1-37 ゴブリン討伐戦2
本日もよろしくお願いします。
【135、ネコ太:サバイバーに聞きたいんだけど、モグラを飼う時の注意点は!?】
【136、サバイバー:君ら、余裕だね!?】
サバイバーは、連絡スレに入ってきた質問に内心で苦笑いした。
すると、珍しくミニャがスレッドに書き込んだ。
【137、ミニャ:モグブシンちゃん、お家に居させちゃダメ?】
【138、サバイバー:う、うーん、それは別にいいと思うけど】
【139、ミニャ:ホント!? やったー!】
【140、サバイバー:ただ、俺もさすがにモグラの飼い方はわからないよ。そもそも正確にはモグラじゃないしね。とりあえず、家にいるなら体を洗ったほうが良い。特に爪はちゃんと洗うんだよ。心を読む幻獣らしいから、ちゃんと教えれば洗う必要性を理解するだろう。ミニャちゃん、詳しくはネコ太に教わって】
【141、ミニャ:うん、わかった!】
サバイバーはそんな元気な書き込みに内心で微笑んだ。
それと同時に、首の骨がへし折られた上級ゴブリンがその場に崩れ落ちる。
この男、幼女とスレッドでお話ししながら、ゴブリンを殺害していたのである! 猟奇殺人犯のプレイスタイルだ。
サバイバーはステータスをチラリと見ると、『影響制限:魔物』の数値を考えながら近くの木に登り始める。
『影響制限:魔物』は、魔物を倒すことでポイントが上がり、これが100Pになったら今日はもうこの世界に留まれない。いま倒した上級ゴブリンのポイントは6P、ついさっき倒した下級ゴブリンは4Pだった。
現在のポイントは、深夜に集落で始末した1匹、モグブシンを虐めていたゴブリン2匹、ネズミを持ち帰った4匹、上級ゴブリン1匹の計34Pである。
ゴブリンの集落から向かってきているのは40匹前後という話なので、サバイバー1人では影響制限をオーバーする。
【146、ニーテスト:待たせたな、サバイバー。石製人形15名が森に入った】
【147、サバイバー:オッケー。それじゃあ先ほど打ち合わせた通りに速やかに行動させてほしい。今のところまだ敵影は見えないけど、最も近い個体でそろそろ1kmは切るだろう】
【148、ニーテスト:了解した】
【149、サバイバー:それじゃあ俺も作戦地点に向かうよ】
いま倒した上級ゴブリンが最も近かった個体だが、すでにあの世に逝ったのでノーカンだ。
石製人形に宿った15人の賢者たちは、ミニャの家のすぐ対岸から森の中へと全力で走り、目的のポイントに到着した。西の森の入り口から80m程度、ミニャの家から120m程度の距離だ。
そこは2m幅くらいの茂みがある場所で、賢者たちはその裏側に転がり込んだ。
『チャム蔵:穴掘り! 穴掘り! 穴掘り!』
『絶狼:穴掘り! 穴掘り! 穴掘り!』
すぐに8人の土属性賢者たちが窪地を掘り始めた。
散々やった作業なのでその手際は極めて早い。ミニャと一緒にのんびりと作業をしているわけでもないので、なおさらだ。
転がるように移動して地面を掘り、縦横160cm、深さ20cmの窪地があっという間に完成した。
その窪地の中央にさらに穴を掘ると、他の賢者が集めた針葉樹の枝葉を組み、火をつけた。
すると、枝葉が一気に煙を吐き出し始める。
土属性賢者たちの作業はまだ続き、今度は窪地の端に30cm四方の穴を斜めにひたすら掘る。
【170、サバイバー:かかった! 煙を見てゴブリンの動きが変わったぞ!】
高所から森の様子を見ていたサバイバーが、ゴブリンの動きが明らかに変わったことを捉えた。
『鍛冶おじさん:こっちもできた!』
『霧雨:すぐに鳴らして!』
生産属性の鍛冶おじさんが作ったのは、石の板と、枝に石の球体を取りつけたバチ。3分程度で作ったため、その造りは非常に雑。しかし、それで十分。
鍛冶おじさんがバチで石の板を叩くとカチンカチンとそこそこ大きな音が鳴った。
【171、サバイバー:一番近い奴で距離200mだ! 横穴はどう!?】
【172、チャム蔵:いま2m!】
【173、サバイバー:それでいい! 最後にL字に曲げたら作業終了だ!】
【174、ニーテスト:作業が終わった土属性は入れ替えるぞ!】
作業にあたった8人の土属性賢者たちのうち、6人を雷属性の賢者と入れ替える。
土属性と入れ替わり人形に宿った賢者たちは、周辺の地形を確認して頷く。生放送で状況を真剣に見ていたので、戸惑ったりはしない。
全ての作業が終わると、13人の賢者たちは窪地から15mくらい離れて取り囲むように散開して、腐葉土を被って身を潜めた。横穴の中には2人の賢者が入り、L字に曲がった奥で楽器を鳴らし続ける。
窪地では火のついた針葉樹の枝葉がもくもくと煙を吐き出し、その奥にある横穴の中からはカチカチと石の楽器の音が鳴り続ける。
『雷光龍:なんで音程を発見してんだよ』
『霧雨:それっぽくていいじゃないか』
そんなことをこそこそとフキダシで呟きあっていると、最も近くにいたゴブリンたちが2m幅の茂みに到着した。
遮蔽になったその茂みを回り込んで発見した窪地を見て、ゴブリンたちは歓喜するように邪悪な笑みを見せる。
「ポギャホーッ!」「ポギャホーッ!」
2匹のゴブリンが不快な声を空へ向かって発する。
すると、かなり離れた場所に設置された国境の見張り穴から連絡が入った。
【184、天風:600m地点の見張り隊より報告! 川へ降りようとしていた個体が煙に誘導されたよ!】
【185、ニーテスト:おそらく煙ではなく遠吠えが原因だな。集落の動きは?】
【186、ワンワン:全員が北東を見たけど、その後には動きなし。ただ、杖ゴブリンがリーダーゴブリンの家に入って、たぶん寝取りを行なっている】
【187、覇王鈴木:邪悪のハッピーセットかよ】
遠吠えにより、ゴブリンたちが続々と集まり始めた。それが罠にかかったアホによる招集だとは知らずに。
茂みの奥で上がる煙にゴブリンたちはワクワクして茂みを回り込み、窪地を見て、最初のゴブリンと同じように歓喜していった。
その際には、隠れている場所のわずか20cmほどを通過された賢者もいた。
心臓が飛び出そうになるほどビビるが、ゴブリンたちは腐葉土の下にいる存在になんて気づかない。
集まった中には上級ゴブリンもおり、下級ゴブリンを押しのけて穴の中に棒を突っ込んだりしている。
穴の径は30cmだ。普通なら人が入れるとは思わないだろう。しかし、L字に曲がった穴の奥では魔法の光が灯り、何かがいる音がずっと聞こえ続けていた。ゴブリンたちはそこにお目当てのものがいると疑っていないようだった。
「ゲギャギャーッ!」
ついにリーダーゴブリンが現場に到着し、上級ゴブリンを押しのけて穴を覗き込む。
「ゲギャーッ!」
リーダーゴブリンが穴の中に向かって吠えた。
『鍛冶おじさん:超怖いんですが!?』
残念!
中にいるのは鍛冶おじさんでした!
鍛冶おじさんはビビリ散らかして音楽を止めた。
なにくそと頑張って再び叩こうとするが、その手を一緒に隠れていた光属性の白銀が止める。
『白銀:逆にリアルだからしばらく止めよう』
その選択は正しかったのか、リーダーゴブリンは音が止まったことを受けて、怯えているとでも思ったのか声を立てて邪悪に笑った。
周りのゴブリンたちもそれに合わせて笑うが、中には殺意の宿った目でリーダーを見る上級ゴブリンもいた。なぜそんな目で見るのか。その答え合わせはすぐに行なわれた。
1匹の上級ゴブリンが横穴を拡大するように穴を掘り始めた。
それを見たリーダーゴブリンが勝手なことをするなとばかりに、その頭を棍棒で殴りつけるというパワハラの最終形態のような暴行を行なったのだ。それは憎悪の視線を向けるというもの。
【192、白銀:攻撃命令はまだか?】
【193、サバイバー:もう少し待ってくれ。あと2分くらいで見える範囲の全部が集まる】
【194、白銀:わかった】
遠吠えを聞いた近い順から集まっているので、リーダーゴブリンが重役出勤よろしく最後というわけではなかった。当然、集落よりも遠い場所から遠吠えを聞いたゴブリンは集まるのに遅れていた。
【200、天風:600m見張り隊から報告! 河原を北上しているグループがいるよ! 数は12匹、距離は700mくらいのところにいる! おそらく誘導作戦に引っかかっていない!】
だから、こういうグループも存在した。
おそらく、南の河原沿いを狩猟場所にしていた下級ゴブリンたちだろう。ルミーナ草の香りの守護は南に行くほど効果が薄くなるはずなので、ミニャの家の近くで見るゴブリンよりも数が多い様子だ。
【201、サバイバー:そっちは俺たちではどうしようもない。覇王鈴木隊が始末してくれ】
【202、覇王鈴木:わかった!】
【203、サバイバー:ミニャちゃんの森に逃げ込むようなことがあれば厄介なことになる。落ち着いて全部確殺してほしい】
そうこうしていると、サバイバー隊の罠にゴブリンたちが集合した。
その数は38匹。
ワンワンの報告では40匹前後が向かって来ているらしいので、ほぼ一致している。
『雷光龍:マジでくせぇな』
『霧雨:サバイバーと覇王鈴木が言っていたことが分かったわ。腐葉土の臭いが癒しになるくらいだ』
38匹もいるので、臭いはとんでもないものだった。
ゴブリンたちはまるで垣根を作るように押し合いへし合いして、横穴に注目している。遮蔽物になっていた茂みをなぎ倒してまで、特等席で見たい様子だ。
そんなゴブリンたちを上から見ると、まるで窪地を中心にしたドーナッツのようだった。ドーナッツの外縁では見えない苛立ちからか、殺し合いと言えるような喧嘩を始める個体すらいた。最低のドーナッツだ。
いったいゴブリンにとって人間はどのような扱いなのか。大ネズミを手に入れた4匹のゴブリンたちとは、明らかに熱気が違った。
【210、サバイバー:よし、全て集まった。これより討伐を行なう。白銀と鍛冶おじさんは穴の外へは出るな。巻き添えを喰らう恐れがある。外班は俺の攻撃を合図に殲滅戦を開始してくれ。一匹も逃がすな。できれば遠吠えも使わせるな】
【211、サバイバー:じゃあ、始めるぞ!】
賢者たちはサバイバーがどこにいるのか知らなかった。
隠れていた賢者たちがどこから攻撃の狼煙が上がるのかわからずにドキドキしていると、唐突にそれは始まった。
窪地の近くに立つ木の上から、ウォーターボールが連射されたのだ。
そう、サバイバーはずっと窪地のすぐ近くにある木の上から状況を見ていたのである。
まず狙われたのはリーダーゴブリン。
不確定要素が最も大きい個体だ。
魔法による奇襲に気づけなかったリーダーゴブリンは頭部を弾かれて激しく転倒するが、サバイバーは死亡確認など行なわずにそのまま魔法を連射して滅多打ちにした。
いきなりボスが転倒したことにギョッとしたゴブリンたちが、一斉に水が降ってきている木の上を見上げた。
『雷光龍:これでも食らえ! サンダーボール!』
『タカシ:うぉおおおおお! 雷属性はハズレじゃねえ! サンダーボール!』
サバイバーの攻撃の合図に、腐葉土を被って隠れていた賢者たちが跳ねるように起き上がり、魔法の連打を開始した。
その瞬間、ゴブリンの垣根の外側からけたたましい破裂音がいくつも鳴り響く。
『霧雨:クソッたれがーっ!』
そうかと思えば、間髪入れずに四方から襲った強い衝撃がゴブリンの垣根を波打たせる。
外側から押されて窪地の小さな段差に転げるゴブリンが数匹。サバイバーがまき散らしたウォーターボールの残滓が窪地にぬかるみを作っており、転倒したその体を濡らした。それが死の呼び水になった。
ババババンッ!
再びけたたましい破裂音が鳴った瞬間、濡れた体のゴブリンたちが一斉に体を痙攣させた。
『チャム蔵:オラオラオラオラ!』
『雷光龍:クソッ、クソ……ッ!』
茂みに隠れていた賢者と周囲に散った賢者たちから容赦なく魔法が放たれ続ける。
一か所に集まっているため、放たれた魔法の全てがゴブリンたちにヒットした。
特に水属性と雷属性のコンボは凶悪で、一気に複数のゴブリンが痙攣して倒れていく。
サバイバーは木の幹に足の裏をつけて直角に立ち、そんな討伐の様子を眺めた。美少女フィギュアの華奢な手には水の鞭が握られ、直角立ちを補助している。
『サバイバー:ウォーターボール』
時折放つウォーターボールは、遠吠えを上げようとする個体の口を的確に撃ち、声を出させない。
そんなことをしながらステータスを開き、『影響制限:魔物』を確認する。
54P……56P……57P……60P。
リーダーゴブリン以外にはもう殺していないのに、ポイントが少しずつ上がっている。
『影響制限:生産』は協力して物を作ると、参加者全員で影響制限が割り振られる。『影響制限:魔物』も同じことが起こっているのだろう。
この作戦全体で等分されている雰囲気ではない。おそらく、個体に与えたダメージ比率でカウントされているのだと、サバイバーは推測した。
【245、サバイバー:ニーテスト、全体の様子は?】
【246、ニーテスト:河原はまだ戦闘が始まっていないが、こっちは十分に戦力があるから大丈夫だ。集落は特に逃げ出すような個体はいない】
【247、サバイバー:死の臭いが立ち込めている。各方面の見張りに十分注意させてほしい。ゴブリンよりも強い魔物をおびき寄せるかもしれないからね】
【248、ニーテスト:わかった。斜面の上に少し人員を増やそう】
【249、サバイバー:ミニャちゃんは?】
【250、ニーテスト:モグブシンと遊んでいる。近衛隊が気を逸らすために頑張ってくれているな】
【251、サバイバー:ははっ、それならいい。こんなのは子供のうちに見るものじゃない】
【252、ニーテスト:ただ、やはり討伐隊の心配をしているようだな。サンダーボールの音をお前らがやられている音と勘違いしていた】
【253、サバイバー:いい子だなぁ】
【254、ニーテスト:じゃあ、もうそっちは問題なさそうだな】
【255、サバイバー:ああ。……ニーテスト、悪かった。今回の件は俺の判断ミスだ。モグブシンが攻撃を受けている時に即座にゴブリンを始末しておけば、こんな忙しい戦いにはならなかっただろう】
【256、ニーテスト:いや、お前は別に軍人じゃないんだろ? それならそこまで責められた話ではない。ミニャが飛び出すまで2分もなかったし】
【257、サバイバー:そう言ってもらえると助かるが、とにかく悪かったよ】
【258、ニーテスト:反省会はあとだ】
スレッドでやり取りをしている間に、討伐はほぼ終わった。
死亡しているゴブリンがほとんどだが、まだ生きている個体もいる。
全てのゴブリンで共通していることは、立っている者がいない点であった。
30cmの人形である賢者たちにとって、巨大な標的が全員倒れたことは自然と攻撃の手を止めるのに十分な理由だった。
攻撃音が止み、あとにはゴブリンたちの苦痛の声だけが残った。
『サバイバー:さて、とどめを刺そうか。俺は影響制限がヤバいから悪いが手伝えない』
ウインドウに流れてきたサバイバーのコメントを見て、賢者たちはウッとした。
『雷光龍:これ以上やる必要はあるのか?』
雷光龍からの言葉は文字からでも恐れが感じ取れた。
そんな雷光龍にサバイバーはきっぱりと返した。
『サバイバー:あるね。復讐心を持たれたら未来の負債になる。しかも相手は道具を使うゴブリンだ。どこで弓や魔法を覚えるかわからない。ミニャちゃんを手に入れようとする狂気を俺たちは確認した。そんな存在が弓や魔法を覚えたら相当な脅威になるだろう』
『雷光龍:……そうだな。わりい、少し日和った』
雷光龍は近くで呻く上級ゴブリンに、サンダーボールを2発撃ちこんだ。上級ゴブリンは魚のように体を跳ねさせて息絶えた。
他のメンバーも覚悟を決め、まだ生きているゴブリンにとどめを刺していく。
そこに嬉しそうなコメントはなく、どんよりとした空気が漂っていた。人と相容れない存在とはいえ、子供と同じくらいの目方の生物を殺して回るのだから、まともな感性なら当然の反応だろう。
なにより、異臭が酷い。
元々のゴブリンの臭いが酷いうえにそれが感電によって焼け、さらに血反吐や糞尿の臭いも混じり、戦闘で興奮した賢者たちの気持ちを非常に強く現実に引き戻すのだ。
【302、ニーテスト:みんな大変な任務ご苦労だった】
ニーテストがスレッドで呼びかける。
戦いに参加した賢者たちが一人、また一人とそれに気づき、全員がウインドウに視線を向けるとニーテストが続けた。
【306、ニーテスト:改めて大変な任務ご苦労だった】
【307、タカシ:ホントだぜ】
【308、ニーテスト:この後の予定だが、サバイバー以外は一度帰還させる】
【309、チャム蔵:後始末はいいのか?】
【310、ニーテスト:後始末は他の賢者がやるからいい。お前らは十分にやったからな】
【311、タカシ:そういうことなら甘えますかね】
【312、霧雨:本体に戻ってもこの臭いが鼻に残ってそうだなー】
【313、雷光龍:河原沿いを北上してるヤツらはどうなった?】
【314、ニーテスト:そろそろ始まるが、まあ、あっちの方が賢者の数も多いし余裕だろう。お前らが応援に行く必要はない】
【315、雷光龍:わかった。それじゃあ帰るとするよ。ただ、何かあればいつでも招集をかけてくれ】
こうして、サバイバー隊によるゴブリン討伐戦は終了した。
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