7-28 大規模オフ会6 ギャルゲヂカラ
本日もよろしくお願いします。
修行が終わり、夜。
「疲れた……」
「だけど、このまま何kmも走れる気がするの、なにこの気持ち悪い感覚」
「今まで感じたことない気分だよな」
ネコミミストアまで戻ってきた賢者たちは、ただ呼吸の仕方を学んでいただけなのに大変な疲労感に襲われていた。しかし、その反面で体の奥底から力が湧きあがってきて、思考もいつになくクリーンという、奇妙な矛盾も感じていた。
「肉体や技の修行ではなく呼吸法の修行だから、疲労とこれまで感じたことのない清々しさが交じり合っているのだろうね」
死にかけの覇王鈴木たちに、サバイバーが言う。
「あー、そういうことか」
「俺は幼い頃に済ませているから、その感覚はもう忘れてしまったけど。まあ、普段は使わない筋肉も使っているから、明日筋肉痛が酷いようなら言いな」
「わかった」
「さて、それじゃあ飯にしよう」
ライトが照らすネコミミストアの駐車場で、食事会。
内容は豚汁、肉野菜炒め、おにぎり、夏野菜の漬物。まるでミニャンジャ村の昼飯のようなラインナップだ。しかし、集団にふるまうにはこういった料理が簡単なのでしかたない。
「他の賢者に呼吸法を教える時はどうするんだ?」
地べたに座り、覇王鈴木が豚汁をすすりつつ、サバイバーに問う。
「そこがなかなか難しいところなんだよね。個人レッスンをするのは無理だろう。手が足りなさすぎる。だから、ある程度修行が進んだ賢者を集めて、どこかのタイミングでまた集団レッスンになるだろうね」
「修行が進んだ賢者ってことは……ユナちゃんたちはちょっと早かったか?」
覇王鈴木は本人たちの位置を確認しつつ、小声で問うた。ユナやアオは賢者になってまだ1カ月も経っていない。
「十分によくやってたけど、姿勢を正す手間が多かったね」
「あー、姿勢は滅茶苦茶大事だからな。ていうか、この豚汁、人生で一番美味いわ、冗談抜きで」
「ウチは調味料を自家製する人が多いんだよ。その豚汁だとミソがそうなんじゃないかな?」
「へえ。ミッソやトマトンが喜びそうな話だな」
「話を戻すけど。君らはこれからダンジョンで呼吸法の自主練を正しくできるだろうが、彼女たちは鬼行法の修行や姿勢の矯正を並行して行わなければならない。そうなるとお互いに効率が悪いだろう?」
「ああ、確かに」
「まあ、今回のことを試金石にして、諸々調整といったところだろうね。君は彼女たちと家も近いし、早いところ呼吸法をマスターして指導を頼むよ」
「いや、闇人かホクトに頼めよ。体に触る必要があるし、俺だと不味いだろ」
「えー、そうかい?」
「そうだよ。さて、ちょっと豚汁のおかわりしてくるわ」
夕飯を食べ終え、賢者たちは各々が泊まる家に向かった。
賢者たちが泊まる家は4通り。まだ入居者がいない賃貸、引っ越してきた賢者の家、ネコ忍の一軒家、空き家をリフォームした共同宿泊所、このいずれかだ。気を使うが、ネコ忍の一軒家は一番手厚く歓迎してもらえるパターンである。
「風呂って入っていいんだよな?」
「いや、シャワーにしてくれって話だったぞ」
「そうだっけ。まあシャワーでも全然かまわないけど」
タカシの質問に、ブレイドが答える。
覇王鈴木の班は、ブレイド、タカシ、闇の福音、ロリエール、平和バト。この6人でまだ入居者のいない平屋に宿泊だ。大家がネコ忍だからこそできる手法である。
ちなみに、工作王や髑髏丸は生産属性の賢者で集まって宿泊だ。同好の士なので、語らうことも多いのだろう。
「ハト、先に浴びてきていいぞ」
「はい、ありがとうございます」
と順番にシャワーを浴びることに。平和バトが一番なのは、童顔なのでシャワーを待っている間に寝ちゃうのではないかと心配してのことだった。舐められ過ぎである。
残りはじゃんけんして順番を決める。
「それでブレイド、なんつって告白したの?」
「えー、いきなりかよー」
「マジで超羨ましいんだけど。乙女騎士、滅茶苦茶美人じゃん。性格も良さそうだし」
「へへへ!」
などとタカシとブレイドがやり始めた。女子か。
一方その頃、ニーテストたちのシェアハウスでも、乙女騎士が質問攻めにされていた。
そんな話をしながら順番にシャワーを浴び、最後に覇王鈴木が風呂場へ。
「私は少しミニャンジャ村に行って一仕事してきますぞ」
「あ、それなら俺はダンジョンに行って復習するかな」
「おっ、ブレイド、いいねそれ。俺も行くわ」
「僕も行きます!」
「それじゃあ俺も行くかな」
ロリエールがミニャンジャ村に行くというので、他の面子も呼吸法の復習がてらにダンジョンへ行くことにした。
闇の福音が風呂場のドアをノックして、大きな声で覇王鈴木に呼びかける。
「おーい、覇王鈴木。俺たち、ダンジョンに行ってくるから」
「え、ごめん、なに? ダンジョンっつった?」
「そう、ダンジョン!」
「了解! 俺はちょっとネコミミストアに行ってくるから! 歯ブラシ忘れた!」
「オッケー! あっ、ついでにリンゴ系のジュース買ってきて! 金置いておくから!」
「わかった!」
覇王鈴木はそんなやり取りを終えて、あいつら元気だなと思いながらシャワーを再開する。
シャワーを終えた覇王鈴木が居間に戻ると、すでに誰もいなかった。目立つところに紙が置かれており、その上に千円札が置いてあった。ちなみに、この部屋にテーブルなどの家具は一切ない。あるのは貸し出してもらった寝袋だけだ。
『すまん、追加注文。電子マネーしか使えないから釣りはいらん』
紙にはそんな言葉と共に、追加注文のリストが書かれていた。他のメンバーからの注文だ。パシリ? いいや、効率である。
「そういえば、ネコミミストアは電子マネーしか使えないんだったか」
そう思い出しつつ金を財布に入れ、平屋を出る。
「うーん、田舎」
電灯はあるが、それでも自然の多い田舎の夜は暗い。
都市部ではないからかセミの鳴き声はすでになく、代わりに名前もわからない夜虫やカエルがそこら中で鳴いている。
「熊とかイノシシが出てきたらどうしよう。いけるかな?」
そう呟きつつ、ネコミミストアへ向かう。
途中にある一軒家や貸家の窓には明かりが点いており、それらを借りている賢者たちの笑い声が時折聞こえてきた。みんな仲良くやっているようである。
夜道を歩きながら、今日学んだ呼吸法を復習する。
まずはマラソンで習得した基本となる深い呼吸。サバイバー曰く、これさえ忘れなければ、続く平常時の呼吸の練習はできるという。
呼吸法なので、意識せずに24時間できて初めて体得できたと言えるだろうと覇王鈴木は考えていた。とにかく、日々続けなければならない。
ピコンとスマホが鳴った。
見れば、ユナからチャットがきたようだった。
『夜に修行に付き合ってほしいとお願いしましたが、今から大丈夫ですか?』
「みんな元気だな、おい」
『大丈夫だよ。いまブレイドたちがダンジョンにいると思うから、先に行っててくれる? 俺も後から行くから』
『わかりました。待ってます』
覇王鈴木はチャットを終えると、再び意識を呼吸に向ける。
そうしてネコミミストアの駐車場に入ると、ある一か所を見てギョッとした。
ネコミミストアは通常のコンビニのように入り口側の1面がガラス張りで、他の3面はほとんどが壁になっている。その明かりがわずかに入り込む建物の横の暗がりで、誰かが膝を抱えて蹲っているのだ。
「え、ヤミノに悪戯された?」
人に幽霊を見せられる魔法を使えるヤツが仲間に居るので、まず疑ったのはそれ。
しかし、パトラシアで霊視を体験したことは覇王鈴木もあったが、その時に見た霊のような質感ではなかった。あそこにいるのは本物の人間だ。
となると。
お泊まり会で上手いこといかなかった人、あるいは賢者ではない人間がこの里に紛れ込んでいるか。高い諜報能力を持ったネコ忍たちなので、後者の可能性は低そうだが。
なんにせよ、どうしたのか尋ねる必要がありそうだ。
そう思って覇王鈴木がわざと足音を立てて近寄ると、その人物はハッとしたように顔を上げた。
その顔を見た瞬間、覇王鈴木はその人物が誰だかなんとなく理解した。
「ネムネムか?」
栗毛色の髪をした背の小さな娘だった。服装は丈の短いワンピースに、ショートパンツと黒いタイツ。
「あ、あわ……は、はお……すず……君……」
娘は慌てて立ち上がると、サイドの髪を両手で持って顔を隠す。
その時、遠くから数人が談笑しながら歩いてくる声が聞こえた。
覇王鈴木は咄嗟に娘の手を取ると、自分も建物の横の暗がりに入った。
「っっっ!?」
体を強張らせる娘と一緒に隠れる覇王鈴木は、この状況を見られたら俺の信用はどうなるのだろうか、とドキドキした。
「そのうち、この店が全国チェーンになるんだろうな」
「ネコミミ帝国の侵略だな」
「ミニャちゃん最強! 賢者最強!」
「いや、ここのオーナーってネコ忍の誰かだろ? そんな商売っ気あるのかな?」
アイツらってリアルでも言うことが変わらないなと思いつつ、自動ドアが開いた音を聞く。
覇王鈴木はホッと息を吐き、隣を見た。
「悪かったな」
そう謝ると、娘は俯きながら首を振った。
「ネムネムだよな?」
娘はワンピースの裾をギュッと握って逡巡したかと思うと、小さく頷いた。やはりこの人物こそがネムネムだった。
「タクシーで来たのか?」
そう問うと、ネムネムは首を横に振った。
「え、じゃあ、どうやって……あー、そうか、転移機能を使ったのか」
女神の月に行なわれる女神詣の際に、賢者たちには『場所指定帰還』という機能が解放された。
これは、パトラシアから日本へ帰還する際に、元居た場所ではなく女神像を設置した場所に帰ることができる機能だった。1回使用するのにお仕事ポイントが1万点もかかるが、万が一の際にはとても頼りになる機能と言える。
女神像の設置場所は全賢者共通で現状では1カ所だけしか指定できず、緊急避難場所という観点から最も安全な八鳥村に設置されていた。
明らかに人見知りっぽいネムネムの様子を見て、覇王鈴木はそれを使ったのではないかと予想した。
それと同時に、ひとつの疑問が湧く。
諜報能力の高いネコ忍が、そんな重要な場所を自由に使わせるだろうかと。使う相手は賢者に限られるので悪さはしないだろうが、誰かが来たらすぐにわかるようにしているのではないか。
そう考えていると、足元に三毛猫がトコトコと歩いてきた。
そして、覇王鈴木の顔を見上げて、「あとは任せた。チャオ」とオッサンの声で告げて、去っていった。ぶん投げである。
覇王鈴木の心に『え、俺に投げるの!?』と『ネコ忍こわぁ』という感想が同時に去来した。
改めてネムネムを見ると、ネコが喋ったことに口をOの字にして驚いている。人形状態なら『ふぉおおお、ネコが喋っとるーっ!?』などと言って騒ぐはずなので、本当にネット弁慶なのだろう。
「えっと、いろいろ聞きたいことはあるんだけど……」
そう口にしたところで、再び誰かがネコミミストアに来た笑い声が通りから聞こえてきた。
「さすがネコミミストアだぜ、よく人が来るな。ネムネムは人に見られたくないんだろう? 場所を移動するか?」
そう問うと、ネムネムは少し逡巡してからコクンと頷いた。
人に見つからないようにネムネムを連れて、すぐ近くにある小さな神社へ。移動中に覇王鈴木は心の中で『誰か助けてぇ!』と叫び続けたが、応援は来ない。
「神社に入るのは久しぶりだな」
女神パトラの信者ということは関係なく、覇王鈴木はニートだったので神社に行く機会はほとんどなかった。
「座れよ」
玉砂利が敷かれた境内の端にあるベンチを勧めると、ネムネムは大人しく座った。
「噂では聞いていたけど、マジでネット弁慶なんだな」
覇王鈴木がそう言うと、ネムネムは絶望したような顔で見上げてきた。そして、しゅんと俯く。
「ごめんて。それでもイラストレーターをやって稼いでたんだろう? それなら俺たちよりもよっぽど立派だよ。俺たちはみんな挫けっぱなしだったんだから。お前は偉いよ」
慌ててフォローすると、ネムネムはもじもじした。
人形状態なら、『せやな、ひれ伏せ』くらいのことを言ってくるので調子が狂う。
とりあえず、普段のような言葉のプロレスはないものと考えて、覇王鈴木は今日習ったばかりの呼吸法を用いて脳みそに酸素を送り込み、頭をフル回転させて目の前の内気女に対応することにした。
「そのミニャちゃん可愛いな。それどうしたの?」
ジャブ。
話題に出したのは、ネムネムのカバンについているアニメ調で描かれたミニャのアクリルキーホルダーだ。
「じ、自分で作った……」
「マジか。さすが生産属性だな。売り物にできるレベルじゃん」
実際にそのアクリルキーホルダーは見事なものだった。
褒められたネムネムはもじもじした。その様子を見て、褒める類の会話で攻めることにした。
「そういえば、今日はミニャちゃんと遊んでくれたんだろう? ありがとうな」
「う、うん」
ミニャの生配信はちょくちょくチェックしていたので、周りに誰がいたのかはわかっていた。それは覇王鈴木に限らず、賢者の嗜みみたいなものだ。
ネムネムは昼過ぎくらいからずっとミニャと遊んでくれていた。オフ会に来た賢者たちにとって、自分たちが空けた穴を埋めてくれたネムネムたちは大変にありがたかった。
それからも覇王鈴木が喋り、ネムネムが頷いたり首を横に振ったりする時間が15分くらい過ぎていった。
覇王鈴木は妹がいるので女性と話すのはそこまで苦にしない。しかし、一人で話題を生み出し続けるのも限界が近かった。
一方で、ネムネムは緊張している様子ではあるが、たまに笑って、案外楽しそうに受け答えをしていた。
そろそろ本題に入るかと、覇王鈴木は覚悟を決めた。
「それでこんな夜中にどうしたんだ? 来る予定はなかったんだろう?」
すると、ネムネムはワンピースの裾をギュッと握って俯いた。覇王鈴木は慎重に積み上げてきたトランプタワーがグラグラと揺れ始めたような気がした。
「えっと、話したくなければ良いけど」
日和った。
しかし、ネムネムはポツリポツリと喋り始めてくれた。
「み、みんなが楽しそうだったから……」
そういう理由かと納得しつつ、覇王鈴木は「うん」と相槌を打って話の続きを待った。しばらくの無言のあとに、ネムネムが続ける。
「あたしがミニャちゃんと最初にお喋りした一人なのに……ここに、あたしだけいなくて……だけど、覇王鈴木君たちは笑ってて……か、悲しくて……」
ネムネムはそう言ってゴシゴシと目をこすり始めてしまったではないか。
覇王鈴木はあわあわである。
「だ、だから、勇気を出して来てみたけど……やっぱりダメで……」
「そっかぁ……」
「ぐすぅ! ルナリーちゃんががっかりしちゃう……」
「え、ルナリーちゃんが? それはどういうこと?」
「ネムネムはミニャンジャ村では素敵なお姉さんなのに、本体のあたしはこんなダメダメだから……」
「それ、ツッコミ待ち?」
覇王鈴木が思わずそう問うと、ネムネムは涙で濡れた顔をコテンと傾げた。「どういうこと?」と言いたげだ。
「ゴホン。いや、なんでもない。っと、ちょっと待ってくれ。フレンドメールがきた」
選択肢を間違えた覇王鈴木のウインドウに、丁度フレンドメールがきた。個人に向けて連絡することができ、たまに使う機能だ。
【ブレイド:遅いけどどうした? イノシシにでも襲われたか? 当然、勝ったんだろうな?】
【覇王鈴木:戦ってねえよ。ネコ忍の人と少し話し込んでた。悪いけど、ユナちゃんやアオちゃんの修行を見てやってくれ】
【ブレイド:おいおい、彼女持ちに女子高生の相手をさせるのかよ。浮気を疑われたらどうすんだ!】
【覇王鈴木:うるせえよwww】
連絡を終え、ネムネムに向き直る。
「ウインドウって便利だよな」
「うん」
「それで、今日はこれからどうするんだ?」
場所指定帰還は一方通行だ。ネムネムが自宅へ空間転移するようなことはできない。
ネムネムはノープランだったようで、しゅんと俯いた。
「じゃあ、ニーテストの家に行こうぜ」
「ニーテストさん、怒らないかな……」
「大丈夫だよ。実際に会ってアイツと話したけど、神経質クール眼鏡男どころか、少しポンコツっぽくて人間味のある女だった。ネコ太やライデンも、きっと本体のお前とも友達になってくれるさ」
ネムネムはワンピースをギュッと握り、コクンと頷いた。
「よし、それじゃあ行こう」
覇王鈴木はホッと安心しつつ、ネムネムを連れてニーテストたちのシェアハウスへ向けて歩き出した。
小さなネムネムに歩幅を合わせて、虫がチリチリと鳴く夜道を歩く。
「なあ、ネムネム」
ネムネムは顔を上げてそう呼び掛けた覇王鈴木を見上げるが、目が合うと慌てて俯いた。それに構わず、覇王鈴木は続ける。
「俺は今日、ひとつ屋根の下で、ネコミミをつけた太っちょや出会ったばかりの女に告白したパリピ野郎と一緒に寝ることになるんだぜ」
ロリエールとブレイドである。
「半年前には思いもしなかった。おかしな人生になったもんだよな」
ネムネムがクスクスと控えめな声で笑い、覇王鈴木も口角を上げた。
「ミニャのオモチャ箱は、ニートだって、中二病だって、ネコミミつけたヤツだって許されているんだぜ? なら、上手く喋れないヤツが居てもいいんじゃないか?」
まさか自分のことに繋がるとは思わず、ネムネムは肩にかかったカバンの紐をギュッと握った。
「上手く言えないけどさ。俺たちはみんな、程度の差はあれ人形っていう仮面を被って活動している。お前があっちでは陽キャだけど、こっちでは内気だって良いんだ。ニートだった俺だって、あっちでは隊長みたいな役割をしているんだから。凄いヤツが多い賢者の中でだ。確実に分不相応だろう?」
覇王鈴木の言葉にネムネムは口を少し開きかけるが、俯いてしまった。
「女神様が選んだだけあって、みんな性根の良いヤツらだってことは間違いない。お前だってそうだ。いま、お前は俺を励ましてくれようとしただろう?」
ネムネムは俯きながら小さく頷いた。
「お前は言葉は少ないけど、心の中で相手の気持ちや相手に嫌われたくないってたくさん考えている優しいヤツだよ」
「……っ」
「ネムネム、お前のことを人形の時と違って内気だなとみんな思うかもしれないけど、それで嫌うようなヤツはきっといない。ルナリーちゃんだってそうさ。もしかしたら、これから色々なヤツと話すようになるかもしれないけど、覚えておいてくれ。いいか、お前が内気だから嫌うようなヤツはいない」
柄にもないことを言っている自覚がある覇王鈴木は、恥ずかしくてネムネムのことを見られなかった。だが、温かい言葉を貰ったネムネムは、田舎の明かりに照らされる覇王鈴木の横顔を半歩後ろから見上げ続けた。
ネムネムは返事をせず、覇王鈴木もそれ以上言葉を重ねず、それっきり会話はなかった。
ほどなくして、ニーテストたちのシェアハウスに到着した。
本来は田舎の農家よろしく門などなかった家だが、現在は広い庭と道路を仕切る門が作られていた。女所帯の家なので無理もない。
門につけられたインターホンを鳴らす。
電子音が鳴り、覇王鈴木が用件を告げるよりも早くネコ太のはしゃいだ声がする。
『え、覇王鈴木? みんなー、覇王鈴木が夜這いに来たぞー!』
『『『きゃーっ!』』』
あらぬ疑いをかけられた。
「んなわけあるか! そうじゃなくて、ちょっと用があるから開けてくれる?」
『告白よ、告白! 乙女騎士とブレイドに当てられたんだ!』
『『『きゃーっ!』』』
「家の選択を間違えたかもしれない」
「あーわわわわ……」
覇王鈴木はそう言いつつ、心配してネムネムを見る。
ネムネムは陽キャな声を聞いて絶望の顔をしていた。
『玄関まで来てー』と遠隔でロックが解除されたので、ガクガクするネムネムの腕を掴んで引っ張りながら中へと入り、人感センサーで明かりが点いた広い庭を横切る。
「ネムネム、さっき言ったことを忘れるな。内気でもいいんだから。お前はイラストレーターの凄いヤツだ。仲間を信じて、自信を持て、賢者ナンバー2」
家の選択を間違えた覇王鈴木は、せめてもの償いとして勇気づけておいた。これから、このネット弁慶はキャッキャした女の中にぶち込まれるのだから。
玄関の前まで来ると、戸口が開いた。
そこには、短パンにTシャツ姿のニーテストと、パジャマ姿のネコ太がいた。風呂上がりなのか良い香りがする。
「なんだよ、こんな時間に。ん? 誰だ、そいつ」
覇王鈴木を盾にするネムネムを見て、ニーテストが首を傾げた。
「ネムネムだ。ネコミミストアにいたから連れてきた」
「えーっ、うそ、ネムネム!?」
覇王鈴木の説明を聞いて、ネコ太が嬉しそうにネムネムをワチャワチャとし始めた。ネムネムは覇王鈴木を盾にしていた。必然的にネムネムとネコ太、2人の女の距離が自分とも近くなり、覇王鈴木の心拍数が上がる。
「こんな時間に来たのか? あー、場所指定帰還を使ったのか。そりゃまた剛毅だな」
ニーテストはすぐにピンときた。
「それじゃあニーテスト、任せていいか?」
「ああ、あとはこっちで預かる。ご苦労だったな」
「じゃあネムネム、その手を離してくれる?」
陽キャに捕まったネムネムは、涙目で覇王鈴木の服を掴んでいた。ちんまりと控えめではなく、必死である。
「は、覇王鈴木君も……」
「え」
「だそうだ。お前も泊まってくか?」
「ギャルゲのパッケージとか言われている俺にこれ以上変な噂を立てようとしないで!」
「じゃあ少し茶をしていけよ。女どもがキャッキャに飢えててうるさいんだよ」
「ガチで入りたくないヤツじゃん。それに、マジでユナちゃんたちと約束があるんで」
「おいおい、女子高生と約束しているのに他の女と夜に会ってたのか? 本当にギャルゲみたいじゃん。やったことないけど」
「客観的に見ると本当にそれっぽいからやめて!」
ニーテストは慌てる覇王鈴木を指さして、ふはーと笑う。
ようやく解放された覇王鈴木は、ネムネムに言う。
「それじゃあな、ネムネム。さっきの話を忘れるなよ」
けれど、これから女子会に参加することになるネムネムは、離れていく覇王鈴木へ物凄く不安そうな顔を向けた。
「覇王鈴木、ありがとうねー」
ネムネムと手を繋いだネコ太がお礼を言った。
それを聞いたネムネムはハッとした。
「は、覇王鈴木君、あ、あ、ありがとう……」
覇王鈴木は口角を上げて少し笑い、「じゃあ、またな」と言葉を残す。
去っていく覇王鈴木を見つめて、ニーテストが言った。
「アイツ、マジでギャルゲの主人公じゃん。マジウケる」
その言葉を背中で受け止めた覇王鈴木は、どうしてこうなったと思った。
読んでくださりありがとうございます。
ブクマ、評価、感想、大変励みになっています。
誤字報告も助かっています、ありがとうございます。




