコントロール不能状態にすることにした。

その対応策を聞いた俺も、現地警護対策本部が選択した対応策は至極当然な方法に思える。

仮に、運良く初弾でラジコンカーの狙撃に成功したとしてもテロ集団が使用していえるラジコンカーの強度では7.62ミリメートルNATO弾が命中すれば簡単に貫通してアスファルト路面に命中して跳弾となるか、或いは「マリーン・ワン」を狙ったドローンのケースと同じように積載しているC4プラスチック爆薬に命中して爆発が発生すると思われるので状況的には、ラジコンカーに仕込まれている仕掛けによって起爆するのと同じ結果招くことなり周囲に与える危険性が変わらなくなってしまう。

それならば、ジャミング電波を使ってラジコンカーをコントロール不能の状態にした上でラジコンカー自体の電源スイッチをオフにしてしまえば、例えコントロール電波を発信されたとしてもラジコンカーが反応しない状態にしたうえでラジコンカーを処理した方が遥かに安全と言える。

現地警護対策本部の対応により、武装テロリスト集団が行うであろう攻撃手段の一つを封じたことになりはしたが、ここまでの攻撃手段を準備してきている武装テロリスト集団の姿勢を考えれば、これで全てが安全になったと判断するのは余りにも早計と言える。

案の定、その日の夜には武装手リスト集団が2度目の爆発事件について犯行声明が出されたことがニュースで報道され、NATO加盟国の西側首脳の対するテロ攻撃を徹底的に実行して所期の目的を必ず達成すると表明している。


翌朝、寝床としているビジネスホテルを出て監視任務を行うビルの屋上へ向かうと、ビルの裏口通用ゲートに常駐している警備員から現地警護対策本部からの預かり物と言われて小包が手渡される。

渡された小包は、片手で持てるくらいの大きさだが、見た目以上に重さがあるようで可成りズッシリとした重みを感じる。小包の周囲を見渡してみるが不審な点は感じられず、マイクにも小包を見てもらったが怪しいところは感じられないと答えるが、不用意に小包を開けて中身を確認するのは武装手リスト集団からの爆弾である可能性も充分にあるので安易に取り扱うのは危険過ぎる。

そこで小包を開封することなくビルの屋上まで持って行き、喉に咽頭マイクを装着して無線を起動させて現地警護対策本部と通信が可能となったところで、担当者に小包の件について尋ねてみると

「その小包は、間違いなく本部から送付した物でビルの警備員に君達が来たら手渡しして欲しいと頼んだ物だ。中身は、君が使用するSCAR-H TPRライフル銃に装着できる暗視カメラになっている。君達にはNATO首脳会議での要人警護をバックアップしてもらうだけではなく。NATO首脳会議が終了した後の大統領ベルギー公式訪問までの警護バックアップとなるので、その暗視カメラをライフル銃にタンデムで装着すれば日没後の狙撃にも充分対応可能となるだろうから、新たに支給することにした」

担当者からは簡潔明瞭に説明を受けたことで、安心して小包を開封してみると、小包の中身は間違いなく赤外線暗視カメラが入っており、カメラの底面はSCAR-H TPRライフル銃の上面に備わっているピカティニー・レイルが使用できるようなパーツが予め装着されている。

因みに、ピカティニー・レイルとは、小火器用の規格・システム化された装備品の取付け台のことで、近年において増え続けている各種の光学スコープ、特殊スコープ、更にはタクティカル・ライト等を容易に小火器へ装着できるようアメリカ陸軍ピカティニー・アーセナル兵器製造所が標準化提案したものである。

それまでは小火器類に光学照準器やライト等を装着する場合には、各々独特のアタッチメントを介して小火器類へ取り付けていたが、標準規格化された取付け方法により比較的手軽に様々なアクセサリー類を装着することが可能となり、小火器類の利便性を上げる結果に繋がった。

また、現地警護対策本部から送られた赤外線暗視カメラは通常のスコープの前方に取り付けて、赤外線暗視カメラに映し出される映像を介して後部に装着したスコープで照準するので、ゼロインを済ませて暗視スコープから取り換えたスコープであってもドローンを狙撃できた結果からして、改めて試射を行わなずとも着弾位置に変化が見られないのが確認できたので、タンデムに取り付けた赤外線暗視カメラを使用してのゼロインも改めて行う必要がないと言える。

ただし、新たに支給された赤外線暗視カメラは直ぐにSCAR-H TPRライフル銃へ装着せずに一旦バックパックへ仕舞う、基本的に日没前の状況で監視任務を行うのであれば、光量が充分に確保できる現状なので赤外線暗視カメラを装着する必要性は全くなく、SCAR-H TPRライフル銃に装着している光学スコープのみで充分に事足りる状況である。


NATO首脳会議の2日目は、初日に行われた要人暗殺のテロ攻撃が嘘のように平穏な状態で時間が推移して何事も無く首脳会議が終了し、各国の要人達も各々の宿泊場所へ移動していく。

唯一、ルーマニア大統領だけが警護任務中に殉職した2人の警察官への弔意を表す意味でベルギー警察を弔問したのが予定外の行動となったが、それとてベルギー警察への移動中でもテロ攻撃を受けることなくルーマニア大統領も宿泊ホテルへ無事に戻っていった。

しかし、現地警護対策本部が急遽準備したジャミング電波の発信機によって武装テロリスト集団が準備していた爆薬を備えたドローンが起動しなかったために表面的には平穏ない1日となっただけの話で、これで武装テロリスト集団が爆破機能を有するドローンが使用できないことを悟ったのであれば、NATO首脳会議の最終日である明日に何らかの新たなオプション攻撃を仕掛けてくるのは間違いない。

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