6-11 シゲンさんが来た!
本日もよろしくお願いします。
本日のミニャンジャ村はちょっと緊張気味。
というのも、長い旅を終えたシゲンが娘たちを連れてやってくるからだ。
しかし、賢者たちとは少し認識が違う。
賢者や大人たちは『シゲンが来る』だが、ミニャを含めた子供たちは『新しい子供が来る』なのだ。
今日は学校がお休みになったので、朝ご飯を食べ終えたミニャたちは時間までお外で遊んだ。
しかし、今日はどこか気もそぞろ。ブランコに乗っていても湖の方の森をチラチラと見る子が多い。
トロッコに乗りに行っても、「もう来るぅ?」と気にしている。それでも乗りに行っちゃうあたり、大人たちと時間感覚が違いすぎる。15分あれば濃密に遊べるのだ。
『覇王鈴木:俺も隣に新築が建った時はこんな感じだったなぁ。やってきたのが2学年上でがっかりしたのをよく覚えてる』
『ホクト:私もそういう経験ありますね。私の場合は2つどころか結構離れたお兄さんでしたけど』
『覇王鈴木:へ、へえ!』
『ブレイド:転校生の時とかもワクワクしたよな』
『覇王鈴木:俺、転校生って1回もなかったな』
『ブレイド:マジかよ。俺なんて4、5回はあるぜ』
賢者たちもキッズの時期があるので、子供たちの心境は身に覚えがあった。
緊張しつつ遊ぶという器用な時間を過ごすこと1時間ほど、トロッコに乗車しようとしていたミニャに賢者が告げた。
『ネコ太:ミニャちゃん、ミニャちゃん! シゲンさんたちが港に着いたって!』
「っ! ミニャ、お迎えに行かないでいいの!?」
人が来る時は毎回お迎えに行っていたので、気になったようだ。
『ネコ太:うん、お迎えに行ってもいいんだけど、村でどっしり待機していてもいいんだよ』
「にゃるほーね」
ミニャはふむふむと理解。
とはいえ、迎えに行っちゃうのもミニャの良いところである。
「みんなーっ、もう来るって! 早くトロッコに乗って!」
「「「っ!」」」
ミニャがトロッコ乗り場にいるみんなに教えてあげると、1号車にイヌミミ姉妹が、続く2、3号にミニャとマールがライドオン!
カタンコトン。
いつもはキャッキャとする子供たちだが、今回ばかりはキリリ顔で目的地を目指す。その姿は事件現場に急ぐ警察官のような勇ましさ。
「フォルガさん、クレイ君、もう来るってぇ!」
「くぅってぇ!」
ミニャとルミーが途中で素振りをしていたフォルガやクレイに教えてあげる。
「みんなーっ、もう来るってぇ!」
「お姉ちゃん、お兄ちゃん、もう来るってぇ!」「くぅってぇ!」
続いてブランコに乗っている子供たちにもお知らせ。
トロッコはそのままブランコエリアを通り過ぎ、新居建設エリアへ移動。
終点で降車した子供たちはわきゃーっとブランコエリアに走る。常に全力だ。
新しい人が来るということもあって、広場には村人が勢揃い。
食事用のテーブル席には大人たちが座って談笑し、ブランコエリアでは子供たちが最後の瞬間までブランコに乗る。中には王族もいるわけで、これを見るシゲンはどうなっちゃうのか。
そうしてしばらくすると、森の道からシゲンとその娘シャーリィ、他4人の少女たちが姿を見せた。
「あっ、来たーっ!」
ミニャがててぇと走り、それを追ってマールやイヌミミ姉妹がついていく。
『エンラ:先頭のあの方が我らの主だ』
付き添いの賢者がそう告げ、言われたシゲンはキリッと顔を引き締めた。
ズシャーッと勢いを殺した元気っ子は、シゲンとポカーンとする少女たちにご挨拶!
「ミニャはミニャです! 七歳です! 女神様の使徒で、ミニャンジャ村の村長さんです! ようこそ、ミニャンジャ村へ!」
バーンッと先制攻撃!
それに対してシゲンはスッと片膝をついてカウンターを放つ! その後ろでは5人の少女が慌ててそれを真似た。
「女神の使徒様。私の名前はシゲンと申します。まずは我らの窮地をお救いくださり、心からの感謝を申し上げます」
ほえーとしたミニャ。
しかし、すぐにシゲンの事情を思い出し、ニコパと笑った。
「ううん、シャーリィちゃんも無事で良かったですね」
「はい。それも全てミニャ様と賢者様方のおかげです。助けていただいたうえで図々しい申し出ですが、ミニャンジャ村の一員にしていただきたく参じました」
シゲンとミニャが顔を合わせたのは今日が初めてだ。すでに村民になることは許可済みだが、それはあくまでも賢者と打ち合わせただけにすぎない。だから、こうしてミニャ本人にも許可を得ているのだろう。
「うん、いいよー。これからよろしくお願いします!」
当然、ミニャの答えはそれである。軽い。
「ありがとうございます。ミニャ様のため、村のため、どのようなことでもお申し付けください」
「ありがとうございます! ささっ、みんなにも紹介するから立って立って!」
というわけで、シゲンたちを伴って広場へ。
フォルガがシゲンを見て軽く手を振る。
シゲンは会釈をするに留めた。
王都のダンジョンで深くに潜る2人である。ここで元王と臣下という関係を持ち出す必要がないくらいにはよく知った仲なのだろう。
広場のテーブル席に子供たちも座り、ワクワクしながら自己紹介を待つ。
「シゲンと申します。以前は冒険者として活動しておりました。本日からミニャンジャ村の一員に迎えていただきます。みなさん、よろしくお願いします」
シゲンはそう言って頭を下げた。
アルスターという苗字を持っているが、名乗らないらしい。王国で使っていた苗字だからかもしれないが、このあたりのルールは賢者たちもよくわからなかった。
「しゃ、シャーリィです。シゲンの娘です。よろしくお願いします!」
ダークエルフのシャーリィがペコリと元気に頭を下げた。
他の4人も自己紹介をして頭を下げていく。
8歳のエルフの少女のフラヴィ、7歳のイヌミミ少女ククリ、同じく10歳のイヌミミ少女ルキ、12歳の人族の少女アイシャ。シャーリィが16歳と一番年上で、この年齢はもう大人枠だ。
新イヌミミ姉妹は尻尾を股の下に入れて緊張気味だが、ルミーとパインはそんな2人に興味津々で尻尾をブンブン。
「シゲンさんはおウチをどうしますか? もう出来上がってるの使う? それとも新しく作る? 作るのなら今から作るよ?」
ミニャがそう問うと、子供たちはワクワクした様子。
ミニャがそうであるように、子供たちはお手伝いが好きらしい。子供たちにとってはお手伝いという遊びなのだ。
新しい子供たちはちょっと不安そうにシゲンを見上げるが、シゲンの答えは予め賢者たちと話し合って決めていた。
「それではお言葉に甘えて、新しく作らせていただいてもよろしいでしょうか?」
「うん、いいよー! じゃあみんな準備してぇ!」
わーっと子供たちがダッシュで自宅に帰り、作業着に着替え、ネコミミヘルメを被って戻ってくる。
カラフルで可愛らしいネコミミヘルメを見て、4人の少女たちは羨ましそうな顔。シャーリィはもう16歳なのでそこまでではない。
しかし、そこは賢者である。
すでに準備万端で出迎えている。
新しい5人のネコミミヘルメと軍手、作業着も作り終えており、プレゼントされた。
「「ふわぁ!」」
やはりイヌミミ姉妹のルキとククリはシッポをブンブン。獣人の子供は無邪気である。
「こ、こんな、いいんですか?」
シャーリィがちょっとビビり気味に問うた。
「うん、服が汚れちゃうからこれに着替えてきてね」
ミニャンジャ村はお手伝いする機会がたくさんあるので、ヘルメと作業着と軍手は配給されているのだ。
お客さん用の竪穴式住居で着替えた5人が戻ってきた。
ネコミミヘルメを被るシャーリィはちょっと恥ずかしそうだが、他の4人は嬉しそうにしている。
しかし、まだどこか服に着られている印象で、ミニャたちの方が着こなしている。
そこから始まったのはいつものだ。
とはいえ、あまり人が多くても仕方ないので、フォルガたちはダンジョンへ。
今回はシゲンとシャーリィで1軒、4人娘で1軒という振り分けで、どちらも大きめサイズの竪穴式住居だ。
ミニャちゃん建設のチーム分けは、社長自らが4人娘のおウチの建設に携わった。シゲンの忠誠心はすでに高いので、4人娘の忠誠心をゲットする算段である。
「これはねぇ、1って書いてあるからここに入るの! これは2って書いてあるからここ!」
ミニャがウインドウに描かれた完成図と材木に書かれている番号を指さして教えてあげる。
教えられている4人娘たちはここに来て初めて賢者たちのフキダシを見えるようになった。ウインドウという特殊な魔法を見て、目を白黒させつつ教わっている。
次第に、イヌミミ姉妹のククリとルキのシッポがパタパタし始める。どうやら緊張が解け始めているらしい。
「こえは3!」
ルミーが途中で合いの手を入れるように材木に書かれた番号をズビシ! それによってさらに緊張緩和が加速する。
『織姫:はあはあ、わ、私が作った服を着てる! か、可愛すぎますぅ……っ!』
そんな様子を背後から見るのは新しい賢者さん。
動画のファンだった織姫、その正体は動画投稿者の『地獄の機織り姉貴』である。
視聴者も結構いる動画投稿者だけあって、服飾関係の腕前は賢者たちの中で上位レベルだ。ネコ忍のお婆ちゃんたちがあまりにも万能なのでトップというわけではないが、アニメ的なファッションも作成可能なので非常に大きな戦力であった。
新しい子供たちはもちろん、シゲンも楽しそうに作業している。やはりおウチ作りは男子にとって鉄板コンテンツなのだ。
お昼ご飯を食べる頃には子供たちはすっかり仲良くなっていた。
本日のお昼ご飯はおにぎり。
賢者たちはすでにふわふわパンの開発に成功していたが、王国は米が主食なのでまずは米料理で心を掴む。
「もむもむもむ、美味しい!」
「でしょーっ! これはミニャたちも作れるから今度一緒に作ろうね?」
「わぁ、ホント?」
どうやらミニャは子供たちのボスになれた様子である。
夕方前には完成し、ミニャちゃん不動産が内見を終えた頃にフォルガたちが帰ってきた。
「相変わらず早いですなぁ」
若干呆れた様子だ。
そんなフォルガの背後には、大きな獣の足を3本背負った元騎士団長ガロードの姿が。
「ミニャ様、お土産ですぞ」
「おーっ、しゅっごー! これ魔物さんの足?」
「左様です。剣鹿というヤツでしてな。お好きに使ってくだされ」
「わぁ、ありがとうございます! みんな、食堂に運ぼう!」
子供たちはガロードから魔物の足を受け取って、うんせうんせと運んだ。
ダンジョンがある地域は栄えるというのがパトラシアの基本だが、こういった食材も獲れるのでさもありなんと言ったところだ。
ちなみに、フォルガたちはすでに20階層よりも下まで進んでいる。到着した階層は賢者たちが詳細な地図を描いているので、その進行はかなり早い。そのうち長期遠征をして、さらに深く進むことだろう。
「フォルガさんたちがいっぱい持ってきてくれた! どこに置くぅ?」
『トマトン:まあまあまあ。えーっと、じゃあそのテーブルに』
「はーい! みんな、ここだってぇ!」
と嵐のようなテンションで運んでくれた子供たちがお風呂に向かい、あとには剣鹿の太ももが3本残された。
『トマトン:さて、どうするか……』
『グラタン:結構でかいわね。もう献立も決まっちゃってるんだけど……』
賢者たちは調理台に置かれた剣鹿の太ももを見て言った。
ダンジョンで獲れる肉は基本的に毛皮がついておらず、薄皮で保護されている。とはいえ、扱いが悪ければ汚染されるので水洗いするのが一般的だ。
『トマトン:でも、せっかく持ってきてくれたんだし、今日中に2本は使おう。余れば賢者たちが食べればいいし。もう1本は燻製にしようか。ミッソさん、例の物を』
『ミッソ:いよいよですね!』
味噌ではない。醤油である。
賢者たちが作った醤油は大豆を使っていない。というか大豆が発見されていない。その代わりにグルコサで数種類の豆を購入できたので、それで複数の味噌や醤油を仕込んだ。
さらに、米があるので米飴を作り、そこからみりん風調味料も作りだしている。
さて、ミッソが作り出した特製醤油と、みりん、米酒、砂糖。
これらを使って作りだしたのは、照り焼きソースであった。
剣鹿のお肉をフライパンで焼き、表面がパリッとしたら照り焼きソースを投入。鹿肉をジャブジャブと泳がせながらじっくりと煮込む。
もう片方の剣鹿は塩とハーブでシンプルに。
『グラタン:超美味そう』
『ミッソ:自分で作った物が使われるとドキドキしますね』
『グラタン:これから食べてもらうんだから、もっとドキドキだよ』
他の料理諸々も完成し、子供たちを呼んで配膳を手伝ってもらう。
新しく来た子たちもやる気十分で、率先してお手伝い。
自分たちが運んでいる料理が一体誰のものなのかと、子供たちの期待は高まる。
最近の食堂は、屋根だけのエリアが作られた。
村人が多くなってきたので、食堂は大きくなったがさすがに手狭なのだ。
ライトの魔法で照らされる中でテーブル席に料理が並び、村人さんたちも席に着いた。
そうして、ミニャが恒例の挨拶を行なった。
「今日はまた新しい人が村民さんになってくれました! ありがとうございます! いっぱい食べて楽しんでください! それじゃあいただきます!」
最近のミニャは自分の口でこういった挨拶ができるようになり、大変な成長を見せていた。下手な賢者よりも凄い!
いただきますの挨拶と共に、子供たちが戦場へ。
新しい子が気になるのは目の前の白い物体クリームシチューである。
一方、ミニャやフォルガたちが気になるのは剣鹿の照り焼きであった。
「甘うまぁ! にゃんだこれ!?」
『ミッソ:それは剣鹿の太ももの照り焼きです!』
「照り焼き!」
びっくりするミニャの横ではエルフ姉妹が無言でガツガツだ。
そして、新しくきたエルフのシャーリィとフラヴィも同じくガツガツしている。フォルガの仲間のメリアランもガツガツしているし、基本的にエルフ女子は食べることが好きらしい。一方、シゲンはそこまでがっついていない。
「むっ、これは美味ですな……」
そう感心したように言ったのは、執事のジゼ。
ジゼが食べているのは女神の恵みのお浸しであった。それにはミッソが作った特製醤油が掛かっていた。料理人賢者たちもこの醤油は味見したが、若干甘味が強いもののかなり美味しかった。
そんなジゼの隣では、フォルガがカニピラフに夢中である。鳥足カニとミニャンジャコンソメによって作られた激ウマピラフだ。自分たちで獲ってきた剣鹿の料理とも相性抜群で、そこに優しい味わいのクリームシチューがついているのだから文句なし。
カニが入っているからか、コーネリアもニコニコである。というか、冒険者たち全員がニコニコである。これで給金も貰えるのだから、やはり文句なしの待遇。
「ぐすぅ、こんなに美味しいの食べたことないですぅ」
と涙を流すのは新しくきた人族のアイシャであった。身寄りもいないわけで、苦労してきたのは明白である。
それを聞いたククリとルキももらい泣きしつつ、もぐもぐしている。
「はははっ。泣くなよ、これからいっぱい食べられるからさ。だけど、ちゃんと協力するんだぞ?」
「こえあげう!」
スノー先輩がそう言ってアイシャを励まし、ルミーが照り焼きをククリにひと切れあげた。おウチ作りを経て、良い感じの関係を築けたようである。
こうして、ミニャンジャ村はまた新しい村民さんを加えて発展の兆しを見せるのだった。
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