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ミニャのオモチャ箱 ~ネコミミ少女交流記~  作者: 生咲日月
第6章

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6-33 領主様が来た!

本日もよろしくお願いします。


 世界を越えても考えることは同じなのか、この地域の名士と呼ばれるような人たちは、上棟式の他にも竣工式を行なう。

 ミニャを舐められたくない賢者たちも、当然、このしきたりに従ってちゃんとした宴会を催すことにした。


 そして、この招待客の中にはグルコサの領主ディアン・ランクスもいた。今回、ついに領主夫妻がミニャンジャ村にやってきたのだ。

 家ができたこのタイミングで初訪問をするのは、ミニャに恥をかかせないためだろうと賢者たちは推測している。


 港で出迎えた領主夫妻にも女神像の洗礼を行ない、いざ入村。


「ほう、活気があるな」


 ディアンは村の様子を見て、感心した様子。

 村には広大な畑などはなく森に囲われているためこぢんまりとした印象があるのだが、仕事があり、ダンジョンがあり、美味しいご飯があり、活気だけはあった。

 特に今日は宴会補正も加わって、村民さんも冒険者も仕事を休んでワクワクだ。そりゃ活気があるように見える。


 もちろん、完全に休みというわけではない。

 大人たちは宴会を良いものにするために、テーブルや椅子を運んだり、護衛兵士の接待席を作ったりと仕事をしている。

 子供も食堂でお手伝いしたり、お皿を用意したり、無意味に走り回ったりと非常に忙しそう。

 モグも味見係として食堂入りだ。「ももぐ!」とすっかり野性を失った姿がそこにあった。


 お金を払えば業者さんが全てを揃えてくれるわけではない。宴会をするなら、村一丸で準備をするのだ。


「あれがミニャの新しいおウチです!」


 領主夫妻とアメリア、ソランを案内するミニャはえっへん!

 クレイも一緒にいるが、貴族の子供として弁えているのか静かにしている。久しぶりに会ったのに、貴族の子供とはとても大変な生き物なようだ。


 竪穴式住居から少し離れた場所に建つ立派なおウチ。

 まるで村民に圧政を敷く悪の村長さんのようだが、各竪穴式住居の中はとても綺麗で過ごしやすいのでセーフ!


 そんな新生ミニャちゃんハウスには、上棟式と同じように白い花で飾りつけられており、これもまた魔除けのためのしきたりらしい。


「気になる様式の部屋があるな」


「あれは障子のお部屋です!」


 ミニャは再びえっへん!

 賢者たちが作ってくれた障子のお部屋はミニャの自慢なのである。


 宴会まで時間があるので、おウチの中を案内してあげる。

 靴を脱ぐことはすでに報告しているので特に問題は起こらず、領主ファミリーが履いてきた靴下に穴が開いているようなポカもない。


 領主ファミリーの訪問ということもあって、護衛兵士はいつもよりも多め。

 しかし、村内で護衛を引き連れるのは失礼なのか、ついてくるのはジール隊長と他2名だけである。そんな護衛も、ミニャの家の中までは入って来ず、家の前に直立不動で待機を始めた。


「まあ、壁にネコの足跡がありますわね。とても可愛らしい」


「ミニャ様、塗りたての壁をニャロクーンさんが歩いたんですか?」


 領主の妻であるアマーリエが発見し、まだ6歳のアメリアはそんな可愛らしい勘違いをした。これにはみんなでほっこり。


「これはねぇ、ミニャたちが壁を塗ったんだよ」


「えーっ、ミニャ様たちが壁を塗ったんですか?」


 ミニャは三度えっへん!

 自分もお手伝いしたので自慢なのである。


「そんでねぇ、塗りたての壁にみんなでスタンプをペッタンてしたの。ネコちゃんの足跡もそう。ほら、こっちにはワンちゃんの顔もあるよ」


「わっ、本当です。こっちにはお花とチョウチョさんがあります!」


 すぐにアメリアが違う柄を見つけた。

 そんなアメリアは、左官屋さんの話を聞いてちょっぴり羨ましそう。


 ミニャは軽くおウチの中を紹介する。

 領主夫妻に対してするようなことでもないのだが、よっぽど自慢したいらしい。


 そして、最後に板の間のお部屋に通した。

 まだ障子が閉まった状態のお部屋には、ミニャンジャ村産のソファ席が6つ。5つは1人掛けのソファで、1つは2人掛けのソファだ。

 普段はゴザマットを敷いて子供たちがゴロゴロする障子のお部屋だが、本日は応接間仕様なのである。


 アマーリエとアメリアが2人掛けのソファに座り、残りのミニャ、領主、ソラン、クレイが1人掛けに座る。1席空いているが、それはフォルガの席だ。


 全員が座ったので、ミニャはててぇと小走りで、障子を全て開けた。

 障子は4枚1組が3セットで12枚。3組分を開け放つと、室内が一気に明るくなり、涼やかな風が通った。


「まあ、素敵ですわ」


 アマーリエが言う。

 少し暗いことを疑問に思っていた領主夫妻だが、障子が開くととても興味深そうにした。アメリアが暗闇にいると体調を崩す体質だったため、部屋の光量が気になる癖がついてしまっているのだ。


 障子を開けたミニャは自分の席に着いた。お誕生日席だ。その後ろには床の間があり、ミニャが釣ったお魚の魚拓が飾られている。

 各人の席にはサイドテーブルがあり、偽メイド経験のあるコーネリアが冷たい麦茶を用意してくれた。ミニャの席にだけサイドテーブルは2つあり、片方にはニーテストが座っている。


 ミニャはチラッとニーテストを確認した。

 ニーテストが頷くので、改めてご挨拶を始める。


「改めまして、ようこそミニャンジャ村へ。来てくれてありがとうございます。今日はミニャのおウチができた宴会がありますので、楽しんでいってください」


「こちらこそ招待いただき感謝している。今日は楽しませてもらうよ」


 そんなご挨拶をして、しばしの世間話が始まった。

 そうしていると、縁側にフォルガがやってきた。


「あっ、フォルガさん」


「お待たせ申した」


 フォルガは縁側で靴を脱いで上がってきた。完全に近所の爺ちゃんのやり方だ。


 元国王であるフォルガの立ち位置は非常に微妙だ。ともすれば主役であるミニャの立場を食ってしまうので、出迎えなどにはあまり参加しない。


 フォルガは用意されていた席の1つに座り、会話に参加した。


「どうですかな、ミニャ様。良い部屋だと褒められたでしょう」


「うん!」


 ミニャは嬉しそうに頷いた。


「フォルガさんもこのお部屋を気に入って、新しく建てるおウチに作りたいそうです」


「ええ、是非に」


 すでにフォルガには新生ミニャちゃんハウスを案内しているが、障子の間をとても欲しがっていた。フォルガは新しいもの好きというか、ミーハーなところがある。


 そんなフォルガの家だが、近いうちに建てる計画になっている。

 フォルガは自分で作った竪穴式住居をかなり気に入っているようなので、おそらくは『ミニャンジャ村にお金を落とす』や『ミニャンジャ村の名士になるために家を欲している』という理由から一軒家を建てたいのではないかと、賢者たちは推測していた。


 賢者たちとしても金があるところから金を取って村を発展させたいので、この申し出は正直助かる。


 そんな和やかな会話をしつつ、話はグルコサのことになった。


「最近は少しずつミニャンジャ村産の物がグルコサに流れてくるようになった」


「ミニャンジャコンソメですか?」


「ミニャンジャコンソメもそうだが、それに限らずな。当家の食事には先んじてミニャンジャコンソメが使われていたが、最近は商人のところから買い付けているようだね。家臣の家でも買ったという話を聞くな。かなり好評なようだよ」


 先んじて使われていたというのは、贈り物として贈ったミニャンジャコンソメである。他にも剣鹿肉の燻製やらいろいろ贈っている。


 コンソメの売り上げはかなり良く、すでに4回目の取引が終わっていた。

 そして、この取引を以て、ミニャンジャ村に来てくれていた商人との先行取引はおしまいになった。

 というのも、この商人はミニャンジャ村のキャパシティを考えて領主が送ってきた商人であり、当然のことながら他の商人だってミニャンジャ村と取引したいのだ。


 賢者としてもある程度の需要がわかり、村民さんが仕事に慣れて生産力もそこそこ上がったので、次からはグルコサの商業ギルドを通して売買を行なうことになる。

 来てくれていた商人も先行販売で販路を開いているので、少しばかり他の商人よりも有利に立ち回れる。


 領主館には外交用に人形を待機させているので、その辺りのことは賢者たちが勝手にやってくれていた。


「時にミニャ殿。王家から貴殿宛てに書状を預かった」


「しょじょう」


 領主からコーネリアに書状が渡され、さらにミニャへと渡される。


「あっ、お手紙!」


 ミニャは女神詣の際に賢者たちから手紙の書き方を習っている。その関係で、学校では今後のために他の子供たちにも手紙の書き方の授業をしておいた。

 なにせ字が読めなかった子たちなので、ちゃんとした手紙を見たことがなかったのだ。何でも屋みたいなことをしていたラッカたちは、たまに町のオバサンから買い物のリストを預かって商店に届けるようなこともあったようだが。


「ちょっと待っててください」


 ミニャはててぇと部屋から出ていって、お道具箱からペーパーナイフを持って戻ってきた。これも授業で貰った物である。


 ミニャは、サイドテーブルを使って学校で習ったヤツをレッツトライ。ニーテストは刃物の進行方向からスッと移動した。それを見ている領主夫妻やソランはハラハラし、アメリアはすげーと見ている。


 口で「しゅー」と言いながらペーパーナイフで真っ直ぐに切り、封筒が綺麗に開かれる。


「ふいー。開いた!」


 ミニャはニーテストと一緒にお手紙を読んでみた。


「うんとうんとー……」


『ニーテスト:このあたりは挨拶だ。あとで教えよう。重要なのはここだな』


 ミニャは子供には難しい時候の挨拶に翻弄されてしまったので、ニーテストが重要な場所を教えた。

 どうやらパトラシアの暦で11月に王国の王子の誕生パーティがあるようで、それの招待状だった。ちなみに、現在のパトラシアは9月の中旬で、日本は7月の中旬だ。


「王子様のお誕生日をお祝いするパーティに来ませんかってこと?」


『ニーテスト:そういうことだ』


「ふむふむ。王子様のお誕生パーティに来ませんかって誘われました!」


 ミニャは領主たちに教えてあげた。

 領主は承知しているようで、頷いた。


「今年12歳になるセフィーロ様の誕生祝賀会だな。まあすぐに返事を出す必要はない。ただ、11月にはミニャンジャ村との協議会も予定しているので、祝賀会に参加するなら少し慌ただしくなってしまうかもしれないな」


 以前のグルコサ訪問で取り決めたミニャンジャ村とグルコサの町の協議会は、10月後半から11月中に行なう。11月は収穫の書類仕事が大量に発生する時期なので、候補となる日取りは多めに取られている。

 とはいえ、長くとも3日程度で終わるような会談のはずなので、祝賀会に参加する時間自体は取れそうである。


「誕生祝賀会ってどんなことをするんですか?」


 賢者たちも気になっていることをミニャが尋ねた。


「大きな部屋に貴族が集まり、主役である者に挨拶をするのさ。その際にはお祝いの品を渡すことになる。今回の主役はセフィーロ様だが、誕生祝賀会の類はだいたいみな同じように行なう。挨拶が済んだ者は、参加者同士で話をしたり、飲食をしたりして過ごすことになるのが普通だな」


「ふむふむ。アメリアちゃんも行くの?」


「はい。セフィーロ様は私のいとこにあたるお兄様なので、ミニャ様に治していただいて元気になった姿を見てもらいたいと思っています」


「わぁ、それ凄く良いと思います! じゃあじゃあ、フォルガさんも行くの?」


「うむ。拙者もそのあたりの数日はお暇を頂けたらと。ミニャンジャ村での生活を現国王に自慢しなければなりませんからな。はっはっはっ!」


「ふぉおお……王様に。賢者様もパーティに参加できますか?」


「この村にいる全員はさすがに無理だが、10人くらいならば問題ないだろう」


「何を言うておるか。500人くらい参加していただくのが良い」


 人形についてそう説明した領主に、元国王が無責任なことを言った。国王を引退して完全にフリーダムな父親に、領主はわずかに面倒臭そうな顔をした。親が仕事に口出しをしてきてウザいと思っている息子の図である。


 そんな情報を得たミニャは、ぽわぽわーんと祝賀会について想像した。

 ミニャの頭の中にいる脳内子猫たちが参照するデータは、ミニャンジャ村での宴会と、以前住んでいたコーム村での収穫祭などの宴会。そこに貴族要素をちょっとだけトッピング。脳内子猫たちはにゃーにゃーと想像力を膨らませた。


 結果、全然わからぬ!


「んっ! あとでお返事します!」


 わからないことはあとでお返事。

 これが賢者たちとのお約束だ。




 会談をしているうちに宴会の準備が整いそうになったので、ミニャたちも準備を始めた。


 まずは、おウチの外で領主ファミリーやフォルガと記念撮影。

 写真技術はまだ開発されていないので、賢者たちの目を通して映像や画像として残しておく。ミニャが大人になった時に見返してもいいし、絵が上手い賢者が画像から絵にしてもいい。ちなみに、子供たちとの記念撮影は家が完成してすぐに行なわれている。


 上棟式と同じように、今回も竣工式の儀式が施主さんであるミニャによって行なわれた。

 今回は家の柱への祈願はなく、女神と森の木々たちの席へミニャがお酒を運ぶだけだ。


「おかげさまでミニャのおウチが完成しました。今日は楽しんでいってください」


 席にお酒をひとつひとつ置いたミニャがそうご挨拶。やはり賢者たちは七五三をする娘を持つ親の気分で激写した。


 一方、席につく村民さんは大人も子供も待てを命じられた犬のようにそわそわ。この村の宴会飯はすげーんだと。


 上棟式から日が経ち、ダンジョンの探索深度が更新され、新たな素材が増えた。料理の開発も進んで、レパートリーも日に日に増えていく。

 まあ、大勢でワイワイと食べる宴会に向かない料理というのはあるもので、どうしても量産性の高い料理が並んでいる。


 ミニャは続いて、村民さん向けにご挨拶。

 村長さんは大変なのだ。


「みんなのおかげでミニャのおウチができました。とっても凄いおウチでミニャは嬉しいです。ありがとうございます! あと、今日はグルコサの領主様とその家族の人たちがお祝いに来てくれました。クレイ君の家族です。ありがとうございます!」


 可愛らしい挨拶をするミニャだが、7歳でこれだけ言えれば十分すぎる。大人たちも、「しっかりしてんなぁ」、「やっぱり女神の使徒はすげぇんだな」などと思っていた。


「今日のために冒険者さんたちがいっぱいお肉なんかを取ってきてくれて、賢者様や村のみんながいっぱいご飯を作ってくれたので、たくさん食べてください! それじゃあ、いただきます!」


 ミニャがご挨拶すると、たくさんの拍手に混じって領主も感心したような顔で拍手に参加していた。


 ミニャはちょっと照れ気味にててぇと自分の席に戻る。

 今日は領主ファミリーと一緒の席で、他にはフォルガや近衛賢者たちもいる。


「ミニャ殿はまだ幼いのにしっかりと村長をしておるな」


「にゃふぅ、ありがとうございます!」


 領主に褒められて、ミニャはテレテレしながら笑った。


「それではミニャ様、いただきましょうぞ」


「うん!」


 フォルガがリードをしてくれて、この席でも食事が始まった。

 他の席ではとっくの昔にウマウマが始まっており、とても賑やかだ。


 森守伯であるディアンは最高位の貴族だが、近くで騒いでいても気にしていない。

 この件については、どういう席にするべきかフォルガに相談した際に、理由が推測できる話を聞けていた。王国の領主は収穫祭などで村の宴会に参加することがあるので、庶民の騒がしい宴会には慣れているようなのだ。


 だからか、そんな周りの喧騒よりも、目新しい料理の数々に領主夫妻はかなり刺激を受けている様子だ。


 グルコサ近辺の森ではあまり取れないキノコや山菜、湖で採れた幸、ダンジョンで新しく採れるようになった素材などなど、領主としても取引したい品が多くある。

 購入してもらえる商品が増えるのは賢者たちとしても嬉しいので、接待接待!


 途中で、セラやコーネリア、ルカルカの女性冒険者が楽器の演奏を始めた。

 それに合わせて近衛賢者たちがボンボンを手にしてフリフリと踊れば、イヌミミキッズとアマゾネス姉さんのメリアランが釣れて一緒に踊り始める。

 それを見てうずうずなミニャがモグとアメリアを誘って、ボンボンを両手に嵌めてズンズンダンス。


「良い村だな」


「ええ、本当に」


 領主夫妻はそんなミニャとアメリアが踊る様子を目を細めて眺めた。


 美味しい料理に愉快なダンス。

 それは、ミニャや子供たちはもちろんのこと、新しい村民さんや冒険者たちがミニャたちと一緒に頑張って作ってくれた空間だった。


 ミニャたちの頑張りを祝福するように、誰も座っていない女神たちの席の料理が光の粒になって空気に溶けていく。

 ダンスを踊っていたミニャはそれを見て、ニコパと笑った。


 こうして、ミニャちゃんハウスの完成を祝した宴会は、楽しげな笑いに溢れたものになるのだった。


 『第6章 ミニャちゃん村長と幸せな村作り 完』


読んでくださりありがとうございます。

これにて6章は終わりです。少し閑話を挟んで次章に入ります。楽しんでいただければ幸いです。


ブクマ、感想、評価、大変励みになっています。

誤字報告も助かっています、ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
女神様もよう見とる
たかが一国の王が女神の使徒を呼びつけるなんて宣戦布告にも等しいな!
ミニャンジャ村のキノコなら絶対安全間違いなし しかし産地偽装(偽物)には気をつけろ
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