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デルタのスナイパー  作者: 二条路恭平


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可成り大きな発砲音が聞こえたので、俺は一瞬だがターゲットが雇っているボディガードが800メートルくらい離れた岩場に居る俺の居場所を特定して、こちらを狙って狙撃してきたのではないかと疑ってしまった。銃器の発砲音というのは余程の至近距離にいるのであれば、耳にする爆発音自体に差異がないのだが、発砲された音源としての銃器から一定以上の距離があるならば、銃口との位置関係次第で発砲音の聞こえ方に違いが出てくるのだ。例えば、銃口が向けられている方向に居た場合と銃口が向けられているのは反対方向では銃器から同じ距離だけ離れていても音量や音質に違いがあり、当然の事として銃口が向けられている方向に居た方の音量が大きく聞こえる。

ただし、発砲した弾薬によっても違いがあり発射された弾丸が音速を超えるスーパーソニック弾薬を使用した場合と、銃器に消音器を装着した場合に使用される弾丸のスピードが音速を超えないサブソニック弾薬でも聞こえ方に違いがある。基本的に、薬莢に込められている装薬量の違いを覗けば装薬自体が燃焼によって発せられる爆発音には数値上の違いはあれど、人間の聴覚で違いを感じ取れる程には差を感じる事はないが、スーパーソニック弾薬であれば射出される弾丸が飛翔する事で発生する衝撃波によって生じる大音響が伴うため明確な違いを感じることになる。

窓際に立って外を眺めているターゲットをスコープ越しに見ると、明らかに表情を歪めながら顔を左下へ向けて腰の辺りを見詰めているように見えたので、自然と俺もスコープのレティクルセンターをそちらへ移動させてみた。スコープの接眼レンズに映し出された画像の下側ギリギリに窓枠下の外壁にライフル弾の着弾による抉れというよりも、貫通によって孔が開いているのを目にした。

俺は、慌てて窓枠内に居るであろうターゲットへレティクルセンターを戻すとターゲットの顔にはハッキリと苦悶の表情が浮かんだと思った瞬間、左側へ傾きガクンッといった感じで上半身が下がって片膝を着いたようであった。

これまで多くの狙撃を経験してきた俺からすれば、明らかに建物の外壁を銃弾が貫通してターゲットの左腰に命中したに違いない。しかも、俺よりも多少前方の位置からとは言え建物の外壁を1発で撃ち抜いているところから察しても、今回の狙撃に使用されているのが徹甲弾である事は疑う余地がない。そして、徹甲弾が使用されたのであれば一般住宅の外壁等は弾除けにすらならず、まるで射撃訓練に使用するペーパーターゲットのように意図も簡単に貫通孔が開いたのは納得ができる結果であり、その直後に生き物としてクマやシカ、イノシシ等と比較しても皮膚が脆弱な人間に命中したとなれば、腰骨の一部は粉々に破壊された上に周囲の肉が抉り取られて大量の出血となって助かる見込みはゼロと言っても良い状態である。しかも、急所を一撃で打ち抜かれて即死状態ではないので銃撃によって負傷した身体の苦痛に加えて、己の身体が負傷した箇所を見たことによる混乱と絶望感を出血によって意識が混濁してショック症状が発現するまで味わい続けなければならない極めて残酷な状態となっている。最も、狙撃による暗殺の場合に初弾で急所に命中して即死するというのが稀なケースであり、程度の差こそあれ苦痛と絶望感を嫌という程に味わいながら死に至るのだが・・・。

そんな事を考えてCIAの特殊要員が狙撃に成功したことを実感した瞬間、後方の丘の上から複数の爆発音が響き渡るのを耳にした。

俺は、上半身を振り返って爆発音のする方へ視線を向けると結構な大きさの岩がガラガラと音を立てながら斜面を転げ落ちているのを目撃した。それまでの滑落よりも多くの岩が滑り落ちており、明らかに安全な場所へ避難をしなければ岩の下敷きとなってしまい、つい今しがた狙撃されて瀕死の状態になっているターゲットの道連れにされてしまう。

慌てて手にしたM24SWSライフル銃に安全装置を掛けると装着されているスコープの対物レンズと接眼レンズの保護キャップを閉じて、右脇に置いていたソフトケースにM24SWSライフル銃を仕舞い、上体を起こすと岩場から斜面へ飛び降りた。

靴底に斜面の起伏を感じると、両膝で着地のショックを和らげる暇もなく丘の頂上へ身体を向けて駆け登ろうとしたが、足元の雑草に滑って転倒してしまった俺は胸のポケットに入れておいた携帯電話を斜面に落としてしまった。それを目にした俺であったが、不気味な音を響かせながら転げ落ちてくる岩が気になり、落石が収まってからでも引き返して携帯電話を回収しても遅くはないと思った俺は、M24SWSライフル銃を収納しているソフトケースを右肩に担いで斜面を登り始めた。

携帯電話を落とした所から10メート以上登ったあたりで、背後から地鳴りのような轟音を轟かせながら滑落してくる岩が、先程まで俺がM24SWSライフル銃を構えていた岩場へ迫って来る気配を感じて振り返ると、普通自動車どころか大型バス並みの大きさがある岩が勢い良く岩場に衝突したかと思うと落石してきた岩は一瞬飛び跳ねてから、俺が転倒して携帯電話を落とした辺りに着地した瞬間、離れた場所に居る俺の足下には地震のような揺れを感じた。

しかし、滑落してきた岩は滑り降りた勢いそのままに更に転がり続けて樹木が生い茂っている方へ向かい数本の木々をバキッバッキという音を立てながら圧し折り周囲に大小の木片を撒き散らしながら漸く動きを止めた。

その様子を半ば呆気に取られながら眺めていたが、後から続いて飛び跳ねながら落ちて来る大人の拳大くらいはある石礫に命中して負傷することのないよう細心の注意をしていたが、幸いにも俺の方へ向かって飛んでくる石礫はなく痛い目に遭わずに済んだ。

恐らく時間にすれば、ほんの僅かの出来事だったのだろうが少しでも判断が遅れていれば、今頃は間違いなく滑落してきた岩の下敷きとなって顔や身体が判別できないくらいに潰れて圧死していたに違いない。これまでも数多くの危険なミッションを遂行してきた俺であっても、久しく忘れかけていた死への恐怖を僅かながらも感じて肝が震えた。

落石が収まって安全と思える状態となったところで、俺は改めて携帯電話を落としてしまった辺りへ戻ってみた。岩が落下したと思える地面は乾いた山土が散乱して結構な広さで深さが20センチメートルくらい陥没している。俺は、その窪んだ地面で四つん這いとなって目を皿のようにして携帯電話を探すと、山土塗れとなって半ば地面にめり込んだ状態の携帯電話を発見した。掘り起こして手にした携帯電話は、液晶画面には亀裂が走り本体の側面部分は所々が欠けて内部の部品が見えてしまっている。直感的に、この携帯電話は完全に壊れて機能しないと思ったが一応電源スイッチを押してみるが、肝心の電源スイッチは少しも動くことなく携帯電話を起動させる事がきでない。使えなくなった携帯電話は捨ててしまっても良いのだが、捨てた携帯電話を拾われて内部のメモリー部品から余計な情報を引き出されて、今回の暗殺に米国が関与している証拠とされてはマズい事態になるので、壊れた携帯電話は付着した山土を出来る限り払い落として胸のポケットに仕舞った。

CIAの特殊要員が使用した徹甲弾がターゲットを即死させたわけではいないが、スコープ越しとは言え確実に命中して瀕死の重症となっているのを確認した以上、何時までも此処に留まっている理由はないのでレンタカーを停めている場所へ引き返す事にした。肝心の携帯電話を壊してしまったので、CIAや経ヶ岬通信所への連絡手段が無くなってしまったのと携帯電話が使えないので確実にレンタカーを停めている場所の方角を知るツールも失ってしまったが、多少手間取るにしても太陽の位置等を参考にして概ねの位置は把握できるので、とにかく俺は踵を返して斜面を登り始めた。

斜面を登っている途中で、ターゲットの屋敷へ向かい屋敷内の固定電話を使用する事や車両を奪う事も脳裏に過ったのだが、ターゲットの屋敷内に生存しているボディガードが何人居るのかも分からない状況で余計な戦闘をしても無意味であるばかりでなく、山中とは言え結構な爆発音や発砲音を響かせている以上、日本の警察が出動してくるのは火を見るより明らかなで、冗談にでも米陸軍軍人が日本の警察と銃撃戦等を交えたとなれば完全に国際問題となり、そうなれば米国も俺を庇うような事はしないだろう。

そんな無謀な事に時間を費やすよりも一刻も早く此処を脱出してから、CIAや米軍との連絡方法を模索するのがベストであると思い直して山林の中を行軍するが、何と言ってもターゲットのボディガード達が仕掛けてくれたトラップが厄介であった。ターゲットが射殺された今となってはトラップを起動させたところで、ターゲットが狙撃された上に日本の警察が出動して来るような事態となった以上は、例えターゲットのボディガード達に居場所が判明したとしても襲撃される可能性は極めて少ないだろうが、下手にトラップを起動させても仕掛けてあるのがクレイモア地雷なのか或いは手榴弾なのか分からない状態では自分が死傷する確率までが皆無となったわけではない。お陰でトラップを発見しては迂回しながらの行軍したことで、ターゲットの屋敷にアプローチした時と同じくらいか、それ以上の時間を要する結果となって、樹木の枝等でカモフラージュして隠したC-HRに辿り着いた時には、周囲は暗闇に包まれてすっかり夜を迎えていた。

暗闇のなかで、C-HRを覆っていた樹木の枝を取り払ってM24SWSライフル銃を収納しているナイロン製のソフトケースを後部座席へ置いて、陸軍の戦闘服のままで運転席に腰掛けてC-HRのエンジンを始動させてから、ヘッドライトを点灯させるとC-HRを何度も切り返しを行って車体の進行方向を反転させる。未舗装の山道を徐行運転をして一般道の舗装路まで辿り着くと、俺はC-HRのセンターコンソールを操作して経ヶ岬通信所を目的地に設定してカーナビゲーションシステムを起動させた。

カーナビゲーションシステムの道案内によって、何一つ迷う事無く経ヶ岬通信所へC-HRを走行させる事ができたが、道中は何度も実践から解放されて緊張感が緩んでしまった為に睡魔に襲われて眠りに落ちそうになる。確かに、軍での実践訓練であっても緊張感を欠いてしまえば死傷するリスクは存在するものの、実践の場ともなれば相手は本気で殺す事を目的に武器等を使用してくるので緊張の度合いが違う。

何度かの睡魔に襲われながらも、交通事故を起こすことなく深夜になって経ヶ岬通信所の正面ゲートに辿り着き、門衛に所属、階級、軍籍登録番号と自らの氏名を名乗ってゲートをC-HRで通過した。本来ならば、レンタカーのC-HRをレンタカー営業所へ返却するのだが、普通にC-HRを返却した場合には経ヶ岬通信所までの交通手段は自らの脚しかない状態となってしまう。また、C-HRをレンタカー営業所へ返却した際に営業所の電話を借りる方法も考えはしたが、通話履歴に在日米軍基地である経ヶ岬通信所の電話番号を残すには抵抗があったので、先ずは経ヶ岬通信所へC-HRで向かいミッションの状況報告を済ませた後に経ヶ岬通信所の車両を伴ってC-HRを返却するのが賢明であると判断したのだ。

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