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ミニャのオモチャ箱 ~ネコミミ少女交流記~  作者: 生咲日月
第5章

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5章閑話 シゲンの旅3

本日もよろしくお願いします。


 グラインの町の中で賢者たちが活動し始めた。

 調査は隠密任務なのでネコ忍が、増殖は地面の中なので普通の賢者たちが担当。


 調査では港方面に向かった賢者が多い。

 商船の調査と奴隷商への潜入である。


 商船の調査はシゲンが乗るべき船を見つけるのが仕事だ。

 グラインからは地図を見る限りで3つ以上の行き先候補がある。シゲンの目的地はアーケンなので、間違えるわけにはいかないのだ。

 水夫にでも尋ねられるなら簡単だが、それができない行き先調査は案外難しい。ネコ忍たちは実際に船へと忍び込み、船長の日誌や積み込まれた荷物からヒントを得ていった。


 しかし、船内に忍び込んだネコ忍たちの作業は途中で中断することになった。奴隷商を調査しに行ったネコ忍たちの発見が原因である。


 深夜2時少し過ぎ。


 ネコ忍のサスケとコウゲンが、屋根の上から隣の建物を見下ろしていた。サスケは鼻の良い最年長ネコ忍で闇属性、コウゲンは凄腕の元警察官のネコ忍で火属性だ。


『コウゲン:ロイカーゲ奴隷商会奴隷待機所か』


 その建物にはシゲンの娘が売られた奴隷商と同じ名前を冠する看板が掛かっていた。


『サスケ:ロイカーゲはアーケンに支店があるという話だったはずだが』


『コウゲン:奴隷待機所というのも聞き慣れない言葉だ。看板がかなり新しいし最近進出したか、あるいはライラが言っていた2つの奴隷商とは別口かもしれんな』


 賢者たちは奴隷商の詳細な所在や名前は把握していなかった。ここも『港付近』という情報だけで探して発見した施設だった。


『サスケ:ふむ。とにかく調査をしてみるか。中から大勢の臭いがする』


『コウゲン:外部班、そういうわけでここを調査する』


 小学校の体育館くらいのかなり大きな建物だ。グルコサでもこの規模の建物はあったが、大体が国や金持ちの使う店舗や施設だった。


 サスケの影潜りで移動を開始。薄っぺらな影が移動し、正面玄関付近の窓から室内の様子を確認。


『サスケ:店の顔だというのに殺風景だな』


 正面玄関を入った部屋は立派なロビーにできそうな空間なのに、ほとんど何もない。

 ひとまず中に入ると、ドアは3つ。1つはカウンターの奥に、もう2つは左右の壁にある。


『サスケ:正面は人がいる。酒の匂いがするな』


『コウゲン:気配が荒い。ゴロツキか何かだろう』


 カウンターの奥のドアにはおそらく見張りがいるので、2人は右側のドアに入ってみた。そこは倉庫のように大量の荷物が置かれた部屋だった。


【299、名無し:ロビーから壁一枚で倉庫なのか?】


【300、名無し:というよりも引っ越したばかりなんじゃない?】


【301、名無し:ここって中古物件だと思うよ。柱や床に年季がある】


【302、ライデン:サスケ殿、コウゲン殿。その物資の中にノコギリや斧、シャベル、ロープがないか見て欲しいでござる】


 スレッドでライデンが要望を出した。


『コウゲン:サスケ、どうだ?』


『サスケ:こっちから鉄と古い土の臭いがする』


 サスケは木箱の上を軽やかに飛び、大量の荷物の中からクワやシャベル、斧をあっさり見つけた。その数はかなりのものだ。


【310、ライデン:あくまで予測でござるが。たぶん、ゴレモニアは奴隷を使って女神の森の開拓を始めるつもりでござる。その利権に絡んでいるのがロイカーゲ商会なのでござろう】


『コウゲン:そういうことか』


『サスケ:どういうことだ。死にかけのジジイにもわかるように言え』


『コウゲン:ピンピンしてるじゃねえかよ』


【314、ライデン:過去にゴレモニアが開拓した時は軍隊が茨に飲まれたでござる。では、罪がなく、それでいて憐れな奴隷が森を開拓した場合に、女神様はどう対応なさるのかということでござる】


『サスケ:なるほど、女神様の慈悲を逆手に取るつもりか。下衆なことを考えおるわ』


【316、ライデン:確証があって行なわれるのか、実験的なのか……。まあ、あくまでも推測でござる。その可能性もあるという程度に考えて調査してほしいでござる】


『コウゲン:承知した』


 2人はロビーから続くもう1方のドアを調べると、そこも物資が大量に置かれていた。


 この2つの部屋からは建物の奥に続くドアがあったが、荷物によって開かないようになっていた。敢えてそうしているのだろう。しかし、そういったドアも影潜りで隙間から越えられる闇属性の賢者にはあまり関係ない。


 ドアの先は廊下だった。ロビーから続く3つの部屋がこの廊下に続いているようだ。この廊下の先にもいくつかの部屋があった。


 すぐ近くの部屋に入ると、そこは鉄格子に仕切られた部屋だった。牢屋というわけではないようで、仕切られた両方の部屋にドアがついている。賢者たちは奴隷を実際に見る部屋だろうと考えた。

 この仕切りの部屋は2つある。先ほど物資が置かれていた2つの部屋が商談室だと考えると、2組の客を同時に対応できるようにしていたと推測できる。


 このほかに、洗い場の大きな風呂や厨房、見張りの寝所と思しき部屋や空き部屋。

 全体的に、施設としての機能を生かし切れていない雰囲気がある。特に空き部屋の違和感は強く、店舗として数か月間使っていて、こんな部屋が残っていることはないだろう。この建物を使い始めて数週間以内なのではないかと賢者たちは推測した。


 1階部分からは上下階に行ける階段が別々の場所にあった。

 上階にも少数の人の気配を感じられる一方で、下階からは非常に多くの気配が感じられる。


 2人はひとまず階層を変えず、先に1階で未調査のエリアを調査することにした。


 そこは廊下を鉄格子で塞がれたエリアで、その先にさらに鉄格子で仕切られた部屋があるようだった。鉄格子の中は4畳ほどの部屋だ。小さな窓もある。そんな部屋が4部屋あり、さらにトイレも個室とは別に用意されていた。


 その個室には3人の人物が収容されていた。3人ともがちゃんとしたベッドで横になっている。地下階にも多くの人がいると考えれば、ここにいるのは特別な奴隷だというのが察することができた。


 そして、この3人の中にその人物を見つけた。

 銀色の髪を持った13歳くらいの褐色肌のエルフである。




『ゲンロウ:おい、シゲン殿、起きろ!』


 シゲンの袖に入っていた回復属性のネコ忍・ゲンロウが、シゲンを揺り起こす。

 静かに目を開けたシゲンだが、どういう状況なのかわからないので急には起き上がらない。それがシゲンの腕前を表しているが、その冷静さも次に流れたフキダシで終わりを告げる。


『ゲンロウ:娘さんが、シャーリィちゃんが見つかったぞ!』


 そう、ロイカーゲ奴隷商会奴隷待機所の1階にいたエルフこそがシゲンの娘だったのだ。シゲンは白い肌のエルフだが、娘は褐色肌のエルフなのである。


「っ!?」


 シゲンは思わず跳ね起きた。大声を出さなかったのはギリギリのことだ。喉からせり上がってくるような気持ちを抑え、シゲンは小さな声で問うた。


「いったいどこにですか?」


『ゲンロウ:ロイカーゲ奴隷商会奴隷待機所という建物だ。港の近くにある。いま、賢者たちがどのような建物か調査中だ』


「そう、ですか……っ」


 シゲンは感謝が言葉にならず、唇を震わせてゲンロウに深く頭を下げた。

 ゲンロウの目を通じてその光景を見ていた賢者たちは、もらい泣きしそうになった。湖を泳ぎ、岩礁を越え、夜の森を共に過ごし、シゲンと共に旅をした賢者はなおさらだ。


 しばらくそうしていたシゲンだが、ギュッと目をつぶり、強く眉間に力を入れて冷静さを取り戻すと、あの婦人との約束を優先した。娘の安否も気になるだろうに、義理堅い男だった。


「見苦しいところをお見せしました。皆さんには感謝の言葉もありません」


『ゲンロウ:君の心労は無理からんことだ。気にするな』


「マリーさんの息子さんのギルバート君はどうでしたか?」


『ゲンロウ:すまん、娘さんの報告を取り急ぎしたが、ギルバート君は見つかっていない。しかし、調査していないエリアがまだある』


 シゲンは承知したように頷いた。


「お手伝いできることはありますか?」


『ゲンロウ:いや、今はない。ここは我々に任せて、君は休め。眠れんかもしれないがな』


「冒険者は寝るのも仕事です。どうにか頑張ります。ですが、どんなことでも言ってください」


『ゲンロウ:ああ、もちろんだとも』


 横になるシゲンだが、その気配が再び眠ることはなかった。




 サスケとコウゲンは特別エリアの小窓から外へ出ると、ひとまず秘密工房を作るために人形を明け渡した。

 何度も作っている秘密工房なので手慣れたものだ。あっという間に完成し、石製人形の製作に入る。


 ものの30分でサスケとコウゲンの調査が再開された。

 残るは地下と上階。

 2人は地下へと向かった。秘密工房で人形の量産が始まったので、人形が完成次第、上階は別の調査班が派遣される予定だ。


『サスケ:糞尿の臭いが強いな』


【540、コウゲン:ここから先はトラウマになるような光景かもしれない。生配信を見ている者は覚悟してくれ。他の調査に協力してくれてもいいからな】


【541、名無し:俺の人生の半分以上はパトラシアで過ごすんだ。俺は見るぞ、コウゲン師匠】


【542、名無し:僕もです】


 スレッドに注意喚起しつつ、2人は地下へと降りていった。


 地下にあったのは地下牢。

 1階にあったのはやはり特別待遇の奴隷が入る牢屋だったようで、地下には数名ずつが収容された牢屋が並んでおり、待遇が全然違った。当然、窓はなく、トイレも牢屋内にある。ベッドはないが、体が資本のためか、干し草とシーツだけはちゃんと用意されている。


 男もいれば女もいる。さすがに別々の牢屋に入れられており、エリアも分かれているようだった。


 1階にあった浴場の真下に湿気の強い場所がある。おそらく、浴場の水を抜くとそのままここに流れ、奴隷を洗うために使われるのだろう。この水場の施設があるためか、眠る奴隷たちに薄汚れた印象はない。しかし、そこら中ですすり泣く声が聞こえ、地下エリアは悲壮感に満ちていた。


【559、名無し:ひでぇ……】


【560、名無し:一時期とはいえ、ミニャちゃんもこういうところに入れられていたのかな……】


【561、名無し:もうロイカーゲ商会の全店舗を物理的にぶっ壊そうぜ。行き過ぎた奴隷売買は天罰が落ちるって伝説を作るんだよ】


 賢者たちは怒りに燃えた。


『コウゲン:どこの世界も人の闇は深いか』


『サスケ:お前がそんなでどうするか。任務を優先しろ』


『コウゲン:そうだな。外部班、記録を頼む』


 ネコ忍は怒れる心を凍てつかせ、任務を遂行する。


 元警察官のコウゲンが火属性を選んだのは人物鑑定ができるからだ。その力を使い、一人一人の名前を調べていく。

 そして、男性が収容されている牢屋にその青年はいた。


『コウゲン:ギルバート。年頃や容姿も聞いた通りだ』


 水蛇のアジトで賊たちの食事を作っていたマリー。息子を人質にされて従事していた彼女だったが、その気持ちをあざ笑うかのように売られてしまった息子である。


 全ての人の人物鑑定が終わり、人数は上下合わせて33人だとわかった。


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【5月7日】シゲンの旅 PART1【グライン潜入】


1、覇王鈴木

 ここはシゲンさんの旅を応援するスレッド。

 情報交換や分析にも使うので、その際には余計な書き込みはNGで。

 本日1時くらいにグラインに潜入予定だ。

  ・

  ・

  ・

601、カザマ

 こちら奴隷待機所2階調査班だ。有力な情報を手に入れた。どうやら、奴隷に開拓させるという推測は合っているようだ。計画書が手に入った。映像記録を残すからあとで精査してくれ。


602、名無し

 でも、それって今まで行なわれなかったのかな? 開拓地に奴隷を送るって普通に至る考えだと思えるけど。


603、クラトス

 おそらく、剣王サーフィアスの影響じゃないかと思う。サーフィアスは元奴隷で、女神の使徒になったことで元いた国を傾けるほどの反乱を起こしている。この歴史があるから、ゴレモニアは女神の森に奴隷を入れたくなかったんじゃないかな。


604、名無し

 でも、今回はそれに踏み切ったと? 女神様から天罰を喰らわない確証があるのかな?


605、名無し

 それはないんじゃない? だって、ミニャのオモチャ箱を作った最強女神やぞ? 人間の力でどうにかできるとはとても思えん。


606、クラトス

 人間は歴史から得た教訓と目の前の欲望の天秤に揺れるものだ。長く時間が経てば、教訓は風化して軽くなる。まああとは確率の問題だろう。教訓を軽んじる者がトップに立ってこんな計画を作ったってところが真相なんじゃないかな。


607、名無し

 それ、俺が言ったことにしてくれない?


608、名無し

 経緯はどうあれ、問題はどこまで手を付けるかだな。33人を大移動させるのは無理があるように思える。


609、名無し

 やっぱり、ロイカーゲとこの計画に出資している貴族の建物を全て消し飛ばそうぜ。どうだ、ライデン。


610、ライデン

 早まってはいけないでござる。それをやるには我々はゴレモニアを知らなさすぎるし、今回の計画の詳細もまだわかってないでござる。


611、カザマ

 報告。シャーリィと他2名のことについての指示書があった。これは俺たちに関わりがある案件だ。


612、名無し

 どういうこと?


613、カザマ

 クーザーが受けた人攫いの仕事はエルフの女2人、犬獣人の少女2人、ドワーフ少女1人、双子の男児2人だった。しかし、輸送予定日に間に合わなかったから、レネイアの代わりに手元にいたシャーリィを、同じくルミーやパインの代わりとなる2人の犬獣人の少女がこの待機所に送られたらしい。買い手はグラインの領主だ。


614、名無し

 じゃああの3人は開拓地ではなく別件の売り物ということですか。そうなると、奴隷狩りの依頼元もグラインの領主ってことですか?


615、カザマ

 そこまでは書いていない。領主は普通にロイカーゲへ問い合わせた程度で、ロイカーゲが用意する約束をした可能性もある。とはいえ、奴隷に聞けば奴隷狩りの事実はすぐにわかることだし、グラインの領主は知っている可能性が高いだろう。


616、名無し

 じゃあ売られちゃうじゃん! 早く助けないと!


617、ライデン

 待つでござるよ。女神の月の前に奴隷を買うのは縁起が悪いということだから、時間はあるでござる。これがどのくらい信じられているかわからないから注意は必要でござるが、もしもの時だって救出はそこまで難しくないでござる。


618、名無し

 そういえばそうか。でも、ボディガードは置きたいよな。


619、名無し

 そうすると、開拓の始まりも女神の月の後なのかな。


620、ライデン

 今が5月7日。女神の月は16、17日。10日あるでござる。それまでに調査と方針の決定、そして準備をするでござるよ。


621、平社員

 穴掘りで大脱走か!? ガンガン掘るぜ!


622、ゼル

 平社員は動画関連で忙しかろう。掘るのは俺に任せておけ!


623、平社員

 まったく異世界に来れないほど忙しくねえよ。


624、ライデン

 ひとまず人形ができ次第、港に停泊している商船に乗せまくるでござる。向かう先はアーケン、シュペン、ユージュ。グラインと合わせて4地点に秘密工房を作れば、選択肢が広がるでござる。


625、名無し

 旧リュベ領を解放するってことか?


626、ライデン

 あくまでも選択肢の幅を広げるだけで使うかは未定でござる。


627、名無し

 使える駒を増やすってわけだな。面白くなってきた。


628、名無し

 ライラちゃんの孤児院のことも気になる。ライデン、良い感じにしてあげてよ。


629、ライデン

 少し考えてみるでござるよ。でも、期待をしてはいけないでござる。拙者たちの第一目標はシャーリィ殿とギルバート殿であり、我らが主にも危険が及ぶようなことはできないでござるからね。

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読んでくださりありがとうございます。


ブクマ、評価、感想大変励みになっています。

誤字報告も助かっています、ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
いきなり店舗を物理的に壊すと目立つから、奴隷の居ない状態の船にちょこっと穴をあける位にしよう。 悪いやつをぶっ飛ばすのはスッキリするけど、それで根本まで解決する事はほとんど無くて世の中ままならない。 …
賢者さん達なら力技で目的達成も難しくない。 胸がスッとなるようなザマァも簡単だろう。 でも、その後のミニャちゃん村長さんに及ぼす影響はエラいことになりそう。 ここは知将ライデンの采配本当に重要ですね。…
クラトスの推察が納得しかない・・つい最近先人が戒めの為につけた地名を ハッピー全開の地名にして住宅地にしたアホがおったなぁ、結末はお察しだよ 「喉元過ぎれば熱さを忘れる」は何処でも一緒だね、人間は愚か…
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