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デルタのスナイパー  作者: 二条路恭平


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背負っていたバックパックを降ろして、俺とマイクは20倍の赤外線ナイト・ビジョン双眼鏡をバックパックから取り出してマンスールの邸宅の監視を開始する。ただし、俺達が今いる場所はちょうど太陽を背にした位置に居ることになるので、双眼鏡を構えた時に日光が差し込んで対物レンズが日光を反射してマンスール側に存在を知られるような心配はないのだが、ワイヤートラップの関係で数メートル前方の位置まで出ることが叶わず邸宅の奥の方が視界内に捉えらことができない。

マンスールの邸宅が建っている敷地内は、テニスコート8面分くらいは優に確保できる程の広さがあり25メートル屋外プールが完備されている。

また、敷地の周囲には取り囲むように高さ8メートルくらいのヒイラギが植えこまれている関係で、ここからなら建物の外観を概ね捉えることができるが道路からではヒイラギの樹木が邪魔となって殆ど見ることができない。

建物自体の外観は、純白の白壁となっており鉄筋コンクリート造り一部4階のある3階建ての何等変哲のない富裕層が建築しそうな邸宅といった雰囲気となっている。その建物を仔細に観察していくと、1階は中央に正面玄関があり車止めまで庇が伸びてきているため、俺が監視している丘からライフル銃等で狙撃を狙うにしても車から降車した人物の一部分くらいしか捉えられないので簡単に狙撃され難い。また、1階を含めて全ての窓は外部からの不審者が窓から侵入できないように鉄製と思われる格子が嵌め込まれているほか、これは双眼鏡から見た感じではあるが窓のガラスは1枚物ではなく複層ガラスとなっているようなので、もしかしたら外側のガラスは防弾ガラスになっているのかもしれない。

更に、ジョージアの邸宅は今回の邸宅とは造りが違って2階部分が食堂となって壁の部分が全て1枚物の大きなガラス張りとなっていたのだが、ギリシャの邸宅では3階まで全面ガラス張りという造りにはなっていない。

ヨーロッパでは武装テロリスト集団以外にも、アメリカ並みに武装した強盗団も暗躍しているのでマンスールのような富豪にとっては単にボディガードを雇用するだけはなく、ある意味では住宅自体も相当程度に要塞化しておかなければ、いつ何時に武装強盗団等の標的になって襲撃されないとも限らないのだろう。

そのような感じで建物を観察していくなかで、俺とマイクが最も気になったは屋上である。

ジョージアの邸宅でも屋上が備わっていたし、富豪が自宅で静養するために屋上で日光浴を楽しむために屋上を造ること自体は特に珍しいことではないのだが、その屋上部分にある一部4階部分の広さが3階の屋根部分の3分の1くらいの広さを有しており機械室にでもなっているような広さで、幾ら富豪と言っても個人の邸宅に機械室が必要とは思えない。

仮に、物置小屋として建設したと考えても屋上という場所では荷物を屋上まで運ぶ必要があるのでは使い勝手が良いとも思えず、しかも至る所に大きな扉が備えられているように見える。

ここからは、まるっきり俺の想像になるが4階部分は自衛のための武器庫になっているのではないだろうか?邸宅の敷地外にまで不審者の侵入を警戒するセンサー等を配置している状況から考えても、屋上に武器庫を備えていれば不審者からの襲撃を察知した際に、屋上から武器を使用して反撃を行えば不審者を殲滅するのは比較的容易いと思える。

その点について、双眼鏡でマンスールの邸宅を監視しながらマイクと議論していると突然マイクが

「ジョージ、何かモーターの回転音が聞こえてこないか?」

と小声で口走る。

確かに、少し前からモーターの回転音というよりも市販のドローンが上空を飛翔しているような音が聞こえてくる。

俺とマイクは、一旦双眼鏡から目を離して周囲の上空へ視線を巡らせると上空2時の方角から高さにして10メートルくらいに小さなドローンの機影を発見した。

上空を飛翔しているドローンは、比較的ゆっくりとした速度で9時の方向へ向かって飛んでおり暫くすれば俺達の頭上へ迫ってくる感じである。

飛翔してくるドローンにカメラ等が備えられて映像として俺とマイクが発見されてはマズいので、俺達は上空のドローンから目を逸らさずに奥の茂みの方へ移動する。

低速で接近してくるドローンが俺達の上空まで差し掛かってくると、ドローンは暫くの間ホバリングを始めて俺達の頭上から離れていかない。流石に、マイクは右腰のホルスターに差し込んでいるHK45CT拳銃を取り出すと左手でマズル先端部に取り付けられているマズル・キャップを外し始める。

外したマズル・キャップは右胸のポケットへ仕舞うと、マイクは左大腿部のサイドポケットからHK45CT拳銃用の消音器を取り出して、マズル・キャップを外したことで露出しているマズル先端部の雄ネジに消音器を捻じ込みだした。

高級住宅街で、大きな発砲音を響かせるのは流石に抵抗があるのでマイクがHK45CT拳銃に消音器を装着するのは理解できなくもないが、目の前で飛翔しているドローンをHK45CT拳銃で撃墜したとしても、その時点でマンスール側にドローンが撃墜された付近に不審者が存在するのを知らせる事になるので決して得策とは思えない。

俺は茂みの中から

「マイク、あのドローンを撃墜するのか?」

と問い掛ける。

「いや、直ぐにドローンを撃墜するために拳銃を発砲するつもりじゃないが、可能性として上空のドローンから爆発物を落下させて攻撃してくるようなら反撃しないわけにもいかないだろう?」

HK45CT拳銃に消音器を取り付け終えて、左手をスライドに覆い被せるように握ってスライドを後方へ引き、チャンバーに45ACP弾薬を装填してHK45CT拳銃を両手で構えたマイクが呟く。

確かにマイクが言う通り、俺達の上空でホバリングしているドローンから何等かの攻撃が行われたとすれば、明らかに俺達の存在がマンスール側に捕捉されて排除のために攻撃されたものと言えるだろう。ただし、ドローンから爆発物のような物を落下させてきた場合、今のようにホバリングを継続しているだろうか?

ホバリング状態のドローンならば、銃器によって撃墜するのも決して不可能ではないが、爆発物を投下後に高速で飛翔し始めた状態の小さなドローンを撃墜するのは、クレー射撃で15センチメートルの円盤型となっている標的を散弾銃で打ち抜くのとはわけが違い、まして単発の拳銃弾で狙撃するのは相当に難易度が高くなる。

クレー射撃の的や水面や地上から飛び立つ鳥をハンティングするのであれば、飛び出した状態から一定方向への飛翔となるので将来位置が想定し易く、数秒後に飛んでくるであろう空間へ向けて発砲するのは比較的容易ではあるが、飛翔状態のドローンの場合は、予測不能な方向転換等を交えた飛行状態となるので将来位置を予測するのは極め難しく、余程の偶然でも重ならい限りは初弾でドローンを撃墜できる可能性は極めて低い。

緊張した状態でホバリングをしているドローンを眺めていると、暫くホバリングしていたドローンが8時の方向へ飛行を開始してドローンが発していたモーターの回転音が徐々に小さくなっていく。

暫く俺とマイクは、飛び去ったはずのドローンが引き返してこないかを注意して聞き耳を立ててみたが、ドローンが引き返してくる気配を感じられず、安堵の溜息をついたマイクは右手の親指でHK45CT拳銃のセフティ・レバーを押し下げると起こされていたHK45CT拳銃のハンマーがカチンという音と共にハンマーが安全な位置へ戻るデコッキングの状態となる。

HK45CT拳銃がデコッキングされた状態となったのを目と耳で確認したマイクは、再び右手の親指でセフティ・レバーを跳ね上げてレバーの位置をセフティへ入れる。

この状態ならば、もしもHK45CT拳銃で銃撃戦を行わなければならなくなった場合には、セイフティ・レバーを水平方向へ移動させればトリガーを引くことでハンマーが起こされて発砲へ至るダブル・アクションで弾丸を発射できる。

その状態にしたHK45CT拳銃をマイクは右腰のホルスターへ差し込む。

俺とマイクは、再び双眼鏡を手にしてマンスールの邸宅を監視するが、先程のドローンの状態からして、俺達の存在がマンスール側に捕捉されたと内心は思っている状態で、暫くマンスールの邸宅を観察しているが一向に何らかの反応を示してくる気配がない。

半ば不思議に感じながらマンスールの邸宅を観察し続けていると、マンスールの邸宅前を通る道路の奥の方からスクーターのエンジン音が聞こえ、そのエンジン音は徐々にマンスールの邸宅に近付いてくる。俺が、そのエンジン音が聞こえる方へ双眼鏡を向けて見ると映し出されたのはデリバリーピザの出前用スクーターであった。

その出前用スクーターに乗った店員らしき若者は、マンスールの正面ゲート前に到着すると正面ゲートの柱に備え付けられている呼び出しインターフォンのスイッチを押して、俺には声までは聞こえないものの何事かをインターフォンに向かって二言ぐらい喋ると正面ゲートが電動なのか自動で開き始める。

開き切った正面ゲートから出前用スクーターに乗った若者が、マンスールの敷地内へ入っていくと正面玄関前の車止めで出前用スクーターを停車させて若者が降りると出前応スクーターの後部荷物入れから30センチメートル四方の大きさで厚さ3センチメートルの箱を1つ取り出して正面玄関へ向かっていく。

30センチメートル四方の箱を1つ持った若者が、正面玄関ドアの脇にある呼び出しブザーのボタンを押すと、程なく厳つい人相の男性が現れて若者から箱を受け取ると現金を渡している。

現金を受け取った若者は、被っていたベースボールキャップのツバを左手で掴んでベースボールキャップを持ち上げて挨拶すると、30センチメートルの箱を受け取った人相の厳つい男性は正面玄関のドアを閉める。

若者は、正面玄関前の車止めに停車させていた出前用スクーターに跨って出前用スクーターを走らせて正面ゲートへ向かい、正面ゲートを通過して道路へ出前用スクーターを乗り入れると再び電動で正面ゲートが閉まる。

その様子を双眼鏡で見ていたマイクが

「ボディガードの連中が昼飯で喰うにしては量が少なすぎると思わねぇか?」

俺に問い掛けてくる。

確かに何人のボディガードが邸宅内に居るのかは分からないが、普通に考えればマンスールの護衛としてボディガードが1人だけというのは考え難い。

これまで数多くのミッションに従事してきた経験で、何度かは富豪やギャングのボスを目にしてきた経験からしてもボディガードは少なくとも5人くらいは居るのが普通で、それから想像するとデリバリーしたピザは2~3人用くらいの大きさであったことを考え合わせると少々量が少な過ぎる。

「未だマンスールの姿を捉えていないが、ここにマンスールが居るとしたらボディガードの人数が3人くらいというのは少な過ぎる。普通に考えれば最低でも5人くらいと考えれば、あのデリバリーしたピザの量は少ないなぁ」

俺がマイクの問い掛けに答えると

「そうだよなぁ、傭兵上がりで体格の良い連中が8分の1枚のピザを喰ってお終いという事はねぇよなぁ」

マイクは独り言のように呟く。

俺達にとって差し迫った危険という状況ではないにしても、何処となく釈然としない感じで監視を続けていると、暫くして再び2時の方向からドローンが飛翔してくる音が聞こえてきた。

「もしかしたら、一定時間毎にドローンを飛行させて周囲を見回っているのか?」

そうマイクが言ってドローンが飛翔してくる方向を肉眼で眺めると

「ん?何かおかしいぞ」

マイクが小さく叫ぶと双眼鏡を使ってドローンを眺める。

「やっぱり、ジョージも双眼鏡を使って2時の方向から飛んでくるドローンを見てみろ、さっきのとは明らかに違うぞ」

マイクの言葉を聞いた俺も双眼鏡を使ってドローンを見てみると、明らかに少し前に飛翔していたドローンよりも一回り以上は機体が大きく、更に機体下部には何かを平たい箱のような物を装着している。

そのドローンが徐々に俺達が居る茂みに接近してくると、先程と同様に俺達の上空で停止してホバリングを開始したと思うと、暫くして周囲を小さく旋回し始める。

丁度、俺達が身を隠している近くで樹木の枝が途切れて、上空が見える位置でホバリングを再開したドローンから、カチッという機械の作動音が聞こえるとドローンの機体下部に装着していた平たい箱のような物を投下してきた。思わず俺とマイクは、茂みの中に身を伏せるとドローンから落下していた箱は軽くガサッという音を立てて地面へ着地する。

てっきりドローンから爆発物か兵器系の薬品でも投下されたと思っていた俺とマイクは、幾らか拍子抜けのような感じで落下してきた箱に視線を向けるが一向に地面に落ちてきた箱には変化がない。

そうしているうちに、箱を投下したドローンも何処かに飛び去って周囲からドローンの飛翔音も聞こえてこない。

俺とマイクは、注意深く慎重に落下してきた箱に近付いてみると落ちている箱には見覚えのなる特徴的な図柄が描かれているデリバリーピザが入れられている箱であった。

マイクは、左腰からコンバット・ナイフを取り出して箱の上部サイドの隙間にコンバット・ナイフの刃先を少し差し込んで、慎重に箱の上蓋を起し始めて隙間が広がると隙間から中を覗き込む。

もしも、この箱に何らかの仕掛けが施されているならば安易に蓋を開ければ仕掛けが作動してしまうので、マイクが行っているように慎重に箱の隙間を広げて仕掛けが施されていないかを確認しなければ危険である。

マイクがコンバット・ナイフの刃先を少しずつ持ち上げて隙間を広げて、隙間が5ミリメートルくらいになったところで

「何も変な仕掛けはなさそうだ。それに、箱の中からはピザの匂いがしてくるぞ」

完全に拍子抜けした感じのマイクが、コンバット・ナイフを左腰に仕舞うと両手を使って箱の蓋を開けると中身は1枚のピザが入っていた。

俺も完全に拍子抜けしてピザを眺めていると、マイクが開けた蓋の裏に白いメモ用紙が貼付されているのに気が付いた。

俺が、その貼付されたメモ用紙を指差して

「マイク、蓋の裏に何かメモが貼られているぞ」

そうマイクに伝えると、マイクはメモ用紙に視線を移してから

「随分とふざけたメッセージが掛かれているよ」

そう言って、メモ用紙を蓋から外して俺に渡してくる。

渡されたメモ用紙を読んでみると

『ピザには怪しげな薬物は仕込んでいないので安心して食べたまえ。そして、それを食べ終えたら直ぐに家へ帰れ』

殴り書きに近いような筆跡で、そのような内容が書かれていた。

やはり、マンスール側は俺達を捕捉しており、俺達に対して注意勧告の意味でピザを送り付けてきたのだろう。俺達を捕捉してから、行き成り襲撃を加えるのではなく食べ物を送り付けてくる巫山戯たようなやり方は相手からすれば相当に自信があっての事であり、いきなり武力を行使してこないのは不気味でもある。

マイクは箱ごと落下されたにも関わらず形の崩れていないピザを見ると

「連中、だいぶ気が利いているなぁ、ペパロニピザだぜぇ。メモに書いている通り変な薬物は入れてねぇというんだから、このままにしても仕方ねぇし、ジョージ食おうぜぇ」

そうマイクが言うと、8分の1にカットされているピザ2枚を掴んで上下に合わせて頬張り始める。

俺も苦笑いをしながら、8分の1にカットされたピザを1枚取って口へ運ぶ。仮に、マンスール側がピザに毒物等を仕込んで俺達を倒そうとするより、圧倒的な火力によって襲撃すれば済む話で態々ピザに薬物を仕掛けるような手の込んだことをする必要はない。

ピザを頬張りながら

「それで、このピザを喰い終えたらどうする?」

そうマイクに問い掛けると

「今のところ退却するつもりはねぇが、一旦ジョンと合流して新たな手立てを考えなきゃならねぇなぁ」

そうマイクが言ってから続けて

「これは、あくまでも俺の想像だが相手はドローンに熱探知カメラを搭載して周囲を警戒しているようだから、このままマンスールの邸宅を監視できるような場所に潜んで監視を続けても相手に居場所が知られては話にならないだろう」

確かに、マイクの言う通りドローンに熱探知カメラを搭載して空から監視されたのでは、如何に茂みのなかに隠れてマンスールの邸宅を監視しても相手に見破られしまい上手く監視を継続できない。マンスールの事だから、ドローンに搭載している熱探知カメラも結構な感度で高性能な物を準備しているのだろう。それなりの感度があるカメラならば、森に生息している野生動物も捉えることになるが野生動物ならばドローンが飛翔する際に発する聞きなれない音に反応して逃げることになり、特にシカやクマ等の四足歩行の動物ならば逃げる際に四つ足で走るので外観の形状で判別するのは難しい事ではない。

それなれら、一其こと別の監視方法を考えてマンスールを監視した方が遥かに効率が良いことになる。

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