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アヴィアーノ空軍基地内屋外射撃レンジの25メートル射程となっている射座に着いた俺は、射座に備え付けられた木製テーブルにバックパックの底に仕舞っておいたコルト社製のコンバット・ユニット・レイル拳銃を収納しているナイロン製ソフトケース、更に10発の45ACP弾薬が装填できるウィルソン・コンバット社製のマガジン4本が納められたソフトケースと基地から支給されたボール紙製の箱に入っている45ACP弾薬100発、更にイヤーマフラーを置いた。
コンバット・ユニット・レイル拳銃が収納されているソフトケースのファスナーを開けてコンバット・ユニット・レイル拳銃を取り出し、拳銃のグリップ左側にあるマガジンキャッチボタンを押して45ACP弾薬が装填されていない空のウィルソン・コンバット社製のマガジンを取り出す。
次いで、マガジン4本が収納されているソフトケースからも全てのマガジンを取り出して、5本のマガジンにアヴィアーノ空軍基地から支給された45ACP弾薬を1発ずつ装填していった。
「700ポイント・ピストル・アグリゲート」の全ステージを練習するには70発の弾薬が必要となり、目の前に準備したマガジンは5本なので50発分の45ACP弾薬しかなく20発分が足りなくなっているが、「700ポイント・ピストル・アグリゲート」のテストにおいてもマガジンへ保弾する時間は与えられているのでステージが後半となるニーリングとプローンのポジションを行う前に2本のマガジンへ45ACP弾薬を保弾すれば良い。因みに、戦場等の実践では拳銃の予備マガジンは4本程度しか携行する事がなく、それはメインウェポンとなるアサルトライフル銃の予備マガジンも4本くらいは携行することになり、それ以外にも作戦に応じた装備を携行するとなれば結構な量の物資を1人の兵士が携行することになり、過度な物資を携行するのは兵士自体の機動力が落ちてしまう結果を招くことになる。
5本のマガジン全てに45ACP弾薬を装填し終えた俺は、テーブルの上に置いているコンバット・ユニット・レイル拳銃を左手に、そして5本のマガジンから1本のマガジンを右手で持ってコンバット・ユニット・レイル拳銃に装填する。
装填したマガジンが、確実にコンバット・ユニット・レイル拳銃のマガジンキャッチにロックされるよう右の掌でもって装填したマガジンの底を数度軽く叩いてみる。
比較的見受けられる例として、セミオートマチック拳銃にマガジンを装填した場合には「カチッ」という音が聞こえることで、拳銃に装填したマガジンがマガジンキャッチにロックされたのを確認するケースが多いが、銃撃戦の最中にマガジン交換をするような緊迫した場面でもなければ、装填したマガジンの底をウィーク・ハンドの掌で数度叩いてロックが確実に行われるようにした方が間違いない。
「カチッ」という音だけに頼ってしまうと、毎回とは言わないが状況によっては、マガジンにマガジンキャッチの掛かりが浅い場合があり、それに気付かずに拳銃を発砲した場合は、反動による衝撃でマガジンキャッチから外れたマガジンが拳銃から脱落するばかりか、マガジンの脱落によって撃ち終えた空薬莢を排出するために後退したスライドがマガジン最上部にある次弾をチャンバーへ装填することが出来なくなるので、続け様に拳銃を使用するのが不可能となってしまう。
コンバット・ユニット・レイル拳銃にマガジンが確実に装填されたところで、右手でテーブルの上に置かれている4本のマガジンのうち2本を、腰のベルトに装着していたマガジンポーチに1本ずつ差し込み30発の45ACP弾薬を携行した状態となったところで、テーブルの上にあるイヤーマフラーを装着する。
ウィルソン・コンバット社製の10連マガジンを装填したコンバット・ユニット・レイル拳銃を左手に持って射座のラインに立ち、右手をスライドに覆い被せるようにして握り右手を手前に引くと同時に、コンバット・ユニット・レイル拳銃を握っている左手を前方へ押し出してやる。映画やドラマではセミオートマチック拳銃の弾薬装填でウィーク・ハンドの親指と人差し指でスライドの後部を摘まむようにして後方へ引くスリングショット・メソッドで行っている場面が見受けられるが、22口径や25口径の比較的威力が小さい弾薬を使用する拳銃ならいざ知らず、45ACP弾薬のような威力のある弾薬を使用するセミオートマチック拳銃では、発砲によって勢い良く後退するスライド等が破損することのないよう発砲のショックを受け止める為のリコイルスプリングというバネが相当に固い物が使用されており、大人の男性がスリングショット・メソッドによってスライドを動かすという真似は映画やドラマのように張力が弱いブランク・ガンや元から弱いスプリングを取り付けているモデル・ガンでもなければ出来ることではない。
コンバット・ユニット・レイル拳銃のスライドを後方へ引いて、スライドに被せていた右手を離すとスライドはリコイルスプリングの力によって素早く前進して、マガジン最上部にある45ACP弾薬をチャンバーへ送り込み発砲可能な状態となる。利き手の人差し指はトリガーに触れずに真っ直ぐに伸ばしているが、俺は左手の親指でマニュアル・セーフティを操作してコンデション1という暴発の危険性がない状態となるよう安全装置を掛ける。なお、セミオートマチック拳銃においてチャンバーに弾薬が装填された状態でセーフティを掛けていない状態にしているのをコンデション0と言い、この状態では故意でなくともトリガーを引いてしまえば確実に拳銃は発砲されることになる。
近年、米軍でも制式採用されたM17やM18等のストライカー撃発方式のセミオートマチック拳銃では、ファイヤリングピン・ブロックというトリガーを引いた状態を維持しなければファイヤリングピンが前進しない機構を取り入れて暴発の危険性が少ないとされているが、それでも一部ではマニュアル・セーフティが備えられていない事で危険性があると主張している声があるのも事実である。ただし、米軍採用のM17やM18にはファイヤリングピン・ブロックに加えてマニュアル・セーフティも備え付けられて安全性を確保している。
射撃ライン上で俺は、呼吸を整えリラックスするように肩の力を抜き地面に銃口を向けていたコンバット・ユニット・レイル拳銃をターゲット方向へ引き上げ、銃口がターゲットへ向く少し前でマニュアル・セーフティを左手の親指でオフにし、コンバット・ユニット・レイル拳銃を握っている左手に覆い被せるように右手を添える。
顔はターゲット方向へ向け、両目でターゲットの黒円を捉えているように見えるが正確には利き目である左目でターゲットを注視して、そこにコンバット・ユニット・レイル拳銃のリアサイトであるノバック・タイプで夜間等では、蛍光グリーンに輝く2つのドットの間に位置するスリット越しに、同じく夜間に蛍光グリーンに光るドットを備えたフロントサイトを捉え、フロントサイトのドットとリアサイトの2つのドットが横一直線に並んだ状態で、ターゲットの黒円のセンターを3つのドットが並んだセンター上方に置いて、トリガーを一定のテンポで引き始める。
最初の5発まではターゲットの黒円である10点圏内に着弾したので、内心で今日は調子良く着弾が纏められハイスコアに出来ると気分を良くした瞬間に、トリガーを引くテンポが乱れて4発続けて9点圏に着弾が外れてしまった。
そこで、ズレたタイミングを取り戻す意味も含めて10発目の45ACP弾薬がチャンバーへ送り込まれた時点で、左手を覆っていた右手を腰のマガジンポーチへ伸ばして予備のマガジン1本を引き抜くと、トリガーに掛けていた左手の人差し指をトリガーから離してから折り曲げてマガジンキャッチボタンを押す、コンバット・ユニット・レイル拳銃に装填されていた空のマガジンは自重によって落下するので予備マガジンを持っている右手で空マガジンを受け止めると、そのまま予備マガジンをコンバット・ユニット・レイル拳銃のマガジン挿入口へ差し込む。
予備マガジンの上部がコンバット・ユニット・レイル拳銃のマガジン挿入口に装着しているマグウェルというパーツに当たるが、そのままマグウェルに導かれて予備マガジンはマガジン挿入口へ入り込む。「カチッ」というマガジンキャッチがロックした音を耳にするが、実践ではないので右手の掌で予備マガジンの底を数回叩いてマガジンキャッチのロックを確実にしてから、再び右手を左手へ覆い被せてターゲットの黒円に狙いを定めてトリガーを再び引き始める。
俺が選んだコルト社のコンバット・ユニット・レイル拳銃は、元々海兵隊が採用した同型のM45A1を市販するために作られたモデルとなっている。ならば、最初からM45A1を選べば良さそうなものなのだが、コンバット・ユニット・レイル拳銃とM45A1には幾つかの違いがあり、その違う部分があったのでM45A1ではなくコンバット・ユニット・レイル拳銃を選択したのだ。
違いの1つ目は、グリップにありM45A1はグリップのフロント部がスムーズになっており、海兵隊員ならばグローブを着用してM45A1を握るので問題がないのだろうが、俺の場合は任務の性質上として素手で拳銃を使用するケースもあり、グリップのフロント部分にもチェッカリング等の滑り止めが施されてないのは左手が発汗していたり、水に浸って濡れているような場合には滑ってしまいグリップが安定しない。その点、コンバット・ユニット・レイル拳銃にはグリップのフロント部に25LPIと言って1インチの幅に25本の刻みを付けたチェッカリングが備わって滑り止めとなっている。M45A1にもコルト社から納品された後に、クワンティンコ海兵隊基地に居るガンスミスに加工を依頼すれば済むように思えるが、M45A1は銃器の表面加工としてイオンボンドコーティングという化学的な処理が施されているので、仮にグリップのフロントへチェッカリングを加工しても再び表面加工も行わなければならず手間も時間も掛かってしまう。なお、M45A1は制式採用時において表面処理が特殊焼付け塗装のセラコーティングとなっていたが、海兵隊が要望する性能とするためにイオンボンドコーティングへ変更され、見た目もセラコーティングされていた時には明るめなサンドカラーとなっていたが、イオンボンドコーティングされてからは暗めなメタルぽい茶色といった感じに変わっている。
また、M45A1にはグリップ底面にランヤードリングという部品が装着されているので、そのためマグウェルという部品が取り付けられていないが、そもそも俺は落下防止用に使用するランヤードリングは使わないばかりか、夜間や暗所での拳銃使用となる場面を想定すれば、マガジン交換時にガイドとなるマグウェルが装着されている方が使い勝手があり、コンバット・ユニット・レイル拳銃には45ACP弾薬使用のモデルになってしまうがマグウェルが標準装備されている。
ただし、そんなコンバット・ユニット・レイル拳銃でも2箇所だけは使い勝手を改善する意味でパーツを交換してもらっており、1つはリアサイトに暗所使用時に蛍光グリーンに発光するナイトサイト仕様への交換なのだが、コンバット・ユニット・レイル拳銃は納品状態ではリアサイトがナイトサイト仕様となってはおらず白点すら備わっておらず、フロントサイトのみがナイトサイト仕様なっているので、やはり正確なサイティングを行うのには3ドットが望ましいと俺は考えているので、ナイトサイト仕様のノバックタイプに交換してもらっているほか、納品状態のマニュアル・セーフティもレバーが左側にしかなかったので、左利きである俺の使い勝手を良くする意味で両サイドにレバーが備わっているアンビデクストラス仕様に変更してもらっている。
なお、これはM45A1とコンバット・ユニット・レイル拳銃の両方に共通する点なのだがフルーム前方のダストカバーと言われる部分にライトやレーザー照準デバイスを取り付けられるようにレイルが備わっているが、そのレイル部分の前方からトリガーガード手前まで走っている溝の幅が、同じレイル付きの1911モデルの幅と比較して若干だが広くなっており、その影響でダストカバーの厚みがあることで前方に重量が集まるのでフロントヘビーな状態となっている。拳銃を秘匿携行するにあっては少しでも重量が軽い方が有利ではあるが、重量が前方に集中してフロントヘビーとなれば拳銃を発砲した際に生じる反動によって、銃口も上方へ持ち上がるマズルジャンプを重量増によって少しでも抑制してくれる利点がある。
セミオートマチック拳銃におけるマズルジャンプは、発砲による反動で生じることになるが必ずしも上方のみへ働くわけではなく、拳銃の後方寄りの全方位に向けて発生しているのだが、セミオートマチック拳銃では発砲直後に空となった薬莢を拳銃の外へ排出するためにスライドが高速で後退する。その場合、後退するスライドは前方部分が空洞となっているので軽量なのだが、エジェクションポートから後方にはブリーチを始めとして重量物が集中しているので、スライドが高速で後退した場合には後方へ向けて慣性の力が働いた時に、人間の手首は後方へ動くようにはなっていないので、どうしても手首を中心に手が反り返ることとなり、その動きに連動して銃口が上方へ持ち上がるのである。
4本のマガジンが全て空になった時点で、2本のマガジンに45ACP弾薬を装填しながら70発の45ACP弾をNRA B8ターゲットへ発砲し終えたが、肝心のスコアは686点であった。
テストには合格するレベルのスコアではあるものの、ウィーク・ハンドである右手で発砲した際に2発を7点圏、1発を8点圏に外して2発は黒円内の9点であったのが今後の課題と言える。俺の場合は、利き目が左で利き手も左なのでストロング・ハンドで拳銃を握った時には構えが安定してコンスタントに黒円内に弾丸を送り込めるのだが、どうしてもウィーク・ハンドである右手で拳銃を握ると利き目である左目でアジャストできずに構えが不安定になり着弾が広がってしまう。




