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送迎のジープに乗せられて経ヶ岬通信所に到着した俺は、通信所の責任者である第14ミサイル防衛中隊の中隊長のフランクリン中尉と会って経ヶ岬通信所に到着した旨の報告と新たな指令を受けるために中尉のオフィスへ案内される。
フランクリン中尉は、イタリア系と思われる風貌で年齢は40代前半くらいだろうか、筋肉質な体格で如何にも現場からの叩き上げといった感じのする男であった。
俺は、フランクリン中尉の前で敬礼をしながら経ヶ岬通信所に到着した事の報告と送迎のジープを手配してくれた事に対する謝辞を述べると
「当通信所への到着ご苦労だった。早速だが、君にはCIAより新たな作戦指令が出されているので、これから従事してもらう。ところで、君は日本語が堪能なのか?」
フランクリン中尉は、デスクの椅子に腰掛けたままで俺を値踏みするような視線を向けて質問してきた。
「幼少の頃から15歳まで日本で生活しておりましたし、元々自分の父親は日本人でしたので日常会話程度であれば問題ないと思っております」
そう俺が答えると
「成る程、確かに君の顔付きは東洋人だから日本語を流暢に喋れるのであれば、この後に私の部下が運転するジープで最寄りのレンタカー営業所まで送り届けるので、そこで車をレンタルしてから君自身が運転して目的地へ赴いてもらうのも問題なくできるな」
フランクリン中尉からの説明が途中であったが
「ちょっとよろしいでしょうか?自分は、日本での自動車運転ライセンスを持っておりませんが」
確かに、俺は米軍に入隊した後で米国の自動車運転ライセンスを取得しているが、日本で暮らしていたのは中学生までで年齢的に日本の運転免許証の取得は不可能である。
それを聞いたフランクリン中尉は、デスクの上に置いてあるA4サイズの用紙が入れられる大きさの紙封筒を手に取ると、その中から名刺サイズの用紙を取り出して俺の前に置いて
「君のその心配ならば、これはCIAが作成した日本のドライビングライセンスだ。ただし、私は日本語が分からんので何と書いてあるのかは理解できないが、君ならば内容を理解できるだろうし、これを持っているならば車のレンタルを行うのも問題なくできるはずだ」
俺は目の前に、置かれた日本の自動車運転ライセンス証を取り上げて見る。確かに、俺の顔写真が貼付され名前も「桂木譲治」と本名が記載されており、生年月日も日本の和暦で間違いなく俺の生まれた誕生日が記載されている。流石に住所等は知らない場所が記載されているところをみると、完全に架空の住所を記載しているのだろう。
ただし、この紙切れが本物を完全にトレースして作成された物なのかは、日本で自動車運転ライセンス証を取得したことがない俺には判断できない。まぁ、俺が手にしている紙切れの真偽を疑ってみたところで大した意味があるわけではないのだが・・・。
そんな事を俺が考えていると
「日本のドライビングライセンスについて問題がなければ、君に与えられたミッションの詳細に関して、この紙封筒に入っているので後ほど目を通してもらうが、君へのミッションの主な内容は、CIAが別の特殊要員へ与えた人物の狙撃暗殺作戦のバックアップになっている。仮にCIAの特殊要員が狙撃に失敗した場合には、君が狙撃暗殺を実行してもらう事になる。そこで、君へ貸与するライフル銃だが」
そうフランクリン中尉が言って、座っている椅子を回転させて後ろに置いてある黒いナイロン製のソフトケースを手にして、再び椅子を回転させて俺の方へ向き直ると
「このソフトケースに収納されているM24SWSボルトアクションライフル銃を使って狙撃をしてもらう。なお、このソフトケースのサイドポケットには専用の消音器のほか、10発の7.62×51ミリメートルNATO弾が装填されているマガジンが2個入っているので、これらを使ってもらう」
俺は、フランクリン中尉のデスクに置かれたナイロン製のソフトケースに手を掛けてファスナーを開けてみると、スナイパー養成訓練時に散々使用したM24SWSライフル銃が収納されていた。M24SWSライフル銃には既に米国の光学機器メーカーのリューポルド社がM24SWSライフル銃へ装着するために納品しているMark4 LR/T M3 3.5-10×40ミリメートル(倍率3.5から10倍で、対物レンズ径が40ミリメートル)が装着されているほか、同じく米国の銃器関連アクセサリーメーカーであるハリス社製のバイポッドBRM-S伸縮式バイポッドも備えられている。
確かに使い慣れているライフル銃を与えられるのは嬉しいが、事前に消音器を装着したうえでスコープのゼロインをしなければ狙撃のバックアップと言えども、確実にターゲットを捉えて射殺するのは不可能と言える。
そんな俺の表情を見抜いたフランクリン中尉が
「貸与したライフル銃に不満かね?まぁ、最も試射をしてゼロインもせぬままで現場へ迎えと言われても困るといったところだろうが、心配するな隣にある日本の航空自衛隊基地の屋内射場を使用させてもらえるように依頼しているので、その屋内射場でゼロインを済ませた段階で、君を現場へ送り出す手筈になっている。それと君がゼロインする際の弾薬は別カウントになっている」
と言ってニヤリと笑みを浮かべる。
それを聞いた俺は
「そのような手配をしていただいているのであれば、自分には何も問題や不満はありません」
と敬礼をしながら即答する。
「それでは、外でライト上等兵がジープで君を待っているので早速ゼロインを行いに行きたまえ。下がってよし」
フランクリン中尉は、そう言って俺に軽く敬礼をしてくる。
「はっ、それではジョウジ曹長、隣の屋内射場で貸与されたM24SWSライフル銃のゼロインを行うために経ヶ岬分屯基地へ向かいます」
と俺はフランクリン中尉へ復唱してから中尉のオフィスを退出した。
経ヶ岬通信所の建物から外へ出てみると、目の前にはライト上等兵がジープの運転席で待っていた。俺は、そのジープの助手席に乗り込みシートベルトを掛けると、ライト上等兵も特段何も言わずにジープを発進させて隣接する経ヶ岬分屯基地へ向かった。
分屯基地へは事前に連絡されているらしく、分屯基地の正面ゲートにいる門衛の自衛官がジープを見ると、こちらに敬礼して手招きしてくれるので、その横をジープに乗車したまま隣を通り過ぎる。ジープを運転しているライト上等兵は、分屯基地屋内射場の場所を予め知っているようで迷うことなく屋内射場の前でジープを止めた。
俺は、ソフトケースを右肩に担いでジープから降りると、ライト上等兵もジープから降りて俺を先導してくれる。屋内射場の金属製ドアは、既に開錠されているようでライト上等兵が金属製ドアを開けてくれる。そのため俺は、ソフトケースを担いだままで屋内射場へ入る事ができる。
目の前にあるテーブルに、担いでいるソフトケースを置いてファスナーを開け、収納されているM24SWSライフル銃を取り出すと、バイポッドを動かして起立させてからボルトハンドを右手で掴み、ボルトハンドを上方へ引き上げてから後方に引くと、エジェクションポートが開き切った辺りでボルトに抵抗を感じて引けなくなる。そこで、ボルトハンドを回すように少し動かすとボルトの先端部にあるロッキングラグが外れて、ボルトがライフル銃の本体から容易に外れた。
俺は、ソフトケースの上に外れたボルトを置いてから、装着されているスコープの対物側と接眼側に付けられている保護キャップを跳ね上げて、ボルトが外されたライフル銃の本体を持って射座へ向かう。射座にM24SWSライフル銃本体をターゲット方向へ向けて置き、バイポッドの長さを調整してからライフル銃の後方で腹這いになってプローンの姿勢をとり、ボルトが外れて孔が開いた状態の後方から標的を覗いて狙点を決め、その狙点が覗いている孔の中央へ位置するように調整する。
狙点が孔の中央に位置したところで、M24SWSライフル銃が動かぬように注意しながら、スコープを覗いてレティクルのセンターが狙点と一致するようにエレベーションダイヤルとビンテージダイヤルを弄って調整する。
手元にボアサイタ-のような器具がない場合の簡易的で古典的ゼロイン方法だが、アナログなやり方ではあっても割と簡便に概ねの位置決めができる。ただし、この方法でゼロインを行ったとしても実際に試射を行って微調整を行わなければ、実践で使えるような精度にはならない。とは言え、無暗に試射を繰り返して無駄に弾薬を消費するよりは明らかに合理的である。
一旦、スコープを概ねではあるが調整したところで、俺は立ち上がってソフトケースを置いたテーブルへ向かい、外していたボルトとソフトケースのサイドポケットに入っている10発の7.62×51ミリメートルNATO弾が装填されているマガジン1個と専用の消音器を持ってM24SWSライフル銃へ戻り、ライフル銃の先端に消音器を慎重に取り付ける。
貸与された消音器は、捻じ込み式の取付け方法となっており、銃身先端部に切られている雄ネジに水平位置を保って捻じ込みをしないとライフル銃の銃身軸線と消音器の軸線が真っ直ぐな状態とならないので、消音器を銃器に取り付ける場合には慎重且つ丁寧に行う必要があり、安易に取り付けてしまうと銃身と消音器がストレートな位置関係にならないので銃器を発砲した際には、発射された弾丸が消音器内のバッフル(隔壁)に接触するバッフルストライクという現象が発生して弾道に悪影響を及ぼすだけではなく、最悪のケースでは弾丸がバッフルと衝突して消音器と銃身が破壊される事故を引き起こしてしまい結果、射手も大怪我を負ってしまう危険な事態になる。
消音器の取付けが完了したところで、外していたボルトをライフル銃の後方から嵌め込み元に戻し、マガジンもM24SWSライフル銃に装着して、試射の準備が整ったところで、脇で俺の様子を見ていたライト上等兵に声を掛ける。
「ライト上等兵、この射場の射程が分かったら教えてもらえるか?」
「はっ、ここの射場は100メートルの射程距離となっております」
やや緊張気味にライト上等兵が教えてくれる。
「それと君の後ろにスポッター用の単眼スコープがあるようだから、スポッター(監的手)をしてもらえるか?」
と俺がライト上等兵に依頼する。
「私がでありますか?私に務まるでしょうか?」
ライト上等兵は緊張と戸惑いを隠しきれない調子で答えるので
「大丈夫だよ。俺は標的のセンターを狙って発砲するので、弾痕が標的のセンターに命中したか、或いは外れているのかを教えてくれ。それと、外れた場合には何時の方向にどの位外れているのかも教えてくれれば、ありがたい」
俺が優しい声で言ってやると
「はっ、了解しました。曹長のご迷惑にならないよう頑張ります」
とライト上等兵が答え、射場の後方に置かれている三脚に据え付けられている単眼スコープを持って俺の脇に移動してくる。
「よろしくな」
俺は、ライト上等兵に言ってからボルトハンドを持ち上げて後方へ引き、エジェクションポートからマガジンに装填されている7.62×51ミリメートルNATO弾が見えたところで、ボルトを前進させてチャンバーへ7.62×51ミリメートルNATO弾を装填する。
それから、右手を左脇の方へもって行きフォアエンドを固定させるようにしてからスコープを覗く、標的のセンターとレティクルのセンターが重なるようにしてから、グリップの近くにある安全装置を外してトリガーを絞る。
屋内射場内に発砲音が響き渡り、覗いていたスコープが標的方向から外れて俺の左脇から反動が伝わり、その衝撃は全身へと伝播していく。
「外れました。4時の方向で2インチです」
ライト上等兵が単眼スコープを覗きながら教えてくれた。
「次に3発続けて撃つので、撃ち終わった後で弾痕がどうなっているかを教えてくれ」
俺はライト上等兵に伝えてから、右手を左脇から離してボルトハンドを握ってボルトハンドを上に持ち上げると後方へ引く。エジェクションポートからは弾丸が撃ち出された空の薬莢が排出され、軽い金属音を発しながら床に落ちた空薬莢からは薄い白色の煙が立ち上っている。
ボルトハンドを前進させてマガジンに込められている2発目の7.62×51ミリメートルNATO弾をチャンバーへ装填し、ボルトハンドから右手を離すと再び左脇へ移動させる。
再度、標的のセンターを狙ってトリガーを絞りM24SWSライフル銃を発砲する。その操作を2回繰り返して、ライト上等兵からの答えを待っていると
「外れました。3発とも概ね1発目の同じ方向に2インチくらいです」
俺が想像していたような結果となっていた。着弾位置が下方へ逸れるのは良いとしても横方向だけは修正しておく必要があると判断したので、スコープのビンテージダイヤルを1クリック分だけ回す。
30メートルでゼロインをした場合であれば、100ヤード(91.44メートル)で概ねスコープの修正なしで、狙点の付近に命中することになるので、それを基準に考えれば100メートルの射程距離ならば、狙った所よりも若干下目に着弾すると思われるので、現状では上下方向について概ねオーケーとしても大丈夫そうだ。
「次も3発を発砲するので、撃ち終えたら結果を教えてくれ」
と俺は言ってスコープを覗く
「了解しました」
少し緊張が解れたような声で、ライト上等兵は単眼スコープから目を外さすに答えてくる。




