表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
デルタのスナイパー  作者: 二条路恭平


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

51/76

51

102ヤード先の目標物に照射された赤点にレティクル・センターが重なるようにした後で、銃口の先端部に専用の消音器を装着する。

マイクのカスタムAR-15アサルトライフル銃のように全長がコンパクトになったモデルであれば予め消音器を装着していても専用ケース等に収納するにしても支障がないのだが、今回俺に支給されたSCAR-H TPRセミオートライフル銃は、他のSCARモデルとは違いストックが折り畳み式ではなく固定式となっており全長が1,000ミリメートルを超える長さとなっているので、これに消音器を装着した状態では専用のケースに収納できない。

ただし、マンスールの邸宅を監視中に想定外の事態が発生して戦闘状態となった時は、マイクのカスタムAR-15アサルトライフル銃の有効射程距離より長い距離に対応できるSCAR-H TPRセミオートライフル銃の使用が想定される。その場合、マイクのアサルトライフル銃であっても俺のセミオートライフル銃にせよ消音器を取り付けて相手側に発砲した場所が分からい状態にしておくとは最重要なことである。

特に、相手には84ミリメートル無反動砲という切り札がある状況では、俺達が発砲している場所が判明すれば何時84ミリメートル無反動砲を発射してきてもおかしくない。加えて、マンスールの邸宅から監視している場所までの距離で84ミリメートル無反動砲が発射されたら、撃ち出された砲弾が着弾と同時に炸裂する範囲から逃れるのは不可能である。


それらを踏まえ、俺とマイクが所持しているメイン・ウェポンに装着しているスコープのゼロインが簡易的であれ完了したところで、マイクは多機能双眼鏡を使ってマンスールの邸宅を監視し始める。その間、俺は周囲に不審者の気配がないか注意を配りながら時折SCAR-H TPRセミオートライフル銃に装着しているスコープを覗いてマンスールの邸宅を観察する。正確には、マイクがマンスールの邸宅を監視しているのとは別に、マンスールの邸宅が建っている敷地内の樹木等を観察して風の状況を常時把握していると言った方が正確なのかもしれない。

俺達が居る場所からマンスールの邸宅までの直線距離では、明らかにマイクが所持しているカスタムAR-15アサルトライフル銃では対応が厳しい。特に、使用する弾薬が5.56×45ミリメートルNATO弾薬では軽量な弾丸なので発砲された場合、高速で飛翔するので貫通力には優れているものの軽量弾丸の宿命的デメリットとも言える風の影響を受け易く、少ない弾数でターゲットへヒットさせるのは至難の業となってしまう。そうなれば、5.56ミリメートル弾よりも重量のある7.62ミリメートル弾を使用する俺のSCAR-H TPRセミオートライフル銃に出番が廻ってくる。

今まで俺は、ミッションで支給されるライフル銃について事前にリクエストをした事はなく、都度与えられた道具を最大限に使用してベストな結果が得られるように努力してきた。しかし、本音を言えば今回のような中距離をカバーするセミオートライフル銃ならば制式採用されているSR25M110SASSセミオートライフル銃よりも今回支給されたSCAR-H TPRセミオートライフル銃の方が信頼性が高いと思っている。

その理由は、SR25M110SASSセミオートライフル銃は基本構造がM4アサルトライフル銃であるために、ハンドガードが別部品となってアッパーレシーバーに複数のネジ等で固定装着されているが、所詮は別部品なのでアッパーレシーバーの上面にあるレイルと、ハンドガード上面に備わっているレイルが強固に接続されているとは言え、接続されているレイル部が間違いなく一直線の状態になっているとは言えないので、スコープマウントを取り付ける場合に多くのスナイパーはアッパーレシーバーのレイル部のみを使用し、決してアッパーレシーバーとハンドガードを跨ぐような状態でスコープマウントを取り付けるような使い方をしない。

しかし、SCAR-H TPRセミオートライフル銃であればハンドガードはアッパーレシーバーと一体化された部品となっているので、別々の備品を結合させた場合に上面のレイルが一直線なのかを疑う必要はない。その意味では、SCAR-H TPRセミオートライフル銃にスコープを取り付ける場合、スコープマウントの取り付け位置に関して神経質になる必要はない。特に、長距離用のスコープともなると全長が長くなってしまうのだが、スコープマウントの取付け位置で妥協が必要となってしまうとスコープの接眼レンズから一定の距離を離れる必要があるアイレリーフが充分に確保できず、結果として無理な姿勢でターゲットを捉えて発砲する事になるので高い精度を求める狙撃にはならなくなってしまう。

その点、スコープマウントの取付けポイントに妥協を強いる必要がなければ自由度が高い状態で照準器を装着できるので、長距離の精密射撃を行う上でのハード面としては非常に優れていると言える。

ただし、そんなSCAR-H TPRセミオートライフル銃であっても全てが完璧というわけではなく、通常のSCARモデルではストックの取付けが折り畳めるようヒンジ部品で取り付けられているのだが、SCAR-H TPRセミオートライフル銃のストックは固定式となっており、ストックの取付けがロアレシーバー等と一体成型とはせずに折り畳み式のヒンジ部品をストック固定用の部品に差し替えているだけなので、剛性面等に懸念を抱いていたが今回支給された実物を手にしてみると心配していたような剛性不足といった面はなさそうである。


監視地点からマンスール邸宅間の風の状態を把握するために何回目かスコープを覗いていた時、俺から見て3時の方向から数本の枝が折れるような音を耳にした。

マンスールの邸宅を双眼鏡で監視していたマイクも、その音に反応して双眼鏡から目を離して俺の方へ視線を向けると無言で頷き、足元に置いているカスタムAR-15アサルトライフル銃を持ち上げて膝撃ち姿勢となるニーリングでカスタムAR-15アサルトライフル銃を構えて、音が聞こえた方向へ銃口を向けてショートスコープを覗いている。

俺はバックアップのために左腰のホルスターからHK45CT拳銃を抜き、右手でスライドの上から覆うようにして握って手前へ引く。通常なら、手前に一杯まで引いたスライドから右手を離してスライド内にあるスプリングの力だけで前進させてチャンバーへ45ACP弾薬を装填するのだが、今は可能な限り不要な音を立てたくない思いからスライドを握っている右腕の力を徐々に弱めてスライドを前進させる。本来、このような操作をするとマガジンから押し出された45ACP弾薬がチャンバーの手前で突っかかる等の装弾不良を起こしてしまうのだが、エジェクション・ポートから見える弾薬の状態等を確認しながら操作することで、何とか不要な音を発することなくチャンバーへ45CP弾薬を装填できた。

HK45CT拳銃の発砲準備が整ったので、俺も不審者の姿を見付けようと3時の方向へ視線を向けていると50メートル程先の茂みからサングラスを掛けた白人男性の姿を発見した。

そのサングラスを掛けた白人男性は、見た感じでは20代後半くらいの年齢のように思え、体格は筋肉質というよりも若干痩せ気味で傭兵上がりというよりも明らかにテロリストといった雰囲気である。しかも、その男性は俺達との距離が40メートルぐらいにまで近寄ってくると、上着の胸ポケットから1本の煙草ような物を取り出して口に咥えると、俺達に背を向けてジーンズの尻ポケットから100円ライターを取り出して加えている煙草に火を点けている。

煙草を吸っている男性の風下になる俺達の方へ、男性が吐き出す煙が漂ってくるとマイクが

「こりゃ、大麻だな」

と小声で俺に知らせてくる。

そのマイクに俺は頷いて見せる。その俺の表情には口にこそ出さないでいるが、目の前で大麻を吸っている男をこのまま見逃すような選択肢はなく、こちらの存在に気付かれる前に射殺しなければならないというのが現れている。俺達との直線距離が40メートルくらいなのに背を向けて大麻を吸っているのであれば、明らかに男性は俺達の存在に気付いてないのは間違いないが、これから大麻に酔った状態で俺達に気付かれた場合には、意味なく騒がれて厄介なことになるので一気に口を封じた方が安全である。

その事を俺の表情から読み取ったマイクが、ニーリングの姿勢でカスタムAR-15アサルトライフル銃を構えて慎重にセミオートで発砲する。消音器を装着している関係で、耳障りな程に大きな発砲音とはなっていないが、隣で耳栓を装着していない俺の耳には充分過ぎるくらいの音量で撃ち出された5.56ミリメートル弾は、男性の後頭部8時の方向に着弾したかと思うと額の真ん中を貫通して薄赤い血煙を撒き散らす。同時に、右手の人差し指と中指で挟んでいた大麻煙草が2本の指から、離れて地面へ落ちると男性は両膝を着いて俯せに倒れてビクともしない。

左耳の2センチメートルくらい後方に着弾した5.56ミリメートル弾は、小脳の辺りを破壊した後に抵抗の少ない方へ進んで左右の脳の間を通って額中央部に射出孔を開けて貫通したのだろう。恐らく射殺された男は、一時休憩のつもりで周囲への警戒を緩めて大麻煙草を吸っていたのだろうから、予期していない突然の死期を迎えた顔は、左右の目を大きく見開き鼻の孔から鼻血が流れ出て半開きの唇から口内を赤く染めている。

死体と化した男に、俺とマイクは近付いて状態を確認すると男の上着の下には自爆用の爆発物が巻かれており、ジーンズのポケットを調べてみるとリモート用の起爆スイッチを見付けることができた。更に着用している衣服のポケットを全て調べると小さく折り畳まれた紙片が見付かり、その紙片を広げると紙片には「ボドルム半島」と鉛筆で殴り書きされたメモが見つかる。

そのメモを回収した俺とマイクは、此処から一旦引き上げてコーディネーターのジョンにメモを渡して記載された内容がマンスールの居所と繋がるのかを調べてもらうことにして荷物を纏めて登ってきたルートを引き返すことにした。

ルートを引き返す途中で、コーディネーターのジョンへ携帯電話を入れて迎えに来るように伝える。

最初にフォルクス・ワーゲン・タイプⅡから降りた地点まで20メートル手前あたりに辿り着いたが、ジョンが運転してくるフォルクス・ワーゲン・タイプⅡの姿は見えなかった。

如何にジョンが、必死に運転してみたところで中古のフォルクス・ワーゲン・タイプⅡのエンジンでは到着までは暫く時間が掛かるだろうと判断して、茂みに点在する岩の上に俺とマイクが腰を下ろしていると、ガサガサという音と共に面皰顔した10代後半の若者10人くらいが手に金属バットや鉄パイプを持って取り囲んできた。

その中でリーダーらしい若者が

「金やバックパックを貰うぜ」

と言って凄んでくるが俺やマイクのような人間に対して、そんな未熟な脅しは通用しない。俺とマイクが無反応でリーダーらしき若者を見詰めていると

「こっちの言ってる通りにしないと痛い目にあうぜ」

と言って手にした鉄パイプを見せてくる。

マイクは、左手に提げているカスタムAR-15アサルトライフル銃が収納されている樹脂製ケースを足元に置いた瞬間、目にも止まらぬ速さでリーダーらしい若者の目の前まで詰め寄ると若者の鳩尾に当て身を喰らわせる。鳩尾にマイクの当て身を喰らった若者は、面皰顔を歪ませ両手で腹部を押さえながら「ううっ」と呻き声を発して両膝を地面に着く。

その様子を見ていた他の若者が、金属バットを振り被って俺をターゲットにするつもりで襲ってくる。俺は、右手に提げたSCAR-H TPRセミオートライフル銃が収納された樹脂製ケースを勢い良く相手の顎辺りへ突き出してやると、アッパーカットをカウンターで受けたような状態となった若者が顔を上へ向けて腰から地面に倒れ込む。

精一杯に凄んで脅しを掛けた相手から、1分もしないうちに仲間2人が遣られてしまった事ですっかり怖気づいた残りの若者に対して、マイクが別の若者に攻撃を仕掛けるようにザァと右脚を動かすと、その音にビビッてしまった若者達が倒された2人の若者を引き摺るようにして

「お、お、覚えてやがれッ」

と言い残して退散していく。

俺もマイクも、子供のような地元の不良を相手にしようとは思っていないので退散していく若者達の後ろ姿さえ見ていない。不良グループが退散して周囲が静かになった頃、壊れそうなエンジン音を響かせながらフォルクス・ワーゲン・タイプⅡが待ち合わせ場所に到着した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ