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小さな岩等が表面に露出している未舗装路を走行する小型トラックの荷台は激しい上下動を繰り返し、隈なく身体中に積載している食糧ケース等が当たり結構難儀することになるが、暫くすると小型トラックの速後が徐々に緩められて車体が左側へ大きく振られるとブレーキ鳴りの音と共に停車する。
恐らく麻薬密造工場の入り口検問所に到着したのだと推測するが、それが間違いなければ荷台の中で極力動くのを控え物音がしないよう注意して、車外の音を聞き取るために耳に全神経を集中させていると、ホセがスペイン語で誰かと話しているのが分かる。
スペイン語が分からぬ俺は、セルジオへ視線を送って話している内容を教えて貰おうと思うが、セルジオは口元に右手の人差し指を真っ直ぐにして立てて静かにといジェスチャーをして、その後に右手の人差し指と親指でオーケーサインを見せて、何も心配するような会話ではないので心配いらないと示してくれる。
時間にして2分くらいの会話だったのだろうが、小型トラックの前方から「ギュルギュル」というセルモーターが回転する音が聞こえた後に「ブォーン」という腹に響くようなエンジンが始動した音に変わり、ホセがギアを1速に入れたようで小型トラックの車体が一瞬揺れると、排気音と共に小型トラックがゆっくりと前進を始める。
その時、荷台の右側に陣取っていたマイクが左手の人差し指を幌の端に引っ掛け、僅かに捲って車外の様子が狭い視野ながら覗けるようにした。
突然のマイクの行動に、一瞬驚いた俺であったがマイクが僅かに幌を捲った隙間から、麻薬密造工場の入り口検問所にいるコロンビア兵士のメイン・アームを一瞬であったが確認することができた。
目にしたのが1人のコロンビア兵士が所持していた銃器だけなので、この麻薬密造工場に配備されている全兵士が所持しているかまでは即断することはできないが、少なくとも目撃した兵士が所持していたのは、アメリカの新興銃器メーカーであるKEL‐TEC社が製造しているブルパック方式のショットガンであるKS‐7であったのは間違いなく、バレルやチューブラマガジン等の強度を要する部品以外の外装は、オリーブドライブグリーンの色彩となった強化樹脂が使われている。
KEL‐TEC社は、1991年にジョージ・ケルグレンによって設立されフロリダ州のココアに本拠地を置く銃器設計と銃器製造を行う企業である。設立者のジョージ・ケルグレンはKEL‐TEC社の所有者であると同時にチーフデザイナーとなっており、アメリカ国内の銃器業界では革新的というか過激なまでに奇抜なデザインの銃器を製造販売しているメーカーとして認知されているが、決して奇抜で高額な銃器を販売しているわけはなく定価が安価な割には信頼性が高い魅力ある製品を展開している。
検問所でコロンビア兵士が所持していたKS‐7は、元々バレルの下部に2本並列のチューブラマガジンを備えたブルパップ・スタイルのポンプ・アクション式ショットガンであるKSGが先に販売され、2‐3/4インチ(70ミリメートル)装弾であるショットシェルを1本のチューブラマガジンに6発装填することが可能となっているので、KSGショットガンの場合は2本のチューブラマガジンで12発を備えたほかに、チャンバーへ1発装填すれば最大13発のショットシェルを蓄えられるショットガンとしては魅力的なファイアパワーを持ったモデルであったが、チューブラマガジンを並列に配置したことで銃器本体の幅が広くなってしまい、ブルパップ・スタイルを採用して携行性に優れたショットガンを目指して開発したものの携行性が幾分犠牲となったことを反省点として、装弾数は少なくなってしまうが2本のチューブラマガジンを1本に変更して、取り回しと携行性に優れたショットガンであるKS‐7を新たに開発している。
俺は、てっきりコロンビアで自国製造となって軍の制式採用となった5.56×45ミリメートル弾薬を使用するMirandaアサルトライフル銃を携行しているのかと思っていたが、ショットガンを所持していたのは若干驚きであった。
だが、良く考えてみればジャングルの奥地にある麻薬密造工場の警護となれば、国内のギャングが襲ってくる可能性を排除することはないものの、現実的には工場周辺に生息する野生動物の毒蛇や樹上で暮らしている肉食獣のピューマを退治するというのが主であろうから、下手にアサルトライフル銃を使用して無駄弾を消費するよりも、一度の発砲で10粒程度の31口径(約7.87ミリメートル)である鉛玉が射出されるショットガンを使用したほうが有効かもしれない。
しかし、ショットガンの場合はアサルトライフル銃よりも有効射程距離が短く、せいぜい25ヤード(22.86メートル)から30ヤード(27.43メートル)くらいと考えた方が良く、その点はデメリットと言えるのだがターゲットとする対象が野生動物となれば毒蛇やピューマであるならば人間に対して銃器を発砲してくる可能性は皆無と言え、例え有名な毒蛇であるコブラの場合に対象物に咬みついて毒を注入する以外に毒液を対象物の目を狙って噴出させることがあるにしても、流石に毒液を25ヤード以上も噴出させることは不可能であることから、毒蛇やピューマ等の対象に25ヤード近くまで接近して有効射程圏内で対処すれば良い。
なお、ショットガンの有効射程距離をオーバーしたとしても発砲された鉛玉自体の殺傷能力が完全に無くなるわけではないのだが、ショットガンから射出された10粒程度の弾丸は射程距離が短いうちは纏まってターゲットに命中するが、射程距離が延びるに従って徐々に広く拡散して飛翔していく。
その拡散することをアメリカではパターンと呼んでいるが、30ヤードを過ぎた辺りからパターンが急速に広がりだして、対象物に命中しても射出された弾丸が1粒~3粒程度という結果になってしまうので、被弾した大型の毒蛇やヒューマからすれば少々深手な負傷した程度と言えなくもない状態となり、結果として怒らせてしまって狂暴化した状態で逆襲や近くにいる動物等に八つ当り的な攻撃を加えてくるので、30ヤードまで大人しく近付いてから発砲した方が間違いない。
ちなみに、俺が過去に見た映画の話になるがサンフランシスコ市警に所属する刑事がスミス・アンド・ウェッソン社製の44マグナム弾薬を使用するM29スイングアウト・リボルバー拳銃を持った主人公が活躍する1作目の冒頭シーンで銀行強盗と銃撃戦を展開する場面があり、そのシーンで犯人がショットガンを発砲して主人公の右太腿に2粒か3粒被弾したカットが写し出されるが、主人公は足を引き摺ることなく普通に歩いていたことを思えば、人間より生命力が旺盛な野生動物では間違いなく反撃してくるであろうことは想像に難くない。
ただし、映画の話はフィクションの世界でのストーリーなので、それをそのまま鵜呑みにすることはできないのだが・・・。
しかしながら、麻薬密造工場を警護しているコロンビア兵が所持している銃器がショットガンであったのは、ある意味で俺達にとって朗報であるとも言える。
もし、コロンビア兵との銃撃戦を展開するような事態となれば100ヤード(91.44メートル)前後の距離を保ちながらメイン・アームであるSCAR‐Lアサルトライフル銃やサイド・アームのM&P5.7拳銃で応戦したとしても射程距離的には余裕があるので有利な戦局を展開できるし、仮に正面入り口にいる兵士が検問所の建物を遮蔽物に使ったとしてもマイクが支給されているSCAR-Lには40ミリメートルのグレネード・ランチャーが装備されているので、支給された催涙弾を撃ち込んでやれば噴出してくる催涙ガスによって遮蔽物とした建物から飛び出してくるのは間違いなく、そこを俺やスティーブがショートスコープを装着したSCAR‐Lアサルトライフル銃で狙撃すれば比較的簡単に決着がつくことになる。
検問所前を通過して、無事に工場敷地内へ侵入した小型トラックは敷地中央にある建物施設の外れにあたる食糧倉庫に横付けして停車すると、運転席から降車したホセが荷台の後側へ回り込み幌をたくし上げる。
積み上げられている食糧が収納されたケースを抱える前に
「今からトラックに積んでいる荷物を降ろして、隣の食糧倉庫へ移し替える作業をしているから、その間に荷台から降りてくれ」
そうホセが言うと4段に積まれているケースを抱えて食糧倉庫の扉の前に置いていく。
俺達は手分けして荷台の食糧ケースを移動させて、荷台の後へ向かうルートを確保した上で小型トラックの荷台から降車して周囲への警戒を始める。
最後に荷台を降りたマイクが
「協力してくれて感謝するよ、ところで事務室は何処になる?」
荷台から食糧ケースを降ろす作業をしているホセに聞くと
「この倉庫の前にある一番大きな建物の奥になるが、出来れば食糧倉庫の鍵を開けるから食糧ケースを全て倉庫に入れて俺が帰るまで建物への突入は待ってもらえるか?俺が食糧を運び終えるまでの間は倉庫の陰に身を隠して」
ホセは作業の手を一旦休めてセルジオの顔を見ながらスペイン語で語り掛ける。
ホセから聞いた内容をセルジオがマイクに通訳して伝えると
「分かった、ここまで俺達を連れて来たアンタの提案を受け入れるよ。ただし、アンタの作業が終わってトラックが発進したら、俺達は5分後に行動を開始する。ここから5分もあればアンタは検問を通過して工場から離れることができるだろう?」
マイクは、ホセに感謝の意味で頭を一度下げながら答える。
マイクの答えをスペイン語に訳してセルジオがホセに伝えるとホセは頷きながら
「ああ、そうしてくれ俺は此処から離れることができれば、その後にアンタ達が銃で撃ち合いを始めようが俺には関係ない」
トラックの荷台に積み込んでいる荷物を降ろすのを再開させながら話したのを聞いたセルジオが通訳してマイクに伝える。
それをセルジオから聞いたマイクが頷きながら
「それじゃ、倉庫の中に入って隠れていようぜぇ」
と言って最初に倉庫の中へ入って行く。




