2-8 糸作り2 ネコグシ
本日もよろしくお願いします。
コルンの樹皮3枚分からは、薄皮が56枚取れた。
内樹皮を剥がし終わると、今度はそれを細く裂く作業だ。
ミニャはカーマインの説明を聞く。
『カーマイン:ミニャさん、この皮は横に切ろうとすると少し力が必要ですが、縦に裂こうとすると簡単に裂けます。こんな物を作ってきたので使ってみましょう。作ってくれたのはカリバーさんですね』
「カリバーさん!」
それは木や石で作られた台に乗せられた櫛のような道具で、細かな歯が上向きになって一列に並んでいた。歯は石で作られ、細さを補うために『硬化』で硬くしてある。
『カーマイン:こういった道具の名前は見つからなかったので、ネコグシと名付けました』
「ネコグシ!」
ミニャはネコミミをピコピコして復唱した。由来のヒントがきっと近くにある。
「どうやって使うの?」
『カーマイン:これはですね、薄皮をこれに突き刺すんです。ちょっと私とネコ太さんを手のひらに乗せてもらえますか?』
「わかった!」
ミニャの両手に乗せてもらったカーマインとネコ太は、薄皮の端を持って広げて、ネコグシの歯に刺した。
鋭くとがった歯は薄皮の中に走る繊維と繊維の間にすんなりと通る。
それを確認すると、歯の少し手前に板が遮断機のように降ろされた。この上に賢者が乗れるようになっていた。
上に乗る賢者は木属性だ。この作業では薄皮に対して『植物操作』の魔法が使用され、斜めに切れたり、歯に詰まったりしないように補助する。
「ふむふむ」
『カーマイン:そうしたら、私たちの胴体を握ってくれますか?』
「わかった!」
カーマインとネコ太にぷにぷに圧力が襲い掛かる。
『あー、近衛隊が騒ぐわけだ』とカーマインは思った。
好意がある異性に抱きしめられたら嬉しく思うのは人というものだろう。女性ならばなおのことかもしれない。ぷにぷに圧力はそれに似ていた。しかも胴全てにがっちりと。
しかし、それで変な声をコメントに表示させたら事案である。いまでさえスレッドは荒れているのに、もっと大変なことになる。
『カーマイン:そのままゆっくりと後ろに下がってください。転ばないように気を付けてくださいね』
「うん!」
ミニャがゆっくりと後ろに下がると、2人が持つ薄皮が櫛の歯の隙間から何十本も出てきた。
「むむむむむっ!」
気持ち良く薄皮が裂かれていく様子に、ミニャは目をキュピンとした。
木属性の賢者とネコグシの組み合わせは非常に優秀で、太さ5mm、長さ3mの繊維が一気にできあがった。
なお、片側の端はカーマインたちが持っているので裂けておらず、そこだけ切り落とすことになる。
ミニャも興奮しているが、ネコグシを作ったカーマインやカリバーも大興奮だ。自分たちのアイデアがカチリとハマり脳汁が出ていた。
『カーマイン:あそこに乗っている賢者が魔法でサポートしているので、この作業は1枚ずつしかできません。大変な作業ですが、ミニャさん、できそうですか?』
「ミニャこういうの得意!」
ミニャは「はーい」と手を上げてお返事した。得意なことが多い幼女である。
『カーマイン:できあがったものはここに引っかけてください。これではまだ太いので、あとは賢者たちが細く裂いていきます』
「お願いします!」
というわけで、ミニャはネコグシ班の班長さんに就任した。
「もういーい?」
『中条さん:はーい、いいですよー!』
櫛の歯に刺さった薄皮に木属性の中条さんが植物操作を行使し、準備完了。
ミニャは薄皮の端を両手で持って、ゆっくりと後ろへ移動していく。
すると、何の抵抗もなく薄皮が裂かれていった。
「ふぉおおお!」
地面に垂れた糸の素となる繊維の束を見て、ミニャは両手を上下に振ってひらひらさせた。モグはまたもひらひらに翻弄され、コロンと背後に転がった。
それを見た近衛隊たちはペカッと豆電球する。
ボンボンが作れるかもしれないと。チアガールがよく持っているふさふさしたアレだ。
まあそれはさておき。
「しゅるるるるる!」
要領を得たミニャがどんどん糸の素となる繊維を量産した。
量産された繊維は木の棒に引っかけられ、どんどん溜まっていく。
その1本1本をさらに細かく裂く作業をする賢者たちは大忙しだ。
約25cmの薄皮が5mmに分割されているわけで、薄皮1枚で50本も糸の素ができる。そして、コルンの樹皮3枚分で薄皮は計56枚取れた。5mmの糸の素は2800本になる計算である。これを手作業で裂いていくわけで、大変なのは当たり前だった。
ただ、人形の体の賢者たちは周りの物が巨大に見えるわけで、逆に細かい作業は得意だった。作業は大変だが、仕事のクオリティは高い。
労働を嫌う賢者たちも多いので、こんな場所にいられるかと職務を投げる者が現れそうなものだが、やはりみんな頑張ってお仕事を続ける。
そんな賢者たちの下へ、ミニャちゃん班長が視察に訪れた。ちょっと休憩らしい。
賢者たちが裂いた繊維を見て、ミニャはほえーとした。
「しゅげー。すんごい細くなってる。触っていーい?」
『鬼仮面:うん、いいよ!』
ゴツいネームの賢者が人懐っこくコメントした。賢者ネームはあまりあてにはならないのである。
ミニャは、人形サイズの物干しに引っかけられた繊維をさわさわする。繊維が地面についてしまっているが、やむを得ないことだ。
「ふぉおお、さらさら!」
『ネコ太:糸ができたら、ミニャちゃんの服や布団が作られるんだよ』
「にゃ、にゃんですとっ!」
ミニャは吃驚仰天!
この繊維から何が作られるのか全然理解していなかったのである。
そして、なぜかズンズンダンスを踊り出す。
『タンポポ:あわわわわ、無軌道な幼女!』
とりあえず、近衛隊も踊っておいた。限りなくホワイトな職場である。
感謝の踊りを披露したミニャは、自分の作業を思い出し、やる気満々で再開した。
途中でお昼ご飯とお昼寝の時間をたっぷり挟みつつ、夕方前には作業が終わった。
「わぁー……」
自分もたくさんお手伝いして繊維が作られたのがミニャは嬉しいのだろう。丸太の椅子に座って、しばしその様子を眺めていた。
大自然の中で白く細い繊維がツルに引っかかる光景は、どこかノスタルジックな美しさがあった。ミニャの周りに集まる賢者たちも、見たことのない光景なのになんだか懐かしい気持ちになった。
出来上がったのは、糸を紡ぐための細い繊維が約5000本。どれも2mmから3mm程度だ。つまり、ミニャが作った糸の素をさらに半分に裂いた形になる。
別枠で、1mmにまで細くされた糸も用意されている。こちらの糸からは、ミニャのお風呂用タワシやタオルが作られる予定だ。
適当な量で束ねられて、拠点の中に入れられる。
続きの作業は明日だ。
賢者たちと繊維の束をお家の中に運び入れるミニャは、チラッチラッと廊下の様子を見る。賢者たちがお風呂場と廊下を忙しなく移動しているのだ。どうやらお風呂の準備が始まっているようだった。
「今日はカーマインさんたちも入る?」
ミニャは足元を歩くカーマインに問うた。
周りからどよめきが起こった。カーマイン氏に唐突に訪れた社会的抹殺イベント。
『カーマイン:へっ? い、いえ、私は大丈夫ですよ。ミニャさん、女の子と男の子は一緒にお風呂に入らないものなんです』
「はえー、そうなんだー。カーマインさんは男の子?」
『カーマイン:はい。ですから、モグちゃんや近衛隊の方たちと楽しんでください』
危機回避!
カーマインはまともだった。
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