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銃器のゼロインについては、拳銃であれライフル銃であろうが各種のサイトシステムを使って狙点を一定とした状態で複数発を発砲することになる。銃器に関する知識に疎い人からすれば、如何なるサイトシステムであっても狙った狙点に初弾で命中すれば充分と感じるかもしれないが、ゼロインで重要なのは初弾で狙点に命中することなのではなく発砲した複数の弾痕が如何に狙点近くに集弾しているかが最も重要になる。
軍におけるスナイパー訓練を数カ月間にも及ぶ訓練を受けた俺であっても、如何に理論上理想的な状態で組み上げられた狙撃銃だとしても最終的にアクセスするのは、機械ではなく不確定要素が内在している人間なので毎回発砲の度に同一の状態にして銃器を扱えるわけではない。仮に、風向や風速等の自然的な条件を無視したとしても弾丸が着弾する位置は、バレルから弾丸が跳び出した瞬間に銃口が向けられてた方向以外に飛んでいく事は有り得ない。しかしながら、銃器を発砲した際に発生する反動は、弾薬のケースから弾丸が跳び出した瞬間の第一次リコイルから始まる現象なので、バレル長が比較的短い拳銃ならば影響を受けるなも小さいと言えるが、バレル長が長いライフル銃等では第一次リコイルが発生する事によって銃口が狙点から僅かに外れた状態となり、その時点では弾丸がバレル内を移動している最中で、結果として弾丸が銃口から飛び出した時には狙点から外れた状態で射出されるので狙った位置には着弾する事はない。
そのためスナイパー養成訓練ではリコイルへの対処を上下方向にするのではなく極力前後方向にコントロールするようにして銃口と狙点との乖離を少なくするようにしている。それでも機械ではない人間が行う事で、しかも1秒以内に起こる一瞬の事象を常に同一の状態で行う事は不可能に近いため初弾命中が如何に難しいばかりか、複数発が全て同一箇所に命中するワンホール等が如何に非現実的な事かが分かるというものだ。
20発の7.62×51ミリメートル弾薬を消費して1MOA以下に集弾させる状態にまでなったところで、SR25M110SASSセミオートライフル銃に装着したデジタルナイトビジョンスコープのゼロインを一旦は完了としたが、陽が暮れて夜となってから100ヤードの距離でSR25M110SASSセミオートライフル銃の習熟射撃をしてみなければならない。
今回のミッションでは、俺が待機する場所はターゲットが潜伏している建物から約100ヤード離れた丘の上となる。ライフル銃の狙撃距離としては比較的短距離と言える部類だが、今回のミッションが実行されるのは昼間ではなく新月の夜間となるので、実際に狙撃を行う場合にターゲット近くの状況が目視できないので風がどの様な状態なのかを把握するのは困難と言え、唯一把握できるのは自分の肌で感知する情報以外にはない事とターゲットの周囲が見え辛いので発砲のタイミングを的確に把握し難いといった点が、ミッション遂行の難易度を上げている。
発砲のタイミングについては、実際に現地へ行ってみなければ何とも言えないが、風等の情報については地形的な諸条件が違ったとしても実際に駐留施設内の射場で、習熟射撃で経験して自らの感覚を慣らしておく必要があるし、デジタルナイトビジョンスコープも昼間に使用するのは見え方が当然違う。通常、昼間に使用するスコープならば肉眼で見ているのと同様にフルカラー状態で見ることができるが、デジタルナイトビジョンスコープの場合は赤外線を利用して見ることとなるので、接眼レンズに映し出される画像は白黒写真のように単色の映像となり見え方は相当違ってくる。
駐留施設で夕食を済ませた俺は、割り当てられたベッドへ向かいSR25M110SASSセミオートライフル銃が収納されている専用のケースを右手に提げて屋外射場へ向かった。
てっきり夜間の射撃練習は俺一人かと思っていたが、他の6人もMP7A1とHK45CTを携行して屋外射場に集まってきていた。ただし、6人のオペレーターはヘルメットを被っており、そのヘルメットにはオフセットで取り付けている暗視ゴーグルが見える。やはり、ターゲットの屋敷に急襲する彼等も暗視ゴーグルを着用して、実弾射撃を経験しない事には安心してミッションを遂行できないと判断したのだろう。
6人は、20ヤード(約18.29メートル)の射程となっている射場でヘルメットにオフセットした暗視ゴーグルを目の前に降ろしてHK45CTやMP7A1を構えるが、固定サイトやレッド・ダット・サイトを見ることなく射撃を行うポイント・シューティングで発砲してターゲットにしている人型のペーパーターゲットへ頭部やバイタルゾーン目掛けて数々の孔を開けている。
俺は、彼等から少し離れた100ヤード射程の射場へ向かい、SR25M11SASSセミオートライフル銃専用のケースを開けると、SR25M110SASSセミオートライフル銃はデジタルナイトビジョンスコープとバイポットが装着された状態のアッパー部分とロア部分に分離して収納されているので、それらを取り出すとロア部分前端にあるロアレシーバーにアッパー部分の突起を合わせて右側から固定用ピンを通して固定してから、アッパー部分の後部を倒すようにしてロア部分へ結合させて、ロアレシーバー後部上方にあって右側へ突き出ているテイクダウンピンを押し込む事でアッパー部分とロア部分を完全に結合して、SR25M110SASSセミオートライフル銃が銃器として機能するように組み立てる。
それから、ケースに収納されている専用の消音器を取り出してSR25SASSセミオートライフル銃のバレル先端部となるフラッシュハイダー側から消音器を被せるように差し込んでハンドガード手前のガスブロックまで届いた時点で、消音器基部で12時の方向に突き出している日本の神社で見るような鳥居の形をしたゲートラッチを押し込んで消音器をバレルに固定し、専用ケースから7.62×51ミリメートル弾薬が20発装填されているマガジンを取り出してSR25M110SASSセミオートライフル銃に装着する。
デジタルナイトビジョンスコープの対物レンズと接眼レンズを保護しているキャップを跳ね上げてから、ハンドガード下部から前方へ倒されているバイポッドの脚2本をそれぞれ下向きに起こしてから、射座に設置されている大きな木製のテーブルにSR25SASSセミオートライフル銃の銃口がターゲット方向へ向くようにして置いてから、俺はSR25SASSセミオートライフル銃の後方へ腹這いの恰好でテーブルの上に載る。
腹這いの状態で、デジタルナイトビジョンスコープの電源をオンにして起動させモードスイッチを操作して夜間仕様へ移行してから、デジタルナイトビジョンスコープを覗くと100ヤード先のマンターゲットは、薄い黄緑色だけの視界に黒い人型を浮き上がらせていた。仕方のない事ではあるが日中に通常のライフルスコープを覗いた時よりも格段に解像度が良いとは言えないが、だからと言って狙撃に支障を来たす程でもない。
右手の人差し指と中指をチャージングハンドの取っ手に掛けて後方へ引き、閉じていたエジェクションカバーがカチッという小さな音を立てて開いた後でチャージングハンドが後方へ動かせなった所で右手の人差し指と中指をチャージングハンドの取っ手から離すと、スプリングの作用でチャージングハンドと連動したバレルが前進してマガジン最上部にある7.62×51ミリメートル弾薬を前方へ押し出しチャンバーへ送り込み発砲の準備が整う。
改めてデジタルナイトビジョンスコープを覗いてマンターゲットの狙点を決めようと覗いているが、その間も俺の頬に感じている風は4時方向から10時方向へ微風が流れているように認識する。更に、昼間に行ったゼロインの距離からすると300ヤード(274.32メートル)の距離で、ほぼレティクルセンターを合わせた狙点近辺へ弾丸が送り込まれる筈なので100ヤードならば狙点よりも上方に着弾する。俺は、デジタルナイトビジョンスコープのレティクルセンターを俺から見てマンターゲットの右肩付け根付近へ合わせてトリガーを引いた。
ドンッというテレビの音量を大き目にした際に聞こえるような発砲音がして、直後にSR25M110SASSセミオートライフル銃のバットストックが左脇に向かって衝突してくる衝撃を感じるが、消音器先端部から弾丸が跳び出した後に見える筈のマズルフラッシュが殆ど見えない。これは、7.62×51ミリメートル弾薬の装薬がバレル内を弾丸が通過している間に完全燃焼した事を意味しているので、射出された弾丸は最大限の推進力を得てペーパーマンターゲットに向かって7.62弾が飛翔している事になる。
エジェクションポートから弾き出された空薬莢が木製テーブルの上に落ちてチャリンという乾いた金属音が響き、マガジンに装填されている2発目がチャンバーへ送り込まれると、俺はテーブルの上で上体を起こしてテーブルから降りると歩いてマンターゲットへ向かった。
どのみち、SR25M110SASSセミオートライフル銃の取扱いマニュアルには射撃訓練の際には、バレルや消音器は手で触れる事ができるような状態を保つように記載されているので焦って2発目を発砲する必要はないし、デジタルナイトビジョンスコープのゼロインが昼間に完了しているので複数発を発砲する意味もない。それに、今回支給されたSR25M110SASSセミオートライフル銃は納品されたばかりの物なのか、それとも以前に誰かが使用した物で銃器整備も担当しているヴァージニア州海兵隊クワンティコ基地でメンテナンス済みなのかを知る由もないが、少なくとも今回のミッション終了まではSR25M110SASSセミオートライフル銃本来の性能を可能な限り維持しておきたいので、夜間での狙撃習熟射撃ならば極力マニュアルを厳守して損はない。
100ヤード先のマンターゲットに着いてみると、7.62弾の弾痕はマンターゲット右側の耳たぶ付近に着弾した事を示す孔を確認することができた。上下方向は概ね想像通りの結果と言えるが、風の影響については思っていた以上に影響が少ない事が明らかとなった。今回のミッションで丘の上からの狙撃となるので平地でゼロインした場合なら、ターゲットをレティクルセンターで狙えば上方へ着弾する事になるので上下方向を調整するエレベーションダイヤルを若干下目に調整しておいても良さそうである。
踵を返して射座のテーブルへ戻った俺は、デジタルナイトビジョンスコープのエレベーションダイヤルを下目に1クリックだけ移動させた。それから再びテーブルの上に腹這いの状態で乗って10発の7.62×51ミリメートル弾薬をゆっくりとしたペースでマンターゲットへ向けて発砲してみた。
テーブルを降りてマンターゲットの前に行ってみると、マンターゲットの胸部中央に概ね1インチくらいに集弾している弾痕を確認できた。これで新月の夜間に、100ヤード離れた相手に命中弾を送り込める準備ができたようだ。本来ならば、更に撃ち込んで充分な経験を積んでおきたいところだが、過度に実弾射撃を行ってSR25M110SASSセミオートライフル銃に不要な負担を掛けて精度を落としたくないので、デジタルナイトビジョンスコープでの夜間習熟射撃は終了する事にした。
SR25M110SASSセミオートライフル銃から8発の7.62×51ミリメートル弾薬が残っているマガジンを外すし、チャージングハンドを引いてチャンバーに装填されている弾薬も取り去ってマガジンへ補弾してから、デジタルナイトビジョンスコープの対物レンズと接眼レンズに保護キャップを被せる。次いで、起こしていたバイポッドの脚を縮めてから前方へ倒して、消音器を固定していたゲートラッチを上方へ持ち上げてロックを解除して消音器をバレルから外すと夜間とは言え、発砲によって生じた煤がバレルと消音器がオーバーラップした部分に充満した影響で、バレル全体が塗装されたかのように黒くなっているのが肉眼でも分かる。ここの駐留施設に専用の銃器クリーニングギアは取り揃えていないだろうが、寝る前に可能な限りメンテナンスをする事にした。
米軍では、作戦遂行時や遠征訓練等で専用のメンテナンスギアが手元にない場合には制式採用しているメンテナンス用ガンオイルであるブレイク・フリー・CLPが各人に支給され、実弾射撃が終了した後には銃器の機関部がビショビショになるくらいブレイク・フリーを吹き付けて簡易的なメンテナンスを施している。通常のガンオイルで同様に吹き付けても銃器の作動が回復するケースが少ないのだが、ブレイク・フルーの場合は簡易的とは言っても吹き付けた後は暫くの間、銃器の作動に不具合が発生することなく継続使用できるだけではなく防錆効果さえも期待できるのだ。ただし、遠征等が終了して米国に帰国した後は全ての銃器が専用のメンテナンス器機が揃っているクワンティコ基地等へ送られて徹底的なメンテナンスを受ける事にはなる。
SR25M110SASSセミオートライフル銃のロア部分にあるテイクダウンピンを押すと銃器本体の右側へテイクダウンピンが押し出されてくるので、そのテイクダウンピンを右側へ引っ張って取り出すとアッパー部分後部が上方へ持ち上がる。取り出したテイクダウンピンは専用ケースへ無くさないように仕舞っておき。更に、ロアレシーバーを固定しているピンも左側から押し出して抜き取ると、アッパー部分とロア部分を分離する事ができるので、抜き取ったピンと同様に専用ケースに仕舞う。




