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デルタのスナイパー  作者: 二条路恭平


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取り換えたスコープの試射を行って着弾状態を確認したとしても、今回のターゲットとなる飛翔中のドローンを捉えるには相当に難易度の高い狙撃になる。

例えるならカモ猟を行っているようなものだが、カモ猟ならば基本的にライフル銃を使用することはなくバードショットの散弾を使用してショットガンを持って行われるだろうが、仮に俺の手元にショットガンがあったとしても射程距離が100メートル以上の状況で、しかも飛行していることで徐々に遠ざかっていくドローンとの距離は刻一刻と離れていくのでは、ショットガンでの射程距離を超える可能性もあり、確実に小さな機体のドローンをヒットできるとは思えない。

これまでのミッションでも、走行中の車両を狙撃した経験はあるものの、ターゲットとなる物体の大きさ自体が最初から違い過ぎる。まして、目の前を遠ざかっていくドローンとの位置関係からすれば、俺の方が飛翔中のドローンよりも低い位置に居るので、撃ち上げとなるので弾道が低伸して取り付けてあるスコープのレティクル・センターで捉えた狙点よりも上方へ着弾するだろうし、風の状況にしても上空には風向きや風速の目安となるような物が存在しないから、隣にいるマイクが伝えてくれる情報を頼りに着弾位置をイメージする以外に方法がない。

また、飛翔中のドローンは「マリーン・ワン」を追跡しているので結構な速度で飛行しているので、レティクル・センターをドローンそのものに合わしたのでは、いざ発砲して弾丸が狙点に到達する時間が経過している間に、ドローンは移動して位置を変えるので実際に狙点を決めるには、ドローンの飛行速度を加味した将来到達予想ポイントとなる空間を定めて弾丸を発射しなければドローンをヒットさせられない。

飛翔中のドローンの僅か前方にレティクル・センターを合わせて徐々に銃口を移動させていると

「現在の風は8時から2時の方向へ秒速3メートルで流れており、ターゲットとの距離は凡そ200メートル」

レーザーレンジファインダー機能の双眼鏡を覗きながらマイクが情報を伝えてくれる。

8時から2時の方向へ風が吹いており、射程距離が200メートルならば弾道は若干右の方向へ逸れて飛翔しているドローンへ向かうので、レティクル・センターの位置を心持ちドローン寄りに修正して現地警護対策本部の担当者からの発砲合図を待っているが、左手の人差し指は未だトリガーに添えず無用な誤発砲がない状態で待機している。

恐らく、俺がSCAR-H TPRライフル銃を構えてから2分も経過していないのだろうが、スコープを覗いている俺には、途轍もない長時間を待機しているように錯覚する。

口を半開きの状態にして、呼吸動作により銃口の上下運動が可能な限り小さくなるように注意しながら、平時よりも僅かに早まっている自分の鼓動を意識するよう集中する。

そしてイヤフォンを装着している右耳に

「今だ、狙撃開始」

という現地警護対策本部の担当者から発砲指示が聞こえると同時に、俺は左手の人差し指をSCAR-H TPRライフル銃のトリガー添えて不必要に力まず引き始める。

ドォーンという大きな発砲音を響かせて7.62ミリメートルNATO弾が放たれた直後に、アッパーレシーバー内のボルトが勢い良く後退して空薬莢が薄い白煙を伴いながらエジェクション・ポートから排出され、次いで後退したボルトが前進に転じてマガジン最上部の7.62×51ミリメートルNATO弾をブリーチ・フェイスが押し出してチャンバーへ送り込む。

俺は、発砲による反動で狙点から外れたレティクル・センターを急いで初弾発砲時と同じ空間へ戻し、続け様にトリガーを引き2連射をして2発の弾丸を飛翔中のドローンへ向けて発射したが、2発の弾丸がドローンをヒットしたという手応えを感じられない。

案の定、隣で監的手をしてくれているマイクから

「恐らく、2発とも失中した。現在もドローンは飛行中」

と言われ

「風の状況に変化はあるか?」

俺は叫ぶようにマイクに問い合わせると

「風向、風速とも変化なし」

マイクが冷静に答えてくれる。

もしかしたら、風による弾道の変化を過大に見積もっているのかもしれないと判断した俺は、初弾と2発目を発砲した時よりも気持ちドローン寄りへレティクル・センターを近付けて再び2連射を行う。

ドッドォーンと響き渡る発砲音が続け様に発して、SCAR-H TPRライフル銃のエジェクション・ポートから2個の空薬莢が吐き出されてくる。

何とかドローンをヒットしてくれと心の中で願っているが、冷静さを失っていない頭の片隅では再び命中の手応えを感じていないために、発砲による反動で狙点から逸れたスコープのレティクル・センターを急いで構え直すよう身体中に命令を伝達している。

「3発目、4発目も失中した。風等には全く変化なし」

マイクが冷静に状況を教えてくれる。

「次はトレイサーを撃つので、単発にするから修正量を教えてくれ」

表情には出さないが内心では落胆しているものの、再び俺が叫ぶようにしてマイクへ依頼する。

5発目の発砲は、敢えてスコープのレティクル・センターは3発目と4発目を発砲した時と飛翔中のドローンとの位置関係を変えずに発砲してみる。

SCAR-H TPRライフル銃のマズルから撃ち出された曳光弾は、弾丸に仕込まれた可燃物が燃焼して赤い光を放ちながらドローン方向へ光の軌跡を描きながら飛んでいく。

放たれた曳光弾の軌跡を双眼鏡で追っていたマイクが

「横方向はジャストだが、上下方向は約8インチ(20.32センチメートル)上方を通過している」

それまで4発の着弾状況が把握できずに歯痒い思いをしていたマイクが、漸く監的手として的確な指示を俺に伝えられるのを安堵したような声で伝えてくる。

どうやらドローンの移動速度に対応する修正量は適格に把握できたようだが、撃ち上げによる弾道の低伸する影響を過少に見積もり過ぎていたのが原因で、ドローンの上方へ外してしまったのだろう。

マイクの修正指示を受けて、ドローンの機体が着地する際に地面と接するスキッドというパーツより若干下側の空間へレティクル・センターを合わせて再び2度連続してトリガーを引く。

再びドッドォーンという発砲音と共に2発の7.62ミリメートルNATO弾がドローン目掛けて撃ち出される。

流石に今回は確固たる根拠があるわけではないが、目の前を飛翔しているドローンをヒットしたように感じる。

SCAR-H TPRライフル銃のエジェクション・ポートから2個の空薬莢が弾き出された直後、ドローンが飛翔していたと思われる空間から、まるで落雷でもあったかのような轟音と言える爆発音が響き渡ると、所々に黒煙が交じり込んだオレンジ色の火球が上空へ舞い上がっていく。

俺が放った6発目なのか7発目なのかは分からないが、恐らく1発はドローンの機体下部に積載していたC4プラスチック爆弾に命中して爆発が起こったのだろうと推測する。

流石に俺とマイクも大きな爆発音が発生した瞬間には、両耳にかなりの音圧の爆発音が襲ってきたので思わず首を竦めたが、発砲した弾丸がドローンを捉えた結果として爆発したのを確信すると

「やったなぁ、間違いなくヒットしたぜぇ」

マイクは満面の笑顔を浮かべながら、俺に向かって右手を突き出してサムアップしてくれる。

サムアップしてくるマイクには笑顔で応えた俺は

「大統領を狙ったドローンの撃墜に成功した。ただし、ドローンに積載されていた爆薬に命中した関係で、ドローンが空中爆発を起こして飛散したドローンの部品等で怪我人が出ていないかベルギー警察に確認してもらえるか?」

そう現地警護対策本部の担当者に狙撃成功とドローンの空中爆発の影響についての連絡を入れる。

「そうか、こちらにも微かだが爆発音が聞こえたので本部内も一時騒然としたが任務遂行ご苦労だった。ベルギー警察には爆発によって飛散したドローンの部品や外れた弾丸によって負傷者がいないかを確認してもらうが、仮に負傷者がいた場合であっても、要人警護任務の一環として発生した事故として処理するので何も心配せず、引き続き監視任務を継続してくれ」

現地警護対策本部の担当者からの返答を受けて、大統領を狙ったドローンを撃墜した安堵感もそこそこに監視任務を継続する。

今にして思えば、撃墜したドローンが飛び立つ寸前で起きた小競り合いは、付近で警戒していた制服警察官達にドローンが飛び立つ際のモーター音等が聞き取れないようにするため仕組んだ芝居なのかもしれない。

偶然にも、近くのビルの屋上で監視任務に就いていた俺とマイクがモーター音に気付いて大統領に危害が及ぶ前に対応できたが、これが周囲にいた要人警護の人間に悟られることなくドローンが飛行していたら、大統領が搭乗していた機体かは別として少なくとも飛行していた2機のマリーン・ワンのうち1機は、確実にドローンによる爆弾の影響でブリュッセル市内に墜落して多くのベルギー国民を巻き込んでいたに違いなく、燃料を満載していたマリーン・ワンが墜落したとすれば撃墜されたドローンの空中爆発よりも多大な被害となっていたことだろう。

双眼鏡を使って監視任務を継続しているマイクが

「ジョージ、よくやったなぁ。流石に、デルタで1番の狙撃能力を持っているだけのことはあるよ。このウデがあれば、上空を飛んでいるカモをライフル銃でハンティングできるぞ」

そう言って俺を持ち上げてくれるが

「おいおい、単なる偶然だよ。それにマイクがスポッターとして適格に着弾修正の指示をしてくれなければドローンを撃墜できたか分からない。ただ、ライフル銃でカモをハンティングして運良く命中したら喰える部分は殆ど無くなるぞ」

俺が苦笑いしながら答えると

「そりゃ違いねぇ。折角の御馳走と思ったら、上手そうな部分が殆どミンチになって周囲に飛び散ってしまうもんなぁ」

いつも通りの調子でマイクが軽口を叩く。


NATO首脳会議は、これから開幕するが今回はアメリカ大統領をターゲットにしてテロ行為が行われたが、会議に出席する多くの要員達はブリュッセルに参集したばかりで、2日間に渡る会議日程の間に何人の要人を狙ってテロ行為が行われるのだろうか。

俺とマイクに与えられた要人警護ミッションの本番は、この一騒動を皮切りに始まったばかりなのだ。

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