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ヘリコプターの飛行高度とは言え、沖縄から横須賀までの長距離ともなれば比較的高い高度を飛んでいることもあり、地上の雰囲気とは違っているものの沖縄から徐々に北上してくるとUH-60ブラックホーク多目的ヘリコプターの機体内の空気も乾いた感じがあり、夏の空気から日本の秋本番といった雰囲気がしてくる。

横浜がある神奈川は俺が物心のつく前から中学校を卒業するまでの間、両親と暮らしていた場所であるが、久しく日本を訪れる機会がなかったのと上空からという状況もあって、一体どの辺に住んでいたのか一向に分からなかった。

そんな少しばかりの感慨に耽っていた俺に、フランク准尉がインカムを通して

「あと20分もすれば、横須賀海軍基地に到着します」

と俺に伝えてきたが、幸いにも横須賀の辺りも雲一つない快晴で秋晴れと言えそうな天気であった。俺の記憶に間違いがなければ今時分は行楽シーズンと言われて観光スポットには多くの人間が集まっていたと記憶しているが、生憎と今日は平日なので行楽に出掛ける人間は少なく、多くはそれぞれの仕事に従事して汗水を流しているのだろう。

俺の目の前にいる操縦席のフランク准尉は、横須賀基地の管制官と頻りに無線でやり取りしながら着陸態勢に入っていく。インカムを通して横須賀基地の管制官から最終的な着陸の許可が伝えられるとUH-60ブラックホーク多目的ヘリコプターが指定されたヘリポートを目指して徐々に高度を下げ始めた。

後部座席に居る俺にも白く丸い円の中心に「H」と書かれているヘリポートが見えてくると、その大きさがUH-60ブラックホーク多目的ヘリコプターの高度が下がるにつれて徐々に増してくる。

ヘリポートのアスファルト路面が間地かになったと思った瞬間、下から突き上げてくるような軽い衝撃と共にUH-60ブラックホーク多目的ヘリコプターが無事に着陸した。UH-60ブラックホーク多目的ヘリコプターの周囲にはヘルメットを着用した横須賀基地の整備兵が数人取り巻き、UH-60ブラックホーク多目的ヘリコプターの主翼ローターが回転速度を徐々に緩め始めると、数名の整備兵達は腰を屈めて機体に近寄ってくる。

俺は、着用していたインカムを外す前に着陸後の計器チェックをしているフランク准尉に礼を告げてからインカムを外すと機体に近寄っていた整備兵の1人が右側の搭乗ハッチを開けてくれるので、そこから俺はUH-60ブラックホーク多目的ヘリコプターから機体の外へ降り立つが主翼ローターが巻き上げる風はハリケーン並みの暴風となって着ているポロシャツの裾は激しくバタつき、掛けていたサングラスも飛ばされそうになる。そんな状態でも積み込んであった荷物を両手に提げて腰を屈めながら未だ回転を止めていない主翼ローターの回転エリアから離れると、屈めていた腰を普通に戻して横須賀基地の総務カウンターを目指して歩き出す。途中、主翼ローターの回転によって巻き上げられていたハリケーンのような風の影響が弱まった辺りで、両手に提げていた荷物をアスファルト路面に置いた俺は、バックパックから薄手のベージュ色をしたブルゾンを取り出して羽織るとフロントのジッパーを鳩尾の辺りまで引き上げる。デニムパンツの右前ポケットに突っ込んでいた紙封筒に入った3万円を羽織ったブルゾンの右側サイドポケットへ移し、再びアスファルト路面に置いていた荷物を両手に提げて横須賀基地総務のカウンターがある建物へ向かった。

総務カウンターの前に到着した俺が、自分の所属、階級、氏名を名乗ると事務机でデスクワークをしていた30代前半くらいと思える日本人男性が、席を立って俺の方へやって来る。左胸に付けているネームプレートを見ると現地採用スタッフである事が分かり、その男性は多少なりとも流暢な英語を喋ってきたので、俺はサングラスを外して作り笑顔を見せながら

「日本語で大丈夫ですよ」

と男性に語り掛ける。外見が日本人のように見えても米陸軍の軍人である俺を日系3世くらいに思っていた男性は驚いたような表情を見せ

「随分と上手な日本ですね」

と褒めてくるので、俺は苦笑いを浮かべながら

「幼少の頃は日本の国籍でしたので、日本語で会話されても問題ありません。逆に、細かい微妙なニュアンスで誤解を生じるよりも日本語の方が間違いないでしょうから」

男性へ告げると

「ありがとう、大変助かります」

男性は、ホッとしたように笑顔を見せながら俺の顔を見詰める。

「それでは貴方を最寄りのJR駅まで送るように指示されていましたので、これから私の車へ向かいましょうか?」

そう男性が言ってくるので

「その前に、こちらでバックパックを預かって貰えませんか?この後、用事を済ませた後は、こちらへ戻ってくるので」

俺が男性に依頼すると

「ええ、それじゃ間違いなくお預かりします」

と言って、俺がカウンター越しにバックパックを渡すと重そうに受け取った男性は、自分のデスクの後方へ俺のバックパックを置くと、デスクの引出しから大き目の付箋紙を取り出してサインペンで俺の名前を英語で記載してから、目立つようにバックパックの上に付箋紙を張り付ける。

カウンターから出てきた男性が

「それじゃ、一緒にスタッフ専用の駐車場へ行きましょう」

と俺に向かって言うと割と速足で歩いて行く。俺は、頷いてから彼の跡を追って歩き出した。建物の外に出てから5分も歩かないうちに、俺の目の前には色取り取りの日本車が停車しているスタッフ専用駐車場まで辿り着く、先導している男性は勝手知ったように駐車場エリア内へ歩を進めてブルーのSUV車の前に来ると

「これが私の愛車です。今、車のロックを開けますので、手にしている荷物は後部座席にでも置いてください」

男性が照れ笑いのような表情を俺に見せながら、運転席側ドアの取っ手に右手を掛けるとSUV車のハザードランプが1回点滅したかと思うと、鈍くゴトッという音がして車のロックが開錠した。俺はSUV車の左側へ行って後部ドアを開けてから、右手に提げていたギターケースを後部座席の上に置き、後部ドアを静かに閉めてから助手席ドアを開けて車内に乗り込む。

余程の車好きなのだろうか、そのSUV車の外観には汚れ等が1つもなく晴天の日光を浴びて反射が眩しいくらいで、車内には埃1つも落ちてなくエアコンの送風口には消臭剤を設置しているためなのか清々しい香りがしている。

俺は助手席のシートを掛けてから

「この車、土禁じゃなかったのですか?」

と運手席の男性に問い掛けるが

「いえ、大丈夫ですよ」

笑顔を見せて男性は答えると、センターコンソールのボックスからサングラスを取り出して掛けると、ブレーキペダルを踏んでステアリングの根元付近にあるエンジンスタートボタンを押すと、SUV車のエンジンは比較的大人しくアイドリングを始める。男性がセンターコンソールにあるシフトレバーをドライブレンジへシフトさせて、右脚をブレーキペダルから離すとSUV車は静かに前進する。

基地内は制限速度が時速20キロメートルなのかSUV車はユックリとした速度で正面ゲートへ向かい、出口側のゲートで一時停車をすると門番の兵士が無表情な顔で近付いてくる。

男性が運転席側のウィンドウを下げて、近寄ってきた兵士に自らの身分証明書を提示し、俺も助手席に座ったままで自分のIDカードを提示して見せる。それを確認した兵士は直ぐに笑顔になると、門番の詰め所へ手でサインを送るとSUV車の前のゲートが持ち上がったので、運転席の男性は門番の兵士に「サンキュー」と声を掛けながら下げていたウィンドウをパワーウィンドウのスイッチを作動させて運転席側の窓を締めながらSUV車を日本の国道へと合流させる。

男性の運転は、安全そのものではあったが決してスピードが遅いというわけではなく制限速度を少し上回って走行していたので、比較的スムーズに最寄りのJR駅舎前に辿り着いた。

JR駅舎前に到着した男性は、ハザードランプを点滅させてSUV車を道路脇へ寄せて停車させると

「到着しました。降りる際には気を付けてドアを開けてください」

ホッとしたような表情を浮かべながら話す。

「ありがとう」

俺を一言礼を告げて、シートベルトを外してから助手席側のサイドミラーで後方を確認してからドアを開けて降車し、次いで後部ドアを開いてギターケースを左手に持って右手で後部ドアを静かに閉め、再び男性へ礼を言ってからJR駅舎へ向かった。

JR駅舎内に入った俺は、自動発券機の前へ行って頭上の料金案内看板を見上げて見る。目的の駅までの料金を確認した俺は、ブルゾンの右ポケットに仕舞っていた紙封筒を取り出して、1万円札を抜き取ってから自動発券機を操作して切符を1枚購入する。自動発券機からは釣り銭として5千円札1枚と1,000円札3枚、それに数枚の小銭が吐き出されてきた。紙幣の方はブルゾンのポケットに仕舞えるが、小銭はブルゾンのポケットではジャラジャラと音を立てるので、仕方なしにデニムパンツの右前ポケットへ入れる事にした。最も、デニムパンツのポケットであっても少し激しい動きをすれば小銭がジャラジャラと音を立てる事になるのだが・・・。


30分くらい電車に揺られて目的の駅へ到着した俺は、電車を降りて改札口へ向かい購入した切符を改札機へ入れると、ゲートが開き改札口を通過した俺は駅舎の外へ出る。

時刻は、昼近くになっていたが食事をしてからプローン(伏せ撃ち)の姿勢で狙撃をする気にならなかった俺は、目の前のコンビニエンスストアで185ミリリットル入りの缶コーヒー1本と15枚入りの板ガムをデニムパンツの小銭で購入した。

キャンプ座間での朝食以降、水分を摂っていなかった俺は購入した缶コーヒーのプルタブを開けて冷えたコーヒーを一気に飲み干すと空き缶をコンビニエンスストアのゴミ箱へ投入して、購入した板ガムの包装用紙を開ける。

コンビニエンスストアの外へ出た俺は、店の出入口から少しばかり離れた所で一旦ギターケースをアスファルト路面に置いてから、1枚の板ガムを取り出して口へ放り込む。暫くはこれで、空腹を紛らわせる事ができる。

ガムを噛みながら、右手にギターケースを提げながら指令書にあった雑居ビルを目指して歩き出す。15分くらい歩いていると目の前に目指していた雑居ビルと思しき4階建ての建物が見えてきた。

ビルの出入口の前で、入居している案内プレートを見ると1階には不動産会社、2階から上の階にはダンス教室やヨガ教室、更にはピアノ教室にギター教室が入っているようであった。

俺は、ギターケースを提げながら雑居ビルへ入り建物の中程にあるエレベーターの前に立つと上昇のボタンを押して待つ。程なくしてエレベーターの扉が開いて乗り込もうと内部を覗くとエレベーター内は大人が3人も乗り込めば一杯となるような広さしかない。そのため、俺は持っていたギターケースを縦にして乗り込み4階のボタンを押してから、扉を閉めるボタンを押すとエレベーターの扉が閉まって上昇し始める。

4階に到着してエレベーターの扉が開き、4階の廊下に出た俺は天井部へ視線を向けて見て防犯カメラ等が設置されていない事を確認して、廊下を建物の奥へ向かって歩いて行く。建物の奥には非常階段が設置されており、その階段は上にも伸びているので屋上へ出られそうである。俺は、屋上へ繋がる階段を登る前に再度、非常階段の天井を見上げて防犯カメラ等が設置されていない事を確認してから階段を登り始めた。

屋上へ繋がる金属製のドアの前まで来た俺は、念のためにドアの上部も眺めて見るが、ドアが開けられた際に管理室等へ知らせる仕掛け等が設置されていないので、ドアの取っ手へ手を掛けてみると以外にも施錠されていなかった。

俺はドアを開けて屋上へ出てみると、足元近くに缶コーヒーの空き缶が数個置いてあり、その缶の飲み口には黒い灰が付着しており煙草の吸殻特融の匂いがする。この雑居ビルを利用する喫煙者が、煙草を吸うために屋上を利用できるという事は、この屋上は常時開放されているという事になるので俺がエクシード・ライフル銃を発砲する前後で、喫煙者が来た場合には一度発砲を中止しなければならず、俺は狙撃のみに集中していられない事を悟った。

しかし、ここで何時までもグズグズしてもいられないので意を決して屋上へ出てみると、この屋上は一面平らな造りになっているのではなく階段部分が小屋のように出っ張っており、その小屋の上に給水タンクが設置されているが分かった。

小屋の部分を仔細に観察すると、給水タンクを整備する業者等が上がるための梯子代わりに利用できる金属製の取っ手が数本設置されている。

俺は、その取っ手を使って小屋の上に登り指令書に示されていたターゲットが居住するマンションを眺めて見ると、この雑居ビルとマンションまでの間には高層の建物は見当たらなかった。そのため、狙撃に際しては予測が困難なビル風を考慮する必要がない事が分かった俺は、取り合えず安堵すると右手に持ったギターケースを降ろして蓋を開ける。

ギターケースからエクシード・ライフル銃を取り出してから、装着されているバイポットを立ててターゲット方向に向けてエクシード・ライフル銃を置き、それからギターケースから専用の消音器も取り出して、右手で消音器の根元にあるリングを回しフラッシュハイダーの挿入口を広げると、再びエクシード・ライフル銃を左手で掴み銃身先端部のフラッシュハイダーに消音器を被せてから、消音器の根元にあるリングを逆方向へ廻して締め付けて消音器を固定する。

装着した消音器にグラつきがない事を確かめた俺は、エクシード・ライフル銃を再びターゲット方向へ向けてバイポットを使って置き、見た目の状態で何度かバイポットの高さを調整する。

ある程度の調整が出来た俺は、エクシード・ライフル銃の後方で腹這いとなりプローンの姿勢を取るとスコープの倍率を3倍にして覗いて見る。指令書には、ターゲットが居住しているのは3階と記載されていたので、俺からみて左の方から右へ向けて移動しながらターゲットを探していると、左から3つ目の部屋にターゲットとなる男の顔を発見した。

俺は、そのままの姿勢でスコープの倍率を4倍に上げて、男の顔を確認してみたが指令書に載っていた顔写真の男に間違いない。しかし、ここで俺は小さな違和感を覚えた。

これまで、幾度となく長距離狙撃を行ってきた俺の感覚ではターゲットまでの直線距離が300メートルもあるようには感じられなかったのだ。どう見てもターゲットのまでの距離は200~250メートルくらいにしか思えない。そうなると、スコープのエレベーションダイヤルを調整しておかなければ、狙撃の際にターゲットへの狙点を予め下の方にしなければ命中する可能性が相当に低い事になる。

仕方がないので、デニムパンツの尻ポケットに入れていた携帯電話を取り出してメモリーされている電話番号の中からCIAのミッション担当者を選んで電話を掛けた。

電話では、人物確認等で多少の手間が掛かったがミッション担当者と直接会話が出来るようになったので、俺が疑問に感じている事を伝えるとミッション担当者から「ちょっと待ってくれ」と言ってから、暫くコンピュータのキーボードを叩く音が聞こえた後で「300メートルは表示ミスで、正しいターゲットまでの直線距離は200メートルだ」と訂正と詫びが伝えられた。俺は、一瞬怒りを覚えたが現場で狙撃を実行しようとしている段階でミッション担当者に怒りを伝えてみても何一つ解決するわけではないので、沸き上がる怒りを抑制しながら、25メートルでゼロインしたスコープで200メートルを狙う場合のスコープ修正量を直ぐに教えてくれるように伝えた。

スコープの修正量計算は、専用のアプリケーションが存在するので必要なデータを入力すれば瞬時に答えが算出される筈である。

左手で携帯電話を左耳に押し当ててイライラしながら、ミッション担当者からの答えを待っていた時に、下の方からガチャという金属扉が開く音が聞こえた。その音を聞いた俺は、瞬間的にマズいと思って下の方へ意識を集中していると100円電子ライターを着火するカチッという音が聞こえてきた。

雑居ビルにいる喫煙者が煙草を吸いに屋上へ来たのであろう。そうなると、少なくとも5分くらいは屋上にいると思われるので、エクシード・ライフル銃を発砲するわけにはいかない。俺は徐々に焦りを感じ始めていたが、そこへミッション担当者から計算結果が伝えられてきた。俺は、伝えられた計算結果を復唱する事も忘れて小声で「了解」と伝えると携帯電話を切った。

ミッション担当者からの計算結果は、想像通りに小数点以下の数値が付いているものであったが、俺は通常通りに小数点以下の答えを切り捨ててエレベーションダイヤルを回した。

下の状況を気にしつつもスコープを覗いてみるとターゲットの方もイライラしているのか、部屋の中を何度も行ったり来たりして落ち着きがない。そうしているうちに、ガチャという金属音が聞こえた後でバタンという金属扉が閉まる音が聞こえてきた。一旦俺は、エクシード・ライフル銃から離れて下の方を覗いて見ると人の姿は見当たらない。先程、俺が聞いた金属扉が閉まる音は喫煙者が煙草を吸い終えて屋上から立ち去った事を意味していると判断して、エクシード・ライフル銃の後方へ戻ろうとした瞬間、弱いながらも七時方向から吹いて来た風を頬に感じた。

その風は体感的に秒速1メートルくらいの様に感じたので、今回の射程距離であれば大きく修正を要するものではないと考えながら、改めてスコープを覗くとターゲットが窓ガラスに正面を向けて顔は階下を覗いているようであった。

俺は、急いでボルトハンドを操作して新弾薬をチャンバーへ装填するとターゲットの右胸に向けてレティクルのセンターを合わせると慎重にトリガーを引いた。すると、テレビドラマ等で銃器が発砲された際に発する程度の音量の発射音がしたのと同時に、俺の身体に反動が伝わってくる。

俺は、再びボルトハンドを操作して2発目の発砲準備を完了してからスコープを覗いてターゲットが立っていた辺りに対物レンズを向けて見ると、ターゲットが居住している部屋の窓ガラスに蜘蛛の巣状のヒビが入っているのは見えた。だが、そのヒビの位置はターゲットが立っていた場所よりも少なくとも5センチメートルくらいは右に外れている。

焦った俺は、2発目を放つべくターゲットの姿を追い求めるが肝心のターゲットが見当たらない。エクシード・ライフル銃を細かく動かしてターゲットが居る部屋中を覗いて見ると、ターゲットが床の上に仰向けで倒れているのを見付けた。

そのターゲットを注意深くスコープ越しに観察すると白かったシャツの胸の辺りに赤い血痕が見て取れる。しかも、仰向けに倒れているターゲットが少しも動こうとしない。暫くスコープ越しに観察していた俺は、ターゲットは被弾して射殺されたと判断し、エクシード・ライフル銃に安全装置を掛けると銃身に取り付けていた消音器を外す、次いでバイポットの脚を元に戻してからエクシード・ライフル銃をギターケースへ収納し、同じく消音器もギターケースに納めてからケースの蓋を閉じる。

ここへ登る時に使った取っ手に脚を掛けて屋上へ降りると、非常階段を使って4階のフロアへ赴きエレベーターを使って1階に降りる。右手にギターケースを提げた俺は、何食わぬ顔をして雑居ビルを出ると尻のポケットにある携帯電話を取り出して狙撃成功の場合に連絡を入れる事になっている相手に次々と電話をして暗号とされていた「オーデションに合格した」と伝えていった。その時になって、俺は口の中にあるガムから味がしなくなっているのを感じた。

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