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俺は、米国の航空機製造メーカーであるロッキード社が開発製造した米軍の双発プロペラ輸送機C-130通称スーパーハーキュリーズの機内にてインド洋上空を飛行している。

中東の民族同胞開放戦線ナンバー2をアンチマテリアルライフル銃TAC-50Cで装甲車ごと狙撃してミッション通りに暗殺に成功した後、TAC-50Cの発砲に伴う盛大な発射音を聞きつけて襲撃してきた民族同胞開放戦線の戦闘員数名も相棒と2人で血祭にした後、狙撃ポイントにしていた岩山を下山してから予定されていた合流ポイントで、迎えに来たUH-60ブラックホーク多目的ヘリコプターに無事乗り込んで前線基地に帰還した。

前線基地に到着して早々、俺と相棒は別々の命令を受けて相棒は東ヨーロッパでの新たなミッションに向かい、一方の俺は日本の沖縄にある在日米軍基地であるキャンプ座間へ向かうよう命令されてC-130スーパーハーキュリーズの貨物室に備え付けられている座面だけの折り畳み式の座席に腰掛けてシートベルトを掛けたままで仮眠を貪っていた。

しかし、民間の旅客機と違って輸送機の貨物室は防音設備やエアコンが完備されているわけではなく、貨物室内には双発のプロペラを動かすエンジン音が響き渡って煩いだけではなく、水平飛行する高度まで上昇している事で室内は相当に寒い。

故に、俺の服装は岩山での民族同胞開放戦線のナンバー2を狙撃した際に身に着けていた戦闘服の上にライトウェイトのコンバットジェケットを着込み、更には持ち込んだ毛布に包まって、半覚醒状態のままで休息を取っていたというのが正しいかもしれない。

また、目の前には戦場で酷使され故障したフォード・モーター社が開発製造したM8軽装甲車が何本ものワイヤーで固定されている。たぶん、現地では修理用の部品等が調達できずに日本で修理するのだろうが、まさか故障した軍車両と共に同乗させられるとは思っていなかった。


俺の名前は桂木譲治と言い、日本人の父親と日系3世米国人の母親との間に生まれた一人っ子であり生粋の日本人である。商社マンであった父親が米国支社にいた時分、当時女子大学生であった母親と偶然出会い、父親の方が一目惚れして猛烈なアタックの末に恋愛結婚して、数年後には母親が米国で俺を出産したそうだ。

俺が物心もつかない乳飲み子の頃に、父親は日本の本社へ呼び戻され親子揃って日本へ移り住む事となったが、米国生まれで米国育ちの母親が日本での生活に漸く慣れた俺が中学2年の終わり頃に、両親が自家用車で所用の為に外出した時、高速道路上で大型観光バスの運転手が居眠り運転によって後ろから衝突されて、あっけなく両親が亡くなってしまった。

中学生の俺には、観光バス会社からの賠償金や両親の遺産等で多額の財産を手に入れる事になったが、父親も俺と同様に一人っ子の境遇で他に兄弟がいなかった事に加えて、父方の祖父母も俺達家族が移り住んで直ぐに癌を発症して亡くなっていたため、未成年の俺には保護者となる人間がいない状態となってしまった。

そこで俺は、中学を卒業と同時に米国で存命している母方の祖父母を頼って米国へ移住し、3年間は母方の祖父母の元から米国の高校へ通ったのだが、俺が米国へ移住した頃には祖父母も仕事をリタイアしており、祖父母の経済力や俺の財産を考慮しても大学進学を諦めざるを得ないと判断した俺は、米国での高校生活を送っている間に米国の国籍を取得できていたので、高校卒業した後は米陸軍へ入隊する事にした。

陸軍に入隊した頃は、身長180センチメートル、体重60キログラムの瘦せ細った体形であったのだが、連日の厳しい訓練によって体重が80キログラムにまで増え身体中の筋肉が強靭になっていったが、決してマッチョな体型というわけでもなく服装を身に着けている状態では未だスラっとした痩せた体型となってくる。

地獄のような新兵訓練を経て、陸軍レンジャー部隊へ配属となって暫くすると、両親と日本で暮らしていた頃に父親からの強い勧めがあって弓道を習っていたのが幸いしたのか、射撃のセンスが買われてスナイパーとしての専門訓練を受ける事になった。

2年に渡る専門訓練で、ロングレンジしかも極長距離での射撃スキルをマスターした俺は訓練終了と同時に米国陸軍第1特殊部隊デルタ作戦分遣隊、通称「デルタ・フォース」へ転属となった。

部隊では、俺を呼ぶ時はファーストネームの『譲治』を発音し易く『ジョージ』と呼んでいる。


米国陸軍第1特殊部隊デルタ作戦分遣隊デルタ・フォースは、米軍の特殊部隊のなかでも特異と言っても良いくらいの存在で、命令系統や予算については他の部隊とは違って独自性が認められており、その結果として部隊として従事する内容も極めて危険度が高く、且つ高度に政治的な色彩が強い作戦が主となり、隊員の呼び方についても「コマンダー」と言わずに「オペレーター」と呼ばれる少数精鋭の部隊なのである。

デルタ・フォースの特異性を示す一例としては、隊員である「オペレーター」が使用する拳銃について、1人当たり2丁の1911拳銃が与えられ、部隊専属の銃器をカスタムする事ができる専門のガンスミスによって、オペレーター各人の好みに応じたカスタムが許されている。

因みに、俺が現在所持しているコンバットユニット・レイル1911拳銃は基本的にコルト社で製造されている製品とほぼ同じ物を使用しているが、納品にあたってはセミオーダーとして3箇所に変更を加えてもらった物を使用している。

1つ目は、マニュアルセフティ(手動安全装置)の操作レバーが左側にしか備えられていないが、俺は左利きなので使い勝手が悪いことから左右に操作レバーを有するアンビデクストラスにしたスエッソンタイプに付け替えてもらっている。更に2つ目として、特殊強化樹脂の薄い板を数十層も積層したうえで削り出して作られているG10グリップも右利き射手が使い易いように左側グリップパネルのマガジンキャッチボタン近くをホタテ貝の貝殻のように削り込んだスキャロップ加工が施されているが、左利きの俺には1911拳銃を握った時に、スキャロップ加工によってグリップパネルが薄くなったことでトリガーフィンガーである左手人差し指の根元がマガジンキャッチボタンに干渉してしまい射撃中に誤って押してしまう可能性があるので、スキャロップ加工が施されていない物に交換してもらい、最後に3つ目としてスライドの後部面とリアサイトに装着されているノバックサイトのスライド後部面と同一面になっている部分に40LPIライン・パー・インチの横方向セレーションを刻んでもらっている。

LPIとは1インチの幅に何本の刻みを入れるのかを表し、40LPIならば1インチの幅に40本の刻みを入れることになり、刻みの間隔は1ミリメートル以下の細かい刻みとなっている。この40LPIの横方向セレーションを刻んでもらう事で、日中屋外でコンバットユニット・レイル1911拳銃を使用する場合に、セレーションが施されていない物と比べて日光の乱反射が発生しにくく、乱反射によって照準が乱される事を防いでくれる。

このようなセミオーダーで組み上げられたコンバットユニット・レイル1911拳銃が納品されると部隊のガンスミスに依頼して、トリガーを引く時の強さであるトリガープルを4ポンド(約1.814キログラム)となるようにし、更に連射する際にトリガーを戻すリセット距離を可能な限り短く調整してもらい使用している。

トリガープルは、重さの単位で表現するのだが軽くすることで連射の際には有利に働くのは間違いないが、必要以上に軽く設定すると戦場等でガンファイトの最中には味方に銃口を向けないように注意する事は現実的に不可能なので、トリガープルが軽いままで使用するとちょっとした力加減でトリガーが引かれて暴発する事態が発生して味方を誤射する可能性がある為、俺はトリガープルを軽くするに当たっては4ポンドが限界であると考えている。

また、デルタフォースのオペレーターの中には、1911拳銃の各部をタイトにフィットさせる事を望む者が数名いるが、使用する場が協議射撃会場ならば精密な射撃にメリットがあるのは間違いないのだが、実際問題として俺達が拳銃を使用するのは戦場であり、戦場では泥や砂埃等が銃器に付着したりするのは至極当然の事で必要以上に銃器各所をタイトにしてしまうと、それが仇となって土等が可動部に入り込んでしまうと作動不良を引き起こし兼ねない。戦場で安定した作動を望むのであれば、一定程度のクリアランスが必要であり、コンバットユニット・レイル1911拳銃に関してはメーカーから納品された状態がベストだと思っている。


そうしているうちに、C-130スーパーハーキュリーズは高度を下げ始めて着陸態勢に移行しているのか、貨物室内の寒さは徐々に感じられなくなってきているのに加えて機体の外から流れ込んでくる空気には、湿気を含んだ夏の気配が感じられるようなってきた。暫くするとドンという音と共に下から突き上げられるような振動を感じたんので、C-130スーパーハーキュリーズは無事にキャンプ座間の滑走路に着地した事を俺は知ったが、その直後にC-130スーパーハーキュリーズがブレーキを掛けたようで身体が進行方向へ傾き、ワイヤー等で固定されているM8軽装甲車が揺れてギシギシと音を奏でている。

C-130スーパーハーキュリーズが滑走路にタッチダウンした時よりもスピードが遅くなると、他の戦闘機等の航空機が一刻も早く利用できるために滑走路を空けるべくC-130スーパーハーキュリーズは誘導路へ向けて移動しているようである。

俺は、シートベルトを外すと脇に置いていたバックパックを背負ってから反対側に置いた手荷物を持つ準備を行う。C-130スーパーハーキュリーズが完全に停止すると貨物室のハッチが音を立てて開きハッチが降下していく。

貨物室のハッチが完全に開ききると基地内の整備兵数名が次々とc―130スーパーハーキュリーズの貨物室に乗り込んできて、M8軽装甲車付近に集まると機体に固定していたワイヤーを緩め始めた。

俺は、彼らの邪魔にならないように左右の手に手荷物を掲げると機体の隅っこの方から開け放たれたハッチを使って機体の外へ出る。

キャンプ座間に到着したのは昼前の午前中の時間で、快晴の沖縄は空は青々として太陽の光が眩しく、着用していたのがライトウェイトジャケットであっても蒸し暑く感じてしまう。

俺は、一旦立ち止まって両手に持った手荷物をアスファルト路面に降ろすと背負っていたバックパックも降ろしてから、ライトウェイトジェケットの胸ポケットに差し込んでいたサングラスを掛けると、ライトウェイトジェケットを脱いで上半身は迷彩柄のTシャツ1枚の姿になり、脱いだライトウェイトジャケットを丸めてからバックパックの中へ突っ込む。

それから、再びバックパックを背負って左右の手にはアスファルト路面に置いた手荷物を掲げると武器類を管理する部隊のオフィスを目指して歩き始める。

武器類を管理する部隊のオフィスカウンターの前に到着した俺は、部隊名、階級、そして自らの名前を名乗るとカウンターの上にアンチマテリアルライフル銃TAC-50Cが収納されている樹脂製ハードケースと5発の50BMG弾薬が装填されたマガジン5個と空のマガジン1個が入っているコットン製の布袋を置く、担当の軍曹がデスクから立ち上がってカウンターへ来ると1枚の書類を差し出してくる。その書類には、返却する武器類の名称と数量、更には使用・未使用の弾薬数等が記載するようになっており、俺はカウンターに備え付けられているペン立てからボールペンを掴むと要領良く書類を記載してから書き終えた書類を軍曹に渡すと書類を手にした軍曹が

「それじゃ、記載内容に間違いがないか現物チェックをしようか」

と言って、カウンターに載せた樹脂製ハードケースの蓋を開ける。ハードケース内の銃器をチェックし終えるとコットン製の布袋に入ったマガジンを全て取り出してから弾薬が装填されているマガジンから全ての弾薬を抜き出して50BMG弾薬の数を数え始める。2回連続して弾薬数を数え終えた軍曹が、左手に持ったコピー用紙を示すとコピー用紙に印刷されているのは、俺が返却しようとしているアンチマテリアルライフル銃TAC-50Cを使用するために受け取った際の受領書の写しであった。

軍曹は、カウンターの上に置いてある電卓でコピー用紙に印字されている受領した弾薬数と、俺が先程記載した返却弾薬数の引き算も2回繰り返して間違いがない事を確認すると無表情な顔で

「間違いなく武器類の返却を受け付けます」

と俺に向かって言うと、ハードケースの蓋を閉じてコットン製の布袋にマガジンと弾薬を全て入れてから、返却された武器類を一時的に保管する部屋へ持って行こうとするのを見た俺は

「それじゃ」

と言ってカウンターから立ち去ろうとするが

「ジョージ曹長、ちょっと待ってください」

軍曹が俺に声を掛けてきた。

踵を返そうとした俺が再びカウンターの前へ向きを代えると、武器類の一時保管室から出てきた軍曹が

「曹長に受け取ってもらう物がありますので、もう暫く待って下さい」

と言って別の部屋に入っていく。次に軍曹が姿を現すと手には外観は合成革張りの黒いギターケースが握られていた。

それを目にした俺が呆気に取られた表情を浮かべていると

「中身はギターじゃありません」

軍曹は初めて悪戯っ子のような笑みを浮かべると、ギターケースの蓋を開けて見せると型抜きされたウレタン樹脂のクッションに収められたライフルスコープとバイポットが装着されているボルトアクションライフル銃1丁と1個のマガジンが見えた。

「使用する弾薬は?」

俺は軍曹に尋ねてみると

「詳細は分かりませんが、このライフル銃の受領書にサインが終わりましたら司令室へ向うように言われております」

軍曹が俺に向かって敬礼をしながら言ってくるので

「了解した」

と俺も敬礼を返しながら不審そうに答えて、受領書に受け取りのサインを済ませるとギターケースを左手で持ってオフィスを後にした。

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