【長編】無口で人にも好かれた事ない私がある日学園のアイドルで芸能界でも超絶美少女と話題になった彼女に告られた話。
第1章:孤独な跡取り
僕の名前は簗川隆。男子高校1年生。
世界の富豪の一角を占める簗川財閥の跡取り息子として、幼い頃から人々の注目と期待を一身に浴びてきた。けれど、学校ではまるで透明人間のようだった。大勢の生徒がいても、僕に話しかける者はいなかった。
「隆、こっちだよ!」
その声はいつも4人の親友から聞こえた。彼らは家族のように僕を支えてくれる存在だった。
まずは幼馴染であり、従妹でもある宮下佳織。彼女はいつも明るく、僕のことを気にかけてくれた。看護師を目指しながら、秘密裏に小説を書いている。彼女の存在は僕にとって救いだった。
「最近、学校で何かあった?」彼女の瞳は優しく、僕の心の闇を見透かしているようだった。
「いや、別に…」僕は無表情で答える。
隣には仲村俊輔、サッカー部のエースで、将来はプロを夢見ている。彼の明るさはクラスのムードメーカーだった。
「たまには一緒に練習見に来いよ。お前の存在、俺のパワーになるんだぜ。」
さらに芸能学科の柳瀬卓郎、俳優志望でみんなの人気者だ。彼は気さくで冗談ばかり言うが、僕に対してはいつも真剣だ。
「隆、お前の人生、俺が応援してやるよ。」
そして、売れっ子女優の福原愛莉。芸能学科でアカデミア新人賞を受賞し、華やかな世界に生きているけれど、僕にだけは心を許してくれる。
「学校は違っても、私たち親友でしょ?どんな時も支えるから。」
この4人だけが僕の孤独を癒してくれた。
家では、父が簗川財閥の後継者としてのプレッシャーを容赦なく僕に押し付けてくる。
「隆、お前は家の未来そのものだ。絶対に逃げるな。」
言葉は重く、時に痛い。だけど、父の期待は僕の背中を押してくれる一方で、心を締め付けた。
学校でも、家でも、僕は孤独だった。心のどこかで、誰かに本当の僕を理解してほしいと願いながら。
ある日、昼休みの教室。僕は一人で窓の外を眺めていた。
「隆!」突然、佳織の声が響いた。
彼女は僕の席まで駆け寄り、笑顔で手を差し伸べた。
「今日も一緒に昼ご飯食べよう?」
僕はその手を取った。少しだけ心が温かくなった瞬間だった。
第2章:グループLINEと約束の喫茶店
昼食が終わり、僕はいつものように携帯を手に取った。
グループLINEには、僕を含む5人だけの小さな世界があった。
画面に一件のメッセージが届いていた。
【福原愛莉】
「今日の夕方、いつもの喫茶店で集まれる?」
すぐに返事が来る。
【柳瀬卓郎】
「おう!いいけど、何かあったの?」
【福原愛莉】
「詳しくは言えないけど、喫茶店で話したい。連れてきたい人がいるの。」
【仲村俊輔】
「了解!部活終わったら向かうわ!」
【宮下佳織】
「私は仕事終わったら向かうね!」
【福原愛莉】
「できるだけ早めにね!」
僕もすぐに返信を打った。
【簗川隆】
「了解!」
メッセージが飛び交う中、僕の胸は妙にざわついていた。
“誰だろう、連れてくる人って…?”
授業が終わり、僕は心の準備を整えてから行きつけの喫茶店へ向かった。
そこは僕が日々の慰めにしている場所。
扉を開けると、店長が笑顔で迎えてくれた。
「いらっしゃい。いつものオレンジジュースとショートケーキでいいね?」
「はい、お願いします。」
いつもと変わらない、ほっとする瞬間。
店長は声を潜めて話しかけてきた。
「今日もあの四人組かい?」
「そうですね。」
「貸し切りにした方がいいかな?」
「分からないです。」
「愛莉ちゃんから聞いたよ。今日は他のお客さん入れないでって。」
「そうなんですか?」
「うん。でも詳しいことは言ってなかった。」
僕は店長の話に少し不安を感じつつも、そのまま席で待つことにした。
夕方6時少し前、まず佳織がやってきた。
「隆、もう着いてたの?」
「1時間前から待ってる。」
「さすがに早すぎるよ!」
その後、卓郎もやってきて、二人とも驚いた表情だった。
「貸し切りだってよ。愛莉から聞いてないのか?」
「知らなかった。」
「なんだろうね、隠したい話でもあるのか?」
そこに汗をかいた俊輔が到着。
「まだ愛莉は来てないの?」
「そうだよ。」
彼は店長にアクエリアスとタオルを注文し、席に座ると汗を拭いた。
しばらくして、やっと愛莉が現れた。
そして、彼女の隣には誰もが知る国民的アイドル、湊川葵がいた。
「お待たせ!」
卓郎、俊輔、佳織は声を揃えて驚いた。
「湊川さん、どうしてここに?」
愛莉は小声で説明を始めた。
「葵さんは隆くんに伝えたいことがあるんだって。」
みんなの視線が一気に僕に向けられた。
葵さんは少し緊張した面持ちで言った。
「簗川君、僕と付き合ってください。」
一瞬、時間が止まったように感じた。
佳織は目を見開き、卓郎は口をぽかんと開け、俊輔も動揺を隠せなかった。
「アイドルは恋愛禁止じゃなかったの?」佳織がつぶやく。
「それでも、私は隆くんが好き。ずっと前から。」葵さんの言葉は真剣だった。
僕は戸惑いながらも、心の奥底が熱くなるのを感じていた。
「僕で良ければ…よろしくお願いします。」
この日、僕の世界は少しずつ変わり始めた。
第3章:ライブ会場と葵の家族
あの日から二、三日が過ぎた。
携帯が震え、画面を開くと葵さんからだった。
「明日、土曜日、時間ある?」
「はい。」
僕は返信を打つと、心の準備を始めた。
財布の中身を確かめ、着る服を整え、期待と緊張を抱えながら床に就いた。
翌日、約束の場所へ向かうと、すでに多くの人が集まっていた。
葵さんに電話をかける。
「もしもし、着いた?」
「はい。今、会場にいます。」
電話の向こうから彼女の笑い声が聞こえた。
「よかった、もうすぐ始まるから待っててね。」
会場には四つのグループが参加していた。
一つ目は北海道・東北地方のグループ、
『雪の魔法人女極寒のミラクルgirl’s』。
二つ目は関東・中部地方を拠点に活動する、
僕が知っている『虹☆輪』。
三つ目は関西・中国・四国地方のグループ、
『おおきにコリャ春夏秋冬学園』。
そして四つ目は九州地方のグループ、
『九州女魂 愛と結晶の黒悪魔女』。
一つ目のグループの歌とダンスが終了し、次はいよいよ葵さん達の番。
『レインボー☆フラフープ』のメンバーたちがステージに上がると、観客の歓声が一気に高まった。
葵さんは僕のほうへ手を振り、笑顔を見せた。
僕も思わず手を振り返し、胸が熱くなるのを感じていた。
そんな僕の背後から、女性の声が聞こえた。
「簗川さんですよね?」
振り返ると、そこには美しい女性が三人立っていた。
「はい、そうです。」
「私は葵の母、湊川紗耶香です。」
丁寧に頭を下げる僕に、紗耶香さんは柔らかな笑顔で話し始めた。
「娘とお付き合いしているそうですね?」
僕は頷くと、彼女は続けた。
「妹のこともよろしくお願いします。」
次に現れたのは、姉の湊川明梨さん。
ファッション関係の仕事をしているそうだ。
「家では葵は少しおっちょこちょいでね。」
明梨さんは笑いながら語った。
「小さい頃、デートで慌てたせいで元彼に振られたことがあるんです。
それ以来、なかなか恋愛に積極的になれなくて…」
「でも、あなたのことが好きだと聞いています。どうかよろしくお願いしますね。」
最後に現れたのは、妹の桜里奈ちゃん。
小学生でお嬢様学校に通う彼女は、少し生意気そうに見えたが、礼儀正しかった。
「お兄ちゃん、姉のこと頼みますね!」
僕は笑いながら深く頭を下げた。
ライブは無事に終わり、僕は葵さんの家族の後ろについて歩き、車に乗り込んだ。
葵さんは隣に座り、僕に問いかけた。
「今日のライブ、どうだった?」
「綺麗で可愛かったよ。」
僕は照れくさそうに答えると、桜里奈ちゃんがニヤリと笑った。
「あ、お兄ちゃん、照れてる!」
紗耶香さんは感極まったように涙をぬぐいながら言った。
「娘にそう言ってくれてありがとう。」
明梨さんは葵の頭を優しく撫で、
「良かったな、葵。」
葵さんは僕の唇に軽くキスをした。
「ありがとう、隆君。私のこと、大切にしてね。」
僕も葵さんにそっとキスを返しながら、静かに誓った。
「本当に僕でいいのか?」
「うん。隆君がいい。」
心と心が触れ合う瞬間だった。
第4章:二人の距離と親友たちの反応
葵さんの家族の車を降りて、僕の家へと歩きながら、心の中はまだあのキスの温もりでいっぱいだった。
無口で誰にも好かれたことがない自分が、こんなにも愛されるなんて、夢みたいだった。
帰宅すると、グループLINEがにぎやかになっていた。
【宮下佳織】
「隆くん、昨日のライブ見たよ!葵ちゃん、めっちゃ可愛かった♡」
【仲村俊輔】
「おお、彼女できたんだな。うらやましいぞ」
【柳瀬卓郎】
「さすがは簗川!意外にモテるんだなw」
【福原愛莉】
「うふふ…隆、やっぱりイイ男ね。応援してるからね!」
僕は返信を迷ったが、こう打った。
「ありがとう。みんなにも会ってほしいな。」
翌日、いつもの喫茶店に集まった僕たち四人。
佳織は心配そうに切り出した。
「隆、葵ちゃんってアイドルだけど、恋愛禁止って事務所は大丈夫なの?」
卓郎は冗談混じりに言った。
「ま、こっちはマネージャーがいるから、何かあったら俺がフォローするし」
俊輔は真面目に言った。
「でも気をつけないと、ファンもいるし、炎上したら大変だぞ」
愛莉は微笑みながら、
「でも隆が幸せなら、みんな応援するよ」
その言葉に僕は胸が熱くなった。
そこに葵さんから電話がかかってきた。
「みんなによろしく伝えてね。私も会いたいって」
「もちろん、伝えるよ」
僕の親友たちは、僕が思っていたよりずっと温かくて、支えてくれる存在だった。
その夜、葵さんとLINEで話した。
「明日、一緒に学校の帰りにみんなでご飯どう?」
「いいね。楽しみだ」
心の距離が少しずつ近づいていくのを感じながら、僕は眠りについた。
第5章:秘密の関係と親友たちの静かな絆
翌日の放課後、僕は少し早めに喫茶店に向かい、いつもの奥のテーブルに座っていた。葵さんとの交際は始まったばかり。けれど、彼女は人気アイドル「レインボー☆フラフープ」の現役メンバー。もちろん、交際は事務所には秘密。
それ以上に、世間にも学校にも、絶対にバレてはいけない。
でも――僕の親友たちだけには、本当のことを伝えていた。
少しして扉が開き、佳織が入ってきた。
「隆くん、早いね。昨日もだけど、最近すっごく気合入ってない?」
僕は小さく笑っただけで答えなかった。
次に来たのは俊輔。部活帰りで、ジャージのまま、少し汗ばんでいた。
「よっ。昨日、ちゃんと帰れたか?」
「うん、送ってもらったよ」
僕はそっと言うと、飲み物を注文するふりをして視線を逸らした。
「おーい、お待たせ!」
明るい声と共に卓郎と愛莉がやってくる。愛莉は手を振りながら言った。
「やっぱり隆くん、最近雰囲気変わったよねぇ~。ちょっと柔らかくなったっていうかさ?」
僕が何も言えずにいると、佳織が助け船を出した。
「いいことがあったのよ、きっと。ね、隆?」
僕はこくりと頷くだけで、余計なことは言わなかった。
そう、僕たちの関係は、親友たちだけの秘密だった。
しばらくして、葵さんが帽子とマスクをしながら店に入ってきた。
マスターがにっこりと微笑み、
「ようこそ、お嬢さん。裏から入った方が目立たないかもよ」
葵さんは軽く頷き、裏手から合流した。親友たちと顔を合わせると、彼女は深々と頭を下げた。
「改めまして…隆くんと、お付き合いさせていただいています」
その言葉に、卓郎がひょいと手を挙げる。
「でもこの話、俺らだけの秘密ってことで良いんだよな?」
葵さんが真剣な表情でうなずいた。
「はい。学校でも、仕事場でも…絶対にバレたくないんです。事務所に知られたら、たぶん…私は」
彼女の言葉に続きはなかったが、充分すぎるほど伝わった。
俊輔が口を開いた。
「安心しろ。俺らが言うわけないだろ。アイツ(=隆)は昔から不器用だけど、大事なものには真っ直ぐだからな」
佳織がふわりと笑った。
「むしろ、隆くんが誰かに恋するなんて、私、ちょっと泣きそうになったんだから」
愛莉は嬉しそうに拍手をした。
「秘密の恋、いいじゃない。青春だね。隆、守りきれる?」
僕はしっかりと葵さんの目を見て頷いた。
「絶対に守る。誰にも言わないし、絶対に手放さない」
すると、葵さんがそっと僕の手を取り――
テーブルの下、他の客の目に触れない場所で、そっと僕の手の甲にキスを落とした。
その一瞬、誰もが言葉を失った。
でも、親友たちの瞳には、笑顔と信頼が宿っていた。
「……俺ら、ちょっと外してやるか」
卓郎が気を利かせて立ち上がり、3人もそれに続いた。
愛莉はウインクをしながら小声で言った。
「5分だけだよ、隆」
僕と葵さんだけが残された喫茶店の奥の席。
葵さんが少しだけ顔を近づけて、小さな声で囁いた。
「私、本当に幸せ……でもね、全部が秘密だから、余計にドキドキするの」
僕は顔を赤らめながらも、小さく言った。
「俺もだよ……毎日が、今までとまるで違う」
そして――
誰にも見られていないことを確かめるように、僕たちはそっと、唇を重ねた。
それは短く、けれど深く、二人だけの世界に溶け込むようなキスだった。
この秘密は、きっと誰にも壊せない。
僕と葵さん、そして――支えてくれる親友たちとの絆がある限り。
第6章:彼女の素顔、そして小さな未来の約束
それから数日後――
放課後の教室に残るのは、僕一人だった。窓の外では春の陽射しが斜めに差し込み、教室の床を淡く照らしていた。
カバンに教科書をしまいながら、僕はスマホを取り出す。そこには、葵さんからの新しいメッセージが届いていた。
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「今から、少しだけ会えませんか?」
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その一文に、僕の鼓動は自然と速くなる。
授業が終わったあとの静けさが、急に色を持ち始めるようだった。
「いいよ。どこに行けばいい?」
すぐに返信すると、数分後に場所が指定された。
――「あの公園。前に雨宿りしたところ。」
あの場所。
確か、入学したばかりの春、急な雨に降られて傘も持たず、偶然葵さんと雨宿りした東側の小さな公園だった。
そのときは、互いにほとんど話さなかった。
でも、あの静かな雨音の中に、今思えば何か小さな絆の芽があったのかもしれない。
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公園に着くと、ベンチの上にマスクと帽子姿の少女がぽつんと座っていた。僕に気づいた彼女はすぐに立ち上がり、そっとマスクを外した。
「隆くん……来てくれてありがとう」
葵さんの素顔は、ステージの上で見せる光り輝くアイドルではなかった。
少し前髪が乱れていて、疲れたような瞳だったけれど、その分だけ、とても人間らしかった。
「……どうしたの? 何かあった?」
僕が近づいて尋ねると、彼女はゆっくりとベンチに腰を下ろし、僕の隣をぽんぽんと叩いた。
「お母さんと、ちょっと喧嘩しちゃって……。仕事のことで」
僕も隣に座り、言葉を選びながら応える。
「大丈夫? 無理してない?」
「うん……ちょっとだけ、疲れちゃっただけ」
葵さんは空を見上げた。白く淡い雲が流れていた。
「でもね、隆くんに会いたいって思ったら、ちょっとだけ元気になったの。不思議だよね……」
僕は照れながらも、心から思ったことを言った。
「それは、俺も同じだよ。毎日、君のこと考えてる」
すると彼女は少し驚いた顔をしてから、ふっと笑った。
「私さ、ずっと誰にも言えなかったの。辛いとき、弱音を吐く相手もいなかったし。
でも、隆くんには……言える。なんでだろうね」
僕は迷わず言った。
「それは、もう君が、俺にとって“大事な人”だから」
彼女は顔を赤らめて、目を逸らした。
そして、少しだけ僕の制服の袖を掴んだ。
「ねえ、隆くん。来週の土曜日、スケジュールが空いてるの。久しぶりの完全オフ。
事務所にも親にも、誰にも予定を入れられてない……だから、一緒に出かけたい」
その言葉を聞いたとき、僕の中で何かが温かく灯った。
「行こう。君の行きたい場所、全部付き合う」
そう言った瞬間、彼女はそっと僕の肩に頭を乗せた。
「ありがとう……ほんとに、ありがとう。ね、これからも私の隣にいてくれる?」
僕はその問いに、強くうなずいた。
「もちろん。どんなことがあっても、絶対に離れない」
そして、彼女が静かに顔を上げてきた。
その瞳は、ほんの少しだけ涙を浮かべていた。
「じゃあ……約束の、印。していい?」
僕は頷いた。
次の瞬間、彼女はそっと顔を近づけ――僕の唇に、ほんの短く、けれど深く、キスをした。
春の風がそよぎ、桜の花びらがゆっくりと舞う中――
ふたりの影が、寄り添って揺れていた。
この日交わした言葉も、キスも、
そして繋いだ手のぬくもりも、
誰にも知られない、小さな宝物となって、胸の奥に静かに眠った。
第7章:ふたりだけの時間、ふたりしか知らない距離
待ちに待った土曜日が訪れた。
朝、目覚ましが鳴るよりも早く目が覚めた僕は、まるで遠足前の子供のような気持ちで布団を飛び出した。
鏡の前で髪を整え、選びに選んだ服に袖を通す。
――今日は、葵さんとの初めてのデート。
もちろん、彼女のファンは全国にいるし、週刊誌だって目を光らせている。
だからこそ、親友たち以外には“絶対にバレてはならない”。
僕はいつもの喫茶店の裏通りで待ち合わせていた。
人通りも少なく、静かな場所。
時間ぴったりに現れた葵さんは、黒のキャスケットにマスク、そして大きめのトレンチコートという変装スタイルだった。
だけど――その瞳だけは、いつもと同じだった。
「お待たせ、隆くん」
マスク越しでも、彼女の声は心に沁みる。
「ううん、こっちこそ。待つのは慣れてるしね」
僕は微笑んで応えると、葵さんは小さく笑いながら言った。
「……そっか、1時間前から来ちゃう人だもんね」
前の集まりの時の話を思い出して、ふたりで少し笑った。
そのまま、僕たちは静かな裏道を抜けて、小さな映画館に向かった。
ここは、都心から外れた場所にあるレトロなミニシアターで、芸能人がよく使う“秘密のデートスポット”らしい。
館内に入ると、他にお客はほんの数人。
僕たちは後方の隅、並んで座った。
上映が始まり、スクリーンに映る光と影。
けれど、僕の視界の隅にはずっと、彼女の横顔が映っていた。
時々笑い、時々眉をひそめる。
そのひとつひとつの表情が、心を締めつけるほど愛おしいと思った。
ふと、葵さんの手が、僕の手の上にそっと重なった。
「……誰にも言えない関係って、ちょっと切ないね」
その言葉は、冗談のように聞こえたけど――彼女の声はどこか寂しげだった。
僕は、言葉ではなく、その手を強く握り返した。
「俺は、それでも君といたい」
彼女は一瞬目を見開いたあと、小さくうなずいた。
「……ありがとう。そう言ってくれると、嬉しい」
映画が終わったあと、僕たちは少しだけ歩いた。
人通りの少ない川沿いの遊歩道。
葵さんがふと立ち止まり、ポツリと呟いた。
「いつかね、堂々と“恋人です”って言える日が来たらいいなって、思うの」
僕は迷わず言った。
「その時が来るまで、ずっと隣にいるよ。俺は逃げない」
すると彼女は、コートのポケットから小さな包みを取り出した。
「はい、これ……手作りのクッキー。形はちょっと悪いけど」
「えっ、手作り?」
「ふふっ。バレンタインとかじゃないけど……“好き”の気持ちを形にしたくて」
僕はその包みを両手で受け取り、深く頭を下げた。
「ありがとう。世界で一番嬉しい」
そしてその帰り道――
ふたりは再び人目を避けながら、喫茶店の裏へ戻った。
別れ際、葵さんは帽子を深く被ったまま、僕の耳元で囁いた。
「今日、すごく幸せだった。また、こういう日を重ねていけたらいいな」
僕も、小さな声で答えた。
「必ず、また一緒に出かけよう」
「……うん」
そのとき、彼女は僕の頬に小さくキスを落とした。
一瞬だった。
けれどその体温は、夜になっても消えなかった。
帰りの道、僕はスマホを開いて親友たちのグループLINEにだけ報告を入れた。
⸻
【隆】:今日、彼女と初デートしました。
親友のみんなだけには、ちゃんと伝えておきます。
【佳織】:良かったね!きっと素敵な一日だったんだね♪
【俊輔】:ニヤけてんじゃねーの?笑
【卓郎】:お前ら、ほんと青春してんなー!ま、秘密守ってやるよ。
【愛莉】:報告ありがとう♡二人が笑っていられるなら、それでいいよ!
⸻
僕は画面を見て、ふと微笑んだ。
そうだ、たとえ誰にも言えない恋でも。
この“味方”たちがいる限り、僕は絶対に、彼女を守り通す。
ふたりの関係は、少しずつ、でも確かに、未来へと歩み始めていた。
第8章:秘密の波紋、揺れる日常
彼女と初めてデートをしたあの日から、僕の日常は少しずつ変わっていった。
いや、正確に言えば――
変わったのは僕の心の方かもしれない。
朝、登校する時に彼女から来る「おはようございます!」のLINE。
授業中、ふとスマホを覗くと届いているスタンプ付きの「今、撮影終わったよ〜」のメッセージ。
秘密の関係。
誰にも言えない。
だけど、たったひとりだけが見せてくれる特別な笑顔。
僕はそれを誰よりも大切に抱いていた。
そんなある日。
教室の後ろから、ひそひそとした声が聞こえてきた。
「ねえ…聞いた?レインボー☆フラフープの葵ちゃんが誰かとデートしてたって」
「マジで?どこ情報?」
「ツイッターで、変装して男と歩いてたって投稿されてた」
――ドクン。
心臓が一瞬止まるような感覚に襲われた。
教室の空気が妙に重たく感じられる。
「写真は?顔写ってんの?」
「そこまではなかったけど…でもさ、なんか本当に付き合ってるって感じだったらしいよ」
僕は視線を落としながら、静かに息を吐いた。
“まさか、あの日…?”
デートの日は慎重に行動していたつもりだった。
でも、どこかで誰かに見られていたのかもしれない。
放課後、僕はこっそり部室棟の裏手でスマホを開いた。
すると、彼女から一通のLINEが届いていた。
⸻
【葵】:
「ねえ…ちょっとした騒ぎになってるみたい。大丈夫、絶対に君のことはバレないようにしたから。でも、ごめんね…不安にさせて」
⸻
指先が震える。
だけど、僕は深呼吸してから、打ち込んだ。
⸻
【隆】:
「俺は平気。でも、君の方こそ大丈夫?無理しないで」
⸻
しばらくして返ってきたのは、ひとつのスタンプ。
うさぎが手を振って「ありがとう」と言っている。
この瞬間、僕は強く思った。
この関係を守るためなら、どんなことにも耐える。
――だって、彼女が僕を選んでくれたから。
◆
その日の夜、親友たちとグループ通話を繋げた。
普段はLINEで軽くやりとりするだけだけど、こういう時だけは皆、本気で集まってくれる。
画面の向こうから、それぞれの声が響いてくる。
佳織「隆くん、大丈夫?ネットの噂見たよ…」
俊輔「なんか写真っぽいの上がってたけど、あれ、ほとんどボケてるな」
卓郎「ま、マスクと帽子が最強ってこったな」
愛莉「でも…油断は禁物。私も芸能科だから分かる。噂はあっという間に“事実”になるから」
僕は少し俯きながらも、はっきり言った。
「……俺は、隠し通すつもりだ。たとえバレそうになっても、最後まで否定する」
佳織「私も味方だよ。小さい頃からずっと見てきたもん。隆くんは人を裏切るような子じゃないって」
俊輔「よぉし、なら俺らもバックアップに回るか」
卓郎「なんなら偽装デートとか協力するぜ?」
愛莉「……私、隆。あんたがこんなに誰かを大事にするの初めて見た気がする。だったら、守ってあげなさいよ、彼女の全部を」
言葉が胸に染みた。
今、ここにいるのは――
たとえ誰にも言えない関係でも、理解してくれる本物の仲間たち。
僕は改めて、スマホ越しに深く頭を下げた。
「ありがとう。みんな……ありがとう」
◆
その週末、彼女との次のデートはキャンセルになった。
葵さんの事務所が“念のために”と行動を制限したからだ。
「また、落ち着いたらね」
という短いメッセージに、彼女の悔しさがにじんでいた。
でも、僕はそれでいいと思った。
無理に会うより、未来のために慎重でいた方がいい。
日曜日、僕は例の喫茶店へ行き、静かにオレンジジュースを飲んだ。
店長がふと、笑って言った。
「何も言わんけどな。お前さんが最近、ちょっと表情柔らかくなったのは気づいてるで」
「……そうですか?」
「うん。恋ってやつは、隠しても出るもんや。
でも、大事なのは相手を守るって覚悟や。
それがあるなら、秘密の恋も、悪くないんやないか?」
僕はジュースを一口飲んで、静かにうなずいた。
――そう。
僕たちの関係は、まだ誰にも知られてはいけない。
でも、それでも。
この気持ちは、確かに本物だ。
第9章 最後の決意 ―『虹☆輪(レインボー☆フラフープ)』との別れ
ある日の夕方、湊川葵は、所属するアイドルグループ『虹☆輪(レインボー☆フラフープ)』のメンバー9人を集めて、静かに口を開いた。
控室には、ステージの熱気がまだ残る空気。緊張感が漂う中、葵の表情は凛としていた。
「みんな、今日は急に集まってもらってありがとう。突然だけど、聞いてほしいことがあるの」
メンバーたちは顔を見合わせながら、それぞれ席に着く。リーダーの高城玲奈が静かに頷き「どうしたの、葵?」と声を掛けた。
葵は深呼吸をして言った。
「……私、次の全国ツアーをもって、アイドルを引退することに決めました」
その瞬間、空気が凍りついた。数秒の沈黙のあと、次々とメンバーから言葉が飛ぶ。
高城玲奈:
「葵……本気なの?なんで……?私たち、これからもっと上を目指そうって――」
椎名瑠々(しいな るる):
「うそ……あんなに一緒に夢語ってたじゃん……!どうしてそんな急に……?」
藤崎ゆめ(ふじさき ゆめ):
「私……信じられない。でも、理由があるなら、聞かせてほしい。納得できる理由なら……受け入れたい」
葵は、ゆっくりと頭を下げた。
「実は……お付き合いしている人がいるの。その人と、将来を真剣に考えていて……芸能活動との両立が難しいと思ったの」
如月奏:
「葵は、ずっと無理してたのかもしれないね……私たち、気づけなかった。ごめん」
白鳥詩音:
「引退するのは寂しいけど……恋も、大事な人生の一部だもんね。私は応援するよ」
神崎瞳:
「でもさ、既婚者でも芸能活動はできるよ?引退じゃなくて、活動を控えるって選択肢もあるんじゃない?」
花園まひる(はなぞの まひる):
「いいんじゃないですか?葵さんが選んだなら。それに、結婚してから戻ってくる人もいるし」
青山凛:
「何年かしたら戻ってきてくれるよね?私、待ってるから。ステージの上の葵が一番好きだから」
葵は涙を浮かべながら、全員の顔を見渡す。
「……ありがとう。本当にありがとう。私は幸せ者だよ。結婚して、数年後に、またアイドルとして戻ってきたいって思ってる。だから……それまで待っててくれる?」
玲奈は泣きながら、葵を抱きしめた。
「待ってるに決まってるじゃん……私たち、仲間でしょ……?」
それをきっかけに、他のメンバーたちも次々と手を取り、円になって抱き合った。
『虹☆輪』は、笑顔と涙に包まれていた――。
⸻
第10章 永遠に輝く光の輪 ― 最後のステージ、そして新たな旅立ち
全国ドームツアー最終日前日。湊川葵は、自らのSNSアカウントにメッセージを投稿した。
⸻
「明日をもって、私は『虹☆輪』を卒業します。応援してくれた皆さん、本当にありがとう。夢のような時間でした。私は、新しい道へと進みます。だけどまたいつか、戻ってきたい。だから……待っててくれますか?」
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コメント欄はすぐに溢れかえった。
「信じられない……」
「嘘だって言ってよ!」
「葵ちゃん、お疲れ様……大好きだったよ」
「結婚ってマジ?でも幸せになってほしい……」
ファンからの「辞めないで」「戻ってきて」という声が次々と届く中で、葵は一つ一つ目を通し、心に刻みつけた。
迎えた最終日、ドームには6万人のファンが集まった。
ステージ中央、葵は深くお辞儀をして、マイクを握る。
「皆さん、本日は本当にありがとうございます。今日を最後に、私は芸能界を離れます。だけど――いつかまた、帰ってきます。そのとき、今よりもっと素敵な私になって」
メンバーひとりひとりも、ファンに感謝の言葉を届けた。
高城玲奈:「葵を応援してくれてありがとう。私たち『虹☆輪』は永遠に仲間です」
青山凛:「戻ってくると信じてます。皆さんも信じて、待っていてください」
花園まひる:「既婚者でも、アイドルしていいんだって……私、葵さんを見て思ったんです」
ライブ終演後、楽屋には親友4人が来ていた。
宮下佳織:「葵ちゃん、かっこよかったよ。最後まで堂々としてて……泣いた」
仲村俊輔:「すげぇステージやったな。アイドルってすげぇんやなって改めて思った」
柳瀬卓郎:「お前、ちゃんと支えてやれよ?あの人、マジでお前に懸けてるから」
福原愛莉:「これで私がグループ一の人気者ね!……なんて冗談。でも、本当にお疲れ様」
隆は照れくさそうに葵を見つめながら、手を差し出した。
「一緒に、行こう」
⸻
それから
隆と葵は高校3年の卒業式を終えた日に結婚。隆は簗川財閥の当主として会社を継ぎ、葵は夫人として支えた。
数年後、3人の息子を育てながら、28歳になった葵は――5年ぶりにSNSを更新。
⸻
「今日から、また『虹☆輪』の湊川葵として活動を再開します」
⸻
コメント欄には喜びと戸惑いが混ざる。
「待ってたよ!」
「結婚しても応援してる!」
「既婚者アイドルってどうなの?」
しかし、メンバーたちはあたたかく迎えた。
青山凛:「おかえりなさい」
高城玲奈:「また一緒に、走ろう」
湊川葵は、人生の光と影を胸に、再びステージに立つ。
そして――
その隣には、変わらず静かに寄り添う簗川隆の姿があった。
物語は、続いていく。
第11章:運命のステージ、再び
時は流れ、湊川葵が再びステージに戻ってきてから半年が経った。
5年のブランクを経て、彼女が再びアイドルとして立ち上がった瞬間――SNSは賛否両論で埋め尽くされた。
「待ってた」「本当に戻ってきてくれて嬉しい」という喜びの声がある一方で、「既婚者のアイドルなんてありえない」「もう夢を見られない」といった冷たい声もあった。
しかし、葵はどんな声も真正面から受け止めていた。彼女が戻ってきたのは、“もう一度本気で輝きたい”という想いと、家族の理解と支えがあってこそだった。
ある日の昼下がり、彼女は久しぶりに『虹☆輪(レインボー☆フラフープ)』の元メンバーたちと再会するため、懐かしのスタジオへと向かっていた。
スタジオに到着すると、かつての仲間たちが待っていた。
「…葵、本当に戻ってきたんだね」
そう言ったのは高城玲奈。葵と同い年で、当時から最も現実的でクールな性格の持ち主。
「ふふっ、やっぱり、葵がいないと物足りないって思ってたんだよね~!」
笑いながらそう言ったのは椎名瑠々。彼女はいつも場を和ませてくれたムードメーカーだった。
「皆に言いたいこと、あるんじゃない?」
静かに背中を押したのは藤崎ゆめ。彼女の優しいまなざしが、葵の言葉を促した。
葵は一歩前に出て、息を吸った。
「みんな…私、やっぱりもう一度歌いたい。アイドルとして、全力で夢を見せたい。
でも、私はもう母親で、妻で、それでも私は“湊川葵”として生きたいの。」
一瞬、静まり返ったスタジオ。その沈黙を破ったのは如月奏の拍手だった。
「私たちが葵を選んだんじゃない、葵が“虹☆輪”を作った。だから…戻ってきてくれて、ありがとう。」
次々とメンバーが声をあげた。
白鳥詩音:「結婚してても、母親でも、輝く姿は変わらない。私たちの“原点”が戻ってきたんだもん。」
神崎瞳:「あの頃の私たちは、ただ夢中で走ってた。でも今なら、もっと強くなれる気がする。葵がいれば。」
花園まひる:「家族がいるって、すっごい幸せなことだよ。それでも戻ってきてくれた…その覚悟に、私は感動してる。」
青山凛:「じゃあ、もう一度一緒に走ろう。新しい“虹☆輪”を、もう一度――10人で!」
涙ぐみながらうなずく葵。
その日、メンバー10人は再び円陣を組んだ。
かつての少女たちは、大人の女性へと成長し、それぞれの人生を背負いながらも、“夢”という共通の旗を掲げる。
その夜、葵は帰宅し、リビングで待っていた夫・隆と向かい合った。
そして、今日の出来事を報告すると、隆はゆっくりと頷いた。
「葵、君がステージで輝いてる姿は、俺にとっても誇りだ。……もう一度、全力で駆け抜けてこい。」
「……ありがとう、隆。あなたが私のそばにいてくれるから、私は頑張れる。」
その瞬間、三男・勝が勢いよく部屋に入ってきて、
「ママ!またテレビ出るの?おれ、クラスで自慢しちゃう!」
次男・裕之:「勝、落ち着けって。……でも、俺も楽しみにしてる。」
長男・健:「母さん、父さん。2人みたいな大人になりたいって、ずっと思ってたよ。」
家族の温かい言葉に、葵はまた涙を流した。
翌日、再始動を飾るリスタートライブが始まった。
「既婚者アイドル」として再びステージに立った葵は、変わらぬ笑顔でマイクを握る。
そして、ステージ上でファンに向かって宣言した。
「私は――湊川葵です。アイドルであり、母であり、妻です。
でも、今日からまた、あなたの心に“虹”をかける存在でいたい。どうか、これからも応援してください!」
会場中に拍手と歓声が響いた。
誰もが、その笑顔を信じて、再び夢を託すことにした。
そして、その夜――
隆と親友4人は、葵の復帰を祝って集まっていた。
卓郎:「はぁ~…マジで戻ってきたな。あの国民的アイドルが、母親になってもアイドルだなんて…感動するわ。」
俊輔:「でも、あの人ならやれると思ってた。隆、お前…マジで幸せ者だぞ。」
佳織:「隆くん、ちゃんと支えてあげてね。葵ちゃん、すごく頑張ってると思うから。」
愛莉:「私も…なんだか勇気もらえた。ありがとう、葵ちゃん。そして隆、あんたの奥さん、すごいね。」
隆は微笑んで言った。
「ありがとう。俺は――この人生を選んでよかったって、心から思ってる。」
こうして――
新たな物語が、また一歩、踏み出された。
第12章「再結成の虹、そして新たな光」
春の訪れを告げる風が、東京の街を優しく撫でていた。
この日、各メディアが一斉に報じたのは、かつて“国民的アイドル”とまで称された伝説のグループ――『虹☆輪(レインボー☆フラフープ)』の再結成であった。
「既婚者アイドル」という未曾有の立場で復帰を果たし、世間の注目と議論の中心にいた湊川葵が、その活動に再び命を吹き込むために動き出したのだった。
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舞台は、都内の大型スタジオ。そこにはかつてのメンバー――いや、今や“再結成された新生・虹☆輪”の10人が顔をそろえていた。
1人ひとりの表情に懐かしさと、新たな決意が滲んでいる。
湊川 葵
「もう一度このステージに立てること、本当に幸せです。皆、ありがとう…!」
高城 玲奈
「まさか葵が帰ってくるとは思ってなかったけど…あんたの“帰る場所”がここで本当に良かったと思ってる。」
椎名 瑠々(しいな るる)
「昔のままの笑顔でいてくれて、安心したよ。でも、私たちも負けてないからね!」
藤崎 ゆめ(ふじさき ゆめ)
「葵ちゃんが戻ってくるって聞いた時、ちょっと泣いちゃった…本当だよ…。また一緒に歌えるなんて、夢みたい。」
如月 奏
「昔は“仲間”って実感しきれなかったけど、今は違う。こうして戻って来てくれたのが、何よりの証拠。」
白鳥 詩音
「…おかえりなさい。私、心のどこかでずっと待ってたんだよ。」
神崎 瞳
「えっへへ、正直ライバルがまた増えちゃったって感じだけどさ! でも負けないよ、私も!」
花園 まひる(はなぞの まひる)
「きっと、また一緒に笑い合える日が来るって信じてた。現実になったんだね、葵ちゃん…!」
青山 凛
「“結婚してからも、アイドルしてる”って、カッコいいよ。私はそんなあんたを誇りに思う。」
新メンバー:桐沢 心音
「…伝説のメンバーと一緒にステージに立てるなんて、まだ信じられません。でも、全力でついていきます!」
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彼女たちは10人での新しいシングル曲「Restarting Rainbow」をレコーディングした。曲中には“失われた時間を繋ぐ旋律”と称されたパートがあり、葵が再び中心となってグループに溶け込んでいく様が、歌詞と振り付けの中に深く刻まれていた。
同時に、ファンからの反響も大きかった。
「待ってたよ、葵ちゃん!」
「虹☆輪が10人になるなんて、最高じゃん!」
「既婚者だって、ママだって、関係ない。ステージにいるあんたは“アイドル”なんだよ。」
ただし、全てが順風満帆というわけでもない。
「家庭を持ちながらアイドル? 子供はどうするの?」
「現役の若手に失礼じゃないか?」
――そんな声も少なくなかった。
だが、葵は毅然と言い放った。
「私の人生に、後悔は一つもありません。
“母であること”“妻であること”“アイドルであること”――どれも全部、私という人間の一部です。」
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再結成ライブが開催されたのは、東京ドーム。
涙と歓声が渦巻くそのステージに立った葵は、あの日と変わらぬ輝きを放っていた。
――ステージのラスト、メンバー全員が手をつないで歌った。
「私たちは…“虹”で繋がってる。」
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ライブの終了後。楽屋には、隆と親友4人の姿があった。
簗川 隆
「おかえり、葵。ずっと見てたよ。君がこの道を選んでくれて、本当に嬉しい。」
宮下 佳織
「もう泣きすぎて顔ぐしゃぐしゃ…でもね、すっごく綺麗だった。あんた、やっぱり“アイドル”だよ。」
仲村 俊輔
「ここまで戻ってくるなんて、ただの根性じゃできないよ。俺もサッカーで夢追ってるけど、葵さんは本物のスターだ。」
柳瀬 卓郎
「なあ隆、お前の奥さんって、すげえな。俺、いつか映画でこのステージ再現してみたい…」
福原 愛莉
「ステージの上でも、ママでも、やっぱ葵は葵だった…。私も、女優として負けてられないよ!」
葵は笑顔でうなずいた。
「ありがとう。私は…“私”として、これからも生きていくよ。」
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こうして、『虹☆輪』は10人の新たな光として再始動を遂げた。
それは、ただの再結成ではなかった。
人生という時間を超え、彼女たちは――新しい虹を描き始めたのだった。
第13章「再出発のステージ」
春の陽射しが差し込む中、新たな『虹☆輪(レインボー☆フラフープ)』が、再始動のためのレッスンに取り組んでいた。湊川葵が復帰してから約1年。既婚者アイドルとして賛否の声を受け止めながら、彼女はゆっくりと確かな歩みでステージへ戻ってきていた。
「はい、もう一度最初から!」
振付師の厳しい声が響くスタジオ内で、メンバーたちは汗をにじませながらも一糸乱れぬダンスを繰り返す。新体制となった10人――それぞれが新たな役割を背負っていた。
メンバーの変化
・湊川葵は、グループの象徴として戻ってきたものの、母としての生活と両立するため、以前のようなハードスケジュールは避けていた。それでも彼女の存在は、メンバーにもファンにも絶大な安心感を与えていた。
・高城玲奈は、事実上のリーダーとしての役目を継続しつつ、葵の復帰を支える役割も担っていた。
・椎名瑠々は作詞活動を始め、自ら書いた楽曲が次のシングルのカップリングとして収録されることになっていた。
・藤崎ゆめは番組MCとしても活躍しており、グループの広報的立ち位置を担っていた。
・如月奏は舞台俳優としての顔も持ちつつ、バランスよくグループ活動を続けていた。
・白鳥詩音は、静かな物腰の中にも芯の強さを増し、葵の復帰を「自然なこと」と受け止めていた。
・神崎瞳は、新たなバラエティの女王としてメンバーに明るさをもたらしていた。
・花園まひるは、癒し系のポジションとして、葵の子どもたちともすぐに打ち解けていた。
・青山凛は、ダンスの振り付けやパフォーマンス面で葵をサポートし、実質的なサブリーダーとなっていた。
・新メンバー・橘ここな(17歳)は、オーディションで加入したばかりのフレッシュな存在。復帰した葵を憧れとし、「ママアイドルになりたい!」と公言するほど彼女に心酔していた。
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スタジオにて
練習の合間、椎名瑠々が汗を拭いながら声を上げた。
「葵ちゃん、本当に戻ってきてくれてよかったよ。やっぱり『虹☆輪』は10人がしっくり来る。」
「……うん。でもまだ、ちゃんと受け入れられてるのか、不安な時もあるよ。」
葵が少し遠くを見るように言うと、青山凛が即座に肩を叩いた。
「心配いらないよ。私たち、あなたが帰ってくる場所をずっと守ってた。……ファンもきっとわかってくれる。」
「ありがとう、凛ちゃん……」
その時、橘ここながそっと言った。
「私、葵さんみたいなアイドルになりたい。ママでも、奥さんでも、自分の夢を諦めないアイドル。」
スタジオに温かい空気が広がる。
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番組出演後の舞台裏
『音楽の殿堂SP』の特番に出演した後、メンバーは楽屋でくつろいでいた。番組内では新曲「煌めきの扉」が披露され、SNSでは大きな話題を呼んでいた。
そこへ、サプライズで楽屋を訪ねてきた人物たちがいた。
「お、久しぶり!」
扉の向こうに現れたのは、簗川隆とその4人の親友たち――宮下佳織、仲村俊輔、柳瀬卓郎、そして福原愛莉だった。
「隆くん!」
葵が駆け寄ると、隆は彼女の手を握りながら言った。
「よく頑張ってるな。……でも、無理だけはしないでくれよ。」
佳織が笑いながら言う。
「私たち、最初から応援してるからね。隆くんの奥さんがアイドルって、ちょっとだけ誇らしいんだから。」
卓郎が続ける。
「けど俺らと一緒にお茶する時間もちゃんと作ってくれよな?隆、お前も付き合えよ。」
俊輔は、葵に向かって親指を立てた。
「俺も現役だけどさ、やっぱ現場に戻るってすげーことだよ。尊敬してる。」
愛莉は静かに微笑んで言った。
「10人になった『虹☆輪』。……でも、あなたが真ん中にいると、なんだかまた“最初”みたいに思える。素敵な空気だよ。」
葵は少し涙ぐみながら、全員に深くお辞儀をした。
「本当に、ありがとう……」
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最後の夜
その夜、葵は自宅のベッドで、隆の隣に身を寄せながら言った。
「……私、きっともう迷わない。ファンにもメンバーにも、あなたにも、ちゃんと恩返しがしたい。」
「焦らなくていい。お前の帰る場所は、ここにも、あそこ(=ステージ)にもあるんだから。」
優しく額にキスをした隆の瞳には、しっかりと未来を見据えた光が宿っていた。
そして、ステージに立つその日も、家族を抱きしめるその瞬間も――
湊川葵という存在は、誰よりも「輝き続けるアイドル」だった。
第14章「世代交代」
夕暮れのスタジオに響く軽やかなステップ音。簗川健、18歳――湊川葵と簗川隆の長男は、母の遺伝子をしっかり受け継ぎ、着実に芸能界デビューへの第一歩を踏み出していた。
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新たな舞台へ
「健、お前は本当に……」
湊川葵は息子の姿を見守りながら、胸に込み上げる想いを抑えきれなかった。ステージ袖で彼の衣装を直しながら、彼女は自分が歩んだアイドルの道のりを振り返っていた。
「お母さんが築いた道、ちゃんと歩んでくれてありがとう。」
健は照れくさそうに微笑み、照明の明かりが落ち着く中、深呼吸をした。
「僕も、母さんみたいに多くの人に夢を与えられる人になりたい。」
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厳しさと期待の狭間で
デビュー直後の健は、厳しい芸能界の現実に直面する。マスコミの注目、ファンの期待、そして「親の七光り」ではないかという陰口。葵も隆も、何度も息子を支えようと努力した。
「母さん、僕は自分の力で勝負したいんだ。」
ある日、健は葵にそう告げた。
「わかってる。お前ならできる。でも、困った時は頼っていいんだよ。」
葵は優しく背中を押した。
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『虹☆輪(レインボー☆フラフープ』の新メンバー加入
一方、虹☆輪も時代の変化に合わせてメンバーの入れ替えが進んでいた。新たに3人の若手が加わり、平均年齢も下がったことで、グループの雰囲気は一層フレッシュに。
高城玲奈や青山凛は、新人指導に積極的に関わり、椎名瑠々は作詞で若手の思いを代弁し始めた。
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親友4人の集い
ある週末、隆は久しぶりに親友の宮下佳織、仲村俊輔、柳瀬卓郎、福原愛莉と集まった。
「健、もうすぐ初舞台だってな。隆、お前の息子だからな、期待してるぞ。」
俊輔が笑いながら言い、佳織も「時代は変わるけど、やっぱり才能は親譲りだな」と続ける。
愛莉は静かに「健くんの前に立つ壁は高いけど、彼なら乗り越えられる」と励ました。
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新時代の幕開け
数ヶ月後、健の初単独ライブは成功を収めた。観客席には、葵、隆、そして虹☆輪のメンバー、さらには親友4人も揃い、拍手喝采を送った。
健は舞台袖で葵に囁いた。
「ありがとう。母さんの背中を追いかけて、僕もいつか誰かの憧れになるよ。」
葵は目を潤ませ、深く頷いた。
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これからの虹☆輪
変わりゆく時代の中で、世代交代は避けられない。しかし、湊川葵が築き、守り続けた虹☆輪の魂は新世代に受け継がれ、輝きを増していく。
「虹☆輪は、ずっと虹のように多彩で温かい光を放つ――」
葵は心にそう誓いながら、明日もまた新たなステージの幕を開けるのだった。
第15章「新たな挑戦と絆」
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新プロジェクトの発表
虹☆輪(レインボー☆フラフープ)の新体制が固まり、メンバーの平均年齢も若返ったが、グループはさらなる飛躍を目指していた。ある日のミーティングで、リーダーの湊川葵が新たな企画を発表した。
「みんな、これから新しい挑戦が待っている。今度はメンバー全員でプロデュースするライブツアーをやるわ。」
新曲の制作から衣装デザイン、演出に至るまで、メンバー自身が手掛ける初の試み。期待と緊張が入り混じる空気がスタジオを包んだ。
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メンバーそれぞれの役割
高城玲奈は作曲に情熱を注ぎ、藤崎ゆめは振付を担当。椎名瑠々はファッション監修、如月奏はMCやファンとのコミュニケーション役を買って出た。白鳥詩音は照明や舞台設計の学びを始め、青山凛は映像制作に挑戦。
葵は総合ディレクションを担いながら、メンバー全員の意見を尊重した。
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親友4人の助言
隆と親友4人は、プロジェクトを陰ながらサポートした。
「今までの経験を活かしつつ、若い力を全面に出せば絶対成功するよ。」
宮下佳織が力強く言い、
「失敗も恐れずやってみることが大事。みんなで支え合えば怖くない。」
福原愛莉も優しく励ました。
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健の成長と絆
長男・健もこの企画に深く関わり、自分のステージだけでなく兄弟や虹☆輪の新世代との交流を深めていった。弟の裕之や勝も、家族ぐるみで支え合い、健の背中を見て刺激を受けていた。
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困難と向き合う
しかし、道のりは順風満帆ではなかった。制作途中で意見の対立やスケジュールの遅れ、健康問題など様々なトラブルが起きる。
「みんな、諦めるな。これが終われば、絶対に輝けるから。」
葵の声が何度もメンバーを奮い立たせた。
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新たな絆の誕生
乗り越えた苦難は、メンバーの絆を強くした。公演初日のステージ上、メンバー同士が目を合わせて微笑むその瞬間には、何にも代え難い信頼が宿っていた。
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新たな未来へ
「これからも虹☆輪は、ずっと進化し続ける。私たちは家族みたいなもの。みんなで未来を創っていこう。」
葵はそう言い切り、これからの新たな挑戦に胸を膨らませた。
第16章「試練と飛躍の季節」
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新ツアーの幕開け
虹☆輪の新プロジェクト第一弾となるツアーは、地元の小さなホールからスタートした。満席とは言えないが、それでもファン一人ひとりの期待が強く感じられた。
葵はステージ袖で深呼吸をし、メンバー全員の顔を見渡した。
「ここからが本当の勝負。みんなで最高のパフォーマンスを届けよう!」
メンバー全員が大きく頷き、息を合わせてステージに飛び出した。
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予想外のトラブル
初日の公演中、照明のトラブルで一時暗転してしまうハプニングが発生。観客のざわめきが広がる中、メンバーは冷静に対応した。
椎名瑠々がすかさず観客にマイクを向け、即興でファンとの交流を始める。
「みんな、今日は特別な日になったね。こんなこともあるのがライブの魅力!一緒に楽しもう!」
その場は和やかな空気に変わり、トラブルが逆にファンとの距離を縮める結果となった。
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家族の支え
公演後、葵は隆と3人の息子たちからのメッセージを受け取った。
「お母さん、いつもありがとう。みんなで応援してるよ!」
健は一言、「お母さんのステージ、カッコよかった!」
その言葉に葵は涙をこらえながらも、より強い決意を胸に刻んだ。
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親友4人の励まし
仲村俊輔、柳瀬卓郎、宮下佳織、福原愛莉は毎日LINEで励まし合い、時には現地で応援に駆けつけた。
「葵、あなたの輝きは誰にも負けない!」
「どんな困難もみんなで乗り越えよう!」
4人の言葉が葵の大きな支えとなった。
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新たな挑戦と友情
ツアーは進むにつれメンバーの成長を促し、観客の反応も日増しに良くなっていった。メンバー同士の絆は深まり、友情は強く、まるで家族のような温かさを感じさせた。
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翌日への希望
公演終了後、葵は夜空を見上げた。
「この道を選んで本当に良かった。まだまだ走り続ける。」
未来へ向けて歩き出す決意が胸にあふれていた。
第17章「試練を越えて」
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厳しい批評と向き合う日々
新たなツアーが進むにつれ、メンバーたちは厳しい批評にさらされることも多くなった。特に葵は、既婚者アイドルとしての立場を揺るがせる意見や、復帰への疑問の声をネット上で目にすることが増えた。
「既婚者で子どももいるなんて、本当にアイドルとしてやっていけるの?」
「昔の栄光にすがっているだけだ。」
そんな言葉に傷つきながらも、葵はメンバーや親友、家族の支えを思い出して踏ん張った。
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メンバーの団結
ある日のミーティングで、椎名瑠々が力強く言った。
「私たち『虹☆輪』は、どんな逆風もみんなで乗り越えてきた。葵ちゃんが戻ってきてくれて、私たちもまた強くなったと思う。」
他のメンバーも続けて、
「誰が何と言おうと、私たちは葵ちゃんを信じてる。」
「これからも一緒に歩もう。」
そうしてメンバーの絆はさらに固く結ばれていった。
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家族の支えと息子たちの成長
隆は忙しい経営の合間を縫い、葵のステージを見に来ることが増えた。息子たちもまた母の姿を誇らしく感じていた。
特に長男の健は、父親としても一人の男性としても葵を尊敬し、
「お母さんの夢を全力で応援する。」
と心に決めていた。
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親友4人の励まし
仲村俊輔、柳瀬卓郎、宮下佳織、福原愛莉は相変わらずの絆で、葵の疲れた心を癒し、時には共に涙を流した。
「私たち、ずっと味方だから。」
「辛い時こそ一緒に頑張ろう。」
葵は何度も彼女たちに救われた。
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新曲の成功と再評価
ツアーの途中で披露された新曲が、思いのほか多くの支持を得てヒットチャートに上がったことで、葵と『虹☆輪』の評価が大きく変わり始める。
ファンの声も次第に増え、「既婚者でも輝ける」といったポジティブな反応が目立つようになった。
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明日への希望
ツアー最後の公演前夜、葵は改めて決意を新たにした。
「どんな試練も乗り越えて、私はもっと強くなる。」
新たな夢と希望を胸に、ステージへ向かう彼女の瞳は、これまでにない輝きを放っていた。
第18章「新たな絆と未来へ」
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成長した3人の息子たちの存在
葵と隆の3人の息子たち、健(18歳)、裕之(15歳)、勝(10歳)はそれぞれ自分の道を歩み始めていた。健は大学進学を控え、スポーツにも学業にも力を入れていた。裕之は中学最後の大会を前に努力を重ね、勝はまだ小学生ながらも兄たちに負けまいと日々頑張っていた。
葵はステージでの忙しさの合間に、家族の成長を見守り、絆を深めていく。
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隆との夫婦としての時間
仕事と家族、アイドル活動を両立する葵だが、隆との関係は昔よりも確かなものになっていた。ふたりはお互いに尊敬と愛情を持ち合い、支え合っていた。
ある夜、隆は優しく葵に言った。
「君が輝く姿を見るのが、一番の幸せだよ。」
葵はその言葉に涙をこらえながら、また新たな決意を胸にした。
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親友4人との再会と語らい
仲村俊輔、柳瀬卓郎、宮下佳織、福原愛莉との再会は、葵にとっての大切な癒やしの時間だ。4人は変わらず明るく、支え合いながら、仕事や家庭、夢の話を笑い合った。
「どんなに忙しくても、私たちの絆は変わらないよ。」
葵は心からそう思い、彼女たちの存在に感謝した。
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新たな挑戦へ
『虹☆輪』としての活動は、ただの復帰ではなく新たな挑戦でもあった。メンバーはそれぞれ成長し、新たな個性を生かしたパフォーマンスを模索していた。
葵はリーダーとして、みんなの意見を尊重しながらも、自分の夢とメンバーの未来のために決断を重ねた。
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ファンとの絆
全国各地でのライブやイベントを通じて、ファンとの絆はますます強まっていった。応援してくれる人々の声は、葵たちに大きな力を与えた。
SNSや手紙で送られる温かいメッセージが、彼女たちの心を支えている。
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未来への希望
葵は改めて誓う。
「これからも夢を追い続けて、たくさんの人に笑顔と希望を届けたい。」
新たなステージへ、彼女たちの物語はまだまだ続いていく。
第19章「家族の絆と新たな決意」
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家族と過ごす穏やかな日々
全国ツアーやメディア出演が続く中、葵は家族との時間を何より大切にしていた。隆と3人の息子たちと過ごす休日は、彼女にとってかけがえのない癒やしだった。
長男の健は進学先の大学で新しい友人や環境に慣れつつあり、次男の裕之は部活に熱中し、三男の勝は元気に小学校生活を楽しんでいた。
「みんなが元気でいてくれることが、一番の幸せだよね」
葵はそう思いながら、家族の笑顔を胸に刻んだ。
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親友たちの支え
ある夜、葵は夫の隆の親友である仲村俊輔、柳瀬卓郎、宮下佳織、福原愛莉の4人とオンラインで話した。
「最近、忙しいみたいだけど大丈夫?」
福原愛莉が心配そうに言う。
「うん、でも家族も仕事も頑張りたいから、バランスを取るのが課題かな」
葵は正直な気持ちを話した。
「いつでも相談してね。私たちはずっと味方だよ」
篠原美咲の言葉に葵は涙ぐみながら頷いた。
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新しいプロジェクトの始動
葵は『虹☆輪』としての新しい音楽プロジェクトを準備していた。これまでの経験を活かしつつ、より幅広い層に届けるため、斬新な企画やコラボレーションも視野に入れていた。
メンバーと何度もミーティングを重ね、方向性を固めていく。
「私たちの音楽で、みんなに元気と希望を届けたい」
葵の強い想いがチーム全員の心をひとつにした。
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隆との未来の約束
仕事の合間、隆と葵は静かなカフェで未来について語り合った。
「いつか、もっと自由に自分たちのペースで暮らせたらいいね」
隆は笑顔で言った。
「それまで、二人で支え合って歩んでいこう」
葵も微笑み返し、手を握った。
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ファンとの温かな交流
全国各地でのライブの合間に、葵はファンとの交流イベントを開催した。直接会って話すことで、互いの絆がさらに深まった。
「ずっと応援してます!」
「また会えて嬉しいです!」
そんな声に葵は胸を熱くした。
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新たな挑戦に向けて
忙しい毎日の中でも、葵は常に前を向いていた。挑戦はまだ続く。夢を追う道は決して平坦ではないが、家族や仲間、ファンの支えが彼女の背中を押している。
「これからも、私らしく輝き続ける」
そう誓い、新たな一歩を踏み出した。
最終章「永遠に響く虹の輪」
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隆への相談
ある秋の日、夕暮れの陽が簗川邸の広い窓から差し込むリビングで、葵は深く息を吸い、隆の隣に座った。
「ねえ、隆……。私、アイドルを辞めようと思ってるの」
静かな口調だったが、その声には揺るぎない決意があった。
隆は少し驚いたように目を見開いたが、すぐに優しく微笑んだ。
「……そうか。でも、君が決めたことなら、俺はどんな形でも応援するよ」
「ありがとう。55歳までは女優として全力でやって、それで引退して、あなたとゆっくり過ごしたいの」
「じゃあ、次の人生は“女優・湊川葵”だな。……相変わらず、かっこいいよ」
手を取り合ったふたりの姿に、穏やかな未来の気配が満ちていた。
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親友たちへの報告
その晩、葵は高校時代からの親友4人──柳瀬卓郎、仲村俊輔、福原愛莉、宮下夏織──を自宅に招いた。
「55歳で、完全に引退しようと思うの」
沈黙の後、福原が最初に口を開いた。
「……やっぱり、そう決めたんだね。でも、寂しいな」
「でもさ、アイドルも、女優も、家族も、全部全力だった葵らしい選択だよ」
柳瀬の言葉に、皆うなずく。
「そう。私たちはずっと親友だし、これからも“湊川葵”を誇りに思うよ」
「また5人で、温泉でも行こうよ。仕事抜きでね」
笑い合いながら、静かに泣いた。友情は、変わらずそこにあった。
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喫茶店のマスター
翌日、葵は高校時代によく通っていた喫茶店「クローバー」を訪ねた。
「マスター……引退することにしたんです」
年老いたマスターは少し目を細め、コーヒーを一杯淹れながら頷いた。
「そうか。あの頃の君が、こんなに大きくなるとはな。……お疲れさん。ほんと、よくやった」
昔と変わらぬ苦いコーヒーが、葵の心に沁み渡った。
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記者会見と活躍の日々
年が明けて行われた引退会見は、芸能界でも大きな話題となった。
「私は55歳で、芸能界を引退します。これまで応援してくださった皆さんに、心から感謝しています」
その後の数年間、葵は数々のドラマ・映画に主演、また名脇役としても活躍。
全100本を超える出演作を通して、表現者としての人生をまっとうしていった。
どの作品でも、彼女のまっすぐな眼差しと、時を経ても色褪せない存在感は、観る者の心を掴んで離さなかった。
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最後の日と、永遠の別れ
55歳の誕生日を迎えた年、葵は正式に引退。隆とともに、簗川財閥の夫人として穏やかな日々を過ごしていた。
だが、60代を迎える頃、体に異変が現れ、やがて治らぬ病と診断された。
「私は大丈夫。最後まで私らしく生きるから」
彼女は、3人の息子──健、裕之、勝──に芸能界への思いを託し、静かに息を引き取った。
葬儀の日、空は晴れていた。
何万人ものファンや関係者が集まり、花で埋め尽くされた祭壇の前で、隆が喪主として挨拶をした。
「彼女は、誰よりも強くて優しく、美しい人でした。高校時代に出会って、共に歩んできた日々は、僕の誇りです。たとえ多くの批判にさらされたとしても……僕たちの愛は本物でした」
涙をこらえるように、静かに語ったその言葉に、会場中が静まり返った。
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隆の最期、そして300年の物語
隆もまた、数年後に体調を崩し、葵と似た症状でこの世を去った。
「また……会えるよな、葵」
病床でそう呟いた彼の傍らには、子どもたちがいた。健は芸能界のスターに、裕之は映画監督に、勝は音楽プロデューサーとして、母の志をそれぞれの形で受け継いでいた。
やがて孫たちが生まれ、さらにその先へと、簗川家の血は脈々と受け継がれていった。
簗川財閥は、芸術と経済の両面で栄華を極め、ついには300年の歴史を築き、その役目を終える。
それでも――
“湊川葵”という名は、永遠に人々の記憶に残った。
彼女が遺した言葉、歌、演技、そして生き方は、次の世代、また次の世代へと静かに受け継がれていく。
第1章から第18章の長編でお送りしました。