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今、俺はインド洋を航行中の原子力空母「セオドア・ルーズベルト」艦内のベッドで横になっている。新たなミッションが与えられ、再び中東への派兵となり日本の在日米軍基地から中東に向けて展開中の原子力空母「セオドア・ルーズベルト」へ送られてきたのだ。
CIAの特殊要員のバックアップに関するミッションついて、深夜遅くに経ヶ岬通信所へ辿り着いた俺はC-HRを通信所内に停め車中で一晩を過ごしてから、翌朝一番にフランクリン中尉のオフィスで遂行したミッションの詳細な報告を行い、CIAの特殊要員がターゲットの狙撃に成功したのでバックアップの必要が無かった旨を報告し、その中で相手側が用意していた侵入者対策として屋敷周辺に設置した爆薬を起爆させて落石を発生させるトラップから避難する際に、貸与された携帯電話を棄損したため連絡手段が潰えた事で連絡等が遅くなってしまった事も漏れなく伝えた。
それから、経ヶ岬通信所のライト上等兵が運転するジープを伴ってC-HRを返却しにレンタカー営業所へ向かい追加料金等を支払って経ヶ岬通信所へ戻ってみると通信所内のヘリポートに駐機しているCH―53Eスーパースタリオンへ乗り込むように伝えられ、そのまま沖縄の嘉手納基地へ移動させられた。CH―53Eスーパースタリオンが嘉手納基地のヘリポートに着陸すると、まるで民間空港でのトランジットのように嘉手納飛行場の誘導路で双発のプロペラをアイドリング状態で回転させているC-2Aグレイハンド艦上輸送機に慌ただしく搭乗させられ、まるで俺が乗り込むのを待っていたかのようにC-2Aグレイハンド艦上輸送機は滑走路へ移動して嘉手納基地を飛び立ち一路インド洋へ向けて飛行した。
経ヶ岬通信所で朝食を摂った以外は、飲まず食わずの状態でC-2Aグレイハンド艦上輸送機内に殆ど輸送物資のような感じで搭乗していたが、昼過ぎには中東のスエズ運河へ展開するために航行中の原子力空母「セオドア・ルーズベルト」の飛行甲板へ着艦すると、すぐさま艦長室へ向かわされ艦長であるブロック大佐から新たなミッションを伝達されてから、漸く予備の士官室ベッドに落ち着いたところである。
ブロック艦長から伝えられたミッションは、俺を初めとするデルタフォースのオペレーター数人をイラクに召集して、核兵器を含めた大量破壊兵器や非人道兵器の開発製造を推進しているイラクの独裁的国家元首を逮捕という名目で暗殺する作戦を実行するもので、具体的にはターゲットとなるイラクの国家元首が核兵器を自国で開発・製造する旨を国際的に宣言して以降、自国内及び海外から自らの生命が狙われる事を恐れて居住場所を点々と変え、国際社会への情報発信についても都度居場所を変えた所へ限られた人員のみを招いて映像を撮らせてから、居場所から離れた場所から映像を配信するといった状態で、一時的には死亡説が世界中に流布されたり、情報発信を行っているのは替え玉ではないかと言った憶測まで実しやかに言われていた程であった。
その国家元首の居場所を高い確率でトレースする事に成功したCIAが、イラクの体制変革を求める潮流を醸成する事を目的に、国連の場でイラクの核兵器を含む大量破壊兵器及び非人道兵器の開発・製造を即時放棄させる内容の決議を多くの国々から賛同するよう画策したうえで、イラクにおける大量破壊兵器及び非人道兵器の開発・製造を推進している中心的存在であるイラク国家元首に、国連決議を無視し続けて国際社会に対して背任行為を働いているという罪名によって逮捕という名目の元に実力行使を計画したもので、その計画というか作戦の遂行がデルタフォースに与えられたのだ。
具体的には、新月の夜に複数のデルタフォースのオペレターがイラク国家元首が滞在する建物を急襲するのだが、俺の役割は急襲するチームとは別行動を取って離れた場所からチームが急襲した際に逃走しようとする人物を狙撃する役割を担う事になっている。
俺が原子力空母「セオドア・ルーズベルト」に乗り込んで2日目の昼間、甲板に用意された米海軍が艦載ヘリコプターとして開発させた後に、哨戒ヘリコプターとして採用して運用しているSH-60Bシーホークに乗り込んだ俺は、クウェートの米軍駐留施設へとミッション遂行の為に移動させられた。
米軍駐留施設に到着してみると、既に東欧等で各種のミッションに従事していたデルタフォースのオペレター6名が集結しており、今回のミッションには俺を含めて7名のオペレーターによって遂行されるようだ。全員が揃ったところで、ミッションで使用する事となる武器が各オペレーターに貸与され、俺に貸与されたのはサイドアームとしてドイツの銃器メーカーであるヘッケラー・アンド・コッホ社製の45ACP弾薬を使用するHK45CTと専用の消音器、メインアームとしては米国の銃器メーカーのナイツ・アーマメント社製が開発し米海軍と米陸軍で採用されている7.62×51ミリメートル弾薬を使用するSR-25、米陸軍採用モデル名M110SASSであったが、取り付けられている光学照準器は本来標準装備となっている米国の光学機器メーカーであるリューポルド社製のMk4-M2-TMR-FDEではなく、新月の夜間に使用する事が前提となるのでデジタルタイトビジョンスコープに変えられていた。
HK45CTは、2011年に米海軍において運用していたMk23Mod0が拳銃としては異様に大型で携行や取り回しの便に問題を抱えていたのと、銃器そのものが旧式化したことで後継モデルとして、フルサイズモデルのHK45の銃身長4.46インチ(約11センチメートル)を3.9インチ(約10センチメートル)に短縮し、マガジンの装弾数10発を8発に減らした事でグリップを小型化したHK45C及びHK45CTをMk24Mod0として制式採用してネイビー・シールズ・チーム6等の特殊部隊で運用している。HK45CTの特徴は、予め消音器を取り付けての使用を考慮して銃身先端部の外側にネジが切られたスレイテッドバレルとなっており、米軍への納品や一般市場で販売される際には、銃身先端部のネジを保護する意味でマズルキャップが装着されている。
一方、SR-25M110SASSは狙撃用銃器としてボルトアクションのM24SWSライフル銃を米陸軍では運用していたが、イラク戦争において市街戦が主な戦闘となり結果として、従来のボルトアクションライフル銃では命中精度が高いものの交戦距離が圧倒的に短い接近戦闘では連射速度の遅さから、交戦対象となるイスラム過激派や反米勢力が用いているロシア製のドラグノフ・セミオートライフル銃に対して不利になっていた事実を受けて、2008年に米陸軍によってM110SASSとして制式採用された。特徴としては、5.56×45ミリメートル弾薬を使用するM4アサルトライフル銃を7.62×51ミリメートル弾薬が使用できるよう全体的に大型化されているような印象だが、銃器全体はバレル先端部に取り付けられている消炎器であるフラッシュハイダー以外はFDEカラーの砂漠色に特殊塗装され、更に消音器も専用の物となって銃身先端部からハンドガード先端にあるガスブロックまでを覆うように装着する事で、それまで実践においてパラシュートで降下して着地した際や軍用車両から降車した際、銃器に取り付けていた消音器を何かにぶつけしまうと、従来の捻じ込み式では銃身との捻じ込み部分が1センチメートルくらいしかないため堅牢性に劣り、比較的容易に変形してしまい射撃精度に影響していたのだが、SR25M110SASSセミオートライフル銃への消音器の取付けでは、消音器と銃身がオーバーラップする部分が10数センチメートルとなった事で堅牢性が高まって多少の衝撃が加えられても変形する事態とはならず射撃精度への影響は少なくなった。
新たな武器を貸与された俺を含めたオペレーター達は、揃って駐留施設の射場へ向かい照準調整となるゼロイン等を行う。他の連中に貸与されているのはサイドアームは、俺と同じHK45CTであったがメインアームもサイドアーム同様にヘッケラー・アンド・コッホ社製で4.6×30ミリメートル弾薬を使用するMP7A1短機関銃にレッド・ダット・サイトが装着された物であった。
MP7A1は、1990年代に戦場等では防弾ベストを着用するケースが増え始めて従来の拳銃弾では対応が困難になってきていた。そこで、米国及びNATOでは新たな銃器を検討するプログラムを行ったのだが、ヘッケラー・アンド・コッホ社は当初、MP5Kサブマシンガンを一部改良したモデルを提案したが競争相手であるFNハースタル社ではP90サブマシンガンという新しいコンセプトの銃器と弾薬を提案してきた。それを知ったヘッケラー・アンド・コッホ社は既存モデルの一部改良版では米国及びNATOからの要求内容を満たせないとの危機感から、それまでのMP5やUMPとは全く異なるコンセプトの小火器を開発し、1999年に新しい小火器を一般公開した。結果として翌年には、将来的に発展改良されることを前提にドイツ連邦軍が仮制式採用となって、MP7の制式名称が与えられている。また、MP7A1で使用する4.6×30ミリメートル弾はFNハースタル社が防弾ベストを貫通させる新しい弾薬として5.7×28ミリメートル弾薬を開発したことに対抗すべくMP7及びサイドアーム拳銃版のP46専用弾薬として開発されたものである。
MP7A1に装着されているレッド・ダット・サイトについてもライフル銃に装着するスコープと同様に照準調整であるサイトインを行わなければ、いくらレーザーの赤点を狙点に合わせて発砲しても狙った所へ弾丸を命中させる事ができないので、俺以外の連中は一心にレッド・ダット・サイトのゼロインに集中している。また、サイドアームのHK45CTについても普段から使用している1911系とは相違する部分がある。例えば、1911系の発砲メカニズムは事前にハンマーを起しておいてからのシングルアクションと呼ばれる構造であるが、HK45CTではシングルアクション以外にもトリガーを引く事でハンマーが起こされて発砲ができるダブルアクションにもなっているだけでなく、マニュアルセフティは単にトリガーを引いてもハンマーが撃針を叩けないようにする以外に、起こされたハンマーを安全な位置にまで倒せるデッコギンクという機能も有しており、1911系と取り扱いに違いがある。加えて、利き手で握るグリップのアングルも1911系と比較して同一ではないので、今回のような室内での狙撃となれば拳銃のスライドにある前後のサイトを使わずに発砲するポイントシューティングとなるようなケースになれば、幾ら至近距離からの発砲であってもターゲットを外す可能性も捨てきれない。
故に、照準調整とは言わないまでも充分に試射を行って新しい銃器に慣れてマッスルメモリーとなるくらいでなければ、実践という緊張した場面では目的を達成するのは容易ではない。
HK45CTの試射については、俺も他の連中と比べて遜色ない時間で慣れる事ができるのだが、ことSR25M110SASSセミオートライフル銃のゼロインとなるとMP7A1のレッド・ダット・サイトをゼロインするよりも遥かに時間が掛かる。それは、SR25M110SASSセミオートライフル銃を収納する専用の強化樹脂ケースに同梱されているマニュアルに要因があり、マニュアルには「レート・オブ・ファイヤ」という項目があるのだが、SR25M110SASSセミオートライフル銃の銃身や射撃精度を維持するために発砲にあたって注意する点が記載され、SR25M110SASSセミオートライフル銃の発砲では発射数が100発までの間は毎分5発として、5発を発砲した後はボルトをホールオープンの状態にして2分間のインターバルを置いて、銃身やチャンバー、ボルト等を冷却するよう指示されており、発射数が100発に達したならば直ちに射撃を中断してライフル銃自体を常温状態に戻してクリーニングを実施する事とされている。更に、射撃訓練時での使用に際してはバレルや消音器の表面が素手で触れる事ができる状態に保つよう注意喚起されている。
そもそも、どの様な銃器であっても製造メーカーにおいて完成品とした時点で、如何なる使用を行っても壊れる事無く永久に使い続けられる事はなく、自動車と同様に一定のメンテナンスを施したうえで、使用に際しても無理無茶な使用を避ける事で本来の性能が維持されるのであって、SR25M110SASSセミオートライフル銃も精密な射撃を目的に開発されたために繊細で高精度な造りとなったために、荒っぽい無茶な取り扱いをすると各部が壊れやすく耐久性に劣る事を意味しているわけではなく、少なくとも米軍において制式採用されているからには機関部やバレルには相当な鋼材が使用されているので一定以上の堅牢性を有しており実践において使用した場合でも充分に耐え得る耐久性を有しているが、その事実に慢心して過度な発砲を試みてしまえばバレルや消音器に拳銃弾以上の装薬がされているライフル弾が発砲される事で想像以上に高温高圧の発砲ガスに晒される事になり如何に堅牢な鋼材を使用しているとは言え度重なる発砲が短時間続けばバレルや消音器の寿命を縮めてしまい、結果として納品時に100ヤード(91.44メートル)で1インチ(2.54センチメートル)に集弾する1MOA以下の性能を有しているSR25M110SASSセミオートライフル銃の能力は短期間で、その性能を維持できなくなってしまうので安易に野放図な使い方は避けなければならない。
そこでSR25M110SASSセミオートライフル銃に専用の消音器を取付けから、次にデジタルナイトビジョンスコープのモードを日中用に切り替える。デジタルナイトビジョンスコープの使用モードを日中用から夜間用に切り替えたところでゼロインを行うのに影響はないが、昼間に夜間用モードとしてしまうと周囲が明かる過ぎてターゲットを補足できない。
そこまでの準備を終えた段階でチャンバーに空薬莢と似たような形のボアサイタ-を装填し、消音器の銃口部分から照射される赤色の光点をターゲットのセンターに合わせてからデジタルナイトビジョンスコープを覗いて見る。案の定、想像していた通りにデジタルナイトビジョンスコープのレティクルセンターはターゲットのセンターとは重なっていない。俺は、デジタルナイトビジョンスコープのエレベーションダイヤルとビンテージダイヤルを必要量廻して、レティクルのセンターがターゲットのセンターと重なるように調整して、チャンバーに装填したボアサイタ-を抜き取ってから7.62×51ミリメートル弾薬が10発装填されたマガジンをSR25M110SASSセミオートライフル銃にセットする。デジタルナイトビジョンスコープの下側に位置するチャージングハンドの指掛け部分に右手の人差し指と中指を掛けて後方へ引くとSR25M110SASSセミオートライフル銃のエジェクションポートカバーが下向きに倒れてエジェクションポートが開き、ボルトの先端部分が後方へ移動しているのが見える。チャージングハンドを後方へ引っ張れない位まで引いてチャージングハンドの指掛け部分に掛けていた右手の人差し指と中指を話してやるとボルトとチャージングハンドはスプリングの力で前方へ戻っていき、その際にマガジンの最上部にある7.62×51ミリメートル弾薬のヘッドと言われる弾薬後方を押してチャンバーへ7.62×51ミリメートル弾薬を装填して閉鎖状態となり、発砲の準備が整った。




