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キャンプ座間に到着して初日の午後には貸与されたエクシード・ライフル銃のゼロインを問題なく済ませた事で、2日目は終日マイペースでエクシード・ライフル銃の習熟射撃に没頭する事ができた。これで、貸与されたエクシード・ライフル銃に固有の癖も把握できたので実際の狙撃でターゲットを外す確率が相当低くなったが、問題は308ウィンチェスター弾薬を使用してではなく、新規に開発された弾薬を使用しなければならないので、この弾薬の特性を理解しない事には確実な自信が持てない。

そこで、3日目の午前中には司令官から言われた通りに与えられた新弾薬をマガジンに5発装填して発砲する事にしたが、実際に発砲してみると想像していたよりも特段問題となる様な癖等なく比較的素直な弾道を示してくれる。ただし、俺が驚いたのは初弾を発砲してボルトハンドを引き排莢したはずなのに、空の薬莢が周囲に見当たらないだけでなく、空薬莢が床に落下した時に発する金属音が聞こえない。確かに、弾薬をマガジンに装填する際に弾薬ケースから取り出した弾薬の薬莢部分が白色となっていて明らかに金属ではなく特殊な樹脂の様な感じだったので、発砲にあたって装薬の燃焼爆発によって耐久性があるのか疑問に感じてはいたのだが、現実に発砲してみると確実にターゲットのセンター付近に着弾しているので実射に問題があるようには思えない。

試しにペーパーターゲットを100メートルの位置まで移動させてから、4発目と5発明を試射してみる事にしたが、25メートルで装着しているスコープのゼロインしているので、射程を100メートルに変更したのならば、その着弾は狙点より僅かに上方へ着弾するはずなのでペーパーターゲットの下側にレティクルのセンターを合わせて発砲してみたが、予想通りにペーパーターゲットのセンター近くに2発とも着弾している事も分かった。

そこで、俺は開発された弾薬は空薬莢が排出されないケースレス弾薬なのだろうと納得する事にした。それ以上の詮索を俺がしても所詮大した意味があるわけでもなく、仮に事実を知ったとしても米軍の特殊部隊に所属する一介の兵士に何かができるわけでもない。

新弾薬の試射を終えた俺は、割り当てられている住居施設へ戻ると、念のためにエクシード・ライフル銃を簡易分解してボルトフェイスや他の機関部をクリーニングしながら状態を確認してみた。

それというのも、通常の銃器であれば発砲によって発生する高温高圧の発砲炎は空薬莢内から主に銃身へ向かう事になるが、新弾薬の場合には空薬莢が出ないという事は、新弾薬内で装薬が燃焼爆発して発生する発砲炎が直にチャンバー内壁やボルトフェイス、ファイヤリング・ピン先端を襲う事となり、エロ-ジョンという焼損が発生する事が気掛かりなのだ。

金属も繰り返し高温高圧のガスに晒されれば、徐々に金属表面の脆弱化が進行することで脆くなってしまうので、仮にファイアリング・ピンの先端部が脆くなる様な事になればトリガーを引いた際に、プライマー(雷管)に必要な打撃力を与えられなくなるライトヒットとなって不発を誘発する事になり得るし、チャンバー内壁やボルトフェイス先端部が焼損の影響を受けていれば高圧な発砲炎の圧力に耐えきれなくなって銃器そのものが破壊されて、銃器本来の機能が失われてしまうばかりか、銃器を使った射手が危険な状態となってしまう。

これは、通常の弾薬を使用した銃器の銃身内でも同様の現象が起こり、加えて銃身内にはチャンバー内に装填された弾薬から放たれた弾丸が高速でライフリングに食い込みながら通過するので、弾丸とライフリングには摩擦よる外力が加わるために一定数の弾薬を発射した後はボアスコープという工業用内視鏡を使って、ライフリングの状態を確認しダメージが見受けられるようであれば銃身を交換する事になるが、今回の場合では単に銃身交換だけでなく、チャンバーやボルト或いはファイヤリング・ピンの交換を基地内のガンスミスに頼まなければ、ミッション遂行時に安心してエクシード・ライフル銃を使用する事ができない。

住居施設内にあったLEDハンディライトを点灯させて、簡易分解によって見易くなったチャンバー内やボルトフェイスにLEDハンディライトの光を照射しながら、俺は詳細に焼損の状態を確認してみた。

結果としては、チャンバー内壁とボルトファイスやファイアリング・ピン先端に僅かながら焼損跡が見受けられてはいたが、俺の判断では幸いにもエクシード・ライフル銃はボルト・アクションであって、セミオートマチックやフルオートマチックという作動機構を有しているわけではないので、過度な連続発砲をする事は考えられない事から、更に数十発を手元のエクシード・ライフル銃で発砲したとしても悪影響が発生する可能性が低いと判断した。なお、銃身内については手元にボアスコープはないので確実な事は言えないが、このエクシード・ライフル銃を受領した際に外観を見た限りでは俺の前に誰かが使用したような痕跡は見受けられなかったので、銃器メーカーから納品されたばかりの新品と考えられる。

更に、未だ数十発しか発砲していない事も考え合わせると現状のままで充分安全に使用できるし、必要とする精度も充分に保たれていると判断できる。因みに、長距離射撃に使用するライフル銃では4~5,000発を発射した頃に銃身交換を行うのが通例なので、このエクシード・ライフル銃の銃身が納品時で余程の欠陥がある物を取り付けていない限りは心配する必要がない。

懸念していたエクシード・ライフル銃の各部を確認して、一安心した俺は慎重且つ丁寧に簡易分解したエクシード・ライフル銃を組み立てて元の状態に戻してから、マガジンに弾薬ケースに残った新弾薬5発を装填し、銃身先端部に取り付けていた消音器を外すと、床に置いていた長さ110センチメートル、幅40センチメートル、厚さ10センチメートルの箱型でアコースティックギターというよりもエレクトリックギターが収納できそうな箱型タイプの黒い合成皮革の外観であるケースへ、ライフルスコープと弾薬を装填したマガジンを装着したエクシード・ライフル銃と専用の消音器をそれぞれ収納する。

エクシード・ライフル銃を収納したギターケースをテーブル脇の床に置いた俺は、四つ折りにしていた指令書を広げて見ると経費削減のためか、A4版コピー用紙の両面にビッシリとカラー印刷で作成されている。

指令書の最初には、今回のミッションで狙撃する対象者の顔写真が貼付されていおり、その顔は明らかに日本人の男性のようである。指令書には、「ターゲット」と表示されているだけで、写真の男の名前等の記載は全くない。確かに、この男と直接的に接触するわけでもなくライフル銃で離れた場所から狙撃する俺からすれば、相手の人相さえ分かれば良く敢えて相手の名前等の情報を必要とするものではない。

男の顔写真から下には、翌朝からの行動が時系列で記載されおり、翌朝8時にキャンプ座間の総務課へ出頭して居住施設の鍵を返還するのと同時に、今回のミッションで使用する銃器以外のアイテムとなる日本円の現金と携帯電話を受領することになっている。その後、キャンプ座間に配備されているUH-60ブラックホーク多目的ヘリコプターに搭乗して、空路で横須賀海軍基地へ向かい。横須賀海軍基地からは基地に勤務している日本人スタッフが運転する自動車で最寄りのJR駅へ案内されるので、そこからはJRの在来線に乗車してターゲットが居住しているマンション近くのJR駅へ向かい、そこから先は徒歩で狙撃ポイントとして指定している雑居ビルへ赴くよう指示してある。

更に、ターゲットが居住しているマンションと狙撃ポイントが網羅されている平面地図が掲載されており、ご丁寧に赤い直線ラインが引かれたうえに「300」の数字も記されて射程距離が直線で300メートルである事を示している。

また、支給された携帯電話にはミッションに関係する連絡先が事前にメモリーされているので、狙撃に成功した場合と失敗した場合での連絡先と成功したケースと失敗したケースでの暗号までが細々と示されていた。

それらの内容を一通り読み終えて、全てを記憶した俺は指令書と100円ライターを持ってキッチンの流しへ向かい、換気扇のスイッチをオンにしてから左手に持った100円ライターを灯して指令書を燃やし始め、燃え始めて炎が大きくなった指令書を手から離すと火の着いた指令書は流しへ落下してからも燃え続け、殆どが灰になった頃に上水道の蛇口を開けて水と共に灰になった指令書を排水口へ流した。

別段、指令書には読み終えた後に焼却処分をするように指示されているわけではないが、これまでもミッションの指令書は証拠として残らないように処理する事となっているので、今回も同様に処分しておく。


翌朝、俺は7時に起床すると最初に洗面所へ向かい髭を剃り、次いで歯を磨いてから洗顔をしてから上半身には白いポロシャツを着て、履き慣らしたブルーのデニムパンツを身に着けてから、足元には黒いショートソックスにグレーでスエードのチャカブーツを履いて基地内の食堂へ向かって朝食を済ませてから、再び居住施設へ戻ってトイレで排便を済ませてからバックパックを背負い、左手にギターケースを提げ右手には施設の鍵を持って総務課のカウンターを目指して徒歩で居住施設を出発した。

8時を少し過ぎてしまったが、総務課のカンターに到着すると俺に気付いた担当官が右手に2枚の用紙と茶色の紙封筒、それに携帯電話を持ってデスクから離れて俺の前まで来ると「モーニング」と言いながら、手にした書類1枚をカンターに置いて俺の前に差し出す。

それは、居住施設を退去する際に提出を要する書類となっているので、俺はカウンターに備え付けられているペン立てにあるボールペンを使って書類に必要事項を記入し、書き終えた書類を担当官に渡すと書類の内容をチェックした担当官は満足げな表情を浮かべて

「こちらの書類はオーケーです。それでは」

と言ってカウンターの上に茶色の紙封筒と携帯電話を並べて、その隣に書類を1枚置くと

「紙封筒には日本円で3万円が入っていますので中身を確認して、こちらの携帯電話はスイッチを入れて起動する事を確認したら書類に受領サインをして下さい」

と事務的に言ってくる。

俺は、紙封筒を手に取って中身を確認すると日本の1万円紙幣3枚が入っている事を確認し、次いで戦場以外でのミッションの際に支給されているのと同じ機種の携帯電話を手に取って戸惑う事なく電源のスイッチを入れてみると通常通りに携帯電話が起動する。

それらを確認した俺は、差し出されている受取書に受領のサインをボールペンで記載して、書類を担当官へ渡し携帯電話をデニムパンツの左側の尻ポケットへ差し込み、1万円紙幣3枚が入っている紙封筒を折り畳んでデニムパンツの右前ポケットに捻じ込んだ。

それを見ていた担当官は

「それじゃ、かれから3番ヘリ格納庫へ向かってください。ヘリのパイロットには私から連絡を入れておきます」

とカウンターの上にある基地の平面図を使って場所を示しながら言ってくる。

「ありがとう」

俺は軽く敬礼しながら担当官に礼を言って、総務課のオフィスを退室した。

徒歩で3番ヘリ格納庫を目指してアスファルト舗装の路面を歩いていると、未だ午前中だと言うのに降り注ぐ直射日光を浴びると少しばかり汗ばんでくる。

3番ヘリ格納庫がハッキリと見える位置まで歩いてくると、既にUH-60ブラックホーク多目的ヘリコプターが格納庫から出されてアイドリングのためか主翼ローターが回転していた。UH-60ブラックホーク多目的ヘリコプターの機体を外観チェックしていた白人のパイロットが、機体に近付いてくる俺に気が付いて俺の方へ近寄り

「パイロットのフランク准尉です」

と大声で言いながら右手を差し出してきた。

「ジョウジ曹長です。横須賀基地まで世話になります」

俺も自分の名を名乗って、右手を差し出してフランク准尉と握手をする。

「じゃ、早速ヘリに乗ってください。曹長が準備できたら直ぐに飛び立ちます」

フランク准尉が大声で叫ぶと、UH-60ブラックホーク多目的ヘリコプターの操縦席のドアへ向かっていく。

俺は、一旦ギターケースをアスファルト路面に降ろしてから背負っていたバックパックを降ろして右手に持ち、左手でギターケースを掴むと少しばかり腰を屈めながらUH-60ブラックホーク多目的ヘリコプターの左側へ近付いて機体側面のスライドドアを後方へ動かしてから、手にした荷物を機体の中へ積み込んでからUH-60ブラックホーク多目的ヘリコプターに乗り込み、左のスライドアを閉めて座席に座りマイク付きのインカムを装着してからシートベルトを締める。

それを操縦席から顔だけ後方へ向けて見ていたフランク准尉が、俺がシートベルトを着用したのを見届けてから顔を正面へ向けると、インカムを通して基地の管制官に離陸許可を求める。インカムを装着している俺の耳にも基地管制官から離陸の許可が下りる声が聞こえると

「それじゃ、出発します」

インカムを通してフランク准尉が俺に向かって言ってから、UH-60ブラックホーク多目的ヘリコプターの主翼ローターの回転速度が上昇して、UH-60ブラックホーク多目的ヘリコプターの機体がアスファルト路面からフワリと浮かんだと思うと、晴れ渡った沖縄の青い空へ目掛けて上昇していった。

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