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最後の旅行2




「せっかくだから、前と同じ部屋をとっておいた」ホテルに着いたナナさんは言った。


「大丈夫ですか」


 ナナさんは笑っただけでなにも答えなかった。


 我々が部屋にはいると彼女は荷物を整理していた。僕は椅子に座ってお茶を飲んでいた。ナナさんは二十分くらい荷物を整理していた。彼女は戻ってくると、僕のまえに二枚の煎餅をだした。


「ずいぶんと時間がかかりましたね」と僕は煎餅をかじりながら言った。


「女性はいろいろとあるものなのさ」と彼女はお茶を飲みながら言った。「魅力的な男性とおなじ部屋に泊まるんだから」


「冗談ばかり言って」と僕は笑った。


 ナナさんは白のニットの姿で椅子に座り、煙草を吸った。

「ねえ、これ素敵なニットでしょ」とナナさんが言った。


「そうですね」と僕は同意した。


「これはメブが着ていたやつだよ」とナナさんは言った。「メブと私は洋服のサイズがほとんど一緒だった。あの子が高校にはいった頃はとくに。シャツもズボンも靴も、ブラジャーくらいかな、サイズが違うのは。まあ年の功ってやつだね。それで私たちはよく二人で服を買いにいった。二人で共有したりして」


 僕はナナさんを見た。そういわれると彼女の背格好はメブと似ていた。顔のかたちやひょろりと細い手首のせいで、ナナさんの方が痩せて小柄だという印象があったのだが、よく見てみると体つきは意外にがっしりしているようだった。


「私がメブの服を着ているのはいや?」


「そんなことないですよ。メブだって誰かに着てもらっている方が嬉しいと思います。それがナナさんなら文句はないでしょう」


「不思議なの」とナナさんは静かに言った。「もちろん彼女に遺書なんかなかったのだけど、服のことだけは私に着てほしいと言っていたわ。変でしょ。死ぬつもりのない人間が、服を私に着てほしいって。いま考えてみるとおかしく思えてくる。まるで自分が死ぬのを知っていたよう」


「彼女は死ぬつもりだったのかもしれない」


 ナナさんは煙草をふかしながらしばらく物思いに耽っていた。「ねえ、メブが死ぬ前の話をききたいでしょ」


「話してください」と僕は言った。


「いちどメブの母親が帰ってきて、彼女の病状はよくなっていたのだけれど、すぐに病状が悪化して、メブはときどき私の家に避難してきたの」


「それで」


「冬の寒い日に、メブの祖母から電話がかかってきて、メブに話したいことがあるから、そちらに伺っても大丈夫だろうかと聞かれたの。私は大丈夫だと答えたの。私もメブについて話しておきたかったから。それで翌日、メブの祖母はタクシーにのってやってきた。そして、私たちは三人で話をした。いろいろと世間話をして、夕方ちかくになるとメブは祖母に買えっていいわよ。あとは大丈夫だからと言って、それで祖母はタクシーを呼んで帰っていったの。メブはすごく元気そうだった。それまで私はすこし心配していたから。というのも、ああいう病気をかかえている人たちは、感情の起伏が大きいことはよくない兆候のひとつなの。笑って冗談を言っているメブの様子を見て、これなら大丈夫かなって私は思ったわけ。『ねえ、ナナさん。お金が貯まったら、すべてから手をひこうと思うの』って言うから、そうね、それがいいのかもしれないって私も言ったの。それで私たちは二人で外を歩いていろんな話をしたわ。これからどうするかとかそんな話をね。メブはこんなことを言っていたわ。二人でここをでて、一緒に暮らすことができたらいいでしょうねって」


「ナナさんと二人でですか?」


「そう」とナナさんは言ってから肩をすぼめた。「だから私言ったの。私はかまわないけど、サイトウ君のことはいいのかいって。すると彼女は『あの人のことは、私きちんとするから』って。それだけ。そして私と二人でどこ行こうかだの、どんなことしようだのといったことを話したわ。それから砂浜に行って遊んで」

 僕は冷蔵庫からビールをとりだして飲んだ。ナナさんは煙草にまた火をつけた。


「メブは始めから全部決めていたんだ。だからきっとあんな元気だった。いろいろと決めていくうちに気が楽になったのね。それから二人で、メブのいろんなものを処分したの。日記のかわりにしていたノート、手紙、写真とかね。あなたの手紙もあったわ。それで私は、どうして捨てちゃうのってきいたの。だってあの子、手紙は大切にとっておくタイプだと思っていたから。あなたのもあれば、K君からのとあったのよ。そしたら、『これまでのものを処分して、新しく生まれ変わるの。こらは私なりのけじめのつけかたなの』って言うから、私も深く考えないで納得したんだ。それなりに筋は通っているだろう。それに、この子は元気になって、これからは幸せになれると思ったの。だってそのときのメブは本当に綺麗だったから。サイトウ君にみせたいくらいだったよ。


 それから私たちは部屋で夕御飯を食べて、風呂にはいって、ビールを二人でのんで、私はピアノを弾いたの。あの子の好きなドラマの曲や、古い曲をね。それから私たちはいい気分になって、電気を消して、適当に服を脱いで、ベッドに転んだの」





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