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デルタのスナイパー  作者: 二条路恭平


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スティーブも自身の内面に宿していた迷いから立ち直ったためか、翌日の訓練は想像以上に良い成果を得ることができた。

特に、俺とスティーブの場合は本国でプレシジョン・ライフル射撃競技会等に参加しているため、草木が生い茂るなかで迷彩柄のスチールターゲットの場所を発見することに慣れているので、比較的早く教官達が潜んでいるスチールターゲットを見つけ出して命中させるのに苦労が少なくて済む。

最も、プレシジョン・ライフル射撃競技会では射程距離がある雑草の生い茂っている場所に迷彩柄の塗装が施されたスチールターゲットが紛れるように設置されおり、しかも設置場所については競技に参加する全シューターには一切知らされておらず、そのような条件の元で制限時間が設けられた状態でシューター自身ライフル銃に装着したスコープ等を駆使してスチールターゲットを制限時間内で発見したうえ、指定された弾数をスチールターゲットに命中させなければならないのに慣れているものの、だからと言って今回の訓練で瞬時適格に教官達が潜んでいるスチールターゲットを見付け出しているというよりは、感覚的に怪しいと思われる箇所に気付くまで多くの時間を要しないと言ったほうが正しいかもしれない。

このチーム全員は、本国で行われている射撃大会へ積極的に参加していることもあって射撃の実力は、4人ともマスタークラス以上の射撃スキルを有しているにも関わらず、スチールターゲットをヒットさせた数はマイクとセルジオのコンビよりも俺とスティーブのコンビの方が上回っている。

ただし、前回の訓練で記録したタイムを短縮するまでには至らなかったが、かと言って最初の訓練で記録したタイムよりは、充分に短い時間で目標地点に辿り着くのに成功したのだが、上官からは相変わらず厳しい言葉を浴びせられることにはなってしまった。

確かに、上官の指摘通りにタイムを短縮するという目標を達成することができなかったのは事実であり、そのことを否定するつもりはないが今回の訓練によってチームの結束が強まった気がするのは俺だけだろうか。

確かに軍のなかでもデルタ・フォースは特殊部隊で独自の予算と命令系統で動いている異色の存在ではあるが、その部隊に配属された全ての人間が弱さや迷いのない完璧な人間の集まりというわけではなく、各自が仲間に対して素直に自分の弱さや迷いを曝け出した際に、それを認めたうえで周囲の仲間が足りない部分を補い合うことで無駄に命を失うことなく生きて延びて本国に帰還している。

そのような事を意図した訓練なのかは、俺のような立場の人間には知る由もないが実践訓練はタイム短縮を果たせぬまま終了となり、残りの日数は座学講習となって1日中を机に縛り付けられる日々となった。

そうなると一番悲惨な状態となるのはマイクで、指定された座席が教壇の一番前にも関わらず何度も居眠りをしそうになるので、教官にバレないよう何度も鉛筆の芯を突き立てて起こしてやらねばならない。

今更、何の座学かと思われそうだが、俺達が派遣されるコロンビアのジャングルには結構な種類の毒蛇が生息しているほかに、身体の表面に毒を分泌するカエル等の野生生物が数多くいる。更に、樹上に潜む肉食獣のピューマ等もおり油断をしていれば襲われる可能性が高いのでコロンビアの野生生物についても知識を有していないわけにはいかない。

毒蛇に関しては、ジャングルを行軍中に噛まれる可能性があるので血清を準備してくれるそうだが、血清を注射したとしても直ぐに効果が表れて通常の任務が熟せるような体調に戻るわけではないので医学的知識を持って置かなければならい。

その座学で有益だったことは、野生生物に関して毒蛇よりも体表面に毒を分泌するカエルやヤモリ等が厄介な存在ということで、奴等は毒蛇のように牙で咬みつき注射針のような牙から毒液を体内に注入してくるわけではなく、危険と感じた瞬間に身体の表面に毒を分泌させるので毒の侵入経路は主に口からとなる。

最も、俺達がコロンビアのジャングルでカエル等を直接口に入れるような真似をするわけではないが、ミッション遂行中は手に着用しているコンバットグローブが無意識のうちに毒を有しているカエル等と接触した際にコンバットグローブに体表面の毒が付着し、それに気付かずに顔の汗を拭おうとしてコンバットグローブを装着したままの手を口元近くに接触させれば間接的ではあっても毒を体内へと摂取することになる。

毒蛇の場合は、噛まれた本人も蛇に噛まれた痛みで毒液が体内に侵入したことを自覚するだろうが、カエルやヤモリからの毒の場合は毒が体内に侵入した時点で自覚する機会が少ないので、本人が自覚症状を感じた時には既に手遅れとなっている可能性が非常に高いということである。

しかし、蛇が大の苦手としているマイクは例え現物を直に見ないまでも映像等で目にするのも嫌なため、居眠りすることでやり過ごそうとしているのだろうと想像するが、あと数日もしてコロンビアのジャングルへ赴けば嫌でも現物の蛇を目にすることになるので完全に無駄な努力と言えなくもない。


2週間の訓練期間を終了して、明日には基地からカリブ海で展開している空母ジェラルド・フォードへ向かい、深夜にゴムボートで空母ジェラルド・フォードを出発してコロンビアの海岸へ上陸するという正に密入国そのもののような事を行って、そこから先はコロンビア国内に潜伏している協力者が手配してくれている車両へ乗り込み目的地近くまで移動した後、10キロメートル手前で車を降りて徒歩で麻薬密造工場へ向かう段取りとなっている。

そして今は、俺は他の3人と一緒に空母ジェラルド・フォードへ向かう陸軍の汎用戦術輸送ヘリコプターUH-60の機内にいる。

予定通りに事が進めば、今夜遅くにゴムボートで空母ジェラルド・フォードを出発してコロンビアの海岸線に辿り着くが、深夜の暗い海岸線で予定通りに協力者と接触できなければ一晩中海岸線を徘徊することになるので、今のうちに仮眠を取っておくにして4人全員が眠っている。


不思議な事に、眠りに就いた俺は母方の祖父が登場する夢を見ていた。

そもそも、俺がデルタ・フォースにおいてスナイパーとなった土台となる射撃スキルを身に着けたのは、アメリカへ移住するために渡米して間もない時期に祖父に連れられたハンティングである。

俺は、日本人である父親と日系アメリカ人である母親の間に生まれたが、出生したには日本であり日本で育てられてきた。

俺が、中学校へ進学して直ぐに父親と母親が自家用車で出掛けた際に、居眠り運転で反対車線に入り込んだ大型トラックと正面衝突となって両親は即死した。何の落ち度もない両親に加害者側である大型トラックを保有する企業から多額の慰謝料が払われると、それまで一度も会ったことのない父方の親戚と名乗る大人達が現れるようになり、当時中学生だった俺には分からなかったが未成年である俺の後見人となって多額の慰謝料を横取りするつもりだったのだろう。

ただ、娘の葬儀に参列するために来日していた母方の祖父母は、娘の忘れ形見である俺に群がる浅ましい大人達を見て大事な孫を守る意味で俺を引き取ると言い出し、当初は多額の金目当ての見知らぬ親戚が騒ぎ出したが祖父が半ば強引に話を着けて俺をアメリカへ連れて行った。

俺としても父親と母親が健在だった頃に、何度かアメリカの祖父母を訪ねていったことがあり、優しい祖父母と暮らすのが嬉しかったのと同時に母親が存命の頃には日常生活に困らない程度の英会話を教えてもらっていたのでアメリカでの生活に不安を感じていなかったのだ。

そうしてアメリカでの新たな生活が始まって数カ月した頃に、祖父がハンティングに行かないかと誘ってくれた。ハンティングは初めての経験なので、直ぐに承諾したが猟場はてっきり山の中と思っていたが、ハンティングの当日に赴いたのは祖父母の家から数キロメートル離れた牧場であった。

戸惑っている俺を尻目に祖父は、牧場の持ち主である酪農家と談笑した後で俺に1挺のライフル銃と弾薬を渡してくると、その場でライフル銃の安全な扱い方についてレクチャーを始め、そのレクチャーが終了して俺が理解したことを確認すると祖父は自らもライフル銃を持って牧場内を歩き始めた。

祖父が誘ったハンティングの対象は、アメリカの酪農家達に嫌われている小害獣に分類されているプレリードックで、広大な牧場を管理するのに大型のトラクター等を使う酪農家からするとプレリードックは牧場のあちらこちらに巣穴を掘るため、何かの拍子に大型トラクターの前輪がプレリードックの巣穴にスタックして動けなくなったり、下手をすると大型トラクターがスタックした拍子に大型トラクターを運転していた者が振り落とされて大怪我を負うような事態となるので、前以てプレリードックのハンティングをやらせて欲しいと酪農家へ連絡すれば喜んでハンティングを行わせてくれる。

確かに、割と簡単に猟場を確保することはできるのだが思っている以上に小害獣と分類されるバーミントに命中させるのは相当に難しい。

特に、プレリードックの場合は好奇心が旺盛な動物なので何かあれば巣穴から立ち上がって周囲を見渡すのだが、巣穴から出ている部分は高さにして30~40センチメートルで幅が15センチメートルくらいなのでターゲットとしては相当に小さいうえに、野生の世界でプレリードックは捕食者に捕食される側なので視力が相当に良く、異変があれば直ぐに巣穴に潜ってしまうのでハンティングを行うにしてもプレリードックの巣穴から最低でも200メートル以上は離れていないと警戒してプレリードックは巣穴から姿を見せてくれない。

更に厄介なのは、牧場には周囲に余計な遮蔽物がないので結構な風が吹いており、射撃の初心者が簡単に獲物へヒットさせること自体が稀と言って良いくらいの難易度となっている。

しかし、その事がライフル銃による狙撃のコツのようなものを俺に学ばさせてくれたお陰で、デルタ・フォースのスナイパーとして開花させてくれている。

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