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とにかく4人で考えた最後の組み合わせでチームに別れて訓練に挑んでみることにする。
しかし、良く考えてみれば数々のミッションを熟してきたなかで、必ずしも毎回最初から予定通りに事が進むというのが稀なくらいのことなので、これまで何度となく想定外の事態を経験してきたのだから、直前になって使用可能な銃器がサイド・アームとなったくらいのことで大騒ぎするような問題ではないかもしれない。
そもそも、4人のチームを2つに分けて行動するようにしたのは訓練プランに記載されていたことではなく、自分達が自主的に編み出したことで上官や教官達にしてみれば何ら関係ないことでしかない。
それに、マイクも言っていたが俺達が現時点で直面しているのは訓練であって、ミッションの遂行場所であるコロンビアのジャングルに来てしまっているわけはなく、仮に失敗したとしても上官からの厳しい叱責があるくらいのことで、命まで奪われるわけではないんだと考えながら視線を右隣にいるスティーブに向けると表情が心無しに不安そうな感じがするので
「そんなに心配するなよ、これは訓練なんだから上手くいかなくても死ぬわけじゃないかんだから気楽にいこうぜ」
スティーブを安心させるような笑顔を見せてやれれば良いのだが、生憎と俺はマイク以上に器用な人間じゃないので上手く笑顔を作れない。
だが、スティーブも俺の真意を読み取ってくれたようで
「了解、とにかくベストを尽くすだけですね」
と言って笑うと心配そうな感じも薄れていったように見える。
基本的には、今日の訓練で実行したのと同じような戦術を駆使して上官から指摘されている時間を短縮に挑んでみる。
所詮、今更何か新しい事を無理に考えてみたところで付け焼刃でしかなく、そこまで努力しても簡単にボロを出して失敗するのがオチというものだ。
上官が去った後の建物で作戦会議という程の内容ではないものの、各自が納得できるくらいの内容まで話し合いができた。
そこで、俺は何気なく訓練のためにガラスが入ってない窓から建物の外に視線を向けると、西の空が徐々にオレンジ色へと染まり出しているのに気付く。
「結構、全員で夢中になって話していたら外は夕焼けが始まっているぞ」
と3人に声を掛ける。
俺の声に気付いたマイクとセルジオが外へ視線を向けると
「それじゃ、基地へ戻って続きは食堂で夕飯を食いながらにするか」
マイクが何時もと変わらない調子で全員に声を掛けてくると、それを合図に俺達は基地へ戻るべく建物を出て森林の中を歩いて行く。
帰り道では、明日のコンビとなる同士で細かな点について確認しながら基地へ帰還していくが、そこで相棒となるスティーブについて理解できたのは、彼自身には決断に迷うところがあり、そのため大事なタイミングの際に判断が遅れる傾向があるということである。
確かに、自信が在り過ぎて過信ばかりが先行して大事な確認を怠り見切り発車となるよりはマシではあるが、自分自身の判断に迷ってしまえばスティーブもデルタにおいては1人のスナイパーとしての役目を負っている以上、良くも悪くもタイミングを逃すことなく自分の最終判断に確信を持ってトリガーを引かなければスナイパーとしての責任が果たせない。
そこで俺はスティーブに対して
「スティーブが右手に握ったサイド・アームのトリガーを引くのも、悩んでトリガーから右手の人差し指を離すのも全て自分自身の判断で決めることで、俺や他の誰かが決めることじゃない。しかも、本当に必要と思った時に躊躇ってしまいトリガーを引くタイミングを逃してしまえば結果として自分自身か味方が被弾する可能性が高くなり、2人揃ってかどちらか片方1人が死ぬことになる。仮に、味方が被弾してから悔やむくらいなら自分自身もだが味方を死なせないために、ここでトリガーを引くんだと決心して撃てば良い。だから、明日は自分の判断に自信を持って挑んでくれ」
と話してやる。
それでも何処か踏ん切りがつけられないスティーブが
「でも、自分がトリガーを引けば必ず誰が死ぬことになりますよねぇ、他人の命を俺なんかが奪う権利を持って良いのかが不安なんです」
俺に問い掛けてくる。
「スティーブは本当に優しい性格なんだなぁ、だけど仕事として選んだのは軍隊で配属されたのがデルタ・フォースとなれば、具体的に与えられる仕事は間違いなく殺しが絡んでくるミッションだ。そのミッションが終わるためには誰かが死ななきゃ終わらないようになっている。その時、自分自身や味方が死ぬのが嫌なら敵である相手を殺すしか方法はないんだぜ。確かに、今回のミッションではコロンビアとの全面戦争を避ける意味で極力交戦状態とはなるなと言われているが、実際に現地へ赴けば相手を殺さなければならなくなる可能性もあるだろう。でも、どうしてもスティーブ自身が殺せないというなら今のうちに除隊の手続きをして措くんだな、今回の相棒となっているセルジオやマイク、それに俺が死なないうちに」
少し厳しい言い方だったかもしれない。
確かにスティーブが優しい心を持っているのを否定する気は毛頭ないが、軍隊を仕事に選んだ以上はケースによって冷酷さを持たなければならないし、その冷酷さがなければ自分か味方の命が戦闘状態のシーンになれば危ういことになる。
俺の言葉を聞いたスティーブは、基地へ帰還するまでの間、口を閉じて寡黙なまま真剣な表情を浮かべて考え込んでいるようであった。
俺とスティーブの前を歩いているマイクとセルジオは、その様子をチラッと見るとセルジオが済まなそうな表情を浮かべ軽く頭を下げ、マイクは軽く微笑んだ表情を浮かべて頷いている。
別に、スティーブに落ち度があるというわけでもなく軍隊を最初に志願した際には、ただ純粋に国を守りたいとか自分の周りにいる人間を守りたいという気持ちからだと思うので、その気持ちは大事にしてやりたいが実際の現実では純粋な気持ちだけではやっていけず常に非情な現実に直面する。
軍隊での生活が長くなれば、その分だけ徐々に冷酷な現実が見えてきて嫌でも厳しい現実を受け入れなければならない時が必ず来るし、もし受け入れ難いと判断した時には自らの判断で軍隊から身を引くべきであろう。
基地へ帰還して部屋に戻るとマイクが
「後ろで、だいぶ深刻な話をしていたようだがスティーブの様子はどうだった?」
と聴いてくる。
「話の内容はセルジオと一緒に聴いていたんだろう?だったら、後はスティーブ自身が判断することで俺には分からんよ」
俺は事も無げにマイクに答える。
「たしかにジョージの言う通りだが、相変わらず単刀直入な言い方しかしねなぁと思ってよ」
苦笑いの表情を浮かべたマイクが茶化すように言ってくるので
「変な言い方をして誤解されるよりは良いだろう?」
「それもそうだな」
軽く頭を掻きながらマイクは言うと続けて
「そんじゃ、食堂へ行って飯でも食べながらセルジオとスティーブの様子を見てくるか」
何時ものお気楽な表情を見せて部屋の扉を開けて廊下へ出るので、俺も頷いてマイクの後から部屋を出て食堂へ向かう。
確かにマイクが気に掛けているのは分からないわけではなく、俺と話したスティーブがミッション遂行直前に脱落するような事態となれば目の前にあるミッションは、3人のチームで行うことになるのか或いは別のデルタ・フォースのオペレーターが召集されて新たなチームを組むことになるのか、ミッション遂行に直接関わる事でもあるので知らんふりを決め込むというわけにはいかないだろう。
食堂室内に入りセルジオとスティーブの姿を探してみると、2人は同じテーブルで笑みを浮かべながら食事をしており、俺とマイクの姿を見付けるとセルジオが此処だと手招きしてくる。
そのテーブルに俺とマイクが近寄ってくると
「ジョウジには悪い事をしたが、お陰でスティーブも吹っ切れたようで今回のミッションでは全力を尽くすそうだ」
セルジオが明るい笑顔を見せながら嬉しそうに話し、隣の席にいるスティーブにも笑顔が戻ってきている。
スティーブは、元々デルタ・フォースに転属してきたのは他の部隊で10年くらい過ごした後で、実際に戦地へ従軍した経験が皆無だそうだから、デルタ・フォースで与えられるミッションが余りにも厳しい現実と直面するので一時の迷いを感じたのかもしれない。
それくらいデルタ・フォースとしてのミッションは高度に政治的な内容であることに加えて殊更に残酷な現実が付き纏うのだ。




