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デルタのスナイパー  作者: 二条路恭平


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死体袋の中にあるドライアイスの入れ替え作業が完了し、昨夜のうちに作成されたケースに死体袋を収納すると、コーディネーターは蓋の前面に備え付けられているダイヤル錠をデタラメに回してロックを掛け、次いで蓋の合わせ目に英語とフランス語で「封印」と記載されたシールを数枚丁寧に貼り付けた。

これで、パッと見は厳重に梱包されている軍事物資のようにしか見えない。「封印」のシールをケースの合わせ目に貼り終えたコーディネーターは、自らが乗ってきた車の助手席からアタッシュケースを取り出すとケースの中から、A4サイズの厚さ2センチメートルくらいはありそうな書類の束を俺達の方へ差し出し

「これが、この荷物が米軍に納入される軍事部品である事をイタリア政府及び欧州連合事務局からの事前了承を得ている内容物である事を証明するとした偽造書類となっています。ご承知のように幾ら偽造とは言っても書類型式は完全に正規の書類と同じ様式ですので、この書類が偽造書類である事を見破れるのはCIA等のような機密情報機関に属する人間でもなければ不可能と言えます。なのでイタリアへの入国審査が行われる際、入国審査官へ提示すれば間違いなく梱包された中身を調べれる事なくイタリアへ入国できます」

そう説明するのを聞いて最もコーディネーターの近くにいたオペレーターの1人が書類を受け取る。するとコーディネーターは再びアタッシュケースからA4サイズの用紙を折ることなく入れられるクラフト封筒を取り出して

「こちらには、皆さんの米軍における偽造IDカードと先程ケースに収納した死体袋を機密軍事物資としてアヴィアーノ空軍基地へ輸送する内容が軍事作戦である事を示す作戦指令書です。ちなみに、同じ内容の物は先程渡した書類にもコピーが綴じ込まれています」

そうコーディネーターが言うと、クラフト封筒からキャッシュカード大のIDカード7枚を取り出し、オペレーター1人ずつに顔写真を確認の上で手渡していく。

受け取った俺のIDカードを見ると、顔写真は確かに俺が持っている本物のIDカードに貼付されている写真を使用しているようだが氏名は本名と違っているばかりか、俺達デルタフォースは米陸軍の所属なのだが米空軍所属となっており階級だけが実際の階級となっている。その偽造IDカードを羽織っているブルゾンにポエットへ仕舞い、更にコーディネーターから架空の作戦指令書も受け取る。

7人のオペレーターに偽造IDカードと架空の作戦指令書を配り終えたコーディネーターが

「それでは、ここで私は失礼します。皆さん、朝食は未だかと思いますが何処かで適宜摂るようにしてください。ただし、作戦指令書に記載されているので、後程確認して欲しいのですが9時30分頃までにはイタリアの入国手続きを行うように記されていますので、くれぐれも遅れる事のないように行動してください」

コーディネーターは、それだけ言うと自らが乗って来た車に乗り込み、あっという間に静けさに包まれたモナコの街中に消えて行った。

奴もCIAの特殊要員としての生活を送っているので、俺達の世話をするミッションが完了すれば別の場所へ移動して新たなミッションに従事するのだろうから、数日間とは言え共に行動した俺達に対して特別な感情を抱いて1人ずつハグする様な真似をしていられないだろう。

その点に関しては、ここに居る7人のオペレーターについても同様で一時は同じミッションで行動を共にしてはいるが、ミッションが終了してしまえば次の日には他人のような顔をして何処かで擦れ違う事があっても声を掛けるような真似は一切しない。一見ドライなように見えるかもしれないが、デルタフォースに配属されて高度に政治的なミッションに従事する立場となり、軍隊と言えども集団行動を取る機会が少ないオペレーターからすれば日常であり、いちいち関わったミッションで一緒になったからと言って友情等の感情を抱いていては身が持たないだけでなく、下手をすれば互いの命にも関わる事になる。

各自が手荷物であるバックパックを提げて2台のレンタカーに乗り込むと、アジトとしていたマンションの地下駐車場を出発した。

モナコグランプリの今日予定されているプログラムがスタートしておらず、加えて昨夜の船舶火災で深夜まで騒がしかったモナコの街中は未だ眠りに就いているようで静けさに包まれているので、車を走行させていても渋滞等に嵌ることなく順調にモナコ公国とイタリアの国境検問へ向かう事ができた。しかし、マンションの地下駐車場を出発したのは朝の7時頃なので国土面積が狭いモナコ公国の国境に車で向かえば30分も掛からずに到着してしまう。更に、眠りから覚醒してきた身体は空腹感を覚えてきたので、食糧を調達したいのだがモナコ公国にはコンビニ等はなく食糧の調達はスーパーマーケットかマルシェを利用することなるが、開店時間は早くても8時30分からとなっているので、国境へ向かっていた進路であったが無駄を覚悟で街中へ引き返すことにする。

時計の針が8時30分少し手前を示した頃、車内から目に付いたスーパーを見付けて店先に車を停めると時計の針が10分以上も過ぎた頃になって店がオープンする。

俺を含めた7人のオペレーターが揃って車を降りて店内に入ってみるが、モナコグランプリの影響で道路事情が悪いため仕入れが間に合っていないのか店内の品数は大して多くはない。

しかも店が開店して間もないという事もありデリカテッセンすら未だ陳列されていない状況で、仕方がないのでバゲットとソーセージを1本ずつ、それと紙パック入りのオレンジジュースを各自が購入して車内に戻って座席に着くと比較的行儀よく朝食を食べ始める。

朝食を摂り終えて、各自が食事によって生じたゴミの類はオペレーターの1人がバックパックから取り出したビニール袋に一纏めにして後部座席の下へ置くと、気付けば時刻が9時を過ぎていた。

俺が乗り込んでいるレンタカーを運転しているオペレーターは、運転席側の窓を降ろして隣に駐車している3人のオペレーターが乗車しているレンタカーに向かって国境へ直行する旨を伝え、スーパーマーケットの店先からレンタカーを発進させる。

9時を過ぎても未だ静かなモナコの街中なので、9時30分前にはモナコ公国とイタリアの出入国管理事務所へ到着する事が無事にできた。モナコ公国の出国手続きは予想通りスムーズに終えることができたのだが、想定していた通りにイタリアの入国手続きは結構な時間を要することになった。やはり、車のトランクに搭載した荷物の内容物を目視により確認できないので、担当した検査官はコーディネーターから渡された書類を全ページ念入りに確認したほか、アヴィアーノ空軍基地へ電話照会を行ったりで入国手続きを終えたのは11時を過ぎた頃であった。

予想していたよりも長い時間に渡って入国管理事務所で足止めされていたためにストレスが溜まっていた為か、イタリアへの入国許可が下りてアヴィアーノ空軍基地へ向かう際には、レンタカーを運転したオペレーターは2人とも結構なスピードを出してアヴィアーノ空軍基地を目指して走行したので、本来ならばモナコ公国の国境までは車で2時間以上は要するのも1時間半でアヴィアーノ空軍基地の正面ゲートに到着してしまった。

アヴィアーノ空軍基地内に入り基地司令と面会して、モナコにおけるミッション内容を報告したうえで回収してきたザフィーの死体と支給された銃器と残った弾薬を引き渡したが、俺達オペレーターのミッションは即終了とならずに死体のDNA検査によってザフィー本人であることが確認されるまでは基地内で待機するように基地司令から指示を受けた。

大西洋沖に展開している原子力空母ジョージ・ワシントンからDNA検査キットを携えた軍医がアヴィアーノ空軍基地に赴いて、DNA鑑定検査によって俺達7人が持ち帰った遺体が間違いなくザフィー本人であることが判明した段階をもって今回のミッションが終了となるそうだ。

そうなると必然的に、俺を含めた7人のデルタ・オペレーターは暇となりアヴィアーノ空軍基地では持て余すような事になりそうだが、俺達7人のオペレーターは基地司令に射撃訓練のために弾薬を支給して欲しい旨を申し出た。

デルタ・フォースは、一度配属となれば人事異動等による配置転換が行わなければ継続的に所属しているわけではなく、定期的にテストを受けてデルタ・オペレーターとしての適性を維持している事を証明しなければ直ぐに別の部隊へ転属させられる事になっている。

例えば、拳銃については射程距離25メートル先に直径15センチメートルの黒円が示されているNAR(全米ライフル協会:ナショナル・ライフル・アソシエーション・オブ・アメリカ)B8ターゲットに対してスタンディングのポジションからダブル・ハンド・ホールド(両手保持)で30発、ストロング・ハンド(利き手)で15発、ウィーク・ハンド(利き手と反対の手)から5発、ニーリング(膝立ち)のポジションとプローン(伏撃ち)のポジションから10発ずつを時間制限がある中で射撃して700点満点となる「700ポイント・ピストル・アグリゲート」をオペレーターに課しており、最低でも600~630点の成績を示さなければならない義務を負っている。

当然、俺も「700ポイント・ピストル・アグリゲート」の対象者となるほかスナイパーとしてのスキルも試させられるので、別途のテスト内容が課されスナイパーとしての力量も示さなければならない。

その為、俺も含めた7人のオペレーターも拳銃による射撃訓練を行うために各自のバックパックには支給されている1911モデルの拳銃がナイロン製のソフトケースに収納されて入っているほか、別のナイロンケースには4本の予備マガジンも入っている。ただし、通常の1911モデルに使用されるマガジンは8発の45ACP弾薬しか装填できないが、そうなると「700ポイント・ピストル・アグリゲート」等を行う際には、射撃中にマガジン交換を頻繁に行う必要があるばかりか最低でも8本の予備マガジンを準備しておく必要があり時間制限のあるテストを受験するには余りにも効率が悪いので携行しているマガジンは全て10発の45ACP弾薬が装填できるウィルソン・コンバット社製のマガジンとしている。最もテスト以外にも実戦で使用する場合は、使用する1911拳銃には10発の45ACP弾薬がある状態となるメリットもあるのだが・・・。

ペーパーターゲットであるNRA B8ターゲットは、15センチメートルの黒円が10点と9点になっているので黒円内へ如何に集弾させる事ができるかが高得点を得る為のポイントになるほか、特に両手保持によるダブル・ハンド・ホールドでは10点圏を外すようでは総合ポイントで600点以上を獲得するのは困難であると言える。更に、失点が多いのはウィーク・ハンドによる5発となりターゲットの最も外側が7点となっているので、その7点圏を外してしまえばポイントはゼロとなってしまう。

その為、基地司令に射撃訓練に使用する45ACP弾薬の支給を申し出たのだが、最近米軍ハンドガンとして制式採用されたのは、9×19ミリメートル弾薬を使用する米国法人のシグ・ザウェル社が開発したポリマーフレームでストライカー撃発方式となっているP320拳銃(米軍制式採用後は、米軍に納入された物はM17及びM18と呼称され拳銃のスライド部分の刻印もM17やM18とされている)のため9×19ミリメートル弾薬の在庫は豊富にあるが、45ACP弾薬となると9×19ミリメートル弾薬とは違い、ヨーロッパでは45ACP弾薬を使用する拳銃がメジャーではないので需要が少なく弾薬の流通量も少量なのでアヴィアーノ空軍基地の在庫も決して多くはない。

故に、基地司令からは各自に支給するのは100発までとされてしまった。1人100発では1日で消費してしまう弾薬量ではあるが、死体となったザフィーのDNA検査結果が判明するのに1週間以上も時間を要する事にはならないだろうし、俺達オペレーターがアヴィアーノ空軍基地に留め置かれるのも2~3日程度かと思えるので、基地司令からの1人100発という45ACP弾薬支給制限を受け入れる事として100発の45ACP弾薬を各自が受け取りアヴィアーノ空軍基地の屋外射場へ向かった。

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