1-17 仮拠点作り
本日もよろしくお願いします。
木材として伐採してきたコルンの木の樹皮剥がし。
風属性賢者が風のナイフで縦に切れ込みを入れていく。
すると、樹皮は包装紙を取るように簡単に剥がれた。これならミニャにもできそうだと、お手伝いを提案した。
「お手伝い!? する!」
お手伝いしたい系幼女の行動は迅雷の如し。
シュババッと持ち場を見つけ、樹皮剥がしに参加した。
『鍛冶おじさん:ミニャちゃん、これを使うといいよ』
「おー、にゃんだこれ!」
鍛冶おじさんがくれたのは、石でできたタガネだった。
それを樹皮の間に差し込み、石でカンカンと叩くと綺麗に辺材から剥れていく。
「ふぉおお……」
気持ち良く剥がれるので、ミニャは賢者たちと共にせっせと作業する。
コルンの木の樹皮が簡単に取れたのは、賢者たちも予想できていないことだった。植物鑑定にはそんなことは書いていなかったし。
コルンの木は樹皮がかなり厚く、外樹皮と内樹皮合わせて1cmほどもあり、剥くと木材の太さが8cmほどになった。
帰還した材料採集班の賢者たちは生放送を見ながら、他の賢者たちに混じって『仮拠点製作スレッド』に参加していた。自分たちの仕事の続きについて語りたいのだろう。
【129、ジャパンツ:おー、さすがファンタジー。めっちゃ綺麗に剥がれるじゃん】
【130、士道:いや、切れ込みを入れると簡単に樹皮が剥がれる木は地球にもたくさんあるよ】
【131、ジャパンツ:え、そうなの?】
【132、士道:それよりも俺はここまで内樹皮が分厚い木は見たことないな。まあ探せば地球にもあるかもしれないけど。それにしても、ここまで厚いと硬くて剥がれにくそうに思うけど……どうなってんだろうな】
【133、ジャパンツ:内樹皮って白い部分だよな。じゃあ普段見えている部分が外樹皮?】
【134、士道:そうだよ。あれだけ厚いとまるで鎧を着ているみたいだ】
【135、ハナ:いま、コルンの木の図鑑情報を編集しているので、そのことも書いておきますね】
【136、士道:誰か作業班でスレを見てるやついるか? 樹皮は内側を表にして畳まないと割れたり変な癖がついたりするぞ。ただ、その厚さだと畳めるか疑問だが】
【137、クラトス:私が作業班だ。注意点については承知した。みんなにも共有しておくよ】
そんなサポートや助言をして、外部組も召喚組も協力して作業を進める。
コルンの木は樹皮が虫除けになるらしく、そのためか、虫食い穴などがまったくない白い木材が出来上がった。
「ふぉおお、聖剣!」
ミニャは真っ白な木の棒を聖剣と名付け、両手で持って構えた。ミニャのちっちゃな手では柄を半分も握れないごん太の聖剣である。しかも幼女にはずっしり重いので、剣ではなく突撃槍の持ち方だ。
ネコミミ幼女のそんな勇ましい姿に、賢者たちはキュンキュンした。
次に、140cmの木材の片側30cmほどを火魔法で炙る。
木材は火で炙って表面を炭化させることで腐食防止になる。特に土に埋めたりする場合に行なっておくと高い効果を期待できる。
実のところ、そんなことをする必要はあまりない。ミニャにいつまでもこの寝床を使わせるつもりなんかないからだ。状況にもよるが泊まっても数日だろう。
ではなぜ火魔法で炙るかと言えば、魔法を使いたい賢者たちの欲求を発散させるためだった。特に火属性は人数の割に活躍の場が少なく、機会を見つけて使わせていた。
木材の加工が終わり準備が整ったので、いよいよ仮のお家が作られ始めた。
しかし、残念ながら準備に携わった賢者たちはその作業を手伝えない。
赤土人形は60分強しか活動できないため、準備でその時間を全て消費してしまったのだ。
活動時間は人形に依存するので賢者を別の人形に宿して連続の召喚は可能ではあるのだが、クエストはひとつずつしか受けられなかったため、悔しいが次の賢者にバトンタッチしたのである。
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開始時刻 14:30
仕事:家作り
人形:赤土人形30体、安山岩人形3体
募集人数:33人
条件1:サバイバー、ハイイロ、ビヨンドを指名
条件2:誰でも可30名(赤土人形使用)
達成条件:家作りを1時間行なう
説明:
・高所作業を行なうので注意。
・クエスト参加者は『仮拠点製作スレッド』に参加すること。
・同じ依頼を1時間後にもう一度発行する。
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サバイバーや士道たちが集めた資材が、作業現場に並ぶ。
■賢者メモ 建築資材■
・倒木 すでに予定地に倒れているもの
・330cmの木材 1本
・250cmの木材 4本
・140cmの木材 2本
・枝大 15本
・枝小 たくさん
・ツル たくさん
・石 そこらにあるものを適当に
・赤土 そこらにあるものを適当に
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構造としては至ってシンプルだ。
330cmの木材を倒木と平行になるようにして穴の対面に寝かせ、木材と倒木の間に250cmの木材をわたして斜めの骨組みにする。
他の木材や枝は屋根が落ちないように補強として使われる。
『ネコ太:ミニャちゃん、ここを押さえてほしいんだって』
「はーい!」
ミニャは賢者たちと一緒に木材を持ってお手伝い。
ミニャたちが持ってくれている間に、器用な賢者たちが地面に打ち込まれた杭に木材をツルで固定する。
今やっているのは330cmの木材を地面に寝かせ、木の杭と結びつけているところだ。
賢者たちにもいろいろな人生があるようで、器用にツルを結ぶ賢者もいた。
その作業が終わると、330cmの木材は杭に固定され、地面から5cmほど浮いた状態になった。
「はえー。しゅごー」
ミニャがグッグッと力を入れてもビクともしない。
『ネコ太:ミニャちゃん、次はあれを倒木の上に乗せるんだって!』
「ミニャもやる!」
ミニャたちが作業をしている間に、余った賢者は次の作業の準備を進めていた。次は330cmの木材と倒木の間に、250cmの木材を4本渡して屋根の骨格とするのだ。
250cmの木材の片側にツルを巻きつけ、賢者たちは倒木の上に引き上げていった。
ミニャは背が高いので、木材の真ん中あたりを支えてお手伝いだ。
『クライブ:うぉおおお、こえぇ……』
『啓太郎:落ちるなら茂みの方に落ちろよ。穴の方に落ちたら死ぬぞ』
倒木の上に乗っている賢者たちはひやひやだ。一応は命綱もつけられている。
250cmの木材が倒木と330cmの木材に掛けられ、それぞれがツルで結ばれていった。倒木の方は太いため、こちらには木属性の賢者が活躍した。
■賢者メモ 木属性■
『植物操作』
・植物を操ることができる。おそらく攻撃魔法。
・植物には抵抗力があり、抵抗力が高いものは操りにくい。
・見た目が立派だと抵抗力が高い。ただし、根と分断された植物は抵抗力が著しく落ちる。
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この魔法を使い、ツルをヘビのように操って倒木と材木を繋げていった。
倒木の方が高い位置にあるので、斜めの屋根である。
日本の屋根の構造で言えば、倒木は『棟木』、最初にミニャがお手伝いした330cmの木材は『桁』、斜めに渡された木材は『垂木』だ。
さらに、垂木の真ん中あたりにも補強の材木を入れた。
この材木は、コルンの木材を作る際に切られた枝を『木材整形』で螺旋状に加工して作られた物だ。枝から作られたとは思えない丈夫な材木である。
■賢者メモ 木属性■
『木材整形』
・木を曲げたり真っ直ぐにしたりできる。切断や彫刻ができるわけではなく、あくまでも棒を曲げる感覚であり、木材からコップなどを作れる魔法ではない。
・『植物操作』と似た魔法だが、『木材整形』は生産属性も使えるため木属性に備わった生産魔法だと思われる。
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この魔法を使い、それぞれの垂木に枝を巻きつけつつ、かなり強固な補強をすることができた。
『ネコ太:ミニャちゃん、次はこれを作るんだよ』
「ふんふん」
ウインドウに表示されたネムネムの設計図を見て、ミニャはコクコクと頷く。
まだ骨組みしか作られていないので、屋根はスカスカだ。そこにツルなり枝なりを張り巡らせなくてはならない。
『ネコ太:ミニャちゃんもお手伝いしてくれる?』
「やる!」
というわけで、ミニャも屋根作りにチャレンジ。
1m間隔に並んだ屋根の骨組みの間に、今度はツルを張り巡らせていく。
『ハイイロ:ミニャちゃん、ここをこうやってクルクルってやって、中にツルを通すんだ。そうするとそっちのツルがピンとなって緩まなくなるだろう?』
「ホントだ!」
『ハイイロ:そうしたら次は余ったツルを持ってあっちの木だ』
「わかった! ミニャ、通りまーす!」
最初の結び目を賢者に留めてもらい、ミニャはやり方を教わりながらお仕事をした。ぎゅっぎゅとツルにテンションをかける様子は、なかなか様になっている。
そんなミニャに教えているのはハイイロという賢者。
生産属性であり、かなり器用な人物だった。
ミニャは賢者たちよりもずっと背が高いので、穴の中から上を向いて屋根の真ん中あたりの作業を受け持った。
それ以外の場所を賢者たちがわちゃわちゃと分担している。
『栗田ニアン:はい、お願いしまーす!』
『ピリカ:はいよー』
下段で作業を行なっている賢者たちは地面を使えるので和気藹々と。
しかし、倒木の近く、つまり最上段で作業する賢者たちは大変だ。
『啓太郎:マジで怖いんですけど!』
『クライブ:これ、人形の体で死んだら保険おりる!?』
『啓太郎:え、お前保険入ってるの?』
『クライブ:……そういえば入ってないわ! 今からでも間に合うかな!?』
間に合うわけがない。
彼らはさっきまで太い倒木の上で作業をしていたが、今度はもっと細い骨組みに乗っての作業だ。穴の底までの高さは180cmくらいあり、人形にしてみれば10mくらいに感じられた。
それぞれの骨組みに乗り、時にはミニャが張ったツルの上を移動する。作業員たちの命は、幼女がうんしょうんしょと張ったツルに支えられているのである。正気の沙汰ではない。
『クライブ:うわぁーっ!』
そして、ついに転落者が現れた。
しかし、ご安心。作業員にはしっかりと命綱が巻きついているので。
幸いにして赤土人形の胴体がぶった切れることもなく、転落したクライブはぷらーんとした。
「あー、賢者様遊んでるぅ!」
屋根から落ちて穴の中でぷらーんとするクライブを見て、ミニャはキャッキャとした。
ミニャに悪戯されて、クライブは穴の中で振り子のように揺らされる。
『クライブ:なんか楽しいかも!』
たくましい。
これにはスレッド内で糾弾の声が噴出する。コイツは作業員として召喚されたのに、ミニャに遊んでもらっているのである。許すまじ。
『ギーンズ:う、うわーっ!』
故意に落下する者まで現れる始末。
幼女に遊んでもらうために体感10m近い高さから落下できる胆力は、まさに賢者。頭はイカレている様子だが。
その辺りで赤土人形たちの活動時間が終わり、賢者たちが入れ替えられた。
作業リーダーであるサバイバー、ハイイロ、そしてビヨンドという賢者は石製の人形を使っているのでそのまま残ることになる。
そんなふうに多くの賢者たちと楽しく作業をしつつ、ミニャの頭の上にはツルが張り巡らされ、屋根が形になってきた。
そうしたら、今度はその骨組みの上にコルンの枝を並べていく。このコルンの枝は『乾燥』の魔法が使われて水気が抜かれ、かなり軽い。
『ネコ太:ミニャちゃん、次はここだってー』
「はーい!」
ミニャもお手伝いして、どんどん屋根が覆われていく。
しかし、この屋根の面積は割と広い。そのため、枝が足りない見通しなので第二陣の材料採集班も現在活動中だ。
屋根の半分が覆われたところで枝が無くなったので、第二採集班が帰ってくるまで次の作業を始めた。今度は、枝で覆われた屋根に枯草を混ぜ込んだ泥を塗っていく作業だ。
「ミニャねー、泥んこが得意なんだ」
泥んこのなにが得意なのかは幼女特有の言葉足らずでわからないが、きっと遊びだろう。
「ぺったん、ぺったん!」
ミニャは賢者たちに貰ったスコップで泥と草を混ぜて、屋根の下の方に直接乗せる。
賢者たちはそれをどんどん広げていき、ある程度塗れると『乾燥』の魔法で一気にカラカラに乾かした。
賢者は小さいものの数が多く、魔法も使えるため、作業はどんどん進んでいく。もちろん、働き者のミニャのお手伝いも作業スピードにとても貢献していた。
この場では役に立たない人間なんていない。要領が悪い人だって、なにかしらの仕事で活躍できた。それは魔法の力も手伝っているが、大体の賢者がこういう作業をしたことがないのが原因だろう。みんながゼロからスタートなので、多少の失敗はみんな大目に見ているのだ。だが、ミニャと遊んでもらった賢者だけは許されていない。
スレッド内では、自分も行きたい、あるいはまた行きたいと羨ましがる声が上がっている。それを管理しているニーテストの苦労はなかなかのものだ。
『ネコ太:ミニャちゃん、またクエストを出したいんだけど良いかな?』
「うんいいよー!」
そんなふうに、追加のクエストが何度か出されて賢者が入れ替わったりしつつ。
作り始めてからわずか3時間ほどで、立派な秘密基地……いや、立派なお家が完成した。
空はまだまだ明るいが、森の木々の向こうに太陽は隠れ、森の陰影は深くなっている。山や森の夜は早いと言われる現象だ。
幼女と共に秘密基地のようなお家を作っていただけに、賢者たちはこの日暮れの光景に強い郷愁を覚えた。楽しい時間が終わるサヨナラのチャイムが今にも聞こえそうな気がしたのだ。
「ふぉおおおお……」
ミニャは自分もお手伝いしたお家の完成に打ち震えた。
いや、幼女のミニャだけでなく、大人である賢者たちもまた感動していた。
子供時代に秘密基地を作った経験のある賢者もいた。しかし、ここまで立派なものを作ったことのある賢者は、サバイバーを除いて一人もいなかった。
その達成感は凄まじく、召喚されている賢者はもちろん、パソコンの前の賢者も思わず笑い声を立てるほどだ。夕暮れの中に郷愁を見る賢者たちの中には、夢なのではないかと思う者もいた。
『ネコ太:ミニャちゃん、さっそく入ってみよう!』
「にゃん!」
興奮のあまり猫っ気を出しつつ、ミニャは横にある入り口からいそいそとお家の中に入ってみる。
その生放送を見る賢者たちは、まるで幼女と一緒に秘密基地に潜り込むような錯覚に陥った。
入り口は階段になっており、4段降りるとお家の中だ。
お家の中はわずかな隙間から光が零れる程度の薄暗さ。それは逆に言えば、隙間風の少なさや、外敵からのある程度の安全を証明していた。
80cmの深さの穴の上に斜めの屋根を置いた家なので、屋根が一番低いところではミニャの身長でも頭が天井につく。しかし、短時間で約3畳の仮住まいを作ったと考えれば、賢者たちもなかなかどうしてやるものである。
すぐに光属性の賢者が『ライト』の魔法を使った。
すると、ふわりと室内が明るく照らされた。
最初は地面を掘り下げただけだった穴だが、ミニャが外で作業をしている間に石のタイルが張られていた。河原から運んだ石を『石材変形』で薄くしてタイルにしたのだ。天然石なので色はちぐはぐだが、それもまた味があっていい。
「わぁ……」とミニャは笑顔になった。
「ネコ太さん、ここミニャのお家!?」
『ネコ太:うん、そうだよ。しばらくはここでみんなでお泊まりするの』
「うわーい!」
ミニャは楽しそうに笑った。
それを見て、一緒にお部屋に入った賢者たちはホッとした。
こんな家は嫌と言われたらどうしようと心配していたけれど、杞憂だった。それどころか凄く嬉しそうだ。
しかし、実のところまだ作業は終わりではなかった。
これから暖炉を作ったり、おトイレを作ったり、ミニャの寝床となる枯草を集めたりするのだ。
だが、賢者たちは、ひとまずミニャの笑顔を見て、未だかつてないほどの達成感を味わうのだった。
読んでくださりありがとうございます。
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