1-18 近衛隊とルミーナ草の研究
本日もよろしくお願いします。
ミニャのお家が完成しても仕事は山ほどある。
お家作りと同時進行で行なわれていた任務や、屋根ができたことで手が空いて始まった任務など、やることはたくさんあった。
お手伝いが終わったミニャもお家の中で賢者召喚に大忙しだ。
『ネコ太:ミニャちゃん、今度はお家の周りに壁を作るんだって!』
『乙女騎士:次はどんな賢者さんが来てくれるんでしょうね!?』
『くのいち:楽しみだねー? 賢者! 賢者!』
赤土人形に宿ったネコ太が、ミニャを楽しませるようにハイテンションな様子でコメントする。その周りでは、ミニャの護衛班である女子たちがズンズンと腕を上下に振って踊り、楽しい様子を表現した。
ミニャ近衛隊。
いつの間にかできた女性賢者だけで構成された部隊である。強いかどうかは不明だが、有事の際には魔法をぶっ放すことくらいできよう。
「ふぉおおお……壁っ!」
ミニャは近衛隊の踊りに合わせて腕をわたわたした。
『ネコ太:そうだよ。魔物さんが来たら怖いから壁を作るんだ! ふっふーい!』
幼女を楽しませつつ護衛する。
それが近衛隊の使命である。賢者たちを召喚することに対して、ミニャが悪感情を宿らせないように努めなくてはならない。
『ネコ太:それじゃあミニャちゃん、新しく賢者さんを召喚して指示しようね』
「うみゃみゃ! わかった!」
ミニャは瞳孔を開いて頷いた。
踊る近衛隊のせいで幼女の元気が爆発中。
現状、クエストを発注すると瞬く間に受注される。そこに喧騒は伴わないが、物語に出てくるような朝の冒険者ギルドの競争と何も変わらない。
クエストをゲットできた賢者はパソコンの前で歓喜し、ゲットできなかった賢者はすぐにミニャの生放送を見てクエストの作成状況に注視する。
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開始時刻 17:00
仕事:防壁作り
人形:赤土人形
募集人数:14人
条件1:チャム蔵、モグラを指名
条件2:土属性賢者4人
条件3:誰でも可8人
達成条件:拠点の南北に防壁を作る。
説明:チャム蔵とモグラをリーダーとし、魔法で防壁を作る。条件3の賢者は河原から石を運ぶ係とする。受注した賢者は事前に【図鑑→設計図→防壁】を見ておくこと。
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そのクエストも一瞬にして受注済みのマークがついてしまった。
時間となってクエストを受注した賢者たちが揃うと、ミニャは直接指示を与えた。もちろん、カンペありだ。
「えとえと。チャム蔵さんとモグラさんはみんなを連れて壁を作ってください!」
『チャム蔵:了解しました!』
『モグラ:任せてください!』
「お願いしますっ! にゃふぅ!」
指示を出すのはすでに何回もしているので、慣れたものだ。
実際の任務は細かい分担があるのだが、ミニャが出す指示では告げられない。幼女だもの。
ミニャのお家がある場所は、東に森へ続く登り斜面、西に倒木を挟んで河原となっている。そして、北は上流、南は下流となる。
この斜面の裾野は獣ならば問題なく歩けそうな地形なので、家の北と南に高さ1mほどの防壁を作った。さらに斜面に生えている木と木の間にツルを張り、そのツルに草木を寝かせることで、森側からのバリケードにする予定だ。
しかし、これで盤石とは言えない。1m程度の防壁なんて地球上の獣だって軽々と飛び越えるので、ゴブリンなんてファンタジーな生物がいる世界ならなおさら注意が必要だ。だから、地味な仕事だが見張りは必須である。
他に作られたのは、おトイレだ。
いまのところミニャにおトイレの気配はなかったが、必ず使うことになる。
まさか野ざらしというわけにもいかないので、家と同じ造りのおトイレをお家から徒歩5秒の位置に作った。もちろん、広さは家ほどない。
さて、お家作りがスタートするのと同時くらいに、魔物除けの花であるルミーナ草に関わる任務も進んでいた。
夜を無事に過ごすためにルミーナ草の採取はかなり重要な任務なので、作られたばかりで貴重な石製の人形が3体投入された。
というのも、ルミーナ草はミニャのいる場所から250mほど離れているのだが、この距離をニートな賢者が赤土人形の活動時間内に往復するのは難しかったのだ。
賢者たちの中で、体感6倍の法則というのが根付き始めていた。
30cmの人形にとって、6倍すれば縮尺が大体人間換算になるというどんぶり勘定だ。実際の距離が250mならば、人形にとっては1500mくらいに感じるといった具合である。
しかも、人間なら気にも留めない凸凹でさえ、人形にとってはちょっとした段差になる。サバイバーのような特殊な人間でもない限り、手軽に行ける距離ではなかった。
とはいえ、赤土人形よりもハイスペックな石製の人形が使用されたことで、採取を済ませて賢者たちは無事に任務を終えて帰ってくることができた。
そうして持ち帰られたのは、大きめの茶碗一杯分ほどの花びらであった。ツル籠に背負って運ばれたので、そんなものだ。
ルミーナ草が運ばれてきた頃はまだお家が完成していなかったので、野外でこの花びらについて研究が始まった。
研究員は中条さんとカーマイン。
両者共に木属性である。
■賢者メモ 植物鑑定■
『ルミーナ草』
・花弁が傷つくと、その傷口から一部の魔物が嫌う匂いを発する。
・ミニャにとって、微毒あり、薬効あり、食用可。
・微毒の効果:生の茎、葉、根を毎日経口摂取し続けると、ルミーナ草の香りを嗅いだ際に嘔吐する体質になる。この毒は蓄積型であり、発症するには1年ほどかかる。そのため基本的に食用にするべきではない。花弁にはこの毒はない。
■・■・■
『中条さん:いい香りがしますね』
『カーマイン:花弁が傷ついた時の匂いを一部の魔物は嫌うそうですが、この香りがそうなんでしょうかね?』
『中条さん:さっそく調査してみましょう』
ツル籠に入っている花弁は、最初から傷ついていた。採取や運搬で傷ついてしまったのだ。
2人は傷がない状態の花弁を探し、注意深く嗅いでみた。
『中条さん:あー、違いますね。花本来の香りとは別にあるみたいです。傷をつけると、いま漂っているこの強い香りを出すようです』
『カーマイン:となると、この特性は花弁を踏まれないようにするための自衛手段なのではないでしょうか? だから、虫の誘引の香りこそが本来の香りみたいな』
『中条さん:そうかもしれません』
そんな考察を交えつつ、では実際にこの香りをどうやって運用するか考える。
『中条さん:そうなると、まずはなんと言っても乾燥です。全く違う2つの香りがある花なんて私は知りませんし、乾燥させてどのような香りを出すか調べましょう』
『カーマイン:じゃあ各属性に『乾燥』の魔法を使ってもらいましょう』
■賢者メモ 魔法■
『乾燥』
・物を乾燥させる。生きている者には通じない。木にかける場合は、根と分断された木でなければならない。
・この魔法は、火、風、光属性が使える。また、生産属性はこの3属性が使える乾燥を全て使うことができる。
・それぞれの属性で乾燥の工程に違いがあると思われる。要検証。
★・★・★
2人は、別の場所で作業中の賢者たちに協力をしてもらい、各属性2枚ずつの計6枚分の花弁を乾燥させた。
『カーマイン:うーん、良い香りだけど、これは通常時のルミーナ草の香りですね』
『中条さん:はい。これはたぶんダメですね。でも見てください。火属性の乾燥が効果として一番強いんじゃないですかね?』
『カーマイン:そうですね。意外なところで『乾燥』の違いが判りました』
火属性は火による強力な乾燥、光属性は天日干しのような柔らかな乾燥、風属性は風を当てた風乾、といった違いがあることがわかった。
『中条さん:ちょっと色々試してみましょう』
それから2人は、乾燥させた花弁に水をかけてみたり、粉末にしてみたり、燃やしてみたりしたが、どの方法も魔物避けになるという香りを再び出すことはなかった。
『カーマイン:うーん、乾燥させることで魔物避けの成分が全て飛んでしまっているみたいですね』
『中条さん:そうすると、千切ってしまった花弁はすぐに香りを出さなくなるかもしれませんね。今晩は大丈夫だと思いますが、明日の晩は無理と考えた方が良さそうです』
『カーマイン:はい。とりあえず、乾燥に弱いことがわかっただけでも上等でしょう。保管しておいて、いざ必要な時に干からびて使えないなんてシャレになりませんからね』
『中条さん:そうかもしれません。でも、うーん、なにか方法はないかなぁ……。一番良いのは花を近くに植えてしまうことですけど』
『カーマイン:なんにせよ、これ以上研究をするには時間が足りませんね』
『中条さん:あ。そっか、活動時間……』
中条さんは愕然とした。
中条さんは、今回の召喚が初めてだった。
普通は研修の召喚を30分間入れるのだが、中条さんは研修と研究を同時に行なったのだ。ちなみに、通常ならば研修と本番を合わせて100分ほど楽しめるので、どちらかというと損をしている。
もう残り時間は10分しかない。あまりにも時間の経過が早かった。
この世界でもっと活動したいという欲求が中条さんに沸き上がるのは、他の賢者と同様だ。
中条さんは赤土人形の無機質な顔だが、肩を落としてがっかりを表現した。
カーマインはすでに何回か召喚されているので余裕だが、初めての人からすれば召喚が終わるのはとても残念なことなのだ。
『カーマイン:それではルミーナ草を乾かさないように周知してもらいましょう』
『中条さん:はい。ティッシュなんて便利な物ないですし、それも方法を考えないといけませんね』
賢者たちは魔法と人形の研究をどんどん進めていたが、中条さんが始めたルミーナ草の研究はそれ以外で初めての研究だった。
残念ながら1回の召喚では大きな成果は上がらなかったが、わずかな時間で『2つの香りを持つ』『乾燥に弱い』ということを発見したのは上々と言えよう。
こうして、中条さんの1回目の召喚は悔しさと共に終わるのだった。
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