2-21 南西探索班 堤防の向こう側
本日もよろしくお願いします。
河原で秘密工房を作り、ライデンたちは人形の活動時間の充填をするために帰還した。
その間に、持ってきた2体の人形に宿った生産属性たちが石製人形を作り始める。
再びライデンたちが戻ってきたのは1時間30分後。
先ほどと同じメンバーに加えて、新たに作られた石製人形にも続々と賢者たちが宿っていく。1体忍び込んだらどんどん増殖する。それが賢者……っ!
さて、堤防は大きな川を挟んで南北に続いていた。北は森が東西にずっと続いており、南には遥か先に城壁らしきものが薄っすらと見えていた。
城壁も気になるが、そちらは南に向かったサバイバー班がすでに見つけており、彼らに任せることに。
ライデン班は、まず堤防の向こうを確認するミッションだ。
ライデンたちは先ほどの4人で下流に向かった。そちらに橋が見えているのだ。
堤防の下と上にはそれぞれ小道があり、ライデンたちが使ったのは上の小道。日本でなら散歩道とか農道と呼称されそうであった。
途中で川向こうの堤防の上を歩く人間を発見し、4人は地面に伏せった。
新しく作られた石製人形に宿った賢者たちが、この大きな川と森の境目を確認しに行っているので注意しておく。
『絶狼:夜の散歩か?』
『闇の福音:槍を持ってかよ。ありゃ見張りだろ』
『ワンワン:物見櫓といい、向こう側は何があるんだろうな。軍事基地かな?』
『ライデン:たぶんそんなものではないでござるね』
『ワンワン:じゃあ何だと思うんだ?』
『ライデン:拙者は穀倉地帯だと思うでござる』
『闇の福音:畑かー。ロマンがないな』
『絶狼:農家にぶっ飛ばされるぞ』
ベースキャンプから1kmほど下流へ進むと、かなり立派な石橋に辿り着いた。日本の普通車でも2台が徐行せずにすれ違えそうな規模だ。橋から東西へ伸びる道も街道というべき石畳のものである。
橋の向こう側には石造りの立派な建物があった。もう0時を過ぎているのに明かりが点いていることから、見張り用の宿舎にも使われる場所なのかもしれない。
建物には、先ほどライデンたちが見た櫓が併設されていた。櫓の上には見張りがおり、気づかれないように堤防の斜面に隠れながら石橋へと近づく。
『ライデン:端っこを通るでござる。もし見つかったら、人形のふりをするでござるよ』
『闇の福音:くすぐられたら笑っちゃうかも』
『絶狼:この時間に石人形をくすぐるヤベえヤツなんていないだろ』
賢者たちは石の体なので、石造りの橋に同化して迷彩になっていた。
距離も大したものではないし、これなら簡単に越えられる。
賢者たちがそう思った時であった。
カッポカッポカッポ。
そんな音が背後から聞こえてきたのだ。
ハタとして4人は止まり、周囲を見回す。
すると、丘陵地帯の方から馬に騎乗した人がやってきた。
『ライデン:ゆっくりと隅に寝転がるでござる!』
4人はゆっくりと橋の床と壁の隅に、ぴったりとくっつくように寝転がった。人形が立っていたら不自然だからだ。
馬が橋に乗ると同時に建物のドアが控えめに開く音が鳴った。
その音を聞いて、『危なかったでござる』とライデンはドキドキした。無理に橋を渡ろうとしたら、建物から出てきた人と鉢合わせするところだったのだ。
馬が賢者たちのすぐ目の前で止まった。
馬はブルルと小さく嘶くと、橋の隅で転がる賢者たちをジッと見つめた。
全員が内心でドッと冷や汗をかいた。
俺は石、俺は石、俺は石——電信柱のふりをして不良をやり過ごす一般学生の如く、賢者たちは石ころのふりをした。
だが、馬の注目に反して、騎乗者の方は建物からやってきた人物に釘付けだった。
消し忘れたウインドウに翻訳が入る。
(兵士服の女:えへへ、お疲れ様!)
(騎乗した男:おいおい、まだ寝てなかったのか?)
そんなことを言いながら、騎乗した男は馬を降りた。
そして、次の瞬間、賢者たちは驚愕の光景を目撃する。
櫓の見張りをチラッと確認した2人は、なんとお口とお口をくっつけたのである!
コイツらなんなの、とワンワンたちの心は一致した。ちょいちょいイチャコラを見せつけてきやがる。
だが、それで助かった部分もあった。
夜の逢瀬をする2人はお互いに夢中で、お馬さんがせっかく注目しているのに、賢者たちに気づかなかったのである。無能の極み。
長いキスが終わり、頬を染めた女性がビシッとした口調で尋ねた。
(兵士服の女:モース隊員! 報告をお願いします!)
(モース:ハッ! 北東の方角より雷魔法と思しき破裂音を確認!)
完全に恋人同士がするごっこ遊びの延長だったが、賢者たちはそのやりとりにイライラしながらヒヤッヒヤ。
依然として馬はジッと賢者たちを見ているが、それでも恋人たちはお互いに夢中である。馬、無念……っ!
(兵士服の女:雷魔法? ビリビリガエルが育ったのかな?)
(モース:ああ、少し早いがそうだろうな)
(兵士服の女:1か月くらい早いね。今年は暑くなるのかしら)
(モース:かもな)
そんなことを話しながら2人は歩き出し、手綱を引かれた馬も賢者たちを気にしながら去っていった。
すると、馬の視線に気づいた女性が背後を一度振り返るが、人や獣を探すために向けた視線では、月夜の色濃い影の中にある石ころなんかに注目できるはずがなかった。
(モース:早く来いよ)
(兵士服の女:もう、せっかちなんだから)
馬が厩舎に入れられる音を聞きながら、賢者たちはやっと動き出した。
『絶狼:マジで見つかったと思ったわ』
『闇の福音:ていうかなんなの異世界人。どいつもこいつもチュッチュして』
『ライデン:恋仲の男女なんてそんなものでござろう。拙者たちが隠れているというのを忘れてはいけないでござる』
『闇の福音:言われてみれば……え、じゃあ地球でも恋人同士は人に隠れて……嘘だろ?』
『ワンワン:うぅうう……きっとあの子もあの不良と隠れて学校で……っ!』
『絶狼:おい、ワンワン、しっかりしろ! そんなことはない! そんなエロアニメみたいなことはないんだ!』
驚愕の事実!
とにもかくにも隠れる場所がない橋の上にはずっといられない。
一部、精神が負傷した賢者を促しつつ、橋を渡り切る。
物陰に隠れて、一息。
絶体絶命のピンチもあったが、4人はこの潜入ミッションが滅茶苦茶楽しかった。
『絶狼:あの男が言っていた雷魔法っていうのは、俺たちのことだよな?』
『ライデン:でござろうな。覇王鈴木殿の雷魔法が離れた場所のサバイバー班に聞こえたという報告があったでござるから、おそらくそれでござろう』
『闇の福音:アイツはうっかりなんだよな』
4人は、建物内の調査は時期尚早と考え、まずは堤防の向こうがどうなっているのかを確認することに。
建物を回り込み、いざ偵察。
『ワンワン:これは凄いな!』
『闇の福音:ライデンが正解か』
4人の目に飛び込んできたのは、広大な穀倉地帯の姿であった。
今まで賢者たちが調査していた丘陵地帯とは違ってこちら側は平地だ。ただし、所々に小さな丘があり、その上には物見台や家屋など何らかの建物が建っている。農家の人の家なのか、そこそこの数の建物も遠目に見られた。
穀倉地帯の中には夜なのに人の姿がチラホラ見られ、どうやら巡回をしているようだった。
『絶狼:なあ、これって水田じゃないか?』
絶狼が言うように、それは日本人が慣れ親しんだ水田の風景だった。
たったいま渡った大きな川から水が引かれているようで、水が張られた田んぼの中で青々とした草が生えていた。ミニャ曰くいまは夏前らしいので、稲穂はまだついていないようだ。
『ライデン:おかしいでござるね。主殿は村でパンや芋を食べていたと言っていたでござる』
賢者たちはミニャとたくさん語らってきたが、食べ物の話も当然していた。それによれば、ミニャはパンや芋類が主食だったという。少なくとも米は知らないようだった。
『闇の福音:村では自給自足が原則だったと考えれば、ほんの少し離れた場所で作られていた作物を知らなくても不思議じゃないんじゃないかな?』
『ライデン:それはありえるかもしれないでござるが……いやしかし、米の栽培ができるのに主殿がいた村は小麦をわざわざ育てたでござろうか?』
『闇の福音:国政として白米とパンの両天秤だったんじゃない?』
『ライデン:同じ耕作面積なら米の収穫量の方が何倍も多いでござるよ。うーむ、要観測でござるか』
考えてもわからないので、4人はひとまず本番となる秘密工房を作る場所を決めることにした。先ほどのベースキャンプは一時的なものなのだ。
結果、この堤防の内部に秘密工房を作り、さらに堤防内に階段を設けて監視穴を空け、田園を一望できるようにするつもりだ。人々の暮らしぶりは明日から観測できるようになるだろう。
こうして、南西調査隊は大きな発見をしてミッションを終えるのだった。
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