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デルタのスナイパー  作者: 二条路恭平


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駐留施設の食堂で、俺を含めた7人のデルタ・フォースのオペレーターが早目の夕食を摂っている。この夕食が終われば、各自が出撃準備が整い次第、駐留施設に配備されている米国コネティカット州ストラトフォードに本社を置くヘリコプター製造メーカーのシコルスキー・エアクラフト社製UH-60ブラックホーク多目的ヘリコプターに搭乗してターゲットが潜伏していると思われる建物から2キロメートル離れた地点で降ろされて急襲作戦が実行されるのだ。

このミッションでは、可能な限り短時間のうちに作戦内容を遂行するのを第一目標にしており、下手に時間を掛けてしまえば周辺に展開しているであろうターゲットの警護チームを集結させる事になり、そうなれば大掛かりな戦闘に発展しかねない。如何に我々が、デルタ・フォースという特殊部隊のオペレーターであったとしても7人だけで数十人を相手に戦闘を行っても、駐留施設から早期に援軍を差し向けてもらわねば不利な戦いを強いられるのは疑う余地がない。可成り危険度が高いミッションの前であるが、それぞれが今まで数多くの危険なミッションに従軍してきた経験から比較的大人しく黙々と夕食を胃に送り込んでいる。通常ならば実践を目前に控えた緊張で食欲が湧かないか、或いは無理に食事をしても極度の緊張で消化不良を起こして食べ終わって直ぐに嘔吐してしまうかもしれない。

夕食が終わったメンバーは、逐次食器を片付けて割り当てられたベッドのある部屋に赴いて行く。途中、昼間の勤務を終えた駐屯施設の連中が緊張感から解放された様子で燥いでいるが、それに目も暮れずに脇を通り過ぎる。

俺も、自分のベッドへ向かうと自分の荷物から支給されているフェイスペイントを取り出して顔中に黒い塗料を塗布していく。現代の戦闘ならば、暗視ゴーグルやサーモカメラ等があり如何に夜間での作戦と言えども、顔に黒いフェイスペイントを施すようなアナログ的な事をしても効果が薄いように思われるが、ターゲット側の連中が暗視ゴーグルやサーモカメラ等を必ず準備しているとは限らないし、仮に暗視ゴーグルを持っていたとしても夜間にターゲットを警護中に常時暗視ゴーグルを使用しているとは考えられない。特に、暗視ゴーグルは暗闇の空間で僅かな光を増幅して視界を確保する装置なので、逆に言えば強い光に対して脆いという弱点がある。例えば、暗視ゴーグルを使用時に車両のヘッドライトを浴びてしまうと、肉眼ならば眩しいと感じてもヘッドライトを見てしまった直後であっても視界を奪われるケースは少ないが、暗視ゴーグルを着用した状態で真面に車のヘッドライトを直視してしまえば、暗がりの状態で瞳孔が開き切っている状態となれば、使用中の暗視ゴーグルへライトの光が増幅されて網膜を直撃してしまうので、暗視ゴーグルを外しても暫くの間は視力が奪われてしまい通常の視界が確保できなくなってしまう。

準備が整った俺は、右手にSR25SASSセミオートライフル銃が収納されている専用ケースを提げて、左腰のホルスターには消音器を装着し10発の45ACP弾薬を装填したマガジンを入れたHK45CT拳銃を差し込んでいる。消音器を装着した関係で、HK45CT拳銃は即座にホルスターから抜き難くなってしまっているが、SR25M110SASSセミオートライフル銃で狙撃中に敵が近くから襲撃してきた際に、消音器を装着していないHK45CT拳銃を発砲しようものなら大きな発砲音を頼りにして多くの敵を呼び込む事となり、近場に遮蔽物となる岩場でもあれば別だが、そうでなければ俺は恰好の標的となって全身が蜂の巣となってしまうので、こればかりは仕方がない。

更に銃器以外の装備として、ベルトには左腰脇にはシースに入れた刃渡り145ミリメートルのコンバットナイフ1本、右腰前部には10発の45ACP弾薬を装填しているHK45CT用の予備マガジン2本を専用のマガジンポーチに、右腰後部には20発の7.62×51ミリメートル弾薬を装填済みのSR25M110SASSセミオートライフル銃用マガジン2本も専用マガジンポーチへ差し込んで装着している。

加えて、黒色のライフル弾対応高性能防弾ヘルメットを被り、喉に装着して使用する無線用の咽喉マイクも装着する。

その様な出で立ちでヘリポートへ向かうと、6人のオペレーター達も一様に俺と同じような装備をしているが、唯一の違いと言えばメインアームとしてMP7A1を使用するのでMP7A1にスリングベルトを取り付けて首からぶら下げ胸の前に位置させているのと4.6×30ミリメートル弾薬40発を装填したマガジン4本を腰のベルトに専用のマガジンポーチに差し込んで準備し、防弾ヘルメットにはオフセットの暗視ゴーグルを装着して上に持ち上げているくらいであった。ちなみに、俺は防弾ヘルメットにはオフセットの暗視ゴーグルは装着していない。SR25M110SASSセミオートライフル銃にはサイトシステムとしてデジタルナイトビジョンスコープを装着しているので、敢えて暗視ゴーグルを使用する必要性が少なく、今回のミッションでは基本的に単独行動となるので防弾ヘルメットに暗視ゴーグルを装着しても邪魔になるだけである。

ヘリポートで駐機しているUH-60ブラックホーク多目的ヘリコプターに集結した俺を含めた7人のオペレーターは、全員が顔に黒いフェイスペイントを施しているので新月の暗がりでは白目部分だけが異様に目立って不気味な感じがする。メインローターがアイドリング状態で回転して強風が吹き荒れているような状態のなか、UH-60ブラックホーク多目的ヘリコプターの後部搭乗ハッチを開けて機内灯が点灯しているUH-60ブラックホーク多目的ヘリコプターに7人のオペレーターが乗り込み、全員が搭乗すると機内灯は消灯されてメインローターの回転速度が徐々に早くなり、比較的静かにUH-60ブラックホーク多目的ヘリコプターの機体が浮き上がり出すと、暗闇の空へ向けてUH-60ブラックホーク多目的ヘリコプターは離陸した。

比較的乾いた夜風が吹き込んでくるUH-60ブラックホーク多目的ヘリコプターの機内は、ローターのエンジン音も重なり可成り煩く通常の会話も儘ならないので、どうしても無線の世話になるが、駐屯施設のヘリポートを離陸して大した時間も立たぬうちにUH-60ブラックホーク多目的ヘリコプターの機長が無線を通して

「あと15分で降下ポイントに到着するので、各自降下準備をしろ」

と指示してくる。今回のミッションでは俺達を送迎するUH-60ブラックホーク多目的ヘリコプターは、ターゲットが潜伏している建物から2キロメートル離れた砂漠地帯で地上1メートルくらいの高さでホバリングしている状態から俺達は地上へ飛び降りて降下する事となっている。これは、ターゲットが潜伏している建物から2キロメートルも離れていてもUH-60ブラックホーク多目的ヘリコプターの飛行音が微かであっても聞かれてしまうなかで、UH-60ブラックホーク多目的ヘリコプターが地上に着陸する際にはメインローターの回転速度が遅くなることで、多少なりともメインローターの回転音が小さくなる事で相手にヘリコプターが着陸した事を悟られる可能性を排除するためメインローターの回転速度を低下させないためである。

UH-60ブラックホーク多目的ヘリコプターは、最初から低空を飛行していたので降下ポイントまで高度を下げるのも大した時間を必要とせずに地表へ接近したが、搭乗ハッチを開けてみても暗闇では地面が良く分からない。地面を目視できる昼間ならば1メートルの高さからの降下であっても膝のクッションを充分に効かせて負傷することなくできるのだが、今の状態では目視が難しい状態では早めに膝のクッションを使えるように対応しなければ地上に降下した時点で強いショックを受ける事になるので、油断していると骨折や捻挫をしてしまう。今回は、俺以外のオペレーターは比較的軽い装備なので問題は少ないが、俺の場合はSR25M110SASSセミオートライフル銃を収納している専用ケースを持っており重量にして8キログラムの重さがあるので注意が必要と言える。

高さ1メートルでホバリングを始めたUH-60ブラックホーク多目的ヘリコプターから装備品が少ない6人が次々に降下して、俺が一番最後に降下し右手に持っているSR25M110SASSセミオートライフル銃専用ケースが可能な限り地面と平行に接地するよう注意して飛び降りた。

上から吹き下ろす強風の中で、SR25M110SASSセミオートライフル銃専用ケースも使って膝のクッションを効かせて着地したつもりであったが、着地のショックで尻餅を着いてしまった。先に降下した2人のオペレーターが俺の両脇に手を通りして引き起こして左側に居るオペレーターが大声で

「大丈夫か?」

と聞いてくるので、俺は黙って左手の親指を立ててサインを送る。

俺のサインを見たオペレーターが

「全員、降下完了」

と無線でUH-60ブラックホーク多目的ヘリコプターの機長へ報告すると、ホバリングの時よりも幾らかメインローターの回転速度が上がり闇夜の空へ溶け込むようにUH-60ブラックホーク多目的ヘリコプターが上昇していく。しかし、地上に居る俺達はUH-60ブラックホーク多目的ヘリコプターのメインローターが巻き上げる砂埃のために両目を開けていられないし、巻き上げられた砂埃に交じって飛んでくる小さな石礫が顔中に当たって痛い思いをする。

最初は、普通の会話ができない程のローター音も徐々に弱くなり下降気流も収まり始め、舞い上がっていた砂埃が落ち着くとオペレーターの1人が胸ポケットから携帯電話を取り出して起動させると地図情報が確認できるアプリケーションを使ってターゲットが潜伏している建物の方角を確認する。最も、新月と言っても夜空に瞬く星が見えないわけではないので、見えている星を頼りに方角を特定する事も可能なのだが、利用できる機器は最大限に使った方が確実性を担保できる。

携帯電話を使って方角を確認していたオペレーターが、右手で行き先を示して「こっちだ」というのを聞いて俺を含めた6人は歩を進めた。

周囲に敵が居ないかを注意しながら歩くので、今から20分か30分も歩けばターゲットが潜伏している建物に到着する事になる。ただし、実際に6人のオペレーターが建物内に突入するのは、途中から別行動となる俺が狙撃ポイントに到着して合図である「フクロウが巣に戻った」と暗号を送ってから突入開始となるので、ターゲットへの襲撃までは少なくとも1時間以内に始まることになる。

UH-60ブラックホーク多目的ヘリコプターから降下して歩き始めて10分くらい経過した辺りで、俺は咽喉マイクの無線を通して

「ここから別行動して狙撃ポイントへ移動する」

と告げ1人別ルートを取り始める。

他の6人は、俺の無線を聞いて一斉に俺の方へ視線を向けてくるが黒塗りのフェイスペイントで6人全員分の白目が俺に向けられるのが分かるとしても表情や頷いているのかまでは判別できない。

仲間から少し離れた所で、俺も胸ポケットに仕舞っていた携帯電話を取り出して電源をオンにして、地図専用のアプリケーションを起動させて狙撃ポイントの位置を確認する。向かっている方向に間違いはないが、ここからは1人での行動となるので充分に周囲を警戒しながら狙撃ポイントへ向かう事になる。

狙撃ポイントへ向かう途中で、アラビアオオカミだろうか2つの光る眼を30メートルくらい離れた所で見掛け、もしアラビアオオカミが襲ってきた場合にはHK45CT拳銃を使用しなければと思って左手をグリップに掛けていたが、アラビアオオカミの方も俺が携行している銃器の匂いを感じ取ったのか一目散に逃げて行った。

余計な銃声を響かせる必要な無くなった事でホッとしたところで、気が付いたのだが俺は丘の上からの狙撃なので、俺は別行動となってから丘を登るものと思っていたのだが、まるで丘のような場所に辿り着かない気付かぬうちに方向を間違えたのではと焦って携帯電話を胸ポケットから出して地図情報を確認するが指定されている狙撃ポイントの方向には間違いなく進んでいるので、UH-60ブラックホーク多目的ヘリコプターがホバリングをして場所からして丘の頂上で、他の6人は俺が別行動を取った後に丘を下り降りてターゲットの潜伏先にアプローチをしていると確証した。

暫く歩いていると目の前が崖の突端に立っているように地面が見えなくなっている。地面が無くなっている下方向へ視線を向けると、100メートル程先に窓らしき部分から明かりが漏れているように見える。

恐らく俺が見ている明かりが漏れているのが、ターゲットが潜伏している建物なのだろう。それが分かった俺は、周囲を見渡してターゲットを護衛している連中が迫って来た際、銃撃戦となっても弾除けとなってくれる遮蔽物の岩がないかを探してみる。

幸いにも、10メートルくらい先に比較的大きな岩を見付ける事ができたので、その岩へ近付いて2メートルくらいの距離で改めて岩を観察すると、その岩は俺が屈んだ状態で隠れるくらいの大きさしか無い事が分かったが、まるっきり遮蔽物がないよりもマシと判断して更に近寄ると「シュー」という音を耳にした。

俺は、注意深く岩の下部辺りに目を凝らして観察すると蛇らしき動物が鎌首を上げているのが見えた。仕方がないので左腰のホルスターからHK45CTを抜いて2発の45ACP弾を速射した。少なくとも2発のうち1発は確実に蛇に命中したようで、蛇くらいの動物にはオーバーキルと言える45ACP弾が被弾した蛇は胴体が真っ二つに千切れていた。

45ACP弾を2発速射したHK45CTのグリップ上部にあるレバーを下側へ倒して起きているハンマーをデッコクして暴発の危険がない位置まで倒してからホルスターへ仕舞い、死んだ蛇の近くに寄って見ると暗がりなので確実に断定できないが鎌首を上げていたのはカーペットバイパーという毒蛇のように感じた。カーペットバイパーは、その名前に似合わず非常に攻撃的で人間が近寄ると容赦なく咬みついてくる凶暴さがあり、毒の強さもコブラの5倍と言われるくらいに強力で、咬みつかれた場合の死亡率も高い。

それが分かった俺は、気付かずにSR25M110SASSセミオートライフル銃を組み立てて狙撃準備が完了して腹這いとなるプローンの姿勢となってターゲットの建物方向を狙っている最中に、このカーペットバイパーからの攻撃を受けていたら一溜まりもなかったと思い背筋が寒くなってきた。

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