6-32 ミニャちゃんハウスの完成
お待たせしました。
本日もよろしくお願いします。
一部の賢者が日本で大変な目に遭うなどドタバタした日々が過ぎ、そうこうしている間にミニャンジャ村ではミニャちゃんハウスの完成が近づきつつあった。
木造レンガ造りのため、骨組みと骨組みの間にはレンガの壁。完成したその造りは非常に頑丈で安心感がある。
現在は子供たちと賢者たちが左官屋さんをやっており、せっせと壁を塗っているところだ。
年少組は遊びの延長でお手伝いをしており、年長組は村の仕事としてお手伝いをしている心持ち。ミニャは自分と賢者たちの家なので、とっても張り切っている。
そんな子供たちだが、ちゃんとお給料が計算されていた。全体的に見習い賃金だが、技術力が高い年長組は高くなる傾向になる。
そうやって差をつけなければ真面目に働いている大人たちの士気が下がるので、仕方のないことだ。
子供たちの楽しみは、塗った壁へスタンプをペッタンとすること。すでに仕上がった壁には、子供たちがつけたスタンプが全力で楽しいを表現していた。
一方、ミニャちゃんファーストな賢者たちにとっては一大事業なので、施工開始前から現在に至るまで、毎日大量に賢者が動員されており、家作りを一度も手伝ったことのない賢者はいないという状況。
一部の賢者たちはお部屋の一つを和風にするために動いていた。
明らかに他の部屋とは違い、特に壁の二面がなくて柱だけ。ミニャたちはこのお部屋がどんなふうになるのかとっても気になっていた。
大人たちもすっかり生活に慣れ、それぞれが自分に向いた仕事を頑張っていた。
現状では大工と開墾需要が非常に大きいので、それらに従事する大人が多い。
大工さんたちはミニャの家を作り終えると、子供たちが左官屋さんをしている間に家の周りにレンガ塀を作る作業を始めた。
1.5mほどの高さだがその上は賢者たちが移動できるように作られており、つまり人形サイズの城壁になっていた。
そんな日々が過ぎていき、いよいよ新生ミニャちゃんハウスが完成しようとしていた。
仕上げとなるその日、別の場所で賢者たちが作っていた物を、大工の大人たちが新生ミニャちゃんハウスに運んでいた。それに施主さんのミニャがついていくので、子供たちもぞろぞろと見学に行く。
「これ賢者様がちゅちゅってたヤツぅ?」
狭い村なので、子供たちはちょいちょい賢者たちの仕事を覗きに来るのである。
「そうだよ、ルミーちゃん。これからね、あの壁がなかったお部屋につけるんだって」
「わぁ、どんなんなんのかな?」
お日様が良く当たる角部屋にはL字型の縁側が作られた。その縁側は板の間に続いている。賢者たちが作った物は、縁側と板の間の仕切り。そう、障子であった。
なお、縁側は木戸で閉まるようになっている。
『工作王:ミニャちゃん、大工さんたちに教えてあげてくれるか?』
「わかった!」
ミニャの口を借りて、障子を嵌める順番を大工たちに教えていく。
障子戸は全部で12枚あり、家の正面に向かって8枚、家の側面に向かって4枚が嵌められた。
この障子は、下3分の1が板になっている腰付障子と呼ばれるもので、障子の紙はサーフィアス王国で作られている和紙に近い物を使用。
「わぁ、紙のドアになっちゃった!」
歪みもなくぴったりと閉まった障子に、ミニャと村民さんたちはテンションを上げた。
『工作王:ミニャちゃん、これは障子って言うんだよ』
「しょーじ!」
ミニャはぴょんと跳んでエーックス!
『工作王:開けてみて』
ミニャは沓脱石で靴を脱ぎ、縁側に上がった。近衛賢者がすかさず靴を揃えてあげる。
ミニャは、工作王に教わって障子の引き手を使い、障子を開ける。
「おーっ」
さすがに外のような明るさではないが、光が障子を透過して室内は程良く明るい。ミニャが障子を一枚分開けた場所にだけ、ミニャと賢者たちの影と一緒に強い光が入っている。
ミニャは板の間に入り、障子を閉めてみた。
「はえー、涼しい」
ミニャはグルッと障子のお部屋を見回す。
ちゃんと全部閉めたのにまだほんのりと明るい空間に、ミニャは不思議な気持ちになった。
「あっ、お花の絵! 昨日までこんなのなかった!」
ミニャが発見したのは押入れの襖である。
1畳ほどの押し入れで、中には板の間で過ごすためのアイテムが入っていた。その襖の下半分には、花とチョウチョの見事な絵が描かれている。
絵の候補は、花や子猫、もしくは女神など色々とあったのだが、襖というのは色褪せやすいのでそういった題材はやめておいた。
ミニャが襖を開けようと手を伸ばした時である。
障子に小さな影が二つ浮かび上がった。
イヌミミがピョコンとして、尻尾がブンブンした影だ。
「あーっ、そこにルミーちゃんとパインちゃんがいる! あ、マールちゃんも来た!」
ミニャがズビシと見破ると、障子の向こう側で3人が驚いた。
「なんでわかるのー?」
「なんでなんでぇ?」
不思議に思っているので、ミニャは子供たちを中に入れて、自分が外に出た。
「あーっ、ミニャお姉ちゃんだ!」
「影ができてる!」
室内からの声にむふぅとしたミニャは、縁側の外にいる他の子たちも呼んで遊び始めた。
障子を破る子が出ないか近衛賢者はハラハラ。
しばらくすると、賢者たちは別のアイテムを運び込んできた。
「なんか持ってきた!」
それは草編みのマットである。
グルコサ領の西の方ではイグサに近い物を栽培しており、それを用いていろいろな工芸品を作っている。
米や麦を作っている地域だけあって、そういった物の茎から作られる工芸品は当然あり、より扱いやすいイグサのような植物に目をつけるのも自然な流れだったのだろう。
そんな農家の一部がゴザを作っていたので、様々なタイプのゴザを注文したのだ。
ちなみにゴザは主にイグサ、ムシロは主に稲藁で作られる。かつては貴人用に作られたと言われるゴザの方が目が細かい傾向にある。
ただ、王国においてのゴザは、別に貴人用に作られたといった歴史はないようだった。工芸品として扱いやすいからイグサを使うようになっただけのようである。
グルコサで買ったゴザをミニャンジャ村でさらに加工し、少しクッション性のあるゴザマットが作られた。それが、いまミニャたちの前に運ばれた物だった。
本当はこの部屋に畳を敷き詰めたかった賢者たち。
畳の表面である畳表には一種のゴザが使われるため、無理をすれば作れなくもなかったが、さすがに技術を習得するだけの時間が足りずに断念。
リフォームもできるので、いずれは、ということで代替品のゴザマットというわけだ。
「草のお布団だ!」
「ちっちゃいのもある!」
子供たちは賢者たちが持ってきたゴザマットにワイワイと集まった。
大きめのゴザマットにミニャがコロンと転がり、そこにトドメとなるゴザ枕が登場。
「おーっ、スベスベしてて硬いけどふわふわしとる」
新体験!
他の子たちも板の間でゴロゴロしたり、ゴザマット大を体験してはしゃいだり。
なかなかに高評価なお部屋になった。
障子を入れたことで、ついにミニャちゃんハウスが完成した。
施主のミニャは一度板の間から出て、改めて内見を始めた。
玄関はオシャレな引き戸になっており、人間用の他に賢者用の小さな入り口も隣にある。
左官作業ですでに何度も開けている引き戸だが、ミニャはワクワクしながら開いた。
引き戸を開けると、チャリンチャリンと涼やかな音が鳴った。賢者たちが見張っているが、念のために防犯用のベルが付いているのだ。
ミニャが先頭で入り、子供たちもぞろぞろとついてくる。みんなワクワクである。
玄関からはすぐに広い三和土があり、ここで靴を脱ぐことになる。ミニャは沓脱石を使って家に上がり、賢者たちは端っこにある人形用の階段で家に上がることになる。人形は裸足で活動する場合も多いので足ふきマットも完備。完全に犬と同じだ。
ミニャの家は平屋の3LDK風呂トイレ付きだが、全ての部屋が広い。日本の田舎に見られるお屋敷のようである。
「ひろーい!」
「わぁ!」
木造レンガ造りだが、可能な限り圧迫感を感じさせないように造られている。
ミニャが健やかに過ごせるように、それと友達を家に呼んで遊べるように考えられているのだ。
それと、キッチンにおける換気の重要性が日本とは比較にならないので、これも工夫された造りになっていた。
「これクレアがペッタンてしたヤツ!」
「これパインの!」
さっそく左官屋さんが自分の仕事を発見して、顔を見合わせてニコーッとした。
壁にはいろいろなスタンプが捺されている。そのひとつひとつの形は子供がやったとは思えないほど整っているのだが、それは賢者がちゃんと整えたからだ。
一番広いのはリビングダイニングだが、ミニャを含めた子供たちに一番ウケたのは、先ほどの板の間だった。障子と縁側のポイントがあまりにも高いようだった。
ミニャちゃんハウスは完成したが、家具の搬入作業もある。
この日のために新調したベッドやタンス、テーブルを入れていく。
ミニャもちょっとだけ荷物があり、竪穴式住居でせっせと支度する。
「これも持っていく。これも!」
『ネコ太:タガネとスコップも持っていくの?』
「うん!」
ネコミミヘルメやリュック、釣り用ポーチ、自分で作ったビーズアクセサリー、魚拓、女神に貰った人形、賢者たちに作ってもらったタガネやらスコップなどなど。全部、ミニャの宝物だった。
そういったアイテムの製作に携わった賢者たちは感動に咽び泣き、楽しそうに支度するミニャを見守る賢者たちはキュンキュンした。
そんなお引越しで忙しくしている間に日々は過ぎ、ミニャちゃんハウス完成記念の宴会が開かれる日になった。
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