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米国陸軍第一特殊部隊デルタ作戦分遣隊、通称『デルタフォース』は米軍特殊部隊にあって最も秘匿性が高く、その命令系統や予算についても他の部隊と違って独自性を有している。

そのデルタフォースで、極長距離狙撃を専門とする桂木譲治は、米国政府からの命令で危険度が高いが極めて政治的なミッションを遂行していく。

世界各地を渡り歩いて命の遣り取りに明け暮れる桂木譲治は、安住の地とは無縁の世界を放浪する。

道路と言っても見かけだけを道のように均しているだけで、未舗装路面のせいであちらこちらがデコボコに窪んでおり車体は激しく揺れていた。

決してロールスロイスや米国大統領専用車である「キャデラック・ワン」通称「ビースト」に乗車しているつもりではなく、軍用車である装甲ハンヴィーに乗車しているので元々快適な乗り心地を最初から期待しているつもりはないが、相棒が運転している間はとても何かを準備しておける様な状態とは言えないばかりか胃下垂になりそうだ。


HMMWV(ハイ・モビリティ・マルチパーパス・ホイール・ビークル=高機動多用途装輪車両)は、米軍向けに米国インディアナ州サウスベンドに本拠を置き、主に大型車両や軍用車両を手掛けるAMゼネラル社が製造する米軍向けのジープ系四輪駆動車である。全長4.6メートル、全幅2.16メートルで車重2.4トンの4人乗りとなっており、日本3ナンバー車両の規格が全長4.7メートル超、全幅1.7メートル超であるので相当に幅広な車格となっている。


相棒は、目的地を少し過ぎた所で路肩へ装甲ハンヴィーを停車させると俺に対して

「ヘイ、ジョージ。用件は10分以内に終わらせろよ、相手とコーヒータイムを楽しむために会うわけじゃないので、それ以上の時間を掛けていると路肩にハンヴィーを停めていては周囲から狙われる可能性が高いからな」

相棒はレイバンの黒いレンズのサングラスを掛けた状態で、抑揚の少ない口調で忠告してくる。

俺は無言で頷くと左腰に装着したサファリランド社製の樹脂製カイデックスホルスターからスライド右側面に「COMBAT UNIT」と小さな字体の刻印が示され、左側面にはスライド中央に「COLT」と大き目な字体の刻印に左側には「GOVEMMENT ―MODEL―」が、右側には「AUTOMATIC CALIBAR45」と何れも小さな字体で二段書きの刻印が施されたほか、左側面の手前部分にはコルト社のシンボルマークであるランパンホースが刻印されたコルト・コンバットユニット・レイル1911拳銃を左手で抜き出し、右手でコンバットユニット・レイル1911拳銃のスライドを鷲掴みしてからスライドを後方へ引くのと同時に、拳銃を握っている左手を前方へ押し出すようにすると最初に幾らか抵抗があった後に、コンバットユニット・レイル1911拳銃のスライドは滑らかに後方へ動き出した。スライドの中央辺りにあるエジェクションポート(排莢口)からマガジンに装填した45ACP弾薬が見えると左手で掴んでいたスライドを離す、するとスライドは圧縮されたリコイルスプリングが元に戻ろうとする力によって勢い良く前進する時にマガジンの最上部にある45ACP弾薬をチャンバー(薬室)へ送り込みチャンバーが閉鎖され、更にスライドが後退した過程でハンマーが起こされているので発砲可能な状態となっている。

そこで、俺は左手親指の上方にあるセイフティレバー(手動安全装置)を左手親指で跳ね上げて暴発の危険性を低減させてから、左手の人差し指でマガジンをエンゲージさせているマガジンキャッチボタンを押してマガジンを引き出すと、チャンバーへ装填した為に1発減った分をブルゾンのポケットから右手で取り出した45ACP弾薬1発を補填し、コンバットユニット・レイル1911拳銃へ再びマガジンを装填した。これで、このコンバットユニット・レイル1911拳銃には9発分の実弾が備えられているほか、右腰には8発のACP弾薬を装填してある2個のマガジンがマガジンポーチに差し込んでいるので25発の45ACP弾薬を保有している事になり、これから仮に不測の事態が生じたとしても何とか対処できるだろう。

コンバットユニット・レイル1911拳銃を左腰のカイデックスホルスターに戻して、隣の運転席にいる相棒に視線を移すと座席の後ろに置いていたBCM(ブラボー・カンパニー・マニファクチャリング)社製の5.56×45ミリメートル弾薬を使うRECCE-16カービン銃を右手で掴んで身体の前まで持ってくると、再び右手を座席の後ろ側へ運んで5.56×45ミリメートル弾薬30発が装填されているマガジンを掴んでRECCE-16カービン銃に装着し、右手でグリップを握ると左手でグリップ上部にあるチャージングハンドルの取っ手に人差し指と中指の第一関節を引っ掛けて手前に引っ張るとRECCE-16カービン銃の右側にあるエジェクションポートから見えて先端部分に「BCM」の刻印が施されたボルトが後退していく、ボルトが完全に見えなくなった辺りでチャージングハンドルの取っ手に引っ掛けていた人差し指と中指を離すとボルトは前進して、マガジン最上部にある5.56×45ミリメートル弾1発をチャンバーへ送り込む。

これで、このRECCE-16カービン銃は何時でも発砲可能な状態となったが、相棒は右手でグリップの直ぐ上にあるセフティレバーを操作して「SAFE」と刻印された位置に移動させてRECCE-16カービン銃を安全な状態にした。因みにRECCEは『偵察』という意味で、数字の16は銃身が16インチ(406.65ミリメートル)である事を表している。このRECCE-16カービン銃には米国の光学機器製造メーカーであるVORTEX社のRaszor HD 1-6×24ミリメートルのショートスコープが装着され、4~500メートルの射程距離ならば可成り精度が高い命中弾を送り込む事ができる。

そのRECCE-16カービン銃の準備ができた相棒が

「こっちは準備オーケーだ」

と俺に顔を向けて呟いてきたので、黙って頷いた俺は装甲ハンヴィーの助手席側のドアを開けて降車する。昼を少し過ぎた車外は、中東の眩しい日光が降り注いでいるのでブルゾンのポケットから取り出した相棒と同じようなレイバンの黒いレンズのサングラスを掛ける。南側から風速2メートル位の風が吹いているようでタンカラーのミリタリータクティカルシューズを履いた脚で歩く度に、足元から砂埃が北側へ向かって流れていく。

未舗装の道路を渡り終えると目の前には、空爆によって一部損壊し外壁に無数の銃弾が着弾した跡が残るビルがあり、ここがアポイントを取った相手から指定された面会場所となっている。建物内に入ってみると1階は、空爆によって荒廃する前は飲食店だったと思われ道路に面した側には大きな窓があるが、今はガラス窓が全て取り払われて窓枠だけとなっている。室内は、飲食店だった頃に使っていたと思われるテーブルや椅子が四隅の方へ雑然と寄せられ、中央に砂埃を被った木製の丸テーブルと薄汚れた4脚の椅子が配置され、その周囲には煙草の吸殻が床に散乱しているところを見ると、近隣のギャング達が打ち合わせ場所として使っているのかもしれない。

面会する相手は、未だ来ていないようで部屋の奥にあるカウンターの陰や厨房を一通り覗いて見るが人の気配を感じない。

俺は、窓枠から外の道路を見渡せる位置にある椅子の座面から砂埃を右手で払ってから腰を下ろす。因みに、俺の服装は軍から支給されているコンバットシャツやコンバットジャケットではなく白い半袖ポロシャツの上にチャコールグレーのブルゾンを羽織り、下は履き慣らしたデニムのストレートパンツを履いて私服といった出で立ちにしている。ただし、椅子に腰掛ける際にはブルゾンのジッパーを開け放っておき、不測の事態に陥った際には左腰のカイデックスホルスターからコンバットユニット・レイル1911拳銃を容易に抜き出しできるようにしておいた。

椅子に腰掛けて暫く道路の方を眺めていると、微かではあるが明らかに2人分の足音が聞こえてきた。足音が徐々に大きくなってきたところで、部屋の出入口へ視線を移すと顔中が髭に覆われたアラブ系の顔をした2人の男達が立っていた。

見た感じでは2人とも30代後半から40代前半位の年齢だろうか、風体は明らかに堅気の人間には見えず今般の戦争前から近隣を牛耳っていたギャングなのかもしれない。

部屋の出入口に佇む2人は、俺にギロッとした視線で値踏みするように見詰めると1人が

「お前、米軍の人間か?」

と尋ねてきた。

「そうだ」

俺は短く一言答えると

「お前、チャイニーズじゃないのか?」

と再び質問をしてくるので

「俺は、日系アメリカ人だ」

と答えてやると、2人は納得したのか俺が腰掛けているテーブルに近付いてくる。しかし、近寄ってくる2人は右腰のホルスターに差し込んでいる拳銃を見せつけながら歩いてくる。2人の拳銃をよく見るとグリップ部が樹脂製のようでフィンガーレストが付いているところからして、オーストリアの銃器メーカーであるグロック社のG17ジェネレーション4拳銃のようである。

2人は、俺とは反対側の窓を背にした椅子に腰掛けると1人が

「でッ?情報料は幾ら出すつもりだ?」

薄笑いの表情を浮かべて聞いてくる。俺は、ブルゾンのポケットから6枚の100ドル紙幣を取り出すと目の前のテーブルに投げ出すと、俺から見て左側にいる男がテーブルの紙幣を拾って数え始める。

「600ドルか、子供の駄賃じゃねぇんだぞ」

紙幣を数え終えた男が、表情を険しくしながら凄んでくるので

「未だ情報も聞いてないうちに大金を払ってやれるような慈善団体じゃないんだよ」

俺は、抑揚の少ない声で答えると相手は肩を竦めながら

「なかなか抜け目ねぇな」

と言った後に

「そんじゃ、情報を聞いてからたんまりと上乗せを追加してくれる事に期待するぜ」

と言って舌なめずりをした瞬間、その男は素知らぬ風を装いながら腰のホルスターの留め具を外す仕草をしたのを見逃したりしなかった。俺は目の前に座っている男達を見詰めながら内心で「こいつら、俺を殺してから金を奪って逃げるつもりだ」と確信したので、こちらも腰掛けている姿勢を直すフリをしてブルゾンの外側へコンバットユニット・レイル1911拳銃のグリップが露出するようにして直ぐに射撃体勢をとれるよう準備をする。

それから、2人の男達はジェスチャーを交えて交互に話をしてくるが何れの話も既に把握している情報ばかりで本当に価値のある情報は皆無である。2人の話を聞いている間、俺は鼻から息を肺一杯に吸い込んで口からゆっくりと吐き出していたが、そろそろ相棒から言われていたタイムリミットに迫ってきたので、2人の話が途切れたところを見計らって席を立つと

「どの話も既に把握している内容ばかりで、足代以外の金は出せそうもないな」

溜息交じりで2人に伝えると、左側の男は血相を変えて

「ふざけんなッ」

と叫びながら、右腰のG17ジェネレーション4拳銃に手を掛けようとした。こいつらの最終目的が、単に金を奪うだけではなく米国特殊部隊隊員である俺を殺害することでギャング仲間だけでなく周辺一帯に対しても一目置かれる存在になるつもりであろう事は充分に察しがつく。

今回、中東に派兵される前の6カ月間の訓練で所持しているコンバットユニット・レイル1911拳銃だけで20,000発もの実弾射撃をしてスライドやフレームの所々がうっすらと下地が見える位まで使い込んでいる俺にとって、男が発した「ふざけんなッ」は訓練で使用するタイマーのブザー音のようなもので、身体が自然と反応してコンバットユニット・レイル1911拳銃を左手でカイデックスホルスターから抜き出し、トリジコンと言う放射性物質が備えられて蛍光グリーンに光っているフロントサイトのドット部分が相手のバイラルゾーンに重なるとグリップを握った左手の親指でマニュアルセイフティレバーを下げて安全装置を外して素早く2度トリガーを引いた。

窓枠だけとは言え、室内で大きく響いた発砲音で俺の聴覚が一時的に麻痺したようになったが、至近距離という事もあり230グレイン(15グラム)の弾丸を2発も胸部に浴びた男の身体からは鈍くバキバキという胸骨が砕ける音が僅かに聞こえたかと思うと、命中した45ACP弾2発と砕けた胸骨の破片によって心臓が破壊されたため口と鼻から真っ赤な鮮血を吹き出しながら座っている椅子ごと後方へ倒れていく。その間、俺のコンバットユニット・レイル1911拳銃から排出された空薬莢は2個とも床に届かず空間を落下している。

撃たれた男が仰向けに床へ倒れていく様子を見ていた隣の男は、テーブルに両手を広げた状態まま顔だけを撃たれた男へ向け口が半開きとなって涎を垂らしながら瞬き1つもせずにいるが、コンバットユニット・レイル1911拳銃から吐き出された空薬莢2個が床に落下して乾いた軽い金属音を立てた事で、正気を取り戻したのか慌てて右腰のホルスターからG17ジェネレーション4拳銃を抜き出そうとしている。

それを見た俺は、銃口を男に向けるとトリガーを1度だけ引くと男の左側頭部に45ACP弾が命中して、男の頭が右へ傾いたと同時に右耳の後方付近が射出口となって血飛沫と一緒に45ACP弾で破壊された脳の一部と思われる肉片が飛び散り、男の後方にある壁面に赤い斑点が現れる。

脳を破壊された男が、椅子に座ったままで頭を垂らして射入口から流れ出た血液が左頬の辺りに滴っているのを見た俺は、その男を放っておいて最初に射殺した男の元へ近寄ると男のパンツのポケットから100紙幣6枚を取り出して回収して自分のブルゾンのポケットに仕舞い、射殺した男達の仲間が近くにいて反撃してくる可能性が充分想定できるので、左手の人差し指でマガジンキャッチボタンを押すと6発に減ったマガジンを右手で抜き出し、そのマガジンを持ったままで右腰のマガジンポーチに差している別のマガジンと交換するとコンバットユニット・レイル1911拳銃に8発の45ACP弾薬が装填されているマガジンを挿入するタクティカル・リロードを行った。

コンバットユニット・レイル1911拳銃にタクティカル・リロードを行った俺は、急いで建物の入り口に向かうが安易に道路へ飛び出すような事はせずに、右手の親指と人差し指で輪っか状にすると口元へもっていって指笛を吹いて相棒へ合図を送る。

指笛が聞こえたようで、アイドリング状態で待機していた装甲ハンヴィーは、急発進をしたかと思うと一瞬スピードを緩めた後に、サイドブレーキを使ったのかスピンターンをして進行方向を変えるが、かなりの勢いでスピンターンを行ったために車体は激しく左右に揺れていた。しかし、車体の揺れが収まってくると再び急加速をして、俺の近くまで来ると急ブレーキを掛けて停車する。

俺は、身を隠していた建物から駆け足で停車した装甲ハンヴィーの助手席側を開けて車内に乗り込むと相棒は、俺が助手席ドアを閉めるのを待たずに三度装甲ハンヴィーを急発進させ、この場を脱出したのだ。

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