7-19 ミニャの修行始め
本日もよろしくお願いします。
ミニャや賢者たちが使うウインドウの機能『図鑑』には、行事予定表がある。
数日後までの天気はもちろんのこと、ミニャや子供たちの日常の予定もあれば、フォルガの家の建設の工期予定なんかも書かれており、それを見ることで賢者たちも地球での予定を組みやすくなる。
パトラシアと地球ではカレンダーが微妙に違う。
パトラシアは1カ月が常に30日。1週間は6日。そして、7月と12月の終わりに数日だけの女神の月があり、合わせて365日。さらに、地球と2カ月分の差があるため、なかなか難解だ。
そのため、行事のカレンダー管理は重要で、その役目はカレンダーとあまり関係のない回復属性の賢者たちがゲットした。保健委員会というのはないので、ひとまず回復属性組合としている。
図鑑の閲覧はお仕事ポイントの不労所得が発生するため、面倒な作業という認識はなく、むしろみんなが閲覧するので優良な利権みたいなものだ。
さて、そんな行事予定表に新しく継続的に行なわれるイベントが書き込まれた。
ミニャの修行である!
『乙女騎士:ミニャちゃん、支度は大丈夫ですか?』
「ばっちり!」
『くのいち:一緒に頑張ろうね!』
「うん!」
『ネコ太:ケガをしたら言うんだよ。お姉ちゃんたちがすぐに治してあげるからね』
「ありがとう!」
近衛賢者たちは、まるで子供を習い事に通わせるママみたいな気分。尤も、近衛賢者たちもミニャと一緒に修行するのだが。
ミニャは賢者たちを引き連れて、ててぇーと玄関を飛び出した。
お昼ご飯を食べて、本来なら自由時間が始まる午後。
ミニャの修行はこの時間を利用して、隔日で行なわれることになった。
ててぇ、と広場に走ったミニャを迎えたのは子供たち。ミニャが修行をするということを聞いて、みんな興味を示したのだ。まあ、「修行する」なんて言われて子供が興味を示さないわけがない。特に、スノーとクレイはかなり興味を持っている。逆にルミーやクレアのような年少組はお姉ちゃんがなんかするのだと遊び気分。
「あーっ、闇人さんだ!」
ミニャは賢者の中に闇人が混ざっているのを発見した。この前、凄いアクションを見せたので幼女の心をゲットしている模様。
闇人は、本体とは全く異なる外見の美少女フィギュアに宿っているのだが、ミニャは一発で見破った。最近のミニャは人形の中身を識別しているのだ。
『闇人:我が主、こんにちは』
「うん、こんにちは!」
『闇人:修行頑張ってね』
「うん! 闇人さんみたいにシュバーッ、ドワーッてできるようになる!」
『闇人:はわー』
なんだか凄く慕われているようで、闇人はもじもじ。
「あっ、ニーテストさんもいる!」
『ニーテスト:ミニャと一緒に修行しようと思ってな』
「わぁ、ホント!?」
時間がなかなか取れないニーテストだが、そろそろ自分もある程度の武力を持ちたいと思っていた。もちろん、そのための努力は覚悟している。
他にも、つい最近スカウトされた新人賢者、ネコ忍の修行であまり見ない賢者も多数参加している。ロバートは忍者に憧れがちな外国人だし、女子高生のユナは闇人の活躍に感銘を受けてやる気満々。『骸の家』と名付けられたオーストラリアでの事件は、修行をした賢者の強さを知らしめ、みんなにやる気を出させるきっかけになったのだ。
さて、ミニャが来たので修行が始まった。
本日の指導員はサバイバーを筆頭にネコ忍たち。この指導にはフォルガやニャロクーンにも協力してもらうつもりだが、大したことはしない初日には必要なかった。
また、賢者はフキダシで話す都合、補助役として女性冒険者のコーネリアとセラ、ルカルカが雇われている。ミニャの修行というプロジェクトなので、普通にこれだけで食っていけるレベルでお給金は高めだ。
『サバイバー:さて、ミニャちゃん。今日から修行だね』
「さて、ミニャ様。今日から修行です!」
「はーい! 頑張ります!」
サバイバーの通訳をコーネリアがして、ミニャはテイーンと元気に手を上げて宣言した。
それを見守る近衛賢者たちは母性本能を出してハラハラ。
『サバイバー:ミニャちゃんにはまず、体の動かし方を教えようと思う』
「体の動かし方! 体の動かし方?」
ミニャは驚きと疑問形のオウム返し2連撃。
『サバイバー:そう。いまのミニャちゃんは生まれた時からの勘で体を動かしているけど、これをもっとカッコ良くできるようにしたいと思う』
「にゃんですと!」
カッコイイに憧れる幼女は目をキラキラとさせた。
さて、ミニャの教育方針は賢者たちと少し違った。
賢者たちにはまず呼吸法から教えたが、それは賢者たちにある程度の忍耐を期待できたからだ。
一方で、ミニャはニートな賢者よりもしっかりした子とはいえ、まだ幼女である。
習い事とは時に大人でさえ辛く思うことがあるもので、自分の成長を実感できなければ嫌になってしまう。そういう意味で凄く地味な呼吸法とか草生える。
ミニャにはこれからずっと修行を続けてもらうためにも、初めに体の動かし方を学んで、成功体験をたくさん積んでもらうつもりであった。
逆にここで育成を失敗すると、飽き癖を生じさせてしまう可能性もある。だから、7歳児の修行はとても慎重に行なわれるのだ。
「それじゃあ準備体操から始めます。今日はいつもと違う体操もやるけど、まずはいつも朝にやっている体操から」
「はーい!」
とミニャが手を上げて、周りの子たちも体操を始める。
それが終わると、今度はいつもと違う体操であるストレッチ。
『サバイバー:腕をこうやってして、肩を伸ばすようにしてイチ、ニ、イチ、ニ』
「うんとうんと? こーお? なんかちょっと違う。こうだ!」
サバイバーとコーネリアが右腕で左腕の肘の関節をロックして、イチ、ニ、と伸ばす。
その見本を見て、ミニャは少し悩んで正しく腕を交差する。
「ルミー、こうだよ」
「わう? うーん……こう!」
「クレア、そうじゃないぞ。こうだ」
「うんと……こうでいいですか?」
「そうそう。そうしたらこっちの腕を引っ張りながら腰を逆に回す」
補助役のセラやルカルカが子供の中を回り、明らかに違う子を正してあげつつ、関節伸ばし。
「こういった運動は関節を伸ばして、ケガをしないようにするために行います。だから、ほんの少しだけ痛くて気持ちいいと思うくらいの強さでゆっくりと伸ばしてみましょう」
などとコーネリアが説明してくれ、子供たちはせっせとストレッチする。
さすがに子供だけあってまだまだ体が柔らかい。一部硬い子もいるが、すぐに柔らかくなっていくだろう。
『サバイバー:柔軟な体は武術の基本だ。修行をして強くなりたいのなら、関節を柔らかくするように毎日やっていこう』
「んっ! わかった!」
体を動かしてミニャや子供たちはすでに晴れやかなお顔。指導補助であるコーネリアたちも体が解れてほんのりと気持ち良さそうだ。
場所を移動し、続いて始まったのは前転の訓練。
日本にあるマットのような物はないので、賢者たちが特殊加工した巨大な布をふかふかに耕した砂場に敷いた施設を利用した。布の8点には丸い金具を取り付け、ペグで止められるようになっており、ズレを防止。また、3人ずつ練習できるようになっており、それぞれの場所には真っ直ぐに補助線が描かれている。
『サバイバー:まずは基本の前転。手をこうやって前にして、そのままコロン』
サバイバーはお手本のために木の板の上でコロンと転がり、一回転。
『覇王鈴木:あいつ、完全に体操のお兄さんだな』
『ブレイド:本体は爽やかなイケメンぽいし、似合っていると言えば似合ってるけどな』
『覇王鈴木:つーか、小学生がするような前転なのに半端じゃなく上手いな』
『タカシ:さすがネコ忍ってところか』
まだ多くの賢者が本体では会ったことのないサバイバーだが、結婚式の時に本人に似た特別仕様のフィギュアが作られたため、現在はよくそれに宿って活動していた。
子供たちも3列に並んで早速コロン!
左右に転がっちゃう子もいれば、コロンとしたあとに再び足の裏をマットにつけられない子もいる。そうして、終わった子はててぇと走って待機列に並び直す。元気いっぱいである。
クレイでさえこういう訓練は受けていないようだが、体の動かし方をすでに知っているので最初から上手く回っていた。
一方、スポーツ万能っ子のミニャは2回目で要領を得て、サバイバーの動きをラーニングした。
「んー、にゃしゅ! んー、にゃしゅ! んー、にゃしゅ!」
小さな幼女ホイールが連続でコロンコロンコロン!
最後のコロンが終わり、手を真っすぐにしてお座り。お顔がキリリッ、尻尾はくるんと回ってフィニッシュをお知らせする。
そのままミニャは背後を振り返って、補助線を見た。
「にゃふぅ!」
真っ直ぐに回れたことを知り、ミニャは大満足。
「ミニャお姉ちゃん上手ー!」
「どうやんのー?」
「ここを見ながらコロンってやるの!」
ミニャはまだ教えてないのに補助線の意味を発見し、それをみんなに教えてあげる。
上手いのはミニャだけではない。
みんなお外でたくさん駆けまわっているので、育成畑にスポーツの芽がピョコンと育っている子は多数。何回か繰り返すと、すぐ上手に回れるようになった。
「次はその場でこういう運動をしますよー」
そう呼び掛けたコーネリアが、ジャンプをしながら一回ごとに足を大きく開閉し続ける。その周りで賢者たちもピョンピョンパカパカ。完全に体操のお姉さんとモブのお人形さん。
年少組はキャッキャしながらピョンピョンパカパカ。キッズチャンネル度が加速する!
「今度は手を地面について、手を地面から離さないように足を広げてぇ! 閉めてぇ!」
コーネリアは、若干膝を曲げた状態で膝と膝をくっつけていた両足を、パッと綺麗に開いてみせた。
ほとんどジャンプできない状態で足を一瞬で開閉。瞬発力が試される運動だ。さっきまでピョンピョンしていた子供たちの中からは、コロンと前に転がっちゃう子も現れる。子供は頭が重いので無理もない。
その時、事件が起きた。
一緒に修行をしているニーテストが、子供たちと同じようにコロンと前に転がり、覇王鈴木にローリングアタックを食らわしたのだ。そして、何がどうなったのか覇王鈴木の腹部に覆いかぶさるニーテスト。絵面はおっぱいが大きな美少女と美少女。
『覇王鈴木:なにしてんの!?』
『ニーテスト:わ、悪い。失敗した』
『ブレイド:覇王鈴木がラッキースケベしてて草』
『タカシ:おい、ニーテスト。覇王鈴木が目覚めちまうぞ』
『ニーテスト:ちょっと間違えちゃったんだよ!』
美少女フィギュアに宿ったニーテストの顔は真っ赤である。
この時はまだ、覇王鈴木が本当にラッキースケベをしていたと、ほとんどの賢者は知らなかった。
そんな事故が起きつつ、子供たちは足を開閉するポイントをある程度押さえ、次なるマット運動へ。開脚前転である。
再びサバイバーが見本を見せて、コロンからのパッ! 足を閉じて、またコロンからのパッ!
「さっきやった前転と、いまやった足を広げるのを上手く組み合わせましょう!」
ちょっと難しくなるが、子供たちのチャレンジ精神は鈍らない。
さっそくミニャが挑戦する。
ミニャの頭の中で、ジャージを着た脳内子猫たちが前転組と足パッ組に分かれて運動を繰り返す。ミニャが真剣な表情でマットに上がり、前に回転を始めた瞬間、2組の脳内子猫たちはキュピーンと融合した。
コロンからのパッ! 尻尾がフリンッと動いてバランスを取り、それに合わせて両手を左右に広げてキリリ顔でキメッ! 完璧な開脚前転である。
お手本のような演技を見て、子供たちも挑戦していく。
いまやった開閉運動のおかげか、なかなか上手に開脚してみせる。中にはそのまま前や後ろに転がってしまう子もいるが、それもまた楽しい。
「さて、どんどん難しくなっていくわよー!」
次も前転だが、屈んだ状態ではなく、半立ちの状態から少し離れた場所へ手を着いて、一気にコロンッ! アクション性が出てきて子供たちも大満足のコロンである。
そうかと思えば今度は、地味なダルマ転がり。
ダルマ転がりは円を描くように転がるので、マットの上で4人ずつコロコロ。
『平社員:撮れ高撮れ高!』
『ロバート:この動画はいつ投稿するんだい?』
『平社員:そうだなぁ、おそらく2~3週間後ですね。特別なシリーズを展開中ではない限りは、今日撮ったのはそのくらい後に投稿される感じです』
などと動画撮影班も楽しくお仕事中。
横回転も難易度は上がっていき、お馬さんの体勢になって横にコロン。そして、元の体勢に戻る。
それができたら今度は屈んだ状態で横に転がって、再び同じ状態へ。
『ブレイド:回避アクションが着々と養われていく……っ!』
『タカシ:回避は基本だから。俺も何度ダイナミック回避で助かったことか』
自分よりも大きな敵と戦う賢者たちは、横っ飛びで雑に回避することもしばしば。だから、子供たちがやっていることの意味をよく理解できた。もちろん、そういった回避テクニック以前にバランス感覚を養ってもいる。
『覇王鈴木:おっ、上手くなってきたじゃないか』
ニーテストもマットの端っこで子供たちと一緒のメニューをせっせとしている。
『ニーテスト:ふん、俺を舐めないでもらいたいな。こう見えてジムにも通っていたからな』
『覇王鈴木:へえ、ジムに行ってたのか』
覇王鈴木はぽわぽわーんとニーテストの本体を想像した。神経質そうなクール眼鏡男子ひょろがり風味から、神経質そうなクール系男子細マッチョ上裸タオル肩掛け風味に上方修正された。なおニーテストのジム通いは一瞬で終わっている。
3時間ほどで最初の修行は終わった。
家に帰り、ミニャはふいーっと一息。
『ネコ太:ミニャちゃん、楽しかった?』
「うん! すっごく楽しかった!」
『乙女騎士:次はどんなことを覚えるのか楽しみですね?』
そう問われたミニャは、目を真ん丸にした。
「ホントだー、楽しみ!」
まだ修行は始まったばかり。
ネコ忍プロデュースなので、そのうち側転やバク転、ロンダート苦無投げなんかも覚えちゃうはずだ。
習い事を続けられそうな感じで、母性本能を発揮している近衛賢者たちもニッコリである。
『くのいち:さあミニャちゃん、今日はいっぱい汗をかいたから、早めにお風呂に行こう!』
「にゃっ、お風呂! 行く!」
こうしてミニャの修行1日目はたくさんの成功体験に彩られ、大変楽しく終わるのだった。
読んでくださりありがとうございます。
前回のあとがきでお知らせした体調不良の件ですが、寝違えでした!
呼吸するだけで痛かったのでヤバイかと思いましたが、病院に行って薬を貰ったら普通に治りました。
ご心配いただきありがとうございました。
余談ですが、作者は人生で1度だけ、「怪我をしてもケアルガを使えば治る」という思考をふいにして、10秒くらいしてハッとなったことがあります。FFを毎日何時間もプレイしていた時期だったはずです。
そして、今回は病院が開いていない年末年始ということもあってか、2度目があり「そうだ、回復魔法を使えば良いじゃないか」という思考になって、やはり10秒後くらいにハッとしました。
まあ、それだけの話なんですけどね。
ちなみに、作者は5が一番好きです。次点で8。




