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デルタのスナイパー  作者: 二条路恭平


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マイクは、徐にタクティカル・グローブをランドクルーザーのラゲッジルームに積んでいる自分のバックパックから取り出して両手に嵌めると、路面に落ちている3丁のHK P7拳銃を集めてから、各HK P7拳銃に装填されているマガジンを取り出して、左手でスライドを覆い被せるように握り込み後方へスライドを引くとチャンバーに詰め込まれている9×19ミリメートル弾薬を排出させる。

その様子を見ていたジョンが

「撃たれた3人の拳銃をどうするんです?」

不思議そうな表情を浮かべてマイクに問い掛ける。

「こんな危ない玩具、このまま放置しちゃ不味いだろうから応急措置で簡単に発砲できないようにしておくのさ」

マイクは当然といった表情をして、3丁のHK P7拳銃を手際良く、簡易分解のフィールド・ストリッピングを行いながらジョンに答える。

ある程度のフィールド・ストリッピングで、スライドとフレームが分離されて機関部が露出するとマイクは3丁のHK P7拳銃のフレームからスクイーズ・コッカ-の作動に関わる細いワイヤー・スプリングを外すと雑草が生い茂っている叢の方へ投げ捨てる。

3丁分のワイヤー・スプリングを投げ捨てたマイクはジョンに向かって

「ジョン、お前さんが持っている拳銃の使用口径は何だ?」

ジョンに問い掛けると

「今、私が持っている拳銃の使用口径は9ミリメートルですが、それがどうかしましたか?」

唐突なマイクからの問い掛けに驚いたような表情でジョンが答える。

「それじゃ、このHK P7拳銃3丁分の弾薬はお前にやるよ」

マイクは、そう言って9×19ミリメートル弾薬が10発は装填されていそうな3本のマガジンをジョンに向かって投げ渡す。

マイクから投げ渡された3本のマガジンを慌てて受け取ったジョンが

「いや、折角ですが予備の弾薬を支給されているので、態々襲撃してきた相手から奪わなくても」

そうマイクに言い掛けると

「倒した相手から使えそうな物があれば、自分が生き延びるために活用するのが鉄則だ。射殺した相手の物だからと言って気にする必要はない。どうせ、死人は二度と拳銃を使うことはないんだから」

マイクが、ジョンに対して事も無げに言う。

それでも何処となく釈然としていない感じのジョンに対して俺が

「死人から奪った物を理由に、気にしているなら自分の良心を殺してしまえ。どうせ、俺達が従事している仕事は、テレビドラマや映画に登場するような正義のヒーローなんかじゃないんだ。下手な正義感を振りかざすよりも常に危険と隣り合わせの立場なんだから、自分が生き延びるための手段に綺麗も汚いも関係ない。俺達の評価は、国益のために何人の命を奪ったのか、その数で評価されるんだ。そして、どんな手段を使っても生き延びた奴が正義なのさ」

ジョン自身も今までに経験したCIAからのミッションや俺達と行動を共にしている今回のミッションで薄々は感じていたと見えて、俺の言葉を聞くと黙って頷きマイクから渡された3本のマガジンをランドクルーザーのラゲッジルームに積んでいる自分のバックへ詰め込んだ。

フィールド・ストリッピングでバラバラな状態となった3丁のHK P7拳銃を路肩にばら撒いたマイクがランドクルーザーの後部ドアを開いて乗り込むと

「いつまでも死体と一緒に居ても仕方がない。そろそろ2人も乗り込んで出発しようや」

さばさばとした様子で俺とジョンに声を掛けてくる。

「でも、ジョウジが撃った男は完全に死んでないと思いますが・・・」

ジョンが横目を使って、俺が撃ち倒して路上に転がっている男を見ながら問い掛けてくるので

「ああ、こいつは後2、3分もすれば出血性ショックを起こして放っておいても確実に死ぬから、無駄弾を使いたくないので止めを刺さないだけだ」

俺はジョンの顔を見ながら答えてやる。

45ACP弾2発を脇腹に被弾した男は、恐らく肝臓がグチャグチャになっているだろうから、このまま放っておけば数分で確実にくたばるのは間違いがない。

特に、女性と違って男性の場合は大量の出血をしている場合には、緊急に輸血をしなければ生命に危険を生じる可能性が高い。女性の場合は、毎月1回は生理があるために身体には増血させる機能を有しているが、男性の場合は普段の生活で女性のような生理等のように出血を伴う状態がないので、そもそも体内に女性程の増血させる機能が備わっていない。

それ故、外傷によって大量の出血がある場合には止血を行うのも大事ではあるが、一刻も早く輸血によって失った血液を補填してやらねば簡単に状態を悪化させてしまう。

事実、俺に撃たれた男も被弾した直後は痛がって路面を転げ回るくらいの元気があったが、今は徐々に大人しくなって顔色は青白く仰向け状態のままで、目は虚ろな状態となり、時折吃逆のような感じで呼吸が不規則になってきているところからすると出血性のショック状態が始まっているのかもしれない。

そんな状態の男を見てから、助手席側のドアを開けてシートに乗り込むと

「そうやって、何時までも銃撃されて絶命しそうな相手を眺めていても時間の無駄だ。ジョンも早く運転席に座って目的地へ出発するぞ」

俺から声を掛けられたジョンは、我に返ったようになると慌てて運転席へ乗り込みランドクルーザーのミッション・レバーをドライブモードへ入れると、3人の死体と倒れている3台の大型バイクを避けるにして一般道へ復帰して目的地を目指す。

それからの車内は、目的地であるギリシャの高級住宅街であるキフィシアに辿り着く道中、これまでと同様に静かな状態であった事に加えて、何か目には見えない重たい空気が漂っていた。

アテネ北部に位置する閑静な郊外で、各国の大使館や高級ブティックが建ち並んで洗練されたお洒落な雰囲気のエリアであるキフィシアは、緑豊かな公園があり街中には歴史的な邸宅が多い高級住宅街である。

俺達が乗るランドクルーザーで、ギリシャで一番と言われる高級住宅街に到着したのは日暮れ間際という時間帯でもあり、街中には煌々としたネオン等があるわけでも高層マンションが立ち並んでいるわけでもないので街全体が薄暗い印象を受ける。そのため、視覚情報としては目印になりそうな物を発見することもできず詳細な位置情報を把握できない。

運転をしているジョンは、設定したカーナビゲーションを頼りに

「そろそろ、マンスールの邸宅前を通過するはずです」

と俺とマイクに告げてくる。

それを聞いたマイクは

「マンスールの邸宅は、いま走っている道路から見て右の方か?それとも左側になるのか?」

後部シートから乗り出すような姿勢でジョンに聴いてくる。

「左になります。目的地まで50メートル手前です」

ジョンがマイクの質問に答えると

「それじゃ、少しスピードを落としてくれ」

マイクがジョンにリクエストをする。

それを聞いたジョンが、ランドクルーザーのアクセルを緩めると時速50キロメートル以下の徐行スピードに減速するが、夕暮れの高級住宅街では少しくらい徐行スピードで走行したとしても大して違和感がない。

俺とマイクは、車内で頻りに視線を左側へ向けてマンスールの邸宅が建っている敷地の様子を把握しようとする。

「カーナビの情報では、そろそろマンスールの邸宅の前になります。たぶん、先に見える小さな街灯が点灯している門がマンスールの邸宅の入り口正面ゲートになると思います」

ジョンが右手をステリングから離して、その右手を左前方10メートルくらい先を指差す。

それを見たマイクが

「やっぱり、相変わらず敷地が広いなぁ。日暮れで薄暗いというのもあるが、ここからじゃ屋敷の様子がよく見えねぇ」

そうマイクが言いながら、顔をマンスールの邸宅へ向けながら後部シートの背凭れに寄り掛かる。

それを聞いた俺が

「マンスールの邸宅は、この住宅街の端に位置しているようだが、ここから敷地が終わった先は森になって真っ暗だなぁ」

助手席から前方へ視線を向けながら言うと

「マンスールの邸宅の反対側に、リースで借りられそうな建物も見えなかったから森からアプローチして、適当な場所で野宿して邸宅を監視するしかねぇな」

そうマイクが後部シートから言うと続けて

「ジョン、今日のところは一旦退却して宿に向かおう。この薄暗い状況じゃ、マンスールの邸宅の周囲が把握できねぇから、直ぐアプローチしてもドジを踏むのが関の山だ。一度、退却して作戦を練らねぇと」

ジョンへ指示したマイクの言葉を黙って聴いていた俺も、マイクの意見に賛成であった。もう少し明るい時間帯で来れたのなら周囲の状況を把握したうえ、ランドクルーザーから降車してマンスールの敷地に隣接している森の中に踏み込んで野宿しながら監視を始めることも可能だろうが、手元にある平面地図だけの情報でアプローチをするのには情報が少なすぎる。

前回のジョージアでも屋敷の警護にカールグフタス84ミリ無反動砲を備えていたほか、屋敷の周囲にはテロリストグループと思われる武装組織の連中を徘徊させて監視させているくらいなので、こちらも余程の情報を把握して監視を行わなければ逆襲にあって早々に退散しなければならない羽目になる。

運転席のジョンは、俺の意見も気にして横目で俺を見やるが、何も語らず沈黙したままでマイクの意見に対する反対の意思を示さないことで俺の意思を確認したジョンは

「それじゃ、今日のところは一旦退却して指定されている宿へ向かいます」

そう言って、マンスールの屋敷の敷地が途切れた辺りでランドクルーザーをUターンさせ、キフィシア高級住宅街を抜けて宿泊宿を目指してランドクルーザーを走らせる。

到着したのはキフィシア高級住宅街から割と近い距離にある格安ホテルであった。ただし、格安ホテルとは言え1人1部屋の個室が用意されるわけもなく4人部屋1ルームであった。

下手に3人とも個室となって、打合せを行うのに誰か1人用の狭い部屋に大の男が3人も集まるよりは、3人が同じ部屋に居たほうが打合せの開始時間を決めるのにも融通が利いて都合が良い。

格安ホテルの指定駐車場にランドクルーザーを駐車して、ラゲッジルームから各自の荷物を降ろしと言っても俺のSCAR-H TPRライフル銃が収納されているナイロン製のケースとマイクのカスタムAR-15アサルトライフル銃が入ったソフトケースだけはランドクルーザーのラゲッジルームに残してホテルのフロンへ向かい、代表してジョンがチェック・インの手続きを行うが、俺とマイクは外国から訪れた旅行者という立場になっているのでジョンがチェック・インの手続きをしている最中に、バックパックから偽造のパスポートを取り出してジョンに渡す。

ホテルのフロントから寄こされた用紙に、自分用の偽造パスポートと俺達2人のパスポートの身分証明が記載されているページを開いて要領よく必要事項を記入していく、最後にフロント係が3人のパスポートの身分証明がされているページをコピーしてから、パスポートと共に部屋の鍵を3人分ジョンに渡してくる。

用意された部屋は2階の角部屋だったので、各自が荷物を提げてエレベーターで2階へ向かい用意された角部屋へ入室する。手に提げた荷物を置いて各々が就寝するベッドを決めたところで

「そろそろ夕食の時間だから、何処かで夕飯を食ってホテルに戻ってから作戦会議にしねぇか?」

早速、いつものマイク提案が表明される。

最も、食事に関わるマイクの提案には余程の緊急事態が発生している状況でもなければ反対できないようになっているが・・・。

俺とジョンは、半ば苦笑いを浮かべながらマイクの提案に賛成の意を示す。

確かに、夕飯時を迎えた空腹状態のままで打合せを行うよりは、食事を済ませてから打ち合わせに集中して取り組んだほうが効率的に思える。

こんな時は、色々と条件を並べて思案に耽るよりも多くの視点でアイディアを出し合って選択できるオプションを増やしておいたほうが、不測の事態に陥った場合に多くのオプションから最も場面に適していると判断できるアイディアを採用できるだけでなく全員把握しているので改めて連絡を取り合う手間が省ける。

宿泊ホテルの周辺についてはジョンを含めて俺とマイクは不案内なので、ジョンの携帯電話で検索してもらいホテルから徒歩でも10分以内で辿り着くギリシャ料理の店へ行くことにした。

美味い物であるならば、食べ物だけでなく飲酒についても目のないマイクではあったが、流石に食後の打ち合わせを提案した立場のためか食前に1杯のビールを3人でオーダーした後は2杯のグラスワインだけで夕食を済ませ、何時もならオーダーする筈の食後酒を注文することはなかった。

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