1-23 ミニャの事情
本日もよろしくお願いします。
陽が落ち、夜が訪れた。
けれど、ミニャのために作られた秘密基地風のお家の中は、暖炉に火が灯されてほんわかと明るい。
土と木材の匂いの中で、外からふわりと漂ってくるのはルミーナ草を擦った香り。すでに魔物避けが始まっており、家の中と外で2時間に1枚ずつルミーナ草の花弁を擦る予定だった。
この香りがなかなか良く、暖炉の温かな光と相まって、賢者たちはノスタルジックな気持ちになっていた。
お家の内外では、これまでに作ったたくさんの赤土人形や石製人形に賢者が宿って活動している。お家の壁際には、充填中の人形もたくさん寝転がっていた。
ミニャは賢者たちが作ってくれた干し草のベッドをとても気に入り、ニコニコして丸くなっている。
『ニーテスト:ネコ太、それじゃあ頼むぞ』
赤土人形に宿ったニーテストが言う。
召喚が落ち着いたので、約束通りにニーテストは異世界を楽しませてもらっているのだ。ただし、異世界でもミニャの代理で賢者召喚を行なっているので、楽しめているかは本人のみぞ知る。
ニーテストに頼まれたネコ太は、女性だけで構成された近衛隊と共にミニャの周りに集まる。彼女たちの今回のミッションは、ミニャの境遇を聞き出すことである。
しかし、相手は7歳児。
理路整然とした語りを期待することはできない。だから、ネコ太たちはミニャが話しやすいように、ひとつひとつ質問していった。
『ネコ太:ミニャちゃん。ミニャちゃんはどうして森の中にいたの?』
「えー? うーんとねぇ、ミニャねぇ。女神様とお別れしたら、あそこにいたんだ」
オブラートに包んで尋ねたが、返ってきた答えはすでに聞いているものだった。
かなり壮絶な人生が予想できるので、どう聞いたら傷に触らずに尋ねられるのか。
『乙女騎士:最初から語ってもらった方がいいかもしれませんね。ミニャちゃんはどこで生まれたんですか?』
そんなふうに尋ねていき、ニーテストや近衛隊、家の中で活動している賢者やパソコンの前で生放送を見ている賢者たちは、ミニャの境遇を知ることになる。
ミニャは村の生まれだった。
その村の所在地や、他の村や町との違いなどは一切わからない。幼いミニャにとってその村が世界の全てだったので、比べようがなかったのだ。
唯一、コーム村という名前だけはわかった。
ミニャは父親の顔を知らず、同じ猫獣人の母親に育てられた。
「お母さんね、狩りの途中でおっきなケガをしたの。それでちょっとして死んじゃったの。……ミニャ、お母さんが元気になりますようにって、いっぱいお祈りしたのに」
ネコミミをへにょりとさせながらそう言うミニャの姿に、ネコ太たちは言葉を詰まらせた。スカートをギュッと握るミニャの手をネコ太が摩ると、ミニャはネコ太を捕まえて抱っこした。
『栗田ニアン:お母さんが亡くなって、どうなったの? あっ、辛かったら、お話ししなくても大丈夫だよ』
栗田ニアンのコメントを読んで、ミニャはゴシゴシと目を擦ると、ぽつりぽつりと語った。
母親が亡くなると、ミニャは村で育ててもらうことになった。
特に意地悪をされたということはなく、普通に育ててもらったが、その半年後にミニャは奴隷として売られてしまう。
「不作っていう怖いのが起こったんだって。オジサンたちが言ってた」
その理由がなんであるのかミニャはよくわかっていなかったが、オジサンたちが語ったという話を聞いて、賢者たちは察することができた。
平時ならば村で育ててあげられたが、不作となれば口減らしの白羽の矢が他人であるミニャに立ってしまったのだろうと。
ミニャはそれから近くの町へと運ばれた。
村しか知らないミニャだが、町へは行ったのだ。しかし、観光に行ったわけではないので、町の様子は一切わからなかった。
その後、王都に向かうことになった。
これも何故だかミニャは理解していなかったが、「ミニャを洗ったら商人さんがすごく喜んでた」という証言から、賢者たちは推測していく。
ミニャは賢者たちの目から見てもとても可愛らしいので、もっと栄えている場所で売ろうと商人は考えたのだろうと。
その頃になると、ミニャの境遇があまりにも不憫で、近衛隊のコメントはとても重くなっていた。ミニャ自身も母親のことを思い出してしまったのか、しょんぼりしている。
仕方ないので、ニーテストが尋ねた。
『ニーテスト:それでミニャは王都へ行ったのか?』
「ううん、王都ってところに行く前に、いっぱい並んでた商人さんの馬車が魔物に襲われたの。ミニャ……ミニャね……怖くなって、馬車から飛び出して逃げたの。そうしたら、いつの間にか森の中にいたの」
そして、森の中で一晩を過ごし、霧の中を彷徨ったミニャは女神の園にたどり着く。
どこまでも続く花園。賢者たちが文字で語らう不思議な箱。ほっぺたが落ちそうなほど美味しいお菓子。今まで見たどんな人よりも綺麗な女神様。
その体験はとても楽しかったのか、ミニャは元気を取り戻して語る。半日前のことなのでよく覚えているというのもあるかもしれない。
『ニーテスト:ふむ。女神は、園に迷い込んだ者に不思議な力を与えるのか……』
「そうだよ。お母さんがお話してくれた通りだったの! 気に入った人にねぇ、すんごい力をくれるんだ。王様になった人もいるんだよ」
『ニーテスト:気に入った人? 迷い込んだ人は全員が力を貰えるわけじゃないのか?』
「うんとねぇー。気に入らない人は『まぐまにぶちこむ』って言ってた!」
『ニーテスト:な、なるほど』
それを苛烈と考えるか、良い機会なので危険な人間を女神直々に始末していると評価すればいいのか難しいところ。なんにせよ、女神の怒りに触れてはならないと賢者たちは理解した。
ミニャのたどたどしい語りはいよいよ終盤となり、自分たちとの出会い直前の話になった。
「そんでねぇ、ミニャねぇ。お母さんと女神様にお花の冠をプレゼントしたんだ! 女神様、お母さんに渡してくれたかなぁ?」
ミニャの健気さに触れて、直にお話を聞く賢者たちが心の中で涙を流した。
そんな賢者たちを通じて生放送を見ている賢者たちの中には、実際に涙を流す者もいる。ミニャと出会い、言葉をかけてもらい、誰もがもう他人事ではないのだ。
『ネコ太:絶対に届けてくれたよ!』
「ホント!? 良かったぁ、んふぅ!」
ネコ太の励ましに、ミニャはニコパと笑った。
「ミニャね、賢者様たちと一緒でとっても楽しいんだ! だからねぇ、今日は寝る前に女神様にいっぱいお礼するの! 素敵な魔法をくれて、ありがとうございますって!」
純真無垢なる笑顔をペカーッと喰らい、薄汚れちまった賢者たちは眩しそうにするのだった。
『ネコ太:ミニャちゃん、寒くなーい?』
「うん、大丈夫……」
語り終えたミニャは寝床に入った。
お家の中で働いている賢者たちをニコニコと見つめていたミニャだったが、少しウトウトし始めたので横になると、すぐに眠りに落ちてしまった。
まだ19時30分と早いが、濃厚な1日を過ごしたので疲れていたのだろう。
ミニャが眠っても賢者たちをこの世界に繋ぎ止めている術が切れることはなく、存在し続けることができた。
賢者たちは声を発せないので静かなもので、少し離れた場所にある川のせせらぎを聞きながら、フキダシでの会話がゆっくりと流れた。
ミニャの一日はこうやって終わったが、賢者たちの一日は終わらない。
これからミニャが起きるまで、いくらでもやることがあるのだ。
そして、そのひとつである大会議が開かれようとしていた。
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